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【2024/04/30 03:14 】 |
桜庭様より
桜庭様からの素敵な頂き物!




「愛してます」

開け放した窓から吹き込む風が頬を撫でた。
夢だと思いたかった。でも重ねた唇の感触が、これが現実のことだと僕に伝えていた。
まるで白昼夢のような出来事だった。



その日、僕の世界が音もなく崩れ去った。



セバスチャンの衝撃の告白から一カ月が過ぎた。
あの日、僕の世界を粉々に砕いておきながら、自分は平然といつも通りの執事として
の日常を送っている。

「愛してます」
あの日、セバスチャンはそう言った。
僕はその言葉がもつ意味も理解している。
だが、僕(人間)が理解している愛とセバスチャン(悪魔)が理解している愛が同じものとは到底思えなかった。

僕に愛の告白をしてキスをしておきながら、その後は何もない。
苛立ち紛れに、目の前のチェス盤のナイトを指で弾く。
弾かれたナイトの駒は、床に転がり、入り口近くの場所で止まった。

やっぱり、夢だったんじゃないか?

そもそもあのセバスチャンが本気で人間に愛を囁くわけがない。
あれは夢か自分の疲れからくる幻聴だと考え直した。


―――じゃあ、あの唇の感触は?


錯覚だ。錯覚に違いない。そう思わなければ、思考が何かとんでもない場所に行き着いてしまう。
二度と戻れない深い澱みの中へ。


シエルは目の前のチェス盤に目を向ける。
騎士を失った王だけが、そこにはあった。





「―っちゃん?坊ちゃん?」

僕を呼ぶ声がした。
目を開けるとそこには、いつも通りの執事の顔したセバスチャンがいた。

「…僕は…」
「書斎でお眠りになってましたよ」

ワーカホリックもほどほどになさって下さいねと続けられた。
どうやら僕は考え事をしながら眠ってしまったらしい。
寝室にいるということはおそらくセバスチャンが運んできたんだろう。
体を起こして起き上がろうとしたところに、セバスチャンが僕の肩に手を置いた。
大した力が入ってるようには見えなかったのに、なぜか強い力を感じた。

「おい…」

手をどけろ、そう言うつもりだった。だがセバスチャンは更に強く肩を掴んできた。
あまりの力に掴まれた瞬間に呻き声を挙げてしまった。

「何のつもりだ!」
執事としてあるまじき行為だぞ!

主人として怒鳴りつけると先程まで浮かべていた微笑みが引っ込んだ。
途端、どこまでも冷たい氷のような顔が現れた。
何の感情も読み取れない無表情な顔。

「…お前何のつもりだ」
「あなたこそ何のつもりです?」

わけが分からなかった。だが、セバスチャンが僕に対してひどく怒っているというこ
とだけは分かった。しかし、その原因は分からない。

「どうしてそんなに機嫌が悪い?」

考えていても一向に原因が思いつかなかったのでストレートに問い質す。

「分かりませんか?」

その問いにセバスチャンは顔に笑みを浮かべたが、猛禽とした瞳は隠せずにいた。
シエルは未だかつてセバスチャンにこんな目で見られたことはなかった。
まるで力のない弱小な草食動物を喰らおうとしてる獣の瞳だ。
自分の体が震えたが、それが恐怖な<のか、はたまた別の何かなのか今のシエルには分からなかった。

「分からないから聞いてるんだが…」
「ではお答えしましょう」


「私は貴方に愛を告げました。ええ、たかだか一介の執事が主人に対してこのような感情を持つなど許されないことなのでしょう。ですが、もう手遅れなのです。どんなに感情を排斥しようと、隠そうとしても、貴方の視線が、言葉が、存在が、私を強く惹きつけるのです。貴方が私以外の誰かと会話するだけでも心にさざ波が立つ、苛立ち、どうしようもないほどの破壊衝動が湧き上がるのです。貴方が私でない誰かを見ているだけでも、貴方のその美しい瞳(宝石)を取り出し、私だけのものにしたくなる。貴方が私でない誰かの名前を口にするだけでも、その残酷な唇を奪い、相手の人間を殺したくなるのです。」

