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【2024/04/30 03:58 】 |
Only mine
ポッポへ




「いいかセバスチャン。今日の執事は田中に任せるから、お前はアイツを何とかしろ」
「御意。鉢合わせにならぬよう、坊ちゃんもお気をつけてください」
「あぁ・・・」


シエルとセバスチャンは廊下で頷き合い、そして珍しく二人は別方向・・・左右逆に歩いて行く。
その表情は真剣そのものだが、どこかに疲労の色が浮かんでいるのは気のせいだろうか。
いや、気のせいではないだろう。

今このファントムハイヴの屋敷には、リジーとグレルが同時に来ているのだから。



― Only mine ―



「待たせたな、エリザベス」

シエルは声を掛けながら客室に入る。
そこには大きな窓と可愛らしいテーブル。
そしてリジーが座っていた。

「もう、リジーって呼んでって何度もいってるでしょー?」

リジーは頬を膨らます。
その仕草は愛らしいものだが、今のシエルにとってはため息しか出てこない。


それは、今から数分前の話し。

**


朝食を食べ終えたシエルは、食後の紅茶をセバスチャンに入れさせていた。

コンコン

「ぼ、坊ちゃん!失礼しますだ!!」

すると随分と焦った様子のメイリンが扉を開けて入って来た。
全く、朝から騒々しいな・・・。
シエルはため息をつく。

「メイリン、もっと静かに入って来れないのですか」

セバスチャンは机に紅茶を置きながら、メイリンを叱咤する。

「す、すみませんですだ・・・」

怒られたメイリンは見るからにショボンとしてしまい、シエルは、それでどうした?と先を促す。
するとメイリンは思い出したようにハッとし、声を上げる。

「エリザベス様がいらっしゃいましただ!!」
「はぁ?!」

飲もうと手に持った紅茶をシエルは音を立てて置く。
別に今日はエリザベスが来るという予定もなかったし、連絡も来ていない。
アイツ、来るなら連絡をしろといつも言っているだろうが・・・!!
シエルは痛む頭を押さえる。

「今エリザベス様はどちらに?」

その場にいる、セバスチャンだけが冷静に聞き返す。

「客室の方で待ってもらっていますだ・・・静かにしていればですだが・・・」

その言葉にシエルは頷く。
もしかしたら、もうすでに客室は飾り付けされているかもしれない。

「この紅茶を飲んだらすぐに向かう」
お前はエリザベスのところにいてくれ。

そう言うとメイリンは頷き、失礼しますだ、と一礼して部屋から出て行った。
それを見送った後、シエルはいつもより早めに紅茶を飲んでいく。
その様子を見ながらセバスチャンはため息をつく。

「坊ちゃん。紅茶ならエリザベス様がいらっしゃる時にも飲めますでしょう」
レディを置いて紅茶のお時間を取るなんて、紳士としてあるまじき行為です。

執事として指導を入れるセバスチャン。
シエルはピクリと反応する。
僕だってそんなこと分かっている・・・。

どうして自分が紅茶を飲んでいるか分かっていないセバスチャンをジロリと睨む。

「別にお前がせっかく入れてくれた紅茶を残してもいいなら、僕はもう行く」
「・・・!!」

シエルはいじけるようにそっぽを向いて紅茶を飲む。
いつもは先回りをするようにこちらを見透かしてくるのに、どうしてこういう時は鈍感なんだ。
半ばやさぐれつつも、自分の言った言葉が恥ずかしくて、じわじわと頬が赤くなっていく。

「坊ちゃん・・・」

セバスチャンは嬉しさで満たされて、リジーのことも忘れて抱きしめようと手を伸ばすが・・・。

「セ・バ・ス・ちゃぁぁぁん!!」

嫌な声が耳に入り、ピタリと動きを止める。
シエルは飲んでいた紅茶をブホっと吐き出す。
これはもしかしなくとも・・・!!

