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【2024/04/30 03:48 】 |
いつか来る日には
ともみ様へ




*『イツワリの関係』と、ほん~の少し繋がっています。でも読まなくても平気です。




契約をしたから貴方と過ごすことが出来る。
契約をしたから貴方に触れることが出来る。


契約をしたから、
私の手で貴方を殺すことになる。



― いつか来る日には ―



「随分と暗い表情をしているな、セバスチャン」

シエルはベッドに横になり、燭台を片手に持つセバスチャンに言う。
セバスチャンは自分の主人をナイティに着替えさせ、まさに部屋から出ようとしていたところだ。
扉を開こうとする手をピタリと止める。

「最近になってから、時々お前は辛そうな顔を見せる」
「・・・」
「ふっ。否定はしないんだな」

シエルの言葉にセバスチャンはそのまま黙り込む。
いつもならば、たとえ真実だとしても軽く流して部屋から出て行くのだが、今回ばかりはそうはいかない。
セバスチャンが今抱え込んでいる思いは、自分でも手に負えないほどのものだからだ。
だからこのように、シエルに話しに持ちかけられるほど顔に出てしまっている。
簡単に一言で言うと、余裕がないのだ。余裕もなければ隠すこともままならない。
隠すことが出来ないほどの思い。それは。

「セバスチャン、こっちを向け」

黙ったままのセバスチャンにシエルは命令をする。
本心としては顔を合わせたくないのだが、執事の自分は主人の命令は絶対。
セバスチャンはゆっくりとした動作で、身体ごとシエルの方へ向ける。
自分としては無表情のつもりなのだが、その顔を見た瞬間シエルは鼻で笑う。


「どうした?僕が何かしたか」
「なぜです」
「さっき言っただろう。辛そうな顔を見せると」

どうやらシエルの目にはセバスチャンの心境が顔に出ているように見えるらしい。
流石は観察力の鋭い主人であり、付き合いの長い恋人である。
ここで、自分のことを心配してくれていることに喜びを感じることが出来たのならば良かったが、今のセバスチャンにとっては複雑な心境だ。
セバスチャンは目を閉じて、深く息を吐く。

「坊ちゃんが何かをしたわけではありません」
「じゃぁ、どうしてそんな顔をする」
「たまには私だって不機嫌な時くらいありますよ」
「・・・不機嫌ねぇ」


何かを含んだような言い方。
シエルは先ほど掛けられたシーツを剥いで上半身を起こし、そして目を閉じているセバスチャンに向かって再び、こちらを見ろ、と命令する。
どうやらセバスチャンの心境を知るまで許さないらしい。
全く、困った主人です。
セバスチャンは閉じていた瞳を開き、己との繋がりを示す契約印が刻まれた瞳を見つめる。

「どうしてお前は不機嫌なんだ?」
「答えなければいけませんか?」
「答えさせるために聞いたんだろう」
「なぜ気になさるのです?」
私は貴方の執事です。使用人のことなど放っておけばいいでしょう。

突き放すように言う。
そうすればシエルは怒って寝始めるだろうと思っていた。
けれど。

「じゃぁ、恋人として気になると言えばいいか?」

口に弧を描きながらシエルは言う。
自ら己を悪魔の恋人だとは言わない、あのシエルがその言葉を口にした。
それほどまでに、セバスチャンの心境を知りたいのか。
セバスチャンは苦笑しながら、ベッドへと近づく。

「そんなに私のことが心配ですか?」

コツリと足音が暗い部屋に響く。
一歩一歩進み、こちらを見るシエルとの距離を縮めていく。
まるで狩を楽しむ獣のように。
けれどシエルは余裕の笑みを浮かべながら、あぁ心配だ、とセバスチャンの問いを返した。
きっと今のセバスチャンには余裕がないことを知っているのだ。
シエルはゲームに強い。その冴えたる頭は必ずといっていいほど勝利を掴む。
それは逆に、完全に負けるゲームだと判断したときには手を出さないという意もある。
悪魔とのゲームはリスクが高い。しかし今回は己からゲームを挑んだ。この悪魔に対して。
それは、勝率があると踏んだからだろう。
流石はマイロードと舌を打ちたくなる。

「本当に貴方は嘘が好きですね」
心配などしていないでしょう?

