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【2024/05/16 17:56 】 |
S×Sパニック
【お出かけ】
Spicyセバス×Spicyシエル



聞こえてくるのは小鳥のさえずり。
見上げれば、気持ちのいい青い空。
息を吸えば胸いっぱいに広がる緑の香り。

「たまにはこのような場所でのんびりするのも、良い気分転換になりますね」

セバスチャンはシエルに向かって微笑んだ。


今シエルとセバスチャンは、屋敷から少し離れた森林に来ているのだ。
本来ならば今の時間は馬車に乗りながらロンドンに向かい、必要な買い物をしている筈だろう。
そのついでに、ファントム社の製品が売っている店を視察しながら。
しかし使用人たちが、たまには自分達がおつかいをすると言い出したのだ。
少しは役に立ちたい、今日くらい身体を休めてください・・・と。
一体どんな間違った物を買ってくるか分からないので、セバスチャンもシエルも初めは断固拒否をしたのだが。
『たまには羽でも伸ばしては如何ですかな』
タナカさんにまでそう言われてしまっては流石の二人も拒否の言葉が小さくなっていき、結局二人は無理やりというか、お言葉に甘えてというか・・・近場の森林へと出かけたのだった。


直射日光をあまり浴びないよう木陰にシートを敷き、セバスチャンはいつもより簡単なスイーツを並べていく。
急な予定だったので凝った物を作ることが出来なかったのだ。
それでも作ろうとするところが、優秀と言われる所以だろう。

「すみません坊ちゃん。折角の休息なのにこんな物しか作れず」
「別に。急に決まったことだ」

シエルはどこか遠くを見つめながら返す。
こんなところに休息として来たのはいつぶりだろうか。
前にエリザベスに進められた場所に行ったのは憶えているが、それもかなり前の話しだろう。
たとえ来たとしても必ず仕事絡みの為だった。
・・・こんな何もない所で一体なにをしたらいいというんだ。
シエルは内心ため息をついた。
すると。

「どうしましたか坊ちゃん」

こちらの違和感を察したのか、声を掛けられる。
優秀と呼ばれる執事だからなのか、それとも悪魔だからなのか。
どちらにせよ、違和感を悟られてつい舌打ちをしたくなるが我慢する。

「なんでもない」
「・・・なんでもないように見えないのでお聞きしたのですが」
「貴様には関係のないことだ。さっさとスイーツの準備をしたらどうだ」

そう冷たく言い放てば、おやおや、とまるでこちらを馬鹿にするような笑い声が耳に届く。
遠くを見ていた目線をセバスチャンに向けて睨みつければ、どこか愉快そうな表情をした悪魔が視界に映った。

「折角あの使用人たちが坊ちゃんの為に買い物を引き受けたというのに、貴方はそのお心を無駄にするのですか?」
「どういう意味だ」
「そのままですよ。あの四人は坊ちゃんに少しはお仕事を忘れて羽を伸ばして欲しいと思っていたのに、坊ちゃんは相変わらずのしかめっ面。あの四人が可哀相ですね」
「・・・貴様が可哀相とか言うな。気色悪い」
「本音を言ったまでです」

ニッコリと微笑みながら、スイーツを並び終わらせるセバスチャン。
悪魔のコイツが言ったとなると苛立つが、言われた言葉はシエルの心に刺さるものだった。
しかし素直にそうだな、と頷けるシエルではない。
それでもあの四人が折角くれた休息時間を無駄にしてはいけないんだ、決してコイツに言われたからではないと誰かに言い訳をし、力を抜くように大きく息を吐いた。
それを見たセバスチャンが嬉しそうに哂ったことを知るのは言葉を持たぬ草木だろう。

「それで、坊ちゃんは一体どうなされたのですか?」
「・・・しかめっ面は止めろと言っておきながら、まだ聞くか」
「ファントムハイヴ家の執事たるもの、主人の些細なことも理解ないでどうします」
「理解しなくても問題はないから、もう関わるな」
「まぁ、どうせ坊ちゃんのことですから仕事をしていない今の状況が不安で仕方が無いんでしょう」
「・・・」

こいつ、絶対に僕のことを馬鹿にしたくて話しを持ち上げたな?
シエルは全てにおいて気に入らない悪魔を睨みつければ、それを跳ね返すように貴婦人たちの言う極上の笑みを浮かべた。
あの四人には悪いが、コイツが傍に居る限り自分に休息の時間は訪れないようだ。

「別にいいだろう。そのおかげであの膨大な仕事をやってのけているんだから」
「まぁそうですね。ですがこういう時には楽しむというスイッチの切り替えを身につけて頂かないと・・・」
「こういう時は本当に稀だろう。だから僕には必要のないスイッチだな」
「おや、切り替えを身に付けられる自信がないと?」
「馬鹿を言うな」

並べられたスイーツに手を伸ばし、一口サイズのマカロンを口の中に放り込む。
いつもなら口の中に溢れんばかりの甘さが広がるのだが、今日はどこか味気ない。
食べ方を咎める声がどこかからか聞こえるが耳の中で留まらず、そのまま無視を決め込んだ。
仕事以外の時も楽しめるようにスイッチを切り替えるだと・・・?
そのスイッチは自分ですでに持っているような気がする。
なぜならエリザベスが遊びに来たときは、今のように仕事をしていないことに対しての違和感はないのだから。
今楽しめないのは、隣にこの悪魔がいるせいに違いない。絶対に。
シエルはため息をつきながらゆっくりと立ち上がった。

「・・・ちょっと辺りを散歩してくる」
「珍しいですね。坊ちゃんが自ら進んでお歩きになろうだなんて」
「折角ここに来ているんだ。スイーツを食べて終わりだったらあまりにも味気ないだろうが」
「それもそうですね」