「貴方を愛して止まない、真っ赤な死神・・・グレル・サトクリフDEATH☆」

部屋の奥からグレルが歩いてきた。
一体、いつこの部屋に入り込んだんだ?!
シエルは驚きつつも、急いで最後の一口を飲み終える。

「なぜ貴方がここにいるんです」

せっかくシエルを抱きしめようとしたところに邪魔が入り、不機嫌極まりないセバスチャン。
特に相手が相手でもあるので、尚更だ。

「やっだー、セバスちゃんったら分かっているくせにぃ」

グレルは飛び掛るようにセバスチャンの方へと飛び込んでいく。
それをセバスチャンはヒラリと華麗に避け、

「ぐへぇ・・・!!」

グレルの頭を思い切り蹴り落とした。
それを見ていたシエルは呆れたようにため息をつき、席から立ち上がる。
そろそろ行かないと、エリザベスを待たせすぎだ。

「坊ちゃん?」
「そろそろ客室の方に行く」

シエルはグレルを無視したまま、扉へと歩いて行く。
それを見たセバスチャンは焦ったようにシエルを追いかける。
もちろん、グレルを踏んでいくのは忘れない。

「グレルさん、少々そこで動かないように。決して屋敷の中を歩き回らないでください」

しっかりと釘を刺して、シエルとセバスチャンは部屋から出て行った。

そして冒頭へと移っていく・・・。

**

「それで?今日はどうしたんだリジー」

シエルはリジーの向かいの椅子に座る。

「シエルに逢いたくて来ちゃったの」

えへへ、と笑うリジー。
まぁそうだろうな、とシエルは内心苦笑する。
何か理由があって来るのならば、元々連絡が来るはずだ。
連絡もなしに来る時は、大抵『ただ遊びに来た』時だ。
ときによっては、そのままファントムハイヴ邸に泊まっていったりもするのだが、今日は早く帰ってもらった方がいいだろう。
自分たちの為というより、リジーの為にも・・・。

「そういえば、今日はセバスチャンがいないの?」

リジーはキョロリと見回す。

「あ、あぁ・・・。アイツは今別の仕事をしているんだ」
「ふぅん。珍しいわねー。いっつもシエルの傍にいるのに」
「紅茶やスイーツはこの後田中が持ってくるから・・・」
「田中さんが?!なんだか久しぶりね、シエル」

昔を思い出すのだろう。リジーは優しい顔で笑う。
シエルは、そうだな、と答えつつも視線を逸らす。
温かい思い出はシエルにとって時に凶器となる。
こういう時にセバスチャンがいてくれたら、話題を逸らしてくれるのに・・・。
今頃赤い死神に奮闘しているだろう。
シエルはため息をつきながら、逸らした視線を窓の外へと向ける。
と・・・。


「?!」

噂の黒い姿と見てはいけない赤い姿が外で飛び回っている。
上手く木の陰に隠れながら飛び回っているが、この部屋の角度からだと、チラチラ姿が見えてしまう。

あの馬鹿、何やっているんだ・・・!!

シエルは内心舌打ちをする。
リジーが外を見たら、バレてしまうじゃないか!!

「シエル?」
「!!!」

シエルはビクリと反応してしまうが、何でもないような顔をしながらリジーに視線を戻す。
ここは田中が来るまで、何とか外を見させないようにしなければ・・・!!
田中が来たら、紅茶とスイーツで目がくらんで、リジーは外を見なくなるだろうから。

「リジー、最近は何も変わりないか?」
「うん、何もないけど・・・どうしたのシエル?」
「あ、いや・・・前に使用人が風邪を引いたとかで心配していただろう?」
「憶えていてくれたの?!やっぱりシエルは優しいのね」
「・・・僕は優しくなんかない」
「優しいわよ!この今日のお日様みたいに温かい!!」

リジーはにこやかに外に指差す。
やばい・・・!!!
もしも今セバスチャンとグレルが視界に映るところにいたら、リジーに姿を見られてしまう。
シエルは横目でチラリと窓の向こうを確認すると。

「アイツ・・・!!」

シエルは両手を机に叩き付けて立ち上がる。
その目線の先にはグレルの顎を掴み、まるで自ら迫っているような体勢だ。
グレルからなら分かるが、どう見てもセバスチャンから迫っている。
この僕というものがいながら、死神まで口説くとはいい度胸だな・・・!!!
シエルはギリリと歯を噛み締める。

「シ、シエル?」
「!!」

心配そうなリジーの声でハッとする。
しまった。つい怒りで我を・・・というよりもリジーを忘れてしまった。
シエルは何でもない、と言うが、リジーは不安そうにどうしたのか聞いてくる。

「私の言ったこと、気に触った・・・?」
「ち、違う!!」
「じゃぁどうしたのシエル?窓の外に誰かいたの?」
「リジー!!」

外を見ようと立ち上がりながら窓の方を見るリジーにシエルは急いで立ち塞がる。
そしてよろけたフリをして窓を背に、ほんの少しリジーに寄りかかる。
寄りかかったことによってシエルとリジーの距離は近くなり、リジーは頬を染めた。

