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【2024/04/19 08:32 】 |
GameⅤα2
(氷の上で泣いたペテン師は。)




【満月の夜の2日前】


「これ、伯爵にお土産~」

それが全ての発端だった。

「…何だこれは」

昼食の途中に突如現れた劉だったが、目線の先は劉ではなく、その後ろにある白い布に包まれた物だった。
話によると…、これは裏社会でとある噂になっていた代物らしい。噂というよりも怪談話になっていたと言った方が近いだろうか。
その中身は。

「鏡だよ」
「鏡?」

っそ、鏡。
劉が楽しそうなヘラヘラした笑みを浮かべながら頷くのを、シエルは眉を顰めて見やる。

「随分とありがちだな」

シエルは裏社会の秩序を守るものであり、信憑性のあるもの、もしくはこれから“本物”になってしまう恐れのある噂は必要ならば入手し、そして処理する。しかし怪談のような噂話まで拾うようなことはしない。そんなことをしていたら膨大な情報量に押しつぶされ、女王の番犬などやっている暇などなくなってしまうだろう。

「どうせその鏡を覗いたら、もう一人の自分が出てくるとか、逆に引き込まれるだとかだろう。それとも未来の自分の姿でも映るのか?」

そんな怪談まがいの噂話など入手しておらず、劉が持ってきた鏡のことなど何も知らなかったシエルだが、そのありがちな代物に呆れ言葉を重ねていけば、劉は違うよと首を横に振った。

「会いたくない相手が出てくるんだってー」
「……は?」

会いたくない相手?
どういう意味なのかが分からず首を傾げれば、彼も苦笑しながら同じように首を傾げた。

「我もよく分からないんだけどね~、なんか会いたくないというか、自分にとって天敵が現われるとか」
「……それは随分な話だな」
「なんかそれで死者も出てるらしいよ?」
「それこそ噂だろう」

どうせ酒に酔ったか薬でキメた連中が鏡を見て自分を嫌な相手と見間違え、ナイフや銃器を自分を省みずに振り回したに違いない。
(たかが鏡にそんな力があってたまるか)
それでもどこかそんな鏡があってもおかしくないと思うのは背後で悪魔で執事が控えているからだろう。
その悪魔といえば、劉の話を信じていないようで、特に表情を動かすこともなく姿勢を正したままだった。
それをチラリと横目で確認したシエルはため息をつきながら、で?と、まだ布に包まれたままの鏡を指さした。

「それを僕の元へ持ってきた理由は」
「ちょっと縁があってその鏡が我の手に渡ったから、伯爵にお届けしたのさ」
「どんな縁だ…というか、どうして僕に届ける必要がある」
「だって伯爵は裏社会の秩序だろう?秩序を乱すものは処理するのが仕事、だからこの鏡を処理するのも伯爵の務めだと思ってね~」
「……貴様はただ僕で噂が本当か試したいだけだろうが」
「え~、人聞きが悪いなぁ」

そんな疑り深いと嫌われちゃうよ?と続いた言葉には、誰にだと間髪入れずにツッコみ、また大きなため息を付いた。
どうせ持って帰れと言ったところで彼は持って帰らないだろう。

「…仕方が無い、これは僕が引き取ろう」
「流石は伯爵、心が広いねぇ」
「殺すぞ貴様」
「こっわーい」

そう言いながら肩を竦める劉に舌打ちをし、これでこの話は終わりだとシエルは打ち切る。そして先ほどまでは見せなかった笑みを顔に浮かべた。

「じゃぁ劉、ここからは噂話なんて信憑性のない話ではなく“真実”の話をしようか」
ここにいるということは暇なんだろう?

その笑みは獲物を狙うハイエナそのもので。
劉もその笑みの理由に気付いたらしく、乾いた笑い声を零しながら首を横に振る。

「いやぁ…我はこの辺で」
「ショバ代、だろう?」

ここからは仕事の話だ。
自ら飛び込んできた獲物を逃すことなどせず、シエルはそう言い切った。






とんでもない噂話と土産を持ってきた後、シエルは裏社会の仕事へとスイッチを切り替え、劉から情報を引き出し、そして彼が帰った後もその情報を元に仕事を進めた。
情報は生ものだ。だからその情報がまだ生のうちに物事は進めておいた方がいい。
その思考概念から、シエルはその日のうちに裏社会の現在の動きを把握し、新たな問題へと発展しそうなもの、そして人物を割り出し……その仕事は夜まで行われた。

「だいたいこんなものだろう」

やっと裏社会の現状把握に満足したシエルは固くなってしまった肩を回し、背凭れに寄り掛かった。
普段の仕事、表社会のファントム社での仕事ならば途中で明日に回すか、投げ出してしまいたかっただろうけれど、裏社会の仕事は別。
裏社会についての“デスク”での仕事はパズルを解いていくかのようで面白いし、そして己の復讐相手を見つける切欠となるものなのだから、嫌がることなどない。

