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【2024/04/30 03:56 】 |
深め合う愛
良野りつ様へ



静かな空間。
漆黒の夜の時間。
いつの間にか包み込んでくる闇は不安定要素ではなくなっていた。
それは契約がある限り自分を守る悪魔がいるからだ。
恐怖とする闇さえも己の味方にさせ、絶対的不可侵領域を作り出してくれている。
いや、それだけではない。
その悪魔は自分のことを愛し、そして自分もその悪魔を愛しているからだ。
空っぽになった心を満たしてくれるのではなく、その心を包み込んでくれる彼。
信用というには軽すぎる。
しかし信頼というほど綺麗でもない。
だから結局は“契約”という言葉が思いつくのだけれど。

(結局はそれも飾りになってしまうんだな)

シーツから抜け出したシエルは、カーテンの隙間から冷たい色で輝く月を見つめる。
契約があるからなんだって言うんだ。
命は守られるかもしれない。
けれどその契約があるからと言って相手を完全に縛れるわけでもないし、完全に自分のものに出来るわけでもない。
完全に独占することなんて、出来ないのだ。
この世界に二人きりならない限りは。
仕方が無いと分かっている。
そこまで相手を求める気もサラサラ無い。
けれど。

(僕は、お前が…)

今は傍にいない彼を思って、シエルは唇を噛み締めた。



― 深め合う愛 ―



いつもならば夜の闇に隠れながら、彼は主人であり恋人であるシエルの部屋へと忍び込んでくる時間。
けれど今日はそんな彼の気配は1つも感じない。
本来ならば、どうしたのだろうと心配するところだろうが、そんなことはひとかけらも思わない。
なぜなら、セバスチャンが今日来ないことは分かっていたのだ。

(一人じゃ眠れないだなんて、随分と依存したものだ)

月を見ながら苦笑してしまうが、本当は彼がいないから眠れないワケではないとシエル自身分かっている。
シエルが眠れない本当の原因は。

セバスチャンと喧嘩をしたことにある。





****




夕食。


セバスチャンが作った美味しい料理を黙々と食べていくシエル。
その隣には作った本人が、食べているシエルよりも嬉しそうな顔でシエルを見つめていた。

『坊ちゃん、お味はいかがですか?』
『…悪くない』
『それはようございました』
『だが』

シエルは手前にあったスープを見つめて眉を顰める。
その様子を見たセバスチャンは小さくため息をついて苦笑した。
どうやら突っ込まれることは予測済みだったらしい。

『大丈夫ですよ。私なりに味付けをしてアレンジを加えましたので、ほうれん草の味は一切しません』
『だが、色は緑だろう』
『それでも味は全く違いますよ。飲んでみたら分かります』

シエルがほうれん草が嫌いなことはセバスチャンも百も承知。
だが、主人であり恋人である彼のことを思えば好き嫌いは1つでも無い方がいいのだ。
セバスチャンは色々と試行錯誤した結果、ほうれん草の味がしないスープを作り出すことに成功した。
けれどシエルはスープから目線を逸らし、まるで見なかったというような反応を返してしまう。

『…坊ちゃん?』
『最後に飲む』
『とか言って、お腹一杯になったから飲まないと言い出すんでしょう』
『…ちゃんと飲む』
『本当ですか?』

セバスチャンはやれやれと首を振る。

『好き嫌いをしていては成長できませんよ?』
『ほうれん草を食べないからって成長できないワケじゃない』
『またそんなことを…。貴方の身体のことを想って言っているんです』
『ただ僕を苛めて遊びたいだけじゃないのか?』

イライラしてきてしまったシエルの言葉に、セバスチャンもカチンときてしまう。
こうなっては二人の言い合いはエスカレートするばかり。

『じゃぁ、もう食べなくて結構ですよ。一生小さいままでいればいいんです』
『もし食べて成長したら、お前が困るんじゃないのか?』
『なぜです』
『成長したら余計に夜会で色目を使ってくる輩が増えるからな』

綺麗な容姿をしているシエルは、年齢関係なく声を掛けられることが多い。
成長したら、もっと声を掛けられるだろう。
それは容易に想像がつく。
恋人が目の前で他の輩に声を掛けられている姿を見て冷静でいられるセバスチャンではない。
シエルもそれを分かっていてあえて嫌味として言ったのだ。

