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【2024/04/30 04:44 】 |
良野りつ様より
『夢幻の館』の良野りつ様からの素敵な頂き物!




いつまでも見ていたい、あなた


「おはようございます、坊ちゃん。お目覚めの時間ですよ」
セバスチャンはシエルの寝室のカーテンを開けながら、いつものように己の主に声をかけた。
「う・・・ん・・・もうちょっと・・・」
シエルの寝起きは悪い方ではない。そのため、いつもならばセバスチャンが起こしに来ると、割とすぐに起きるのだが、今日は珍しく駄々をこねる。
セバスチャンはベッドの方に視線を向けると、そこにはシエルの髪がちらりと見えるだけ。どうやら、布団に包まって潜ってしまっているようだ。
軽くため息をつき、揺り起こそうと手を伸ばせば、枕元に本が一冊。

(そういうこと、ですか)
セバスチャンの顔は、呆れから笑みに変わった。笑みといっても、微笑みのような優しいものではなく、ニヤリというようないやらしい笑みだ。

「夜更かしなさるからですよ。・・・またお休み前に、ポーをお読みになったのですか?」
以前、シエルは眠る前にポーの本を読んで、悪夢を見たことがある。
「そのご様子では、今度は悪夢を見なかったようですが・・・寝不足とは感心しませんね」
「・・・うるさい」
ベッドの中からシエルのこもった声が聞こえてくる。
「あ、お望みでしたらお目覚めのキスを差し上げますが、いかがいたしますか?・・・シエル」
「っ!?ば、バカを言うなッ!!」
今まで布団に潜り込んでいたシエルが、ものすごい勢いで起き上がった。セバスチャンは、真っ赤な顔をしたシエルを、満足そうな笑みを浮かべて見ている。
「おはようございます、坊ちゃん」
「・・・貴様、わざとか」
シエルは赤い顔のまま、憮然とする。
「おや、そんなに残念そうになさるとは・・・では早速」
「するなッ!」
シエルは近付くセバスチャンに枕を投げつけた。

セバスチャンは、着替え終わったシエルの髪を整えながら、静かに声をかけた。
「・・・坊ちゃん」
「なんだ」
「本当に駄目?」
「?何がだ」
突然の質問に、何を求められているのか分からない。
「ですから、お目覚めのキスを・・・」
「まだ言ってるのか!?」
(意外としつこいな、こいつ)
そう思ったことが顔に出ていたのか、セバスチャンは瞳をいつもの紅茶色から悪魔の色??赤へとちらつかせながら、シエルを見た。

「坊ちゃん、ご存知でしょう?」
悪魔の執着心を・・・

先程までシエルの髪を触っていた手は頬に当てられ、上から下へとゆっくり撫でている。その感触に、ぞくりとした何ともいえないような感覚が、シエルの背中を駆け上がってくる。
気持ちいいような、くすぐったいような、そんな感覚に酔いそうになりながらも、シエルの意識はしっかりと保たれていた。
(朝っぱらからこいつに踊らされてなるものか!)
すでに一度踊らされていることも忘れ、シエルはセバスチャンを一瞥すると、その手をやんわり払いながら、
「恋人なんだから、それくらい知っている」
威厳たっぷりに言ってのけた。


* * * * * * * *


シエルは食堂のテーブルにつき、昼食をとっていた。
先程までフランス語のレッスンだったので、セバスチャン特製の食事が身体に染み渡る。語学が得意とはいえ、さすがに午前中いっぱいのレッスンとなると疲れるのだ。

・・・いや、疲れているのはレッスンのせいだけじゃない。
起床した後に身支度を整えてもらってからも、セバスチャンはかなりしつこかったのだ。
例えば・・・

「では、行ってくる」
家庭教師のマダムの後に続き、勉強部屋へ入ろうとしたら、「お一人では寂しいでしょう。私もついて行きましょうか?」と言われた。
そんなこと言われたことがなかったので、思い切りぽかんとしていたら、「何でもありません。失礼いたしました」とあっさり引かれた。