「シシシシ、シエル?!」
「すまない、ちょっと眩暈が・・・」

自分でもどうかと思う言い訳を口にする。
取引きやゲームなど、頭を使うことに長けてるシエル・ファントムハイヴが、こんな薄っぺらい言い訳をするのは正直いたたまれない。
ここにいたのがリジーで良かったと内心笑う。
いや、リジーがいたからこそのいい訳なのだが・・・。

「え、眩暈?!シエル大丈夫!!」
「あぁ、大丈夫だ」
「今、誰か呼んでくるから待っててシエル!」

青い顔をしながら走り出そうとするリジーをシエルは焦って引き止める。

「リジー!本当に大丈夫だ!昨日ちょっと本を読んでて夜更かしをしてしまっただけだから!」
「でも、シエルはもともと身体が丈夫じゃなかったし・・・」
「お前・・・それは小さい時の話しだろ?今じゃ風邪だって全然ひかない」
「けど・・・」
「リジー、心配させて悪かった。本当に大丈夫だから」
「シエル・・・」

そっとリジーの頭を撫でる。
まさかここまで心配してくれるとは計算外だった。
内心悪いことをしたなと反省しつつも、外を見られずにすんだことを安堵する。
そして自然とリジーの椅子を動かし、窓に背を向けるように座らせる。
シエルもその隣まで椅子を動かして座ると、タイミングよく扉がノックされた。

「坊ちゃん。紅茶の用意が出来ました」
「あぁ。入れ」

扉が開くとワゴンに紅茶と沢山のスイーツを乗せたワゴンを押しながら田中(リアル)が入ってくる。
予想通り、リジーは目を輝かせてスイーツを見つめ喜んでいる。
これで一安心だな。
窓には背を向けてしまったし、目の前にはリジー・・・そしてシエルも好きなスイーツがある。
もうあの赤い死神を目撃してしまう心配はないだろう。
だが。

あとであの悪魔、いっぺん〆てやる。

先ほどの悪魔と死神のワンシーンが目に焼きついて離れない。
シエルは苛立ちを押し殺しながら、リジーと共に紅茶を口にした。


****


その頃の悪魔と死神は。
シエルが見えていた通り、広い庭に植えられている木の陰にいた。
しかし今セバスチャンは死神の相手などせずに窓の方を唇を噛み締めながら睨んでいる。

「あの、セバスちゃん・・・?」

あきらかに苛立っているセバスチャンに、グレルは不安げに声を掛ける。

一旦部屋から出て行ったセバスチャンを、グレルは静かに待っていた。
そして一人で戻って来たセバスチャンにグレルは首を傾げると『別件』で出ていると説明される。
いつも生意気なクソガキだ。グレルは邪魔してやろうと立ち上がると、セバスチャンに掴まれ外に放り出され、いつかの夜のように美しく外で殺しあっていた。
時にセバスチャンが色気を使い、ここから立ち去ってください、とお願いされたがグレルは居座り続ける。主人からの命令、そして守る為とは言え、セバスチャンが自分だけを構っているのだ。こんなナイス☆タイムを自ら逃すわけがない。だが。

「・・・・」
「・・・えっとぉ・・・」

いきなりセバスチャンは窓を睨んだまま固まってしまったのだ。何度も声を掛けるが返答はない。
グレルは首を傾げながらセバスチャンの視線の先を辿ると、窓の向こうに主人の姿と。

「あら、いつかのうっさいガキじゃない」
仕事じゃなかったのね。

グレルは、な~んだつまんない、とデスサイズを地面に刺し、その場に腰を下ろす。
そしてしばらくセバスチャンと窓を交互に見ていたグレルは、なぜセバスチャンが窓を見つめながら静かに苛立っているのかがなんとなく予想がついた。

「もしかしてセバスちゃん、あのガキがうっさいガキと一緒にいるのが気に食わないの?」
「・・・」
「それだけで嫉妬なんて、妬けちゃうわね」
「先ほど・・・」
「え?」
「坊ちゃんがエリザベス様に寄りかかっていました・・・」

呆然と、呟くように言うセバスチャン。

そう。セバスチャンは、シエルがリジーの視線を窓に向けさせない為に『眩暈が・・・』というシーンを見てしまったのだ。シエルがセバスチャンがグレルに『立ち去れ』という所を目撃してしまったように。

「あら、結構やるガキじゃない。一応悪くない容姿をしているし、隅には置けないわね」
「私というものがいながら・・・これはお仕置きをせねばいけませんね」
「え!お仕置きなら私・・・が・・・」

嬉しそうな顔をしながらセバスチャンを見たのだが、その表情を見てグレルの語尾はどんどんしぼんでいき、最後には大きなため息をついた。

「どうしてそこまで、あのガキに夢中なのよ」
人間よ?

