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【2024/03/29 16:28 】 |
依存
少々血やグロテスクな表現がありますのでご注意ください!




世界は丸。
空は三角。
人間は四角。

心は、バツ。




――――そういえば、坊ちゃんは人を殺めたことはありますか?

悪魔のこの一言から、勉強する教科が一つ増えた。
教科というのか、けれどこれをレッスンと言っていいのか。
どちらにしても、学ばなければいけないことが一つ増えたのだ。

それは裏社会では必要な技術。
自分を守る術でもあるだろう。
しかしもっと大切なことは、

ソレは己が復讐を遂げる為に必要なモノだということだ。


「さぁ坊ちゃん」
「・・・・」

セバスチャンから渡されたものは大きいとも小さいとも言えないナイフ。
今は“伯爵”になる為の勉強しかしていないので、凶器の名前など覚えていない。いや、覚える必要もないと思うのだが。
しかしもしかしたら裏社会でマフィアの連中がそういうものを扱うときがあるかもしれないので、それらを管理するときには憶えていた方が便利かもしれない。
そんなことを考えつつも、実はその考えは現実から逃げているのだということをシエルは自覚していた。

持ったナイフは自分の手にしっくりとくる大きさと重さで、子供の自分でもコツさえ憶えれば殺傷能力は十分に得られるだろう。
それをセバスチャンはわざわざ選んできたに違いない。

「なぁ、別に銃の手解きは受けてるんだ。それで十分じゃないか?」
「裏社会に身に置くものが何を仰いますか。拳銃は無限に使えるものではありません。弾が尽きた時はどうするのです」
「そうならない為にも貴様がいるんだろう」
「おや、ご自分の命を他人に任せると?」

赤い瞳でこちらを嘲りながら言う彼にシエルはピクリと眉を動かした。
この悪魔と契約してしばらく経つが、コイツはどうにも嫌味を言うのが好きならしい、否、自分を苛めるのが好きなようだ。
きっと物語の悪魔と同じように人の不幸が己の愉しいという感情を生み出しているのだろう。
(反吐が出るな)
今回のコレだって、それの一環に過ぎないと思うのもあながち間違いではないだろう。

「自分の身は出来る限り自分で守る。だが貴様には契約があるんだからな」
「ですがこの世には“最低限”という言葉があることをご存知ですか?小さなご主人様」
「…たとえ僕が虫の息の状態だとしても、死なずに生きるのならば問題ないということか」
「物分りのいいご主人様で安心しました」
「悪魔という生物は本当に反吐が出るな」

嫌悪感を隠さずにそう言えば、褒め言葉として受け取っておきましょうと彼は返してくる。
ニッコリと微笑む悪魔に口でも勝てたことはない。
いつか勝てるようになりたいと思うが、その“いつか”は早い方がいい――――そこまで長くこんな悪魔と一緒にいたくない。
ハァ、と大きくため息をつけば、セバスチャンはパンパンと手を打った。
それは何かを始めるとき、たとえば勉強を始める時の合図であり、シエルは無意識に背筋を伸ばした。

「では早速始めましょうか」
「・・・・」

これはもう諦めるしかない。
シエルは苦々しい表情をして頷いた。

この時のシエルは狩猟の時と同様に、1から全てを教わるものなのだと思っていた。
あのスパルタがまた改めて始まるのだと。
特に今回は“人を殺す”ことについて。きっと人間の身体の構造なども細かく言われるだろう。
だから嫌がっているのだ。

けれどまだそれの方が良かったなんて。

「そのナイフで私を刺してください」

悪魔が考えていたのことは、もっともっと酷くて、残酷なものだった。
(――――どこまでも現実的なものだった)

「は?」
「何を呆けた顔をなさっているのですか」
「だって、貴様さっき・・・」

自分を刺せって。
そう言った?
意味がよく分からないシエルはセバスチャンに向けて首を傾げたが、彼は当たり前のように頷いてみせた。
まるで疑問を抱いているシエルの方が可笑しいのだとでも言うように。

「勿論人を刺すのには力や技術が必要です。他の勉強と同じように教えても宜しいのですが、それよりも“本能”から教わる方がいいと思いまして」
「セバスチャン?」
「丁度良いことに私、悪魔の身体は人間の凶器などでは死にませんので、実戦経験が何度でも出来るというわけです」

