私はこの人間が嫌いだ。
「あ、はっ……うンぁ…ッ…!!」
何度も何度も彼の内へ貫いたものを奥へと叩きつける。
その度に彼の口からは嬌声が上がり、そこらの女共よりも極上の音色が耳を満たすのだ。
けれど。
「ふ、うぁ……ぁぁあっ!!」
「ぼ、っちゃん」
視界に広がるのは、歪んだ顔。
惜しみなく瞳からは大粒の涙を零し、その腕は白いシーツを破かんばかりに握り締めている。
声も、頬も色付いて快楽を現しているのに、その表情だけは苦しいくらいに、悲しいくらいに歪んでいる。
――――それもそうか。
彼は自分との交わりを許したわけではない。
むしろ嫌悪しているだろう。
だからこそ、彼は抱かれているのだ。
「ん、ふぅ…はっ…あ」
「シ…エル」
無意識に手を伸ばし、その歪んだ顔を撫でようとすれば、これでもかというほどに強い眼光を放ちながら睨みつけてくる。
触るな、必要ない、と彼は言っているのだろう。
彼はこの行為に愛も、優しさも、慰めも、何も欲していない。
欲しいのは・・・――――
「う、ひぁっ……は、ぁあ…うぅ」
涙を流せる場所だけ。
プライドが高くて。
気を抜くことも許されなくて。
弱い心を持つことを己が許さない。
そんな彼は泣くことが出来ないのだ。
そこで、だ。
そこで選ばれたのが、悪魔で執事で・・・彼を愛しているセバスチャン・ミカエリス。
生理的な涙は自分から流したものではない。
人間である限り、それは防ぐ事が出来ないもの。
それを彼は利用した。
この行為を。
私の気持ちを。
利用した。
(貴方は本当に、悪魔のような人間ですね)
腰の動きを止めることなく、涙を流し続ける彼を見つめて苦笑する。
グチュリと響く厭らしい水音も興奮を煽るものでしかない筈なのに、それがまるで涙が落ちた音のように感じるだなんて、末期だろう。
耳からも下半身からも、これ以上ないほどの快楽を得ているのに、視界だけはいただけない。
心だけは、満たされないまま。
それはきっと彼も同じだろう。
折角悪魔を利用して涙を流しているというのに、その心は満たされない。
泣いても、泣いても、その涙が止ることはなく。
余計に虚しさが胸に広がり。
そして結局また悪魔を利用する悪循環。
(ざまーみろ、ですね)
愛する気持ちを利用して、それで救われるだなんて許さない。
後悔すればいい。身体を重ねてしまったことを。
私の愛を感じてしまったことを。
本当は、涙を流す貴方のことを、抱きしめて、慰めて、キスしたいけど。
きっとそれをしたら、彼はやっと本当の意味で泣けるのかもしれないけれど。
もう自分からなんてやってやらない。
その腕が、その身体が自分を求めるまで、ずっとこのまま。
(あぁ…ほんと、こっちが泣きたいですよ)
私はこの人間が嫌いだ。

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