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【2024/03/29 19:08 】 |
1日目/違和感を消す為に

一周年




今日から一週間セバスチャンとは恋人同士。
それはあまりにも現実味が無いことで、正直何をどうしたらいいのかが分からない。
だが、こちらから何をどうこうする気は一切ないので問題はないだろう。
こんなものはただの罰ゲームで、アロイスの勝手なお遊び。
それに付き合うほど自分は暇ではないし、いい奴でもない。

けれど。
その罰ゲームを受けた張本人はどうやら乗り気のようで。

アロイスが帰った後。
あれから何度もセバスチャンを説得し、そんな馬鹿げたことをする必要はないと言ったのだが、彼は首を縦に振ることは絶対に無かった。
どうやらシエルに真正面から「こんな奴と恋人になりたくない」と言われたことに対してプライドが傷ついたらしい。
そんな頭の沸いたプライドなど捨ててしまえと思うけれど、自分もプライドが高い人間だというのは自分自身、そして相手も分かっているので、どう自分が言っても相手からは嫌味しか返ってこないだろう。

結局セバスチャンを説得することは出来ず、アロイスに言われたとおり一週間の恋人生活を送ることとなったわけだが。


(…あまりいつもと変わらないな)

目を通し終わった書類をまとめながら、シエルは一息をつく。
目線の先には紅茶を入れている執事の姿。
それは本当にあくまで執事の姿であり、別に恋人の姿をしている様子はない。
一体今日からどうなってしまうのだろうと朝から憂鬱だったのだが、もしかしたら考えすぎだったのかもしれない。
たとえプライドが傷つけられたと言っても、相手はシエル・ファントムハイヴという人間で、しかも男だ。
これがまだ女性だったら嫌味ったらしく手取り足取り、いかに自分が恋人として素晴らしい悪魔か見せ付けるのだろうけれど、自分相手だったらそこまでする必要はないだろう。
このまま何事もなく一週間過ぎればいい。
アロイスがちゃんと恋人同士をやっているかたまに見に来るとは言っていたが、それも本当に来るかも怪しい。
もしかしたらこの罰ゲームをしていることすら忘れてしまっている可能性だってあるのだ。
むしろそうであってほしいと願う。

「坊ちゃん、紅茶が入りましたよ」
「あぁ」

ニッコリといつもの笑みを浮かべながら紅茶を持って視線を向けたセバスチャンに、シエルは手にしていた書類を机の脇に置いて頷いた。

「今日は早く仕事が終われそうですか?」
「いや…昨日の分がまだ少し残っているからな。今日の分が少なくても早めに終われはしないだろう」
「そうですか」
「…なんだ、他に何か予定があったか?」

渡された紅茶を受け取り、怪訝な顔をすれば相手は、いえ、と苦笑する。

「ただ少しでもゆっくり出来る時間が作れたら、と思いまして」
「なぜだ」
「一緒にお話がしたいからですよ」

セバスチャンは穏やかな表情で言うけれど、シエルには何が言いたいのか分からず頭の上にはクエスチョンマークが浮かぶばかり。
それを見たセバスチャンはクスリと優しく笑って、シエルの頭を撫でた。

「お忘れですか坊ちゃん」

今日から私たちは恋人同士なのですよ?

「~~~~~ッ!!」

口に含んだ紅茶を噴出さなかったのは奇跡に近いだろう。
シエルは口元を押さえ、液体をまるで固体のように飲み込めばゴホゴホと咳き込んでしまう。
すると咳き込ませた元凶たるものが大丈夫ですかと背中を擦ってくるのに、シエルは抵抗した。

「き、さまッ。本当にくだらん遊びをするつもりか!」
「もちろん。坊ちゃんだって諦めて“分かった”と仰っていたじゃありませんか」
「だが、恋人同士になるといっても、本当に恋人らしいことはしなくても…」
「それでは恋人同士とは言わないでしょう」

抵抗されたセバスチャンは無理に背中を擦ろうとはせず、呆れたような顔をして一定の距離を取る。
まさに執事と主人の距離。しかしその顔だけはいつもより柔らかく感じるのは気のせいだろうか。
どこか纏っている空気もこちらを包んでくるかのように優しいので、いつものように冷たく睨みつけることが出来ず、シエルは困ったように目線を下げた。
と、唐突に。

「では坊ちゃん、恋人同士では一体どんなことをすると思いますか?」

シエルが手に持っていた紅茶を取り、机に置きながらセバスチャンは聞いてくる。
いきなり恋愛ごとの質問に頭が追いつかず、あ?と聞き返せば、相手は膝を折って自分と同じ目線になった。
それは子供に何かを聞かせるような姿にも見えるが、別に馬鹿にした態度や嫌味な態度などなく、やはり優しく…普通に対等に話しがしたいために膝を折ったようだ。

「恋人とは恋しく思う相手であって、とても大切な方です。坊ちゃんはそんな方に一体なにをしたいですか?」
「何を、と言われても…」

自分が大切に思う相手に何をしたいか。
そんなこと考えたこともない。
自分は裏社会に生きる人間だ。
もし本当に大切ならば…。

「遠ざける」
「…はい?」
「もし僕に大切な人が出来たのならば、そいつを僕から遠ざける」
「なぜですか」

シエルの答えに驚いたのかセバスチャンは一瞬瞠目したが、すぐに冷静な顔になって聞いてくる。
それにシエルはまだ赤く輝いていない瞳をじっと見つめながら、真面目に答えた。

