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【2024/03/29 16:28 】 |
憶えていますか、忘れていることを。
Good-bye on today's day(現代パロ・幼馴染)
【セバス視点/過去~】





『セバスチャン』
小さい彼が名前を呼ぶ。
そこにはあまり人に見せることの無い笑顔があって、自分にだけ気を許しているということが嫌でも分かった。
隣に住んでいるからといっても、なぜこんなにも自分に懐いたのかは分からない。まず小さい彼に興味もなかったから分かろうともしなかった。
けれど周りの人間はそこまで深く考えないようで『兄弟のようで微笑ましいわねぇ』と笑う。
それに外面だけは良く作っていた自分は『本当に兄弟になりたいくらいですよ』とおどけて笑ってみせた。
そうすれば小さい彼も嬉しそうに『弟になる』と飛び跳ねる。

馬鹿じゃないか、

心からそう思った。
元々ヒトという生物が好きではなかったから、当たり前の如く小さい彼も嫌いだった。
いくら好意を寄せてくれていてもそれは変わらず、それでも自分が生きやすい環境を作るために、兄弟のような仲の良さを演じていただけだった。


けれど、それは唐突に崩れることとなる――――


両親が死んだ。

それは他愛のない事故死で、突然な出来事。

自分が高校に行っている間に二人が一緒に乗っていた車が事故にあったらしい。
朝、家を出る時にこんなことが起こるなんて誰が予想していただろうか。
高校に電話あって、病院に駆け付けた時にはすでに息を引き取っていて、そういえば朝学校に行く時に父親に声も掛けていなかったですね、とボンヤリ思い、じゃぁいつ一緒に話をしましたっけ、とか、母親に行ってきますと声を掛けた時、顔を見ませんでしたね、とか考えて。
それでももうそれも無意味だということも同時に考えていて。

ベッドで横になり、白い布が被さっている二人を見て拳を握っても。

涙は、零れなかった。

『まだ若かったのにねぇ』
『息子さんを置いて行ってしまうなんて』

葬式の場に溢れる言葉の数々。
それは決して厭味などではなく悲しむ彼らの本音なのだろう。
だからそれに対して苛立つこともなければ、何も思うことは無い。
それに、

『セバス君はしっかりしているから大丈夫よね』

皆はそう口ぐちに言い、涙目で微笑むのだから。


けれど、


『大丈夫なわけが、あるか』


小さな彼だけは、怒って言った。


式も終わり、両親の会社の人や近所の人が声を掛けて出て行くなか、小さな彼だけは遺影を睨みつけていた。
もうほとんどの人がこの場を後にしており、その声を聞いていたのは自分だけだろう。
まだ5歳であるのに、随分な口を利くようになったものだと思いつつも、どこかいつものように笑えない自分がそこにはいた。

『どうして置いて行った、セバスチャンをどうして置いて行ったッ!!』

遺影に向かって叫ぶ。
もう周りに誰もいない。
自分と、小さな彼しか。

『お前たちが置いて行くから、セバスチャンは『大丈夫』だなんて言われているぞ!何も知らないくせに、そう言われてるぞっ!!』

何も知らないのは貴方も同じでしょう。

『親が子供を守るものだとお父さんもお母さんも言っていた!なのに傷つけるとはどういうことだ!』

誰が傷ついているんですか。

『誰が許しても僕は許さないぞ!僕が天国に行ったら殴ってやるっ!』

なんとも頼もしい言葉ですね。

『セバスチャン、泣いてるぞ!』

・・・誰が泣いているんですか。

『それなのに皆が大丈夫って勝手に決めつけるから、泣けてないんだぞ!』

・・・・。

『大丈夫なわけあるかっ!大丈夫なわけあるかッ!!』

遺影の前で涙を流しながら叫ぶ小さな彼の姿は、
まるで子供が駄々を捏ねているかのようで、
酷く滑稽で、
それなのに、

『馬鹿ですね、“シエル”』

なぜだか、涙が溢れた。

別に悲しんでなどいない。
元々ヒトという生物が好きではなく、それは両親であっても同じ。
それでも家族という間柄だったから、他の人以上に一緒にいる時間は長くて、会話をすることも多かった。