レッスンの休憩中、マダムが席を立った時など、ものすごい勢いで部屋に入ってきて「坊ちゃん、お疲れになったでしょう」と小さな子供にするように頭を撫でてきた。
頭を撫でられるのは気持ち良くて好きなので、そのままじっとしていたのだが、いつまで経っても一向に止める気配がない。もうマダムも戻ってくるだろうと思い、「そろそろ仕事に戻れ」と言うと、思い切り悲しそうな顔をされた。
そのまま離れようとしないので、さすがに苛立って「うっとうしい!!」と怒鳴りつけてしまった。


(思い返すと疲れが増すな・・・)
シエルは食事をとりながらも、内心ぐったりだった。
その横には、いつものようにセバスチャンが控えている。ただ、いつもと違うのは、屋敷内が静かだということ。他の使用人の四人は、ロンドンにおつかいに出ているのだ。


「あの四人がいないと静かですねぇ」
食後の紅茶を飲むシエルの横で、セバスチャンはしみじみと言った。
「そうだな。破壊されるものが少なくて済む」
「二人きり、ですね」
「・・・そうだな」

(なんか嫌な予感がする・・・)
この時のセバスチャンは、いつになく上機嫌に見えた。この悪魔は、感情の起伏というものをあまり表に出さない。
そのため、そんなセバスチャンの言葉にシエルは悪寒を感じずにはいられなかった。思わず午前中のセバスチャンの意味不明な行動が思い出される。
シエルがやや引きつった顔をしていることを知ってか知らずか、セバスチャンは更に会話を続ける。

「坊ちゃん、本日のデザートは何がよろしいですか?」
また何か朝のようなことを言い出すのではないかと構えていたシエルだが、セバスチャンからかけられた言葉は予想を裏切り、普通だった。
「・・・任せる」
「かしこまりました」
丁寧に一礼したセバスチャンを残し、拍子抜けしたシエルは席を立つ。
「おやつができるまで、庭にいる」

がっかりしているのは、きっと気のせいだ


* * * * * * * *


庭の白薔薇を見つめながら、ぼーっとベンチに座っているシエル。薔薇を見ている、というより、ただ視線がそちらを向いているだけだった。
「あいつは一体、何がしたいんだ?」
ぽつりと呟いた言葉は、午後の柔らかい陽射しの中にとけていく。

朝からやたらと恋人として絡んでくるセバスチャン。屋敷に二人きりとはいえ、普段は悪魔の美学とやらを大事にし、執事でいることに完璧さを求めている彼がそんな行動に出るのは珍しいと思っていた。
いくら最近恋人同士になったといっても、まだ恋人らしいことはほとんど何もしていないのだ。それなのに、今日は心臓に悪いことばかりされている気がしてならない。

(もしかして、僕をからかって楽しんでいるのか?)
セバスチャンが何故そのような行動に出るのか、いくら考えても理解できないシエルは、この答えに辿り着いた。
悪魔は何より退屈を嫌う生き物だとか言っていたし・・・
(だったら・・・愛している、とか言っていたのも・・・)

「坊ちゃん」
「うわぁぁぁ!!」

悶々と考え込んでいたシエルは、背後までセバスチャンが近付いてきていることに全く気付けなかった。
ひどく驚いてしまった心臓は、まだドキドキしている。
「そんなに驚かなくても」
苦笑するセバスチャンをじろりと睨み、視線だけで「何の用だ」と訊ねる。
「アフタヌーンティーの準備が出来ましたので、お持ちしました」
「!わざわざここまで・・・?」
「ええ。今日は天気がいいですし、たまにはお庭でのんびりするのもよろしいかと思いまして」
てっきりおやつができたら呼びに来るのだと思っていたシエルは、セバスチャンのその気遣いに、今まで胸を占めていた不安が消えていく気がした。

「では坊ちゃん。はい、あーん」
「!!?」
つい数秒前まで感激する雰囲気だったのに、またもや意味不明のセバスチャンの行動。
「おや、どうしました?固まっていますよ、坊ちゃん」

もう限界だ!!