なにが丁度良いだ。
ソレが丁度良いのは僕を守るときだろう。

「ということで坊ちゃん」

セバスチャンが両手を広げ、微笑む。

「私を通して人間を殺してください」




言葉が出てこなかった。




「坊ちゃん?」
「・・・ぃ、」

知っている。
真夜中に彼がこの屋敷に来る鼠を駆除していることを。
悲鳴だって、血の香りだって、嫌というほど知っている。
まだ瞼の裏に、焼き付いている。もう焦げ付いているといってもいい。
だけど、だけど――――

「いい、そんなの、いい」

今は、必要ない筈だ。

「本能から教わるんだったら、実践でいいだろ、だからいらない」
「ですがその時は焦りや恐怖があるでしょう。練習も無しに必ず成功するとは言えません」
「普通、殺しに練習はない」
「その点、坊ちゃんは恵まれていますね」
「んなわけあるかっ!」

言いながらシエルは手にしていたナイフを床に叩きつけた。
ゴンと少々重たい音を立てて落ちたそれは、冷たく輝いているにも関わらず、すでに血を吸った汚いものにしか思えない。
(あぁ、嫌だ・・・・)
“あの時”の映像が目の前に蘇りそうになり、シエルは瞳を閉じて頭を振った。
こんな些細なことで心を揺らす自分はなんて弱いのだろう。

「おやおや・・・」

呆れた様子でセバスチャンはシエルが叩きつけたナイフを拾い上げる。

「っ・・・・」

彼は己と契約をした悪魔だ。
それを自分に刺すようなことはしない、しないけれど、どうしても重なってしまいそうになる。
あの時と状況も現状も違うのに、それなのに瞳に焦げ付いた映像が勝手に重ねようとして。

「ぅ、ぁ・・・」

吐き気が込み上げてくる。
恐ろしいほど察しがいい悪魔はそれに気が付き、

「これもまた丁度良いですね」

心配をするでもなく、そのナイフを隠すでもなく。

ナイフの柄を握り直し、刃の方を自分に向けて。
何の躊躇いもなく、自分の胸に突き刺した。

「―――――!!!」

痛い、
重なる、
血と、
憎しみと、
嗤い声、
指輪が、
出して、
出して、
ここから、

「大丈夫ですよ、坊ちゃん」

頬が優しく撫でられる。
無意識に耳に両手を当て、ヒュッ、ヒュッ、と細かく息を吸う己は今どんな顔をしているのだろうか。
今分かるのは、ナイフを胸に刺しているというのに優しげな笑みを浮かべながら彼が己の頬を撫でているということだけだ。

「セバ、スチャ」
「ここは檻の外。貴方を縛るものは何もありません」
だから。
「貴方は、貴方を貶めた相手に復讐が出来るのです」

頬を撫でていない方の手がそっとシエルの手に伸び、触れる。そしてその手を持ち上げ、胸に刺さっているナイフの柄を掴ませた。

「ぅ、いや、だッ」
「相手を思い出して。今貴方が刺しているのは、貴方を貶めた奴ですよ」
「ちが、」
「違う?そんなことはないでしょう」

いつだって貴方は悪魔も憎んでいるでしょう?
私の存在は“あの時”の“結果”なのだから。

シエルの手に重ねられたセバスチャンの手は嫌がるシエルを開放するわけがなく、無理やり掴ませたナイフを横へと動かしていく。
ブチブチと肉が切れる感触が手に伝わってきて、シエルは声無き悲鳴を上げた。
いや、本当に悲鳴を上げているのは死していく肉塊だ。ブチブチと、ブチブチと。

「離せ、はな、せっ!」
「駄目です。ちゃんと坊ちゃんが殺さないと」
「気持ち、悪いっ!いやだ、いやだっ!!!」
「情けないですね」
「だ、って」

掴まれている手を引き、逃げ出そうとしているシエルを見てセバスチャンは普段と変わらぬ様子でため息をつき、首を横に振る。
このままでは埒が明かないと思ったのか、彼は諦めたようでシエルの手で掴ませたままナイフをその胸から抜いた。
その時もズブブと嫌な感触にシエルの背中は粟立ったが、これでやっと終わりだという安堵感の方が大きかった。

「こんな状態で裏社会の秩序になれるのですか?」
「うるさい、状況がちがう」
「違いませんよ」

けれどセバスチャンは胸からナイフは抜いてもシエルにナイフを握らせたまま離しはしない。

「では問いましょうか」
「え?」
「ねぇ坊ちゃん」




「貴方は誰ですか?」




――――アナタハ ダレデスカ?