苦しそうに眉を寄せるセバスチャンにグレルは言うと、セバスチャンもため息をつきながら、隣に腰を下ろす。

「私だって聞きたいですよ」
「あら、珍しく弱気ね」
「悪魔にだって弱る時くらいあります。坊ちゃん相手なら特に・・・」
「そんな顔をするくらいなら、あのガキをどこかに閉じ込めちゃえばいいじゃない」
「本当はそうしたいんですがね」

悪魔と死神らしい会話にセバスチャンは苦笑する。

「ですが、きっとそうしたら坊ちゃんは嫌がるでしょう」
「嫌がることをするのは美学が許さない?」
「美学ではなく、己自身が許さないのです」

すでに家族も住んでいた屋敷も失った少年だ。もう何かを失う思いなど味あわせたくない。
彼が大切に思うものを全て守り、そしてそれを守ることによって、彼自身の心を守りたい。
シエルをどこかに閉じ込めることは、その大切なものから引き離してしまうことになる。それは奪ったと同じことだ。
それでも。

「それでも・・・嫌がって泣いて叫んででも、私のものにしたくなりますがね」
「・・・そういうものでしょう?」
「え?」
「だってセバスちゃん。ムカつくけど、あのガキが好きなんでしょう?」
「はい・・・」
「なら、そう思っちゃうのは仕方がないわよ」

グレルは砂を払うように、赤いコートを叩きながら立ち上がる。
その横顔は何かを想うように儚く、妙に綺麗に感じた。
この死神も、本気で想う相手がいるのだろうか。

「まぁ簡単に仕方がないで片付けていいものではないけれどね。綺麗なものではないし」
「・・・」
「それでも、止められないわよ。そういう想いは。だから自分のものにして閉じ込める代わりに・・・」

グレルは、にぃんと笑う。

「相手からも愛してもらうんでしょ?」

その言葉にセバスチャンは目を見開き、ふっと笑う。
まさか死神からそんな言葉が出てくるなんてね。
立ち上がりながら言う。

「貴方とこんな話しをすることになるとは思いませんでした」
「たまにはいいでしょう?いつでも恋愛相談は受け付けるわよ。出来れば私について相談して欲しいけ・ど」
「おや、そんなことを仰っていては、本命に逃げられてしまいますよ?」
「・・・別にそんなのいないわよぅ」

呟くように言うグレル。
どうやらやはり本気で想う相手がいるらしい。
悪魔と死神。どちらも大変そうだ。

「じゃぁ、そろそろ行こうかしら。ウィルにまた怒られちゃうわ」
「そうですか」
「ちょっとセバスちゃん!寂しいとかないのぉ?!」
「あるわけないじゃないですか。あの死神が来たら余計にうるさくなるので、さっさと行って下さい」
「ムキー!!さっきまであんなにいい雰囲気で喋っていたのにぃ!でも、そんなセバスちゃんも好きよ☆」
それじゃぁ、またね。

グレルはデスサイズを掴んで、屋敷とは反対側の方へと消えていく。
本当はそのうるさい死神に迎えに来て欲しかったんじゃないですか?という言葉はセバスチャンの胸の中で消えていく。

「さて、と」

セバスチャンはグレルと反対に、屋敷の方へと歩く。
グレルとリジーが接触する心配がなくなったので、やっと通常業務へと戻れる。
シエルの傍に立つ、執事としての仕事に・・・。

セバスチャンは赤い瞳で笑った。


****


「じゃぁ、シエル。お仕事頑張ってね」
「あぁ。叔母様に宜しくな」

シエルは馬車に乗るリジーに言う。
スイーツを食べ終えた頃、シエルはリジーに仕事があると伝えたのだ。
最初はぐずったリジーだったが仕事をサボらせるわけにはいかないと思ったのだろう、しぶしぶながらも帰ることにしてくれた。
挨拶をすませると、リジーを乗せた馬車は音を立てながら屋敷を後にする。
シエルはその馬車が見えなくなるまで見送り、やれやれと息をつきながら執務室へと移動する。
部屋の扉を開けようとすると、名前を呼ぶ声が耳に届く。

