(たとえばシエルを守りきれなかったら/シエルは亡くなっております)
最近どうしたんだ、と紡がれた言葉にセバスチャンは目を若干見開いて息を飲み込んだ。
空を仰ぐ目線は動かさない。
すると青い空に雲とは違う色の白がゆらりと流れていった。
「どこか具合でも悪いのか?」
「なぜですか」
「最近お前ェ暗い感じがしたからよ」
苦笑交じりの声。
そこには疑問というよりも確信が含まれている。
どうしてこうもファントムハイヴ家には目敏い人間が多いのだろう。
それとも自分がここの生活に慣れすぎて人間染みてしまったのだろうか。
「具合は悪くないですよ」
「そうかよ」
そして暫くの沈黙。
この男は一体自分に何が言いたいのだろうか。
悪魔ながらに居心地が悪くなり先に屋敷の中へ戻ろうとすれば、それを引き止めるかのように後ろから声を掛けられる。
「じゃぁ、アレだ」
さみしいんだろ。
ピタリと足を止める。
言われた言葉がどこか遠いところで響いた気がした。
「寂しい、ですか」
「そう見える」
「・・・なぜですか?」
「俺に聞くなよ」
煙草の香りが強くなった。
きっと後ろで男がまた煙を吐いたのだろう。
セバスチャンはやはり振り返ることもしないで言葉を投げかけ続ける。
相手もそれを構わないというように返していく。
「一体何をどう見て寂しいそうだと?」
「だから暗れェ感じがしたからだっての」
「それは、いつからですか」
「細かく分かるほど俺はお前さんを気にしてねェ」
「勘違い、ということは?」
「・・・なぁセバスチャン」
男はどこか辛そうに言う。
「泣くことは可笑しいことじゃねぇ」
「喚くことは格好悪いことじゃねぇ」
「悲しむことだって、誰も責めやしねぇ」
「だからな」
だからなセバスチャン。
「もう、いいだろう」
紫煙のように消えてしまう言葉を男は吐いた。
それに対して、そうですねという声は出てこない。
代わりに零れたのは地面を濡らす雫だけで。
こんなにも晴れているのに雨なんて珍しいとか、馬鹿馬鹿しく笑って。
「私は・・・」
「誰よりも彼を愛して、いたんです」
そう呟けば、
――― 知っている。
そう蒼色の空が笑ったような気がした。
End

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