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【2024/04/19 19:11 】 |
私が傍に
クロアロです

ここはどこ。
自分の声さへ響かない。
深淵に浮いたような感覚。

それは、俺にとって何も意味をなさない。
無情であり、無感で。

闇の中で目を開ける。
何も宿さない瞳に映ったもの。

それは、俺に望みを問うた一匹の蜘蛛。


― 私が傍にいるから ―


「ルカっ!」

真夜中の時間。
アロイスはベッドで飛び起きる。

夢の中で伸ばしていた手は空を切り、何も掴めてはいない。
もちろん、ルカだってここにはいない。

「っ~~~~!!!」

アロイスは空っぽな手の平を見つめ、唇を噛む。

夢を見るのは久々だ。
元々夢は見る方じゃなかったし、それに。
あのエロじじぃと共にいる間は、あまり眠ることがなかった。

「~~~~」

その時のことを思い出したアロイスは、背中に冷たいものが走る感覚がした。
別にあのエロじじぃに酷い扱いを受けたからって、傷ついたことはない。
子供の頃から糞にまみれた連中の相手をするのは慣れている。
けれど。

自分の心の中に、大きな扉があることを知っている。
鍵は両親が死んだ頃に捨てた。
だからこの扉の向こうに何があるのか分からない。
しかし、だからと言って扉の向こうに興味はない。

心のどこか無感情の部分が、開けてはいけないと、叫んでいるから。

「ルカ」

小さな声で弟の名前を呼ぶ。
瞼を閉じなくとも見えてくる、最愛の弟の姿。
いつだって俺に慕い、笑顔が可愛い弟だった。

「ルカ」

『おにぃ』

ベッドの傍らにルカの姿。
アロイスは無意識に唾を飲む。
分かってる。これは俺の都合のいい幻覚だ。
幸せな幻。


しかしアロイスは幻のルカに向かって手を伸ばす。


『おにぃの凄いお願いは凄い叶うんだよ』
「ルカ、俺の側から離れちゃダメだ」

声が、震える。
それでも言う。
それでも言うんだ。

「ル…カ」

触れられない頭を撫でる。
感触もない、何もない幻想を。
それでも俺の心はどこか温まる。

するとルカは嬉しそうな顔をして、

『イエス・ユアハイネス』

とある悪魔と同じ台詞を吐いた。







「あぁぁあアァアあアアっ!!!」


その台詞に、なぜか痛みが貫いた。
まるで胸に槍が刺されたかのよう。

「アアアァァああぁぁぁァアア!!!」

アロイスはベッドの上で転げ回る。

痛い、痛い、痛いっ!!!
苦しい苦しい苦しい!!!

ルカルカルカルカっ!!!

「クロードぉぉぉぉ!!!!!!」

涙を流し、胸を押さえながら執事の名前を呼ぶ。

するとまるで扉の向こうにいたかのような速さで扉が開かれる。
扉の向こうには、名前を呼んだ執事の姿。
黒い黒い色をした悪魔。
ルカと同じ台詞を吐く、悪魔。

名前を呼んだのは自分にも関わらず、アロイスは枕をクロードに投げつける。
クロードは避けることもせずに、それを体で受け止め、小さく息を吐く。
そして枕を地面に落としたまま、アロイスの方ではなく窓の方へと歩んでいく。
音を立ててカーテンを引くと、綺麗な月が顔を覗かせた。
先ほどまで真っ暗だった部屋が、月明かりで明るくなる。

「こういう夜には、嫌な夢も見るでしょう」

クロードはアロイスの方に顔を向けずに言う。
アロイスは額に伝う汗を拭い、乱れた息を整えようと努める、が上手くはいかない。

「クロ…ド。胸、が…痛…い」
「・・・・」
「ルカが・・・ここに、いて」
「旦那様の弟様は、もうここにはいらっしゃいません」
「っ!!!」

バッサリと切り捨てるクロード。
振り向いた顔は、月灯りの逆光となり表情は伺えない。
けれどきっといつものように無表情だろう。
どんなに冷たいものでも真実を突きつける。それがクロード。

「っ・・・ははっ・・・はははは!」


そうだ。
コイツに助けを求めたって、何もくれやしない。
ただコイツは餓えているだけ。
飽くまで貪りたいだけ。

誰だってそうだ。
だれだって。
どんなときだって。

いつだって。

「もう、いいよ」
出てけよ。

アロイスは扉に向かって指を指す。
しかしクロードは動かない。

「出てけって!お前なんかに、もう用はないんだよ!」
「旦那様・・・」
「悪魔は皆、全滅しろよ・・・。気持ち悪い奴らばっかりで腹が立つ」
「・・・」
「みんな、みんな!全滅しちまえよっ!!」