スイーツ片手に首を傾げているセバスチャンを思い切り睨みつけ、シエルはベンチから勢いよく立ち上がった。
「朝から一体何なんだお前は!」
「は・・・」
「お前はそうやって僕をからかって楽しいかもしれんがな!僕はッ・・・ぼくは・・・」
カッとなるままに怒鳴ったのだが、言っている内に恥ずかしさもこみ上げてきた。
(何を言っているんだ、僕は・・・)

もう自分が怒っているのか恥ずかしいのか分からない。

セバスチャンの前にいることに耐えられなくなったシエルは、彼にくるりと背を向け、そのまま屋敷へ走って行った。
「坊ちゃん!?」
セバスチャンも慌てて後を追うが、シエルが全力疾走しているため、ギリギリのところで追いつけない。「それらしくしていろ」という命令さえなければ、セバスチャンはすぐにでもシエルを捕まえただろう。しかし、その命令は解除されていないので、ここは人間の速さに従うしかない。
もどかしさに舌打ちしたい気分になりながら、シエルの後を追う。

バタン!
「坊ちゃんッ!?」
まさか部屋に閉じこもるとは・・・

『来るな!』
「坊ちゃん、話を聞いて下さい」
『うるさいッ』
「坊ちゃん、お願いします・・・」
シエルの荒々しい声とは対照的に、沈痛な声でセバスチャンは訴える。
『・・・そこで言え』
たっぷり数十秒は経った頃、やっと中からシエルの声が聞こえた。少し落ち着いたのだろう、シエルの声に、セバスチャンの顔に安堵の表情が浮かぶ。

「まずは、すみませんでした。坊ちゃんに誤解をさせてしまい・・・」
『誤解なんかしていない』
扉越しに、シエルの憮然とした声が聞こえてくる。この様子では、機嫌は最悪に悪いだろう。
(参りましたね・・・)

「誤解です、坊ちゃん。私はからかってなどいません」
『じゃあ何だっていうんだ』
セバスチャンの必死の声も、シエルの自分さえも切り裂くような声にかき消される。
お互いの息づかいすら聞こえてしまいそうな距離にいるのに、たった一枚の扉に隔てられているため、相手の身動きすら分からない。この扉が、まるで自分達の心の間にある壁のようだ。

「・・・ちゃんと説明しますから、どうかここを開けて下さい。・・・シエル」
名前を呼んだことが効いたのか、ゆっくりと扉が開かれた。
「坊ちゃん・・・」
シエルの顔は真っ赤で、目も充血している。・・・おそらく泣いていたのだろう。
セバスチャンは警戒させないため、ゆっくりと部屋の中へ入った。
「坊ちゃん、私は貴方を愛しています」
「ッまた」
「ですから!」
シエルが激昂しそうになるのを遮って続ける。
「愛しているから、貴方の反応も愛おしいのです」
「・・・は?」

何を言っているんだ?
からかっていないのとどう違うんだ?

セバスチャンはいつかの時のように、床に膝をつき、シエルに目線を合わせる。
「やっぱり、からかっているんじゃないか」
悲しそうに言ったシエルの肩を片手で優しく掴み、もう片方で頭を撫で。
「貴方がひとつひとつ反応を返して下さるから・・・嬉しいのです。
意識する前は、お互いほとんど無関心でしたし、想いが通じ合うまでは、お互いどこか踏み止まっていましたし・・・ですから、このように坊ちゃんが私の言動ひとつひとつに応えて下さるのが・・・」
たまらなく嬉しいのです。

じゃあ何だ
朝からキス云々を言ってきたのは、まだキスすらしていない僕の反応が知りたかったから?
「二人きり」とか意味深な発言をしたのは、恋人になって甘い雰囲気になったことがほとんどないから?
おやつを食べさせようとしたのは、まだしたことがない恋人らしいことをしたかったから?