アナタハ
ダレデスカ?

アナタは

ダレ?








刃物が冷たく輝く。
ぬめったモノに汚れているのに、どうしてまだ光に反射しているんだろう。
あぁでも、刺さればいいのか。

「――――そう、いい子ですね」

セバスチャンの両腕はダラリと落ち、少しだけ苦しげに息を吐いた。
ポタリと落ちたソレは床を汚したが、きっとこの有能な執事がすぐに綺麗にするだろう。
それこそ山と化すほどの死体を誰の目にも留まらずに処理してしまうように。

だから、気にすることは無い。

たとえ、人を殺したって。

「僕は、シエル・ファントムハイヴだ」

だって僕は、シエル・ファントムハイヴなんだから。
(――――ボクハ ダレデスカ?)

シエルは体重を掛けてセバスチャンの胸に突き刺したナイフをより深く突き刺す。
メリ、ともゴリ、ともつかない音は、もしかしたらナイフの先が骨に当たった音かもしれない。
けれど気にすることはない。

気にすることは無いけれど。
息が苦しい。息が弾む。身体に響く脈が速い。

これが、人を殺すということ。
これが、鼠を処理するということ。
これが、己が望んでいる相手の末路。

「滑稽だ」

笑んでしまうのは、きっと泣きたいからだ。

大丈夫、
大丈夫、

シエル・ファントムハイヴは、

泣いていない。



「これだけ深く刺せば人間は死ぬでしょう」

貴方の手によって、と続けられた言葉にシエルはピクリと肩が無意識にはねた。
しかしどこか冷静な部分が「そうか」とセバスチャンに返事をする。
肩がはねたのが無意識ならば、きっとこの返事は反射だろう。

「ですが、坊ちゃん」
「・・・なんだ」

セバスチャンは横に落としていた手を持ち上げ、シエルが手にするナイフの柄を一緒に持ち、ゆっくりと抜いていく。
また嫌な感触が伝わってくるが、もう何も感じない。
(―――否、感じさせない)
刃の部分を全て抜くとそこから鮮血が零れ落ちてくるが、それは決して多くはなかった。

「もう塞がり始めているのですよ」

シエルの疑問を読み取ったのか、セバスチャンは言う。
そしてまるで張り付いてしまったかのようにナイフの柄を握るシエルの手を丁寧に引き剥がし、血に汚れたそれを床に放った。