「私は、旦那様に腹が立ちますが」


クロードはいつもより強い口調で言う。

「なに?」

アロイスは目を細める。
いつも何をやったって文句1つ言わないクロードが、今なんて?
窓の方に行くときは足音1つ立てなかった悪魔が、今度は一歩一歩足音を立てて近づいてくる。
ゆっくりと。まるで苛立ちをこちらに伝えるかのように。威圧感を含めて。

「旦那様…」

両手で頬を包み込まれる。
いつもと同じ仕草なのに、なぜかドキリとしてしまう。

「何だよ、クロード」
「いつまで貴方はあそこにいらっしゃるのですか」
「はぁ?」

アロイスは頬を包み込むクロードの両手首を掴み、引き剥がそうとする。
けれど、ピクリとも動かない。

「クロード?」
「貴方は、今ここにいるのですよ」
腐った村なんかではなく・・・。

じっとこちらを見つめる瞳。
それは、俺の人生の中で初めて見る瞳。


俺だけを、求める瞳。


ギリっと歯軋りをする。

「離せよ、クロード」

小さな声で言う。

「旦那様・・・」

クロードは目を細める。


俺だけを求める瞳。
それは嬉しくて、嬉しくて。
甘えたくなる。縋りたくなる。
けれど、それは。

「その瞳は、俺を見てるわけじゃないだろ?」

お前はただ、俺の魂を喰らいたいだけ。

分かってる。
ちゃんと分かってるから。

全部、分かってるから。


「心外ですね」

声と共に、頬から手が離れ背中に回される。
今度は頬だけではなく、身体全体が包み込まれる。
アロイスは抵抗するより先に、素直に『あたたかい』と心が震えた。

「もちろん旦那様の魂も見ていますが、決して魂だけではございません」
旦那様のことだって、見ています。

クロードは力強くアロイスを抱きしめる。
まるでいつの日にか、ルカが抱きしめてくれた時のように。

「私は貴方だけを見ていますよ」
「クロード・・・」

痛んだ胸に、優しいお湯が流れてくる感覚。
すごく、変な感覚だ・・・。
アロイスは力を抜いて、クロードの胸に寄りかかる。

「だから、貴方も私だけを見ていただきたい」
「え?」

どういうこと?

頭だけをクロードの顔の方に向けて、疑問符を浮かべる。
するとクロードは目線だけこちらに向けて、苦笑する。

「旦那様は、いつも弟様のことを想っていらっしゃる」
「あ、当たり前だろ」
「今日の夜も、私よりも先に弟様の名前を呼ばれておりました」
「・・・クロード、お前」

腕に力を込めると、先ほどとは違い、あっさりとクロードの腕から体が離れた。
そして顔を真正面から表情を伺うと、いつもと同じ無表情。
けれど。

どこか拗ねているように見えるのは、気のせい?

そっと手を伸ばして、いつもとは逆にアロイスがクロードの頬を包み込む。
すると、表情は動いていないのに、どこか嬉しそうに、アロイスの手に自分の手を重ねてくる。

「俺、ちゃんとクロードのことも見てるよ?」
「分かっております」

静かに答えるクロード。
そしてそのまま、ゆっくりと目を閉じる。

「お願いがあります、旦那様」
「ぇっ?なに?」

クロードからお願いだなんて、初めて言われた・・・。
一体何のお願いをされるのか、検討もつかない。

そのまま黙って待っていると、クロードは今度はゆっくりと目を開けて、悪魔の紅い瞳を露わにする。
じっとこちらを見つめて。
まるで、吸い込まれそうなほどの紅。

「もし悪い夢をご覧になられたときは」

一旦言葉を切り、アロイスを再び抱きしめる。
そして。

「弟様の名前ではなく、私の名前をすぐにお呼びください」

耳元でそっと囁いた。


その言葉にアロイスは目を見開く。
まさかクロードが、こんなことを言うなんて・・・。
そしたら『私は、旦那様に腹が立ちますが』という言葉は、もしかして。

「ルカに、嫉妬してたの?」

聞くと、クロードは無言のまま腕の力を強くしてくる。

「ぷっ」

アロイスは、そんなクロードの様子に噴出してしまう。
全く。
分かりにくいようで、分かりやすい奴だなぁクロードは。

「クロード」
「はい」
「ずっと俺の側にいてよ」
「もちろんです。私だけの旦那様・・・」


その答えにアロイスはクロードの腕の中で、そっと微笑んだ。





END




****
あとがき
アロイスを幸せにしたいよ、第二弾!!
前回と違い、クロアロにしました。
クロードの腕の中で微笑むアロイスを・・・というコメントを頂いたので、書かせてもらいましたが・・・
やはりクロアロを書くのは大変で、時間が掛かってしまいましたorz

これは『solitary』や『coll me』と同じもので、しかし今回のクロアロverでは、名前を呼んだ・・・という形になっています
『solitary』のシエルは、セバスの名前を呼ばなかったからね^^;

こんな稚拙な文ですが、少しでも皆様の心が暖かくなりますように。

 

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【2011/03/23 20:33 】 | Text | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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