「お疲れ様でした」

今日は嫌味を言うことも少なく、ずっと後ろで控えていた悪魔が、いや、執事が口を開いた。

「今日は随分と裏の方の仕事が進んだのでは?」
「そうだな。やはり裏社会のことは裏社会の住人に聞いた方が事が進みやすい」
「そうですね」

たとえ劉であっても彼も立派な裏社会の住人。それどころかあまり気を抜く事が出来ない相手だ。(裏社会に気を抜ける相手などいないけれど)
その情報が嘘の可能性も無きにしも非ずだが、それの正否はこちらで簡単に調べがつくので問題もない。
問題なのは。

「これ、如何致しましょうか」
「・・・・」

面白半分で物を押し付けたりするときだ。

「あの噂、お前はどう思う?」
「おや、坊ちゃんは信じておられるのですか?」
「別に信じているわけじゃないが、お前のような御伽噺も存在するんだ、その噂が本物であってもおかしくないだろう?」

どこか皮肉るように口角を吊り上げれば、セバスチャンは御伽噺ですか、と鼻で笑う。
しかしそこの点についてはそれ以上突っかかる気はないらしく、白い手袋を嵌めた手を口元に当てて考えるような仕草をした。

「どうでしょうね。特に妙な気配とかはしませんが、今までそのような代物と出会ったことがありませんからね」
「お前も分からない、といったところか」
「以前、魔法のランプなどというものを見たことがありましたが、それもただの偽物でしたし」

人間はどうして摩訶不思議なものを作りたがるのかと、呆れたように首を横に振った。
それに関してはシエルも同意で、小さく息を吐く。

「まぁ焼いて捨てるにしろ屋敷に置くにしろ、まずはその鏡とやらを見てみるか」
「いいのですか?姿を映すことになってしまっても」
「別に構わん。もし自分の敵が現れたのならば潰される前に潰すのみだ」
「流石はマイロード」

ピシャリと言い放った言葉にセバスチャンは満足そうに笑い、では、と壁に寄せておいた鏡を部屋の真ん中、かつシエルの前に置き、その身を包み込む白い布を外した。

「・・・・」
「・・・・」

白い布の下から出てきたのは、なんの変哲も無い、本当にただの鏡。
いや、変と言えば変だろうか。なぜならその鏡には縁も無ければ飾りも無い、本当に全てが一枚の鏡なのだ。
鏡以外といえば、その鏡を立たせるための支え棒が一本不安げについているのみ。

「随分と品の無い鏡だな」
「そうですね」

もっとこう…宝石が沢山散りばめられているだとか、血の色で塗られた縁があるだとか、そういうものならばあのような噂がついても仕方が無いだろうけれど、こんな古めかしい、下流家庭で使う鏡としても味気ない鏡がどうして……。
シエルは眉を顰めて立ち上がり、その鏡に近づく。
初めてその鏡の前に立ってみれば、高さもシエルの身長くらいしかない。
(そういえば意識していなかったが、持っている時もセバスチャンより小さかったな)
彼が壁際からこちらへ持ってきた時は大きさなんて意識していなかった。
これでは身長が平均よりも少し大きい大人ならば全身が入らないだろう。

「なんだこの鏡は…」

あまりにも味気なく、あまりにも小さい。普通に使うことすら憚られるソレ。

「まぁ、妙と言ったら妙ですね」

セバスチャンも同じようなことを思っていたのだろう。
鏡の斜め後ろにいたのだが前へと移動し、シエルの横へ並ぶ。そして再び口元に手を当てて、噂の原因はどこにあるんでしょうね、と苦笑しながら呟いた。

「さぁ……な?」

セバスチャンの言葉に首を斜めに傾けて彼と同じように苦笑したが、それがピキリと固まる。
それを鏡越しで確認したセバスチャンは不思議に思い、坊ちゃん?と声を掛ける。
その鏡に映った己の瞳も疑問の色を表していた。

「な、んで…」
「どうされました?」
「おい、気付かないのか」

シエルは瞳を見開き、鏡に映っている自分達に向けて指を指す。

「なんでお前の全身が映っているんだ」
「ッ――――!!」

そう。
シエルの身長ぐらいの大きさなら、この鏡に全身が映るだろう。なぜならこの鏡の大きさはシエルの身長くらいなのだから。
だがセバスチャンの身長だと、どう考えてもその鏡に全身が映ることは無い。遠く後ろに下がった状態ならば分かるが、今は2メートルにも満たない距離。
セバスチャンの全身が鏡に映るなんて有り得ないのだ。

「どういう、ことでしょうか」
「分からん」

鏡越しで互いの姿を認識しながら、先ほどまでにはなかった動揺を瞳に宿す。
噂はどうであれただの鏡ではないようだ。
シエルは口の中に溜まった少量の唾を飲み込み、一歩前へ進み出る。後ろから止めるような声音で名前を呼ばれたが気にせず、もう一歩前へ。鏡へと近づいていく。