ヒトとはいずれ死ぬものだ。
明日どころか一秒後には命を失うかもしれない。
“明日世界が滅びるとしたら何をしますか?”なんて質問は常にあり、そしてその答えは現在進行形で実際に行われていることなのである。
だから、両親の死だって突然ではあったけれど当たり前の事項で、予定通りの運命。
その運命がほんの少し早かっただけで、別段驚くことではないのだ。
そう思っているのに、

胸が痛んだ。
叫んでしまいたかった。
どうしてだと、駄々を捏ねてしまいたかった。
まさに目の前でシエルがしているように。

けれど自分にはそれが出来なかった。
それはもしかしたらプライドかもしれないし、もしかしたら意地なのかもしれない。
どうしても、自分には出来なかったのだ。

それは目の前で泣き叫ぶ彼よりも滑稽で、

『シエル、』

なによりも、弱虫な存在だ。

『セバスチャン・・・』

彼は涙を流したままこちらを向く。
その顔は涙と鼻水で汚れていて、口にしている言葉とは違い随分と年相応の顔をしていた。
こちらの頬が濡れていることに気が付いているのかいないのかは分からないが、セバスチャンは気にせず苦笑してみせる。

『普通こういう時には、僕がセバスチャンの傍にいるから、とか言うものですよ』
『・・・そんな当たり前のことを言ってどうするんだ』
『・・・・』

ムっと口を尖らせるシエルに、セバスチャンは次の言葉が出てこず、息を吸った状態で固まってしまう。
けれどシエルは頬を小さな手の平で拭いながら続けた。

『だって僕がセバスチャンの傍にいるのは“変わらない”だろ?そんなこと言ってもしょうがない』

僕は怒ってるんだ。
口を尖らせていたと思えば次は頬を膨らませた。

(まったく・・・)

子供らしいのか、子供らしくないのか。
もしかしたら自分に懐いて、ずっと後をついてきたから、こんな口を利くようになったのかもしれない。
こんな口調で話した覚えはないが、もともと人見知りなところは似ていたのだ。自分のように腹黒くなる要素はたっぷりある。

“これからも傍にいるのだから、特に”

『もう両親への文句はこれくらいにして、帰りましょう』
『やだ、もっと怒ってやる。こんなんじゃ足りないっ』
『私はもう十分です』
『セバスチャンじゃないもん、僕が怒ってるんだ!』
『はいはい』

腕を振り回すシエルにセバスチャンは溜息をつき、歩を進める。そしてそのまま彼を抱っこした。

『そんなに怒られてしまっては両親も安心して天国に行けませんよ』
『・・・それも困るけど、行くなとも思う』
『素直で宜しいですが、もう私に免じて許してあげてください』

軽く背中を叩きながら歩き出す。遺影に背を向けて。
それにシエルも文句を言わずにセバスチャンの首に手を回して、ギュッと力を込めた。
シエルからしたら精一杯の力なんだろうけれど、それでもセバスチャンには少し息苦しい程度。

『苦しいですよ、シエル』
『うん』
『・・・甘えん坊な弟ですね』
『・・うん』

首筋に感じる滴。
制服が濡れるけれど構わない。
それはシエルだけの涙ではないから。

『せばすちゃん』
『はい』
『どこにも、いかないで』

それはシエルだけの、
涙(ことば)ではないから、

『・・・はい』

同じように頬を濡らして、
笑顔でセバスチャンは頷いた。
























どこにもいかないで、











ねぇ、












「なぁ、セバスチャン」















お願いだから、















「フラれた」

















「好きな人が、いたんですか」













どこにも、












いかないで。






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【2012/09/08 21:55 】 | Series | 有り難いご意見(0)
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