セバスチャンはシエルから少し距離を置いたところで跪く。
そして見上げながら、口元だけ弧を描く。

「心配をしているのは本心だぞ?業務に差し障りがあったら困るしな」
「その点につきましてはご安心を」
「ふん、ならいいがな」

シエルも口元だけ弧を描き、もっと傍に寄れと手招きをする。
しかしその瞬間、気高く美しい瞳が少しだけ揺れたのをセバスチャンは見逃さなかった。

・・・どうやら、本気で私の心配をしてくれているようですね。

予想外の展開にセバスチャンは反抗もせずに手招きどおり、もっとシエルの傍に寄る。
まさにベッドの真横。きっと言うなれば、子供が風邪を引いたときに親が看病するときにいる位置だろう。
そこまで行くとシエルは手を伸ばし、セバスチャンの襟首を掴み引っ張る。
いきなりそんなことをされると思わなかったセバスチャンは前のめりになり、ベッドに手をつく形となる。
となると自然と顔も近くなるのだが、襟首を掴んだままシエルは離さないので、より近く。
あと数センチで口付けが出来そうなほどの近さだ。
その位置でシエルは綺麗に微笑む。

「・・・っ!!」


セバスチャンはそんなシエルの表情に息を呑む。
ただ綺麗に微笑んだのならば、嫌味としてしか受け取らないけれど。

「どれが本当のお前なんだろうな?」

とても綺麗に、悲しそうに微笑んだのだ。

「別にお前の本心を知りたいわけじゃない。だが」

シエルは言う。

「執事のお前。恋人として誰かに嫉妬するお前。欲を解消する為に戯れるお前。そして」

悪魔として、僕の魂を欲するお前。

「どこにお前自身の本心があるのか気になったりもする」
笑えるよな。

自嘲しながら、シエルはセバスチャンの襟首を離す。
そして落胆したかのように俯き、ため息をつく。
しかしそのため息の色は、疲れや絶望などではなく、仕方が無いとでも言うようなあっけらかんとしたものだった。

「今もお前が何に悩んでいるのか僕は知らない。お前が、どのお前として悩んでいるのかも、な」
「坊ちゃん・・・」
「安心しろ。たとえどのお前であろうが・・・僕に見せていないお前こそが本心だろうが、僕は何も気にしない。束縛する気もないからな。復讐を果たすまで僕の命が守れるのならば、どのお前でも構わない」

シエルは引っ張ったのとは逆に、トンっと軽くセバスチャンの肩を押し、ベッドへと倒れる。
目を閉じて倒れる様は、まるで高い位置から身を投げたようだ。
けれどシエルの身体は地上に投げ出されることなく、柔らかいシーツが優しく受け止める。
セバスチャンはそんなシエルを黙ったまま見つめる。

「本当はお前の悩みを聞いて、馬鹿にしてやろうと思ったが気がそれた」
もう寝る。

そう言うと、シエルはセバスチャンに背を向けてしまう。
どうやら主人は自ら仕掛けたゲームを、自らの手で終わらせるつもりらしい。
チェックメイトはいつでも出来たにも関わらず、己の手で己のキングを倒してしまった。
たいそう気まぐれな主人ですね。
そんな猫のようなシエルにセバスチャンは手を伸ばす。
しかし触れる前に、シエルから制止の声が飛ぶ。

「僕に触るな」
「・・・シーツをお掛けにならないと、風邪を召してしまいますよ?」
「後で自分で掛ける」
早く部屋から出て行け。

冷たく言い放つ。
どうやら不機嫌になってしまったらしい。
『本心が気になる』と言ってしまったことに苛立ち始めたのだろう。
全く本当に・・・。全部本当は分かっているのでしょう?
セバスチャンはため息をつく。


こんなにも身勝手な人間なのに。



立ち上がり、ベッドへと上がる。



悪魔の餌としかならない人間なのに。


そしてシエルの罵声を無視し、覆いかぶさり。


どうして、こんなにも愛しいのでしょう。


力強くシエルを抱きしめる。



「なっ!!セバスチャン、離せっ!!」

シエルはもがき暴れるが、セバスチャンはそのまま強く抱きしめる。
シエルの抵抗する力など、悪魔相手に、否、大人相手に太刀打ちほど強いものではない。
本当にちっぽけな人間だ・・・。
なのに。

「坊ちゃん、聞いてください」

搾り出すように言うと、シエルはピタリと動きを止めた。

「私は坊ちゃんを愛しています」
「は?」
「それが私の本心なんです」

セバスチャンはシエルを抱きしめたままに言う。
シエルの首元に顔を埋め、顔を見せようとしない。
そのくせその両腕は背中と腰に回し、がっちりとシエルを抱いて離さない。
シエルは一体何が言いたいのか分からず、眉を寄せて己に抱きつくセバスチャンを見る。
表情を伺うことは出来ないけれど・・・。