頷きながら立ち上がろうとするセバスチャンにシエルは制止の声を掛ける。

「貴様はここにいろ」
「・・・」
「このスイーツが他の鳥にでも食われたら大変だからな。見張っていろ」
「・・・では転んだ坊ちゃんを助けるのは誰がなさるんですか?」
「どうして僕が転ぶ前提なんだ」
「それに、お一人で歩いていたらきっと迷子になってしまいますよ」
「真っ直ぐにしか進まないから大丈夫だ」
「では、」
「くどい。僕は独りでここを歩きたいと言っているんだ。主人に意見するな。命令に従え」

女王の番犬と恐れられる瞳で見下しながら言い放った。
ここまで言えばセバスチャンも頷くしかないだろう。相手は悪魔で執事だ。主人の命令に逆らうことは本来してはならないこと。
美学を大切にする悪魔ならば、逆らう筈が無い。
しかし。

「その命令は承諾出来かねます」
「なに・・・?」

セバスチャンからの口からは想像と違う言葉が紡がれた。
そのままセバスチャンは立ち上がることはせず手を伸ばし、シエルの手を掴む。
そこには拘束するような強さはなく、どこか縋るような感触。
払いたければ払い捨ててもいいのだと言っているような気がして、逆に払えなくなってしまう。
シエルはどこか落ち着かないままセバスチャンを見れば、先ほどとは打って変わって、どこか憂いを秘めた表情で苦笑している顔が。

「こんなのどかな場所でも、貴方は女王の番犬であり裏社会の人間です。いつどこで誰に襲われるか分かりません。それなのに私から離れようなどと・・・自殺行為です」
「・・・別に何かある前に貴様なら察することが出来るだろう」
「いくら悪魔でも限度というものがあります。それに・・・」

セバスチャンは続ける。

「私の貴方への想いは知っていますよね?」
「・・・ッ!!」

放たれた言葉に思わず赤顔してしまうシエル。
勿論セバスチャンの想いは嫌ほど知っている。そのせいで毎日ほとほと困っているのだから。
しかし今この状況で言うのは、なんだか・・・ずるい。

「折角の休息・・・お出かけなのに、坊ちゃんと一緒にいることすら私は出来ないのですか?」
「だって・・・それは貴様ッ・・・」
「えぇ。坊ちゃんが私のことを想っていないのは分かっています。私の一方通行ということを、ね」
「・・・・」
「お傍にいることくらい、許してくださいませんか」
「・・・ほだされないぞ」
「嫌でしたら嫌の一言でいいですよ。ただ私のお願いを言っているだけですから」
「お願い・・・」
「もしご一緒させて頂けるのでしたら、嫌味も何も一言も煩いことを言いません」
「・・・・」

それはそれで気持ち悪いな、という言葉は寸でのところで飲み込んだ。
相手の心情を探るように見つめるが、相手は悪魔。本心までは見抜けない。
けれど掴まれた手はどこか冷たくて、酷く心がざわつく。
ここでその手が熱かったらきっと自分は多少迷っても払い捨てていただろう。
この冷たい手を捨て払うなど・・・なぜかシエルには出来なかった。

「・・・絶対に喋るなよ」

ため息をつきながら、その冷たい手を握り返す。

「ありがとうございます」

いつもの執事としての言葉ではない言葉で返しながら、セバスチャンはその手に支えられているかのように立ち上がった。
見下ろしていた筈の顔をまた見上げることになる。
しかしシエルは顔を上げることはなく、花が咲き乱れている地面に目線を泳がせたまま。
どこかセバスチャンに負けたような気がして、顔を合わせたくないのだ。
それに気が付いているのかいないのか、セバスチャンは得に変わった様子もなく、行きましょうと声を掛けて手を引いて行く。

「・・・ちょっと待て」
「・・・?」

声を掛ければ、先を歩き出したセバスチャンはどこか不思議そうな顔をしながら此方を振り返った。
早速喋るなという言いつけを守っているのだろう。しかし今のシエルにはそのとぼけた表情は殴りたいものにしか感じられない。

「手を離せ」
「・・・・」

セバスチャンはニッコリと微笑んだまま首を横に振る。
ふざけるなと怒鳴ろうとすれば、セバスチャンは握っている方の手を自分の方に引き寄せ、手の平に文字を書いて行く。
くすぐったい感触だが、文字を読み取るため我慢しながら手の平に集中した。

『触るな、とは言いませんでしたよね』
「・・・は?」
『約束はあくまで喋るなというものです。ということは、触れることは許されていますよね』
「な・・・なッ・・・!!!」
『ということで坊ちゃん』
「うわッ!」

そのまま手を思い切り引かれ、身体が宙に浮く。
しかし重力に逆らえない身体はそのままセバスチャンの腕の中に納まり、


行きましょう。


耳に聞こえない言葉を笑顔で言いながらシエルを抱きかかえて歩き出してしまう。

「待て、セバスチャン!降ろせ!」
『嫌です』
「貴様!さっきのも演技だな!」
『演技なんてとんでもない』
「演技じゃなくても僕を騙しただろう!」

顔を見ているだけで聞こえてくる苛立つ言葉に、コイツは喋らせなくても煩い奴だった・・・!と今更後悔するが、この状況を打開できる能力など人間のシエルが持っている筈もなく・・・。

「放せぇぇぇッ!!!」


そのままシエルはセバスチャンに抱きかかえられたまま森林の奥へと消えていった。



end


 

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【2011/03/26 06:55 】 | Project | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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