『別に構いませんよ』

しかしそこで負けるセバスチャンではない。
もう本音とは別の言葉が口から流れ出てくる。

『坊ちゃんが他の方と楽しんでいる間、私も別の方と楽しんでおりますから』
『…なに?』
『私に色目を使ってくる女性も、沢山いらっしゃるということです』

にっこりと微笑む顔を見たシエルは、一瞬心のどこかで何かが割れる音が聞こえたが、今は気付かない振りをあえてし続けた。

『そうか。なら僕なんかよりもその女性と遊んでろ』
『そうさせていただきます』


そこで会話は止まり、結局シエルはスープを飲むことはなく、そして二人は会話を交わすことさえしなくなった。
執事と主人の関係なので、最低限の接触はするが、それ以上は何もない。
まるで冷戦状態。
ようするに喧嘩したのだ。





****




(スープを最後に飲もうと思ったのは本当だ)

たとえ一口だとしてでも、シエルはセバスチャンが色々と考えてくれたものだと思い、飲もうと決意したのだ。
けれどセバスチャンに疑われ、ついつい苛立ってしまった。

(馬鹿だな、自分も)

シエルはふぅ…と息を吐く。
どうしてもセバスチャン相手だと感情的になってしまう。
それは、セバスチャンには気を許しているということにもなるかもしれないが、厄介極まりない。
自分がもっと感情のコントロールが出来ていれば、こんなことにはならなかったのだ。
しかし。

(僕は他の輩が色目を使ってくると言っただけで、僕がそれに応えるとは言っていないのに)

あの時の会話を思い出し、胸が痛む。
ここでセバスチャンに色目を使う輩がいなかったら、ただの強がりとして受け取れるが、真実セバスチャンに対して色目を使う輩がいるのをシエルは知っている。
いつも軽く受け流しているのだが、実は中には気になる奴でもいるのかもしれない。

嫌味な言い合いがエスカレートしてしまうことはよくある。
思ってもいないことを口にしてしまうことだって。
けれどそれはシエルのことだけであって、セバスチャンは本心だったとしたら?
彼が感情的になることは滅多にない。
そして美学を大切にする悪魔だ。
自分は執事だから、と己を律して無理に自分の傍にいる可能性だってあるのだ。

(じゃぁ、僕に愛していると言ってくれているのは?)

それも嘘だったというのだろうか。
あの優しい顔も。
あの抱きしめる腕も。
全部が偽物だったのだろうか。

(いや、それは考えすぎだろう)

たかが喧嘩で、ここまで暗い思考に陥ってしまう自分に自嘲する。
“可能性”を考えればいくらでも提示できる。
不安を取り除けるワケがないのだ。
いつ、どんなときだって。
それが今回喧嘩したことによって、前面に出てきてしまっただけ。
考え過ぎだと分かっている。
けれどやはり。
考え過ぎなんかではないんじゃないか、とも考えてしまう。

(あぁ、呆れてしまうな)

シエルは冷えてきた身体を抱きしめる。
いつもならそんな身体を温めてくれる彼がここにはいない。
なんだかそれが“真実”な気がして、泣きたくなってくる。

(あいたい)

会ってこんな不安を拭い去って欲しい。
安心させて欲しい。

(セバスチャン)

けれど名前を口にすることは出来ない。
少しでも口にしたら、彼は嫌でもここに来なければいけないから。
どんなにその名前をただ口にしたくとも、することは出来ないのだ。

(セバスチャン…)

女々しいと思う。
弱々しいと思う。
格好悪いと思う。
それでも。
たとえそうであったとしても。

(なぜだろうな…)


求める心は、こんなにも抑えることが出来ない。






「坊ちゃん」
「…え?」

フワリと自分を包み込む感触。
そして強く抱きしめてくる腕。

自分の名を呼ぶ声に、彼の匂い。

「セバス、チャン?」

求めていたその名を口にしながら振り返れば、苦笑している彼の顔が瞳に映った。

「お風邪を召してしまいますよ」
「…あぁ」

嬉しさと切なさが溢れてきて、シエルはシーツの下からセバスチャンの腕をキュッと握る。
涙が零れてしまいそうになるのを必死に堪え、まずは謝ろうと決心した。

「セバスチャン、夕食の時は悪かった」
「いえ、私も」
「いやいいんだ。最後に飲もうとしたのは本当だが、あの時一口でも先に飲んでおけば良かったし、感情的になってしまった僕がいけなかったんだ」