「坊ちゃん、私を見てください」

ゴン、と再び重たい音がする。
けれど今度はそれを拾うものはいない。

「人間ならば死ぬかもしれませんが、私はここに生きています」

まっすぐとこちらを見つめてくるセバスチャンに、シエルも同じように見つめ返す。
けれどそこに光が灯っていないことをセバスチャンだけが知っていた。

「それが、どうした」
「私が死ぬときは、坊ちゃんに死ねと命令されたときだけ。私は、」

貴方のセバスチャン・ミカエリスは、

「ずっとお傍におりますよ」






そう微笑んだ悪魔は、
優しいのか、
温かいのか、
それとも残酷なのか。

まったく
分からなかった。

けれどその言葉が、
死なない身体が、
ずっと傍にいるという真実が、

シエル・ファントムハイヴを通り越した“ボク自身”を、

恐ろしいほど強く、


抱きしめてくれた。




初めて人間を殺めたときも、
マダムレッドが死んだときも。




「ほらね、私は死にませんよ」

ナイフを彼に刺して、

「ずっと貴方の傍におります」

確認して、

「貴方の傍に・・・」


何度も、
何度も、


「坊ちゃん」


お前だけは、ずっとボクの傍にいるんだって――――















「まぁ、素直にそう思っていた頃は可愛かった、ということだな」
「は?」

唐突な言葉にセバスチャンは怪訝な顔をし、紅茶を注ぐ動作を止めた。
その表情はあの“可愛かった頃”には見せなかったものだな、とシエルは1人内心で笑ってやる。

「僕にも可愛い時期があったんだなと思い出していたところだ」
「・・・貴方が可愛い時期なんてありましたか?」
「貴様が言うか?セバスチャン・ミカエリス」

シエルは言いながら手にしていた――――可愛かった頃を思い出す切欠となったナイフをセバスチャンに向けて投げつけた。
片方でティーポットを持ち、もう片方で蓋を押さえていて両手は塞がっていたはずなのに彼は音を立てることもなく見えない速さでそれを置いて、その投げつけられたナイフを軽々とキャッチした。

「これは・・・」
「懐かしいだろう」

セバスチャンが瞠目しながら手の中のソレを眺めるのにシエルは机に頬杖をついて笑みを零した。
けれどその笑みを色にたとえるならば“黒”に近い色だろう。

セバスチャンに向けて投げたナイフ。
それはまだ人を殺すことも知らず、殺すことに多少なりとも怯えを抱いていた頃に貰ったもの。
“青年”に近づいてきている今の自分にとってはもう必要のない代物だが、まだ“少年”だった頃の自分には必要なものだった。
己の精神安定剤のために。

まぁ、それは間違いだったわけだが。

「それには随分と騙されたなぁ」
「・・・・」

笑みを浮かべたままナイフを指し、そう言ってやればセバスチャンはピクリと肩を揺らした。

「まるでアヘンだ。それを飲んだときにだけ幻覚を見せる・・・そして依存させる」

そうだろう?
シエルは彼に同意を求める。
答えが返ってくるとは思っていない。
これはただ彼、悪魔に聞かせているだけだから。



――――そう。
少年時代に受けた『人を殺す授業』は別に相手を殺める為、ましてや自分の身を守る為でもない。
あの授業の中で一番重要かつ大切だったのは、『他の人間では死ぬことでも悪魔である自分は死なないということ』

『たとえ何があっても悪魔セバスチャン・ミカエリスは貴方の傍にいる』ということが大切だったのだ。



「騙された、とは言わないな。言うなら・・・“躾けられた”が正しいだろう」
「・・・・」
「そんなに僕に求めて欲しかったか?セバスチャン・ミカエリス」

クスクスと笑えば、「いつ、」とセバスチャンはやっと口を開いた。

「いつ、お気づきに?」
「いつとか、ハッキリしたことは分からないな。時が経つにつれて・・・僕が成長するにつれて気が付いた」
「だからコレを使うことも無くなったと?」
「いや、別に。これだけ手を血に染めれば人の命を奪うことに対して胸を痛めることもなくなるさ」
自然と必要じゃなくなる。

溜息に近い息と共にそう言葉を吐き出せば、セバスチャンは苛立ちげに眉を寄せたにも関わらず、その口元に弧を描いてみせた。
その表情がまるで泣いているかのように見えるのは自分がおかしいだろうか。

「では、いずれかはこのナイフと同様、私も要らなくなるのでしょうね」
「・・・どうしてそうなる」
「貴方の言葉をお借りすると、そう“躾けた”からです」

セバスチャンは昔よりも輝きを失ったナイフを顔の前に持ち上げ、光に反射させるように動かす。
チカチカと鈍い光を放つソレは、セバスチャンの血の味しか知らない。

「貴方の周りからどれだけ人がいなくなっても、駒が無くなっても私だけは傍にいると躾けました。それは最終的に必要なのは、求めるのはセバスチャン・ミカエリスだけなのだと思い込ませるためです。けれど貴方は“強く”なってしまった」

彼は自嘲的に微笑む。

「人の命を奪うことに胸を痛めない?いいえ、貴方は常に胸を痛めている。今でも。けれどそれを1人でも乗り越えるだけの強さを得たのです。成長してきたからこそ自然とナイフは必要ではなくなりました。ならば次は私でしょう」