(一人で勝手に怒って、バカみたいだ)

「あの・・・坊ちゃん?」
セバスチャンが事情を説明してから、ずっと俯いたままのシエルに、恐る恐る声をかける。
「・・・つまり」
俯いたままのシエルから、声が聞こえた。
「はい?」
シエルは視線を上げ、セバスチャンの瞳を真っ直ぐ見つめる。
「つまりお前は、僕のことが好きで好きで仕方がないんだな」
「!!・・・はい」
セバスチャンはシエルの言葉に僅かに目を見開いたが、すぐに微笑みに変わった。どうやら誤解は解けたようで、機嫌も直っているようだ。
セバスチャンの表情を満足そうに見たシエルは、目の前のセバスチャンの首に腕を回し、抱きついた。
「ぼ、坊ちゃん」
今までこのようにシエルが自主的に抱きついてきたことがあっただろうか。
(初めて、ですね・・・)
喜びに胸を震わせながら、セバスチャンもシエルの背中に腕を回す。
小さな子供をあやすようにゆっくり撫で、優しく抱き締め、耳元で愛を囁く。

「Je l'aime」

耳元で囁かれたその言葉。その意味を一瞬で理解したシエルは、抱きついていた身体を引き剥がし、顔を真っ赤に染め上げた。
「午前中のフランス語のレッスンは、真面目に受けられたようですね」
セバスチャンは穏やかな笑みで言い、シエルの髪を梳いた。

いとしい

「僕だって、お前のことが好きで好きで仕方がないんだからな!!」
「坊ちゃん・・・!」
再び抱きつきながら言われたその言葉に、セバスチャンは我を忘れて口付けたい衝動に駆られる。
ゆっくりと身体を離し、見つめ合う二人。
セバスチャンの手がシエルの後頭部に添えられ、シエルがびくりと震える。
「愛しています、シエル・・・」

あと二十センチ、十センチ、五センチ・・・

「やっぱりストーップ!!」
「ぶっ」

あと僅かで唇が触れそうになったところで、シエルはセバスチャンの顔面を両手で力いっぱい押さえつけた。
「ぼ、ぼっひゃん・・・」
セバスチャンは顔を押さえつけられたまま、シエルに呼びかける。
「ま、まだ・・・心の準備が、できてない、から・・・その・・・」
途切れ途切れに言いながら、セバスチャンの顔から手を放すシエル。恥ずかしさからか、顔をこれまで以上に真っ赤に染め、目にはうっすら涙まで浮かんでいる。
(一体どこまで可愛い反応をしてくれるんですかッ)
キスひとつに、ここまで可愛い反応をする人間など見たことがない。
(あああぁぁッ、もういっそ抱いてしまいたいですッ・・・)

床に両手をつき、震えているセバスチャンをシエルは心配そうに見ていた。
(呆れられたか・・・?)
当然、セバスチャンの気持ちには全く気付いていない。
「セバスチャン・・・?」
不安げなシエルの声に、セバスチャンは我に返った。
「!すみません、坊ちゃん。私としたことが、坊ちゃんのお気持ちを無視するようなことを・・・」
「い、いや、そんなことない!ただ・・・」
もう少し、待って欲しい。

告げられた言葉は拒絶ではなく、むしろ・・・
「では、心の準備が出来ましたら、何か合図をしていただけますか?」
「合図?」
セバスチャンの提案に、シエルはきょとんとする。
「ええ。例えば・・・先程の私と同じように愛を囁く、とか」
「!!・・・分かった」
真っ赤になりながらも、こくこく頷くシエルを、セバスチャンは愛おしそうに抱き締めた。

それはきっと、近いうちに訪れる
ふたりの進歩




END


****
あとがき
『夢幻の館』の良野りつ様から、相互リンク御礼を頂きました…!!
『セバスがうっとうしいくらい坊ちゃんにちょっかいをかけて、坊ちゃんがプンプン怒る』という
リクエストをさせて頂いたのですが…よくやった私(笑)
坊ちゃんが可愛すぎるー!!!!セバスの追いかけ具合もツボです!!かなり萌えました(>▼<)/
こんな素敵な小説をありがとうございましたッ!!

この度は本当に相互リンクをありがとうございました!
これからも宜しくお願い致します^^

拍手

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