シエルはセバスチャンの言葉は聞かずに捲くし立てる。彼の言葉を聞くのが怖いのだ。
本心を知るのが怖いのだ。

「今度からは一口でも飲むようにする。せっかくお前が作ってくれたものだしな。努力する。あぁ、それとあの時言った言葉だが、夜会で色目を使われたって僕は応える気なんてサラサラない。それに成長した時、どんな姿をしているか分からないじゃないか。逆に引かれる可能性だってあるだろう。だから」

一瞬ピタリと止まり息を呑むが、震えそうな声を我慢して。

「だから、もしかしたら今後色目を使う輩が減って楽になるかもしれないな」

冗談交じりに笑いながら言う。

『だから、お前が僕の傍にいてくれ』
そうは言えなかった。
言うことが出来なかった。

命令してしまえば、彼はずっと傍にいてくれるだろう。
けれど、心はどこかにいってしまったままだ。
そんな人形の彼なんか欲しくない。
そんな“可哀相な”ことをしたくない。

「まぁ、とにかくだ。色々悪かった」

もうベッドに入る、という雰囲気にするシエル。
あんなにも会いたくて会いたくて仕方が無かったというのに、まるで喧嘩の時のように本心とは違う言葉が流れ出てしまう。
それは自分を守るためだろう。けれど、逆にそれも自分を傷つけているのは確実なわけで。
だが、このまま自分が妙な言葉を口走ってしまう前に、彼の本心を聞いてしまう前に、ベッドに入ってしまった方がいいだろう。
シエルは掴んでいた腕を離し、移動しようとすれば。

「他に、何か無いんですか?」

セバスチャンの声が静かに響く。
冷たさもなければ、暖かさもない声音。
一体何を考えているのか感じ取ることが出来ないものだ。
シエルは他に何か謝ることがあっただろうかと首を捻ってしまう。
だが言われた言葉は全然違うものだった。

「私が他の女性と遊んでいても宜しいのですか?」
「…ッ!」

ズキリと痛みが走り、我慢していた涙が一粒零れてしまった。
しかしきっとセバスチャンからは見えていない筈だ。
シエルはあえて拭うような仕草はせず、そのまま答える。

「お前が、他の連中と遊びたいなら、仕方がないだろう」
「本心ですか?」
「…お前をそこまで縛り付けたいワケではない」
「…貴方はそれでいいのですか?」

「いい訳ないだろうッ!!」

ついに我慢できなくなったシエルは抱きしめる腕を無理やり解き、振り返る。
見られたとしても涙を止めることは出来ない。
しかしもう気にすることなくセバスチャンの襟首に掴みかかった。

「お前が他の輩と遊ぶだなんて許したくない!お前の契約者は誰だ!お前は誰の恋人だ!だけど、だけどなぁ!」

心が悲鳴を上げ、ポロポロと涙が零れ落ちる。

「お前が僕以外の人を好きになったら、僕は諦めるしかないじゃないかッ!どんなにお前の気を引いても駄目ならば、諦めてお前を解放してやることしか出来ることがないんだッ!契約だけでお前の心までも縛れるわけじゃないだろう?!」