「坊ちゃん・・・!」
「セバスチャン?」

振り返ると、駆け足でやって来るセバスチャンの姿。

「どうやらエリザベス様はお帰りになられたようですね」
「あぁ。仕事だと言って帰らせた。あの赤い死神は?」
「あの方もお帰りになられましたよ」
「なんだ。奴も帰ったのか。それならこんなに急いでリジーを帰らせなくても良かったな」
「・・・」

ピクリと反応するセバスチャン。
けれどシエルは気がつかずに部屋の扉を開ける。
そして、入れ、と一言。

「え?」
「お前に少し話がある」
「おや奇遇ですね。私も貴方に話しがあります」

セバスチャンは扉を掴み、先に主人のシエルを部屋へと促す。
シエルはそれに従い部屋に入ると、その後に続いてセバスチャンが部屋へと入る。
どこかに座るようなこともせず、部屋の中央あたりまで行くとシエルはセバスチャンを睨みつける。

「お前、あの死神と何をしていた」
「・・・エリザベス様と接触せぬよう、赤い死神と戦っていましたが」
「それ以外のこともしていただろう」
「まぁ、少々会話はしましたけれど・・・」
「迫りながら、か?」
「は?」

セバスチャンは首を傾げる。

「それは坊ちゃんではないですか」
「何?」
「私というものがありながら、エリザベス様に寄りかかったりなどして」
「寄りかかる?あぁ・・・あの時か」

シエルはその時のことを思い出し頷くと、セバスチャンは瞳を赤くしてシエルの腕を引っ張る。

「貴方の為に必死に戦っていたというのに、酷い仕打ちですね」
「はぁ?何が酷い仕打ちだ。お前だってリジーの視線を逸らそうと僕が頑張っている間に死神を口説いていたじゃないか・・・!」
「私が死神を口説く?!そんなことするワケがないじゃないですか!」
「僕はこの目で見たんだからな!お前があの死神に迫っているところを!!」

だんだんヒートアップしていく二人。
シエルは掴まれた腕を振り払い、今度はシエルがセバスチャンの襟首に掴みかかる。

「迫ってなどおりません!!」
「貴様・・・!嘘をつく気か?!」
「ついていないですよ!!」
「だって見たぞ!死神の顎をつかんで迫っている姿!」
「・・・!!あぁ・・・あの時のことですか?」
「!!」

先ほどと逆に、次はセバスチャンがその時のことを思い出す。
その様子にシエルはカッとして、やっぱり迫っていたんじゃないか!と、セバスチャンの首をこれでもかというほど揺さぶる。

「きききき、貴様!!この浮気者がぁ!!」
「ちょ、ちょっと坊ちゃん!違いますよ!勘違いです!!」
「何が勘違いだ!!僕があの時、どれほど殴りに行きたかったか分かるか?!」
「不安だったという言葉ではなく、殴りにとは・・・たくましいですね坊ちゃん」
「そんなこと言ってないで、少しはいい訳くらいしないか!!」

怒りながらも、いっぱいいっぱいの表情にセバスチャンは胸が打たれる。

「坊ちゃん!!」
「貴様・・・!離せ!」

セバスチャンは襟首を掴むシエルを、そのまま抱きしめる。
シエルは抵抗するように暴れるが、悪魔の力に敵うはずが無い。

「勘違いさせてしまってすみません。別にあれは迫っていたわけではなく、立ち去れって言っていたんです」
「立ち去れ?」
「自分で言うのもアレなんですが、色目を使いながらお願いしたら聞いてくれないかなぁ・・・と」
「そ、そうだったのか・・・」
「さて、次は私の番です」
「え?」
「坊ちゃん、どうしてエリザベス様に寄りかかっていたんですか!?」

抱きしめていた身体を離し、涙目でシエルの顔を覗きこみながら睨みつける。

「ちょ、ちょ、セバスチャン・・・顔、顔近い・・」
「ほら、理由を言ってください。返答次第でグレルさんに言っていたことを前言撤回しますよ」
「一体何の話だ!!僕はただ、リジーの視線がお前らの方にいってしまいそうだったから、それを遮っただけだ!」
「それだけで寄りかかったというのですか?!」
「もとはと言えば、お前が悪いんだからな!」
「え?」
「迫っている姿を見て怒鳴ってしまったんだ!それでリジーが外を見ようとしてしまったから、咄嗟に窓の前に立ち塞がって・・・眩暈だとか言って誤魔化したんだぞ!いつの時代のいい訳かと、自分で恥ずかしくなったわ!」

噛み付くように