「それがお前の本心って一体どういうことだ?」
「そのままの意味ですよ。裏も何もありません。私は坊ちゃんを心から愛しているのです」
「・・・これはさっきの会話と繋がっているのか?」
「はい」

頷くセバスチャン。
確かに本心についての話はしたけれど、どうしてそれが急に愛しているになるのだろう?
シエルは次に何の言葉を掛けたらいいのか分からず黙り込んでしまう。
しばらく沈黙が続き、全く動かないセバスチャンだったが、再び静かに口を開いた。

「ねぇ坊ちゃん。私は今執事ですが、元は悪魔なんです」
「・・・あぁ」
「悪魔は人間の魂を食べる生き物。本来人間の言うことを聞くなど有り得ない。人間はただの餌なんです」
「そうだな」
「だから今このように坊ちゃんの執事をやっているのも、契約があるからです。餌となる坊ちゃんの魂を食べるために過ぎない。それが悪魔の本性であり、存在なのです」
「・・・」
「だから私の本心は坊ちゃんの言う『悪魔として、僕の魂を欲するお前』が一番正しい姿なのだと思います」
「そうだろうな」
「ですが・・・」


セバスチャンは一旦言葉を切り、深呼吸をする。
再び強く抱きしめられ身体が痛いのだが、シエルは何も言わずに続きを待つ。
そしてセバスチャンが言った言葉は。


「私は貴方の魂を食べるよりも、貴方と共にいることを望みます」


美しいほど残酷な言葉だった。


シエルはその言葉に目を見開く。
これは空耳だと考えるが、空耳なんかじゃないと自分が答える。
だが、空耳であって欲しいと願う。
今だけは・・・今だけは嘘だと言って欲しい。
自分は嘘をついたと、セバスチャンに言って欲しい。

「待てセバスチャン」
「これが私の本心です」
「嘘だと言え」
「私は嘘はつきません」
「いいからっ!!」

シエルはセバスチャンの背中をバシバシと叩く。
やめろ、僕はそういう意味で本心について話したわけじゃない。
ただお前の悩みを解消させてやりたくて・・・。
そこまで考えて、シエルはハッとする。

「お前まさか・・・」
「はい、私が内に秘めていたのはコレです」
「・・・!!」

最悪だ。

シエルは唇を噛む。

セバスチャンは自分を取り繕うことが出来ないくらい悩んでいたのだ。
一体どんな悩みかと思ったけれど、まさか・・・こんな・・・。
一番聞きたくない言葉が出てくるなんて。
こんな内容ならば、話しを持ちかけなければよかった・・・!!

「坊ちゃん・・・」
「黙れ」
「私は」
「もう喋るな」
「・・・」
「もう・・・やめろ・・・」

シエルは涙声で懇願するように言う。




― 私は貴方の魂を食べるよりも、貴方と共にいることを望みます ―


なんで、悪魔のお前がそんなことを言うんだ。


― 今このように坊ちゃんの執事をやっているのも、契約があるからです ―


僕とお前は、悪魔と人間。契約の繋がりでしかない。



― 餌となる坊ちゃんの魂を食べるために過ぎない。それが悪魔の本性であり、存在なのです ―


それが当たり前だろう。
それが、僕とお前の関係だろう。
なのにどうして。
どうしてそんな思いが悪魔の中から生まれた?
恋人の関係も、夜の戯れも、イツワリじゃなかったのか?
違う。イツワリじゃなければいけなかったんだ。

僕はお前を愛していないし、お前も僕を愛していない。

それが僕らを守る唯一の手段だった。
それなのに。


それを本心で言うな。


― 私は坊ちゃんを愛しています ―

やめろ。

― それが私の本心なんです ―

やめろ。
そんなのはお前の本心ではないだろう。



「坊ちゃん、知っていたでしょう?」
私が本気で貴方を愛していると。

囁きに首を振る。

「坊ちゃんも、私のことを本気で愛してくださっていますよね」

シエルは首を振る。

「本当は坊ちゃんも、私と共に在りたいと望んでくださっていますよね」

「それ以上言うなぁぁぁぁっ!!」

悲鳴のような叫びが暗い部屋に響く。

「僕が?お前を?ふざけるなっ!僕はお前のことをただの駒としか見ていない!」
いいか、よく聞け。
「契約があるからお前と一緒にいるだけだ。この契約が終われば・・・」