芝居がかったような口調で愛を告げるセバスチャンを、僕は呆然と見るしかなかった。
更にセバスチャンは続ける。

「どんなに私が苦しんだか貴方に分かりますか?貴方がこんなことを望んでないのは百も承知でしたよ。それでも、もう自分を偽ることはできないと、貴方に愛を告げました。悪魔としての美学を棄ててまで。それなのに貴方からは何の返答もなかった。拒絶や侮蔑の言葉ですら。それは私の思いに対して、貴方が何かを応えるだけの価値もないものと判断したからなのでしょう?それが私を更に絶望という奈落の底へ突き落としたか分からないでしょう?」

―――違う。
だが、酷薄に笑うセバスチャンを前に、それは言葉にならなかった。

「それでも私は耐えました。貴方を愛していたから。この身が狂うのではないかという激情に苛まれても、これ以上、我を通してはいけないと厳しく自分を律しました。そうすれば、いつかは私のこの感情を認めてくれるのではと淡い期待を抱きながら。ですが、その期待を無惨に切り裂かれた。他ならない愛する貴方自身に。貴方は残虐と思えるほどいつも通りに振る舞った。私の主人として。」

沈黙が痛かった。
それでも黙ったままだったのは、危うい均衡の上にあるこの空間を壊したくなかったからだ。


「私の世界を粉々に砕いておきながら、自分はいつも通りの変わることない日常から高見の見物をしていかがでしたか?さぞ、面白かったでしょうね。貴方の手のひらでもがき苦しむ私(悪魔)を見て。貴方の方が私なんかより、よほど悪魔でしたよ」

憎々しげに吐き出された瞬間、突き飛ばすように寝台に体を押しつけられた。
抵抗することもできずに僕の体はベッドに沈んだ。
起き上がろうとするとそれを阻むようにセバスチャンが僕の体に乗り上がった。

「何をするつもりだ…」

シエルはまだ子供であったが、今のセバスチャンの雰囲気で目の前の悪魔が、自分に
何をしようとしているのか直感的に理解できないほど子供ではなかった。

「自分の愛する人が、幸せならそれでいいと諦められるほど優しくはありませんよ。私はね…」

セバスチャンが僕の首に手を掛けた。ひんやりと不自然な冷たさを纏っていた。ゆっくりと首筋をなぞった後にナイティーの襟を掴み、強い力で引き裂いた。
ちぎれたボタンが飛ぶのをまるで他人事のように眺めている自分がいた。まるで映画のワンシーンを見るような、眼前の光景が、今自分の身に起こっていると実感できなかった。

「や、やめろ!」

必死に現実に追いつこうとして、セバスチャンの手首を掴もうとするが逆に握られ、
両手を頭上で一纏めにされてしまう。

「貴方も、私の受けた苦しみを感じるといい。貴方自身の身体で」

言葉も何もかも奪うように唇に噛み付くように口付られた。






「どうですか?今の気分は」

せせら笑いながら腕の中の僕を見下ろしたセバスチャンは、どこか嬉しそうだった。
ナイティーはもはや布きれと化し、床に打ち捨てられていた。
僕の身体も抵抗しようとしたときにセバスチャンに乱暴に抑え込まれたせいか、あちこちにあざがあり、体の中にはまだこいつのねばつくような暗い欲望が巣食っていた。
体中ドロドロで傍目から見れば、目の前の男に暴行されたように見えるだろう。
実際にあれは愛する行為というよりも、相手を征服し、支配しようという欲望をぶつけるだけの行為だったように思う。
どんなに叫んでも止めてもらえず、抵抗しても僕の、小さな子供の抵抗などこいつにとって取るに足らないものだった。
意識を手放そうとしても許されず何度も引きずり戻された。
意識が朦朧とし、終わりかけにはこいつの成すがままになっていた。
だが、最後の最後で慈しむような目で声で名を呼ばれたのは覚えている。