「どんな鏡か分かりませんから、近づかない方が宜しいかと」
「だが詳しく調べてみないことには何も始まらんだろうが」

セバスチャンの言葉にそう答え、鏡の目の前、否、鏡に映った自分がすぐ目の前にいる状態で歩を止めた。そしてゆっくりと手を伸ばす。

「・・・・」

触れた箇所は冷たい。それはそうだろう、コレは無機物であるのだから。
(特に変わったことは…ないな)
別に触ったところで鏡の向こう側に引きずられるようなことはないし、水のように表面が揺らぐことはない。本当にただの鏡のようだ。
手を鏡に付けた状態で、鏡に映った自分と瞳を合わせる。しかしそれにも特に変わったことなどなく、別に鏡に映ったシエルが一人でに微笑んだ、なんてこともなかった。
(ただ鏡を作っている成分なんかに仕組みがあるのか?)
結局何も起こらなかったことに今度は怪奇現象のようなことではなく、現実的に物質関連のことを考え始める。
だが、その思考は中断させられることとなった。

『コンコン』

ふいに固い何かを叩くような音が部屋に響いた。

「なんだ…?」

それと共に鏡に触れる手の平から感じる微振動。
これはどう考えても…―――

「お下がりください、坊ちゃん」

逸早く音の出所に気が付いたセバスチャンは、有無を言わせずにシエルを抱きかかえ後ろへと下がる。
その瞳はすでに赤く輝き、警戒心が向き出ていた。

『コンコン』

再度音が鳴り響く。
鏡にはシエルを抱きかかえるセバスチャンと、その肩に手を置いているシエルの姿が映し出された状態。
しかしこの音は、その鏡の向こう側から叩かれているものだ。まさに扉をノックする要領で。
(何が、起こる…?)
予想も予測もつかない現状で、シエルは無意識にセバスチャンの燕尾服を握り締め、瞳を細くして鏡を睨みつけていれば。

鏡の向こう側からノックしていた手が、いきなり向こうから姿を現した。

「なッ…!!」

それは奇妙な絵。
別段先ほどと同じように鏡の表面が揺れているわけでもなければ、シエルとセバスチャンを映している鏡に何かが起きているわけではない。ただその変わりない鏡から腕がニョキリと生えた状態なのだ。
まるで丁度シエルのお腹の辺りから生えているようにも見える。

その手はノックをしていたように握り拳の状態で、しかしその手には黒い手袋が嵌められている。
さてこの伸びてきた腕をどうするものかとシエルとセバスチャンは沈黙したまま見つめていると、急にその手はパタパタとこちらの状態を探るように動かし始めた。
そして。

『あれ?通り抜けた感じかな』

遠い記憶の声が、鏡の向こうから。

「えっ」

その声を聞いた瞬間、シエルは瞠目する。
その表情はノックが聞こえたときよりも、腕が鏡から伸びてきたときよりも驚いていた。

「坊ちゃん?」

それに気が付いたセバスチャンはこちらを気遣うように声を掛けてくるが、そんなことに言葉を返す余裕なんてない。
(うそだ、だって、まさか…)

―――我もよく分からないんだけどね~、なんか会いたくないというか、自分にとって天敵が現われるとか

昼間に聞いた劉の言葉が思い浮かぶ。
自分の天敵、そうと言われればそうかもしれないが、こんなことは本当にあるのだろうか。

―――別に信じているわけじゃないが、お前のような御伽噺も存在するんだ、その噂が本物であってもおかしくないだろう?

確かにそう言ったのは自分だ。
だがまさか本当に?

「なん、で」

そんなシエルの呟きなど知らず、その腕はどんどんこちらへと伸び、肩、足と順々にその姿を現し。
最後には。

「やぁシエル」

その全てが。

「・・・・・・ッ!!!」

シエルもセバスチャンも相手の姿に声を発することが出来なかったが、その空気を何も感じていないように相手は口を開いた。

「あぁ、そっちの執事君とは初めまして、かな」

相手はフワリと柔らかい笑みを浮かべて、セバスチャンに視線を向ける。
しかしその笑みとは違い、まるで全てを氷つかせるような冷たい瞳で貫かれ、セバスチャンは無意識に一歩後ろへとずり下がった。

「いつもシエルが世話になっているようだね」
君は僕のことを知っていると思うけれど、一応自己紹介をしておこうか。

微笑みと視線をずらすことなく、黒い手袋を嵌めている手を己の胸元に置く。
その指にはシエルが嵌めているものと同じ指輪が重く輝いていた。

「僕の名前はヴィンセント・ファントムハイヴ」

シエル・ファントムハイヴの父親だよ。


彼はそう笑った。。



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【2011/12/28 10:51 】 | Text | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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