シエルはセバスチャンの背中に爪を立てる。
しかしその手は震え、瞳は涙で溢れている。
それでもシエルはそれを零さずに・・・。

「この契約が終わればお前は僕の魂を・・・!!」
「っ・・・」

ずっと動かなかったセバスチャンが顔を上げる。
急に瞳に映ったセバスチャンの表情に、ついに我慢ならず涙が零れる。

悪魔の印である赤い瞳でありながら、苦しげに歪むその表情。
まるで必死に痛みに耐えるようだ。
しかし。

「食べますよ?」

口元だけ、悪魔の牙を覗かせながら笑みを浮かべている。
なんとアンバランスな表情。
声も湿って震えているクセに、どうしてそんな口元だけ笑みを浮かべているのか。
けれどそれが酷く『今』に合っていた。

「この契約が終われば、私は貴方の魂を喰らいます」

言いながら、赤い瞳から雫がシエルの頬に落ちてくる。
透明で、人間が流すものとなんら変わりない雫。
けれど。

セバスチャンは あくまで 悪魔なのだ。

「あぁ・・・必ずだ」

シエルは自分の涙は拭わず、セバスチャンの赤い瞳に溜まる雫を親指で拭い取る。
何度も、何度も。

「必ず喰え」

イエス、マイロード。
音にはせず、口の形だけで誓うセバスチャン。

ずるい奴。

シエルはクスリと哂うと、どちらかとともなく自然と唇が重なり合う。
決して深くはなく、まるで上辺だけのように。
その間も互いに頬を濡らしていく。


馬鹿みたいだ。
どんなに周りの人間が死んだって、どんなに自分が傷ついたって涙なんか流さないのに。
今、僕はこんなにも涙を流している。
本当に愚かだ。

契約した悪魔を愛してしまうなんて。

報われることなどない。
たとえ互いが想い合っていたとしても。
僕とセバスチャンの運命は決まっている。
それは契約をした時、否、出会った時から決まっていたのだ。
この二人の終焉が。

だから全てイツワリで埋めていたのに。

ずっと嫌いだと叫んできた。
抱かれても喜ばなかった。
全て否定してきた。
たとえ恋人だと言われても、ただの騒音として受け止めてきた。
受け入れることはしなかった。

共にいることを望む?
そんな願い



叶うわけがない―――



けれど私は願ってしまった。
悪魔にも関わらず坊ちゃんを愛してしまった。

執事の私。
恋人として誰かに嫉妬する私。
欲を解消する為に戯れる私。
そして

悪魔として、坊ちゃんの魂を欲する私。

どれも本心なのです。
どれも坊ちゃんを心から愛しているのです。

従者として
恋人として
欲望として

悪魔として

私自身として心から。


イツワリを演じる貴方にイツワリを返す私。
契約の間にある秘め事。
嫌味の裏に隠された愛情。
互いを拒否する防衛本能。
愛するが故のイツワリ。

それが私の一言で、こんなにも簡単に崩れ落ちる。
それほど私達の想いは深くて、脆い。



セバスチャンはただ触れ合っていた唇に、そっと舌を伸ばす。
シエルのソレに触れた瞬間、シエルは恐れるように身体を強張らせ逃れようとする。
だがセバスチャンは許さず、シエルの口内に侵入し優しく犯していく。
愛していると全身で叫びながらシエルに触れ、今だけイツワリを投げ捨てる。
そして

『偽りの幸福』に満たされる。

「シエル」
「・・・セバス、チャン」

唇を離して、名前を呼び合う。
それだけで身体が歓喜でわななくのに。

あいしてる。

音にはせず、口の形だけで本音を伝えるシエル。
それを見たセバスチャンは嬉しそうに微笑みながら、赤い瞳を閉じる。
そして何よりも愛しい人を自分の腕に閉じ込める。
どこにも行かないでなんて、愚かなことを願いながら。



ねぇ坊ちゃん。


契約をしたから貴方と過ごすことが出来る。
契約をしたから貴方に触れることが出来る。


契約をしたから、
私の手で貴方を殺すことになる。

だけど。


貴方と出会えたことを、本当に嬉しく思うのです。



いつか別れの時が来る。

そのときは。


最期にもう一度だけ。

あいしてる と言って。




END



******

6666という悪魔ってる(笑)キリ番を踏んでくださいました
ともみ様に捧げます^^
リクエストの『切ない感じ』を書かせて頂きましたが、いかがでしょう?
切なくなりましたか・・・?
こんな文章で宜しければ、是非お持ち帰りくださいませ
キリ番を踏み、そして報告をしてくださってありがとうございました!!

これからも、是非暇なときにでも遊びに来てくださいね^^


 

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【2011/05/18 16:33 】 | Gift | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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