どんなに傍にいて欲しいと願ったって。
どんなに傍に居て欲しいと祈ったって。
たとえ命令であったとしても、それが叶う事はない。
心は、その人のものだけであるから。

「僕が、どんなに、お前を愛していたって、お前が僕を愛していないのならば、それで…終わりだ」
「でも、貴方は本当はどうして欲しいのですか?」

涙をそっと拭う優しい手。
見つめてくる顔はあくまで優しい。
悲鳴を上げる心を包み込もうとしてくれる。

あぁ…クソッ。

それに今は、甘えさせて欲しい。
言ってはいけない望みを口にさせて。


「傍にいて欲しい」


言いながら、セバスチャンの襟首を離す。
もう自嘲しか出てこない。
こんな弱々しい自分、誰が好むというんだ。
シエルは俯き一歩後ろに下がると。

「坊ちゃん」
「?!」

それを追いかけるようにセバスチャンの腕が伸び、シエルを再び抱きしめる。
そして強引に口付けられた。

「ンッ!」

力強い腕を先ほどのように解くことなど出来ず、そのまま相手の唇を受け止める。
しかし自己嫌悪に浸っているシエルはそんな気持ちになれる筈もなく嫌がるように首を振るが、セバスチャンは何度も何度も唇を重ね合わせ、舌を絡め合わせてくる。
好きな相手の甘い口付けに、どんなに抵抗していても結局は酔いしれてしまい、シエルは頭が真っ白になってしまった。
そこでやっと唇が開放される。

「はぁ…はぁ…」
「やっと言ってくれましたね」
「な…に?」
「傍にいて欲しい、と」

セバスチャンは本当に嬉しそうな声で、痛いくらいにシエルを抱きしめ続ける。

「だって坊ちゃん私が酷いことを言ったのに、怒ることもせずに謝るだけでしたから…私が他の女性と遊んでも何とも思わないのかと思って焦りました」
「だって…それは」
「私が坊ちゃん以外の人間に惹かれるとお思いで?」
「わから、ない」
「…もっと口付けましょうか?」

再び唇を寄せてくるセバスチャンに、シエルは急いでストップを掛ける。
これ以上口付けられたら、本当に窒息死してしまう。

「私が愛するのは貴方だけです。抱きしめたいのも、口付けたいのも。ましてや縛られたいと思うのも…」
「・・・」
「もっと独占してください。もっともっと私を貴方だけのものにしてください」
「…その言葉だけ聞くと、ただの変態に聞こえる」
「本気の告白に失礼な方ですね」

ムッとするセバスチャンに、シエルはクスリと笑う。
あぁ…現金な奴だな。自分も。
やっとシエルは抱きしめてくるセバスチャンの背中に腕を回し抱きしめ返す。

「こんな僕、嫌じゃないのか?」
「どうして嫌なのですか。むしろ私を想ってグルグルしている姿も可愛らしいですよ」
「こっちは本気で苦しんだというのに…」
「素直にならないからですよ」
「僕はお前のためを思ってだなッ」
「坊ちゃん」

セバスチャンはポンポンとシエルの背中を叩く。

「それも嬉しいですが、やはり私は貴方の言葉を聞きたいですよ」
「・・・」
「恋人の我侭なんて可愛いものです」
「…ほうれん草は許さないクセに」
「それこそ坊ちゃんの為を思ってです」

お互いクスクスと笑い合う。
まるで先ほどの痛みが嘘のように和らぐ。
もっと早く言えば良かったのかもしれない。
セバスチャンの言う通り“素直”に。
でも。

きっと僕はまた何かあれば口をつぐむんだろう。
セバスチャンのことを想って。
そしてまた涙するんだろう。


「セバスチャン」

シエルは名前を呼びながら胸板に頬擦りする。
彼がここにいるのだという安堵感。
そんな様子にセバスチャンも嬉しそうに名前を呼び、シエルの頭に口付けた。
愛しています、と囁きながら。


もしまた涙したら、今日みたいに抱きしめて欲しい。
痛いくらい口付けて欲しい。
自分の不安なんか馬鹿馬鹿しく感じてしまうほど、愛して欲しい。


「坊ちゃん、ベッドに…行きませんか?」


そしてもっと、今以上に。


「…行ってやらないこともない」





二人の愛を深めていこう。




END



******

相互リンクをしてくださった『夢幻の館』良野りつ様に捧げます!!
こんな稚拙サイトと相互してくださって、ありがとうございます(>▼<)/
『坊ちゃんとセバスが痴話喧嘩して仲直りするという、辛→甘な感じ』というリクエストを書かせて頂きました!
だ、大丈夫でしょうか…?少しでも喜んでくれると嬉しいです。

良野様、本当にありがとうございました!!
これからも宜しくお願い致します^^
 

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【2011/05/18 16:45 】 | Gift | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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