「だって大切な奴なんだろう?僕の傍にいたら危険にさらされることが多い…だから、絶対に僕の傍には近づけない」
「傍にいて欲しいとは思わないのですか」
「…どうだろうな」

馬鹿にすることのない静かな声に、シエルは自然と笑みが浮かんだ。

「ここで僕が絶対に守ってやると言えたら格好いいだろう。勿論、傍にいるときは命に代えても守ってやる。だが、それが“絶対”とは言えない。だって僕は人間だからな」

大切な人には元気でいて欲しい。
大切な人には笑顔でいて欲しい。
そんな自分の願いを叶えるには、己から遠ざけるのが一番。

「じゃぁお前はどうだ?」
「…私、ですか?」
「お前なら大切な相手に何がしたい?」

こんな恥ずかしい話しを真面目にしてしまった気恥ずかしさがムクムクと湧いてきて、今度はその話題をセバスチャンにふる。
まったく、どうしてこんな話しをセバスチャンとしてしまっているのか。
けれど悪い気はしない。

「そうですね…まぁ何がしたいかと聞かれたら色々したいですが」
坊ちゃんのようにお答えをするのならば。
「私はどんなことが起きようが、絶対にその大切な方を手放したりは出来ませんね」

すぅーっと瞳が細められ、悪魔の赤色が輝き始める。
そこには先ほどあったような柔らかさとか優しさだとか、そんな生ぬるいものは剥ぎ落とした状態で。
ただ相手が欲しいという欲望だけが忠実に表れていた。

「お前は悪魔で、大切な相手を“絶対”に守ることが出来るからな」
「…ちょっとそれでは語弊がありますかね」

セバスチャンは苦笑する。

「私は守るのではなく、手に入れるのですよ。たとえ自分が危険なところにいようが、相手が傷つく恐れがあろうが、私はその大切な相手を手放すことはしない。相手が逃げ出したとしても、私はまた必ず捕まえる」

坊ちゃんのように優しくはないので、と付け足すセバスチャンに、別に優しくないだろうとシエルはそっぽを向けば、相手は手を伸ばしてシエルの頬に触れた。

「私は少し坊ちゃんを見習わないといけないかもしれませんね。相手を欲しいがために力ずくで手に入れるというのは本当に相手を大切にしていることにはならない。けれど坊ちゃんも少しは私を見習った方がいいかと…」
「なぜだ」

相手の言葉にムッとすれば、セバスチャンはゆっくりと頬に添えた手に力を入れ、自分の方に向かせる。
それに抵抗することも、拒絶することもしないで相手を見れば、赤い瞳を細めたまま緩く口元に弧を浮かべていて。
シエルはなぜかドキリとした。

「もう少し、欲しいものには手を伸ばさなくては」
「…これ以上、我侭になれと?」
「貴方の今の我侭はただの強がりでしょう」
「なっ…!!」

どうしてそんなことを!と怒鳴る前に、セバスチャンにシィーと唇を人差し指で指され先手を打たれる。

「欲しいときは欲しいと言って。相手のためを思って諦めるだなんて、少し寂しいですよ」
「・・・・」

赤い瞳が揺れる。
まるでそれは炎のように熱いのに、一息で消えてしまいそうな儚さを持っていて。

「ではもう一度お聞きしますよ?」

でも、すぐにそれはまた悪戯な赤に戻っていく。

「坊ちゃんは恋人に一体なにをしたいですか?」

聞かれた二度目の質問。
それに少しの間を置いて。

もし相手が傍にいてくれるのなら、とシエルはもう一度答えを返す。

「のんびりと話しがしたい。仕事もことも全部忘れて、そいつの声を聞いていたい」

かもしれない、と最後に付け足したのはやはり気恥ずかしさから。
でもその言葉に偽りは無い。
忙しい毎日だからこそ。
決して綺麗ではない毎日だからこそ。
そういう穏やかな時間がいい。


その答えにセバスチャンは微笑んで。

「じゃぁ今日それは果たされましたね」
「ん?」
「だって坊ちゃん」

私たちは恋人同士なのですよ?

再び放たれた言葉に、シエルは先ほどの反応とは違い頬を染めてしまう。
そういえばこの展開も、一緒にお話がしたいから、というセバスチャンの言葉から始まったんだった。
自分は抵抗したにもかかわらず、まんまと一緒に話しをして。
しかも偽った自分ではなく、強がった自分でもなく。
素直な自分として、セバスチャンと話しをしてしまった。

(なんだこれッ、すごく恥ずかしいだろう!)

シエルは恋人同士を否定せず、赤く染まった顔を隠すように俯く。
でも一番恥ずかしいのは、セバスチャンとこんなふうに穏やかに話すのは嫌いじゃないということ。
むしろ…。

「坊ちゃん」
「な、なんだ」

俯いたまま返すが、無理やり顔を上げさせるようなことはせず。
落ち着かせるように、ポンポンと軽く頭を叩いて。

「お話してくださって、ありがとうございました」
凄く楽しかったですよ。

そう言うセバスチャンはきっとその顔はまた優しい笑みを浮かべているのだろう。
昨日までそんな笑顔見たことがなかったというのに。
恋人同士というのは凄い力だな、なんて頭の隅で馬鹿にしつつも。

「あぁ…」

シエルもその言葉にコクンと頷いたのだった。


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【2011/07/10 11:36 】 | Project | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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