いつか貴方は私がいなくとも前に進むほどの強さを手に入れる。
それは予想でも想像でもなく確信です。

「アヘン(私)の克服、おめでとうございます」

悪魔セバスチャン・ミカエリスは、ゆっくりと頭を下げて。
綺麗にお辞儀をした。






「馬鹿か貴様は」

そんなセバスチャンにシエルは立ち上がり、唇を噛み締めながら近づいていく。
それでも彼は頭を上げることをせず、顔を隠しているのだと長年の付き合いがそう伝えてきた。
けれどそれがどうした。
主人は自分で彼は従者だ。従者は主人に従う存在である。

セバスチャンへと近づいたシエルは「顔を上げろ」と一言命令する。

「・・・今だけは見逃してくださいませんか」
「この僕が顔を上げろと言っているんだ。さっさと上げろ」

苛立ちを混ぜた声音でもう一度命令すれば、やっと彼は顔を上げた。
どんな表情であるか確認をする前にシエルは、先ほど唇を噛み締めた際に噛み千切って溢れさせた血を口の内に溜め込んだままセバスチャンに口付けた。
口付けだけでも驚いた様子の彼だったが、無理やり口腔に血が絡んだ舌を捻じ込めばより驚いたように瞳を見開く。だがシエルは気にすることも無く、血の味を味わわせるように舌を舌に擦り付けた。

「っつ、坊ちゃん血がッ」
「美味しかったか?」
「何を馬鹿なことを言って」
「僕は真面目に聞いているんだ」

唇を離した途端セバスチャンは焦ったように頬に手を当ててきたが、シエルはその手を無視して訊ねる。
主人が一体何を考えているのか分からないのだろう、セバスチャンは何度か口を開閉したが最後は諦めたように頷いた。
それにシエルは満足げに微笑み、頬に触れる手に自分の手を重ねた。

「なぁお前は勘違いしていないか?」
「何をですか」
「確かに僕はお前に依存した。まさにアヘンのようにじわじわと、お前の手によって」

だがな。

「その前にお前が僕に依存しているんだろう」
「っ――――」
「僕がお前に依存する前からお前は僕に依存している。何が克服おめでとうございますだ。何も変わっちゃいない」
「ですが」
「黙れ」

背伸びをし、一瞬だけ唇を触れ合わせる。
黙らせるだけならば、その一瞬で十分だ。
シエルは一瞬だけ触れ合わせた唇を、ほんの少しだけ・・・まだ息が掛かる程度のところに留めておいたまま再び言葉を紡ぐ。

「それに、ナイフが不必要になったとしてもお前が不必要になるわけがない」
「・・・・」
「そうなるように躾けたというが、生憎僕はお前が躾けた通りに動くのはゴメンだ。まぁ・・・途中まではお前の手の内だったがな」

顔が近い分、視線が絡み合う。
それだけではなく呼吸も、そして気持ちも。
それがひどく心地いい。

「今だって僕にはお前が必要だ。いや、必要というよりも自分の意志としてお前が欲しい」
なぁセバスチャン。
「お前はもっと僕を欲しがれ。もっともっと僕に依存しろ。そしたら僕ももっと、ずっとお前に依存している」
「ぼ、ちゃん」

ゴンと重たい音が響いたと思えば、次には両手で身体を強く抱きしめられながら口付けられていた。

強く強く、
けれど気持ちのいいソレ。
麻薬は脳を溶かしてしまうと聞くが、それだったらこのまま二人で溶けてしまいたいとも思えてしまう。

――――あぁ、でも嫌だな。

それだと『依存』ではなく『共存』になってしまいそうだ。
それは嫌だ。

セバスチャンと僕の関係は『依存』である方がいい。
互いに依存しあい、一緒にいないと死んでしまうというのに決して1つの括りにならない二人。
ただの1+1=2じゃ、つまらないだろう?
あくまで1+1=1+1でなければ。

もしくは――――



「じゃぁセバスチャン」


シエルは落ちたナイフを拾い、見えないセバスチャンの血に濡れた刃に舌を這わせた。





「久しぶりに、お前を殺そうか」



(もっともっと愛し合おうか)





――――もっともっと依存し合おうか――――







世界は丸。
空は三角。
人間は四角。

心は、バツ。




(1×1=1はお前で、1×1=1は僕)





End

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【2012/05/22 22:45 】 | Text | 有り難いご意見(0)
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