「これで少しは私の苦しみが分かりましたか?」
「………」

何も言えずに押し黙った僕に、セバスチャンも同じように黙ってしまった。
部屋の針の秒針が動く音だけ響いていた。
セバスチャンは何の反応もない僕を見てほんの少し寂しそうな顔で笑って僕の身体をそっと抱きしめてきた。
まるで壊れやすいガラス細工の彫刻にでも触れるかのような繊細な手つきだった。
先ほどまで散々僕の身体を嬲っていた者と同じ人物だとは思えないほど。

「…お前の告白を無視したわけじゃない」

抱きしめる直前に見えた、こいつの泣き出しそうな顔が脳裏に焼き付いて離れなかった。
まるで母親に手を離された小さな子供のような顔をしていた。

「…ただどうすればいいのか分からなかったんだ」

何か言わなければ、何とかしないとこいつが消えてしまうんじゃないかと、実際にはそんなはずないのが、目の前にいるこいつが、いま儚く、遠いもののように感じていた。
そんな強迫観念が僕の頭にはあって、どうにかしなければとそれだけを思いながら必死に言葉を探した。

「…どうして?」
「だって…普通困るだろ…」
「………困る?」

その言葉が、セバスチャンの琴線に触れたのか、僕を抱きしめる腕を離し、ゆっくりと起き上がった。

「なぜ?」
「それは…お前にそんな事言われれば誰だって…」

セバスチャンは僕の言葉に耳を傾けながら考え込むように腕を組む。
何故かは分からないが、どうやら僕の今の発言はセバスチャンにとって全くの想定外の言葉だったらしい。
鋭い視線で観察するようにじっとこちらを見ているセバスチャンに居心地がわるくなり、そろそろと視線を逸らした。

「………坊ちゃん、それ意味わかってます?」
「…何が?」
「―――普通は、同性に告白されれば気色悪いと思うのが一般的ですよ」
「…別に気色悪いとは思わなかった。ただどうすればいいか分からなかっただけで―」
「私はまだ期待していいということでしょうか」

「……はっ?」

今度は僕にとって想定外の言葉を投げた。
しかもセバスチャンの口調は疑問形ではなく断定した物言いだった。

「―おい、なぜそうなる」
「だってそうでしょう」

さっきまでの儚い気配だったこいつが、一瞬にしてふてぶてしいいつもの調子に戻っていた。

「本当に何とも思ってないなら、切り捨てればいいだけのこと。貴方の性格なら特に。それを困ったということは少なからず私に何かしらの好意を持っているということですよね」
「―えっ…」

言われてた言葉を自分なりに咀嚼してみる。最も導きたくない答えに行きついてしまい、あ、だのう、だの言葉にならない声を出すしかできなくなる。
首を軽く横に振ってみるがセバスチャンは実に愉快という顔でこちらを眺めていた。

「お顔が真っ赤ですよ」

ばふんと枕に思いっきり顔を押し付けた。
すでに意味がないことは十分分かってたつもりなのに、反射的に身体が動いてしまった。
くすくすと気配でセバスチャンが笑っているのが分かった。

「何をじろじろみてるんだ、馬鹿!あっち行け!」

悔しくて、これ以上狼狽する自分を見られたくなくて悪態をついてみせたが、その悪態もいつもより覇気がないし、なんだか子供っぽい、駄々っ子のような口調になってしまった。

「聞き分けのない子供みたいなこと言わないで下さいよ」
「うるさい、子供扱いするな」
「そうですね。子供にはこんなことできないですもんねぇ」

するすると太ももの内側の柔らかいところを、緩やかに撫でる。官能を刺激するような愛撫に身体が震えたのがあいつにも伝わったんだろう。
手がだんだんと際どい場所をなぞっていく。まだセバスチャンの感覚が残っている場所を刺激されるとたまらない気分にさせられた。

「もう大人…ですよね?」

暴かれた蕾の部分をそっと触られた。あっと嬌声とも聞こえるような吐息を零すとセバスチャンの指が離れていった。
目の前に指を広げられるとそこには自分の愛液とセバスチャンの欲望が混ざり合った秘め事の証を見せつけられた。

「やめろ、馬鹿!」
「やめませんよ」
「貴方の気持ちを聞かせてもらうまではね」
「……」
「ねぇ…本当のこといっていただけませんか…?」

セバスチャンが求めているものはもう分かっていたが、すぐに差し出されるほどの覚悟も想いも僕にはまだなかった。
困惑し、沈黙してしまった僕にセバスチャンがため息をついた。
それは呆れてしまったというより、仕方ないですねという苦笑したものに近いように感じた。

「じゃあ、いいです」

そうしてセバスチャンが僕に口付る。
今日でもう何度もしたことだったが、まるで最初のように慎重に唇を重ねたこいつに心のどこかが揺さぶられた気がした。



――――それが愛しいという感情であるということを今の僕は知らなかった。



「…もしかしたら、違うかもしれないぞ」

最後の足掻きとでもいうつもりなのだろうか。目の前の愛しい存在はこんなに可愛らしい唇で可愛くないことを言う。
キスをといた途端にそんなことを呟かれても、これでは睦言のようにしか聞こえない。
何より紅潮した頬で言われても説得力に欠ける。

それをわかっているんだろうか、この小さなご主人様は。

「分かりました」

耳元にそっと小さな秘密を打ち明けるように囁いた。



「ならいつか私のことを愛してると言わせてみせます」

そうして反論は許さないとばかりに可愛い主人の可愛くない唇を己ので塞いだ。












――いい天気だ。

ここ最近はずっと雨天が続き、止まらない雨音に何度もため息をついた。
だが、今朝はそれが嘘のように雲一つない見事なまでの快晴となった。

いい気分だ。天候が晴れると気分まで晴れるものなのだろうか。
なんだか、今日はいいことが起こりそうな気がする。そんな予感を感じながら書斎へ向かう。
今日は忙しくするほどの仕事もなく、使用人たちもこの天気が気分を高揚とさせるのか元気に外を駆けていた。
子供じゃあるまいし、そう考えておきながら、それも悪くないという考える自分がいるのに驚いた。

本当に最近はどうかしてる。

だが、そんな自分も悪くない。

つらつらと考え事をしながら歩いているうちに目的の場所に着いてしまった。
扉を開けて本棚からどの本を読もうかと物色する。
ふと目が部屋の片隅へといった。そしてそれを認識した瞬間に笑ってしまった。


あいつにも可愛いところがあるじゃないか。



やっぱり本を読むのはやめよう。こんなにいい天気なのだから。
フィニやメイリンやバルド、タナカも入れて庭でお茶でもしようか。
仲間外れは可愛そうだから、仕方ないがあいつも入れてやろう。
そして美味しい茶菓子をいっぱいつくらせるんだ。僕のお気に入りの紅茶も入れさせて。
そんな午後の予定を考えながらシエルは書斎を後にした。




最後に書斎を出るときに散らかしたチェス盤が、綺麗に机上に置かれていた。
盤上には、駒が二つ。
王の後ろに寄り添うように騎士の駒が置かれていた。



end


****
あとがき
『複雑な恋心』をリクエストしてくださった桜庭様から、素敵なリクエスト御礼小説を頂きました!
実は『愛で崩壊した日常』は『複雑な恋心』が後に続くように書いてくださったのですよ!
やばいですよね!このセバス様&シエル様!ww
セバスは坊ちゃんが好きすぎだし、シエルはまだ自分の気持ちをちゃんと認識できていないしっ!
なんだこの可愛い子らはっ!!!
桜庭様、稚拙文章の御礼にこんな素敵な小説を本当にありがとうございました!!!

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【2011/05/18 15:56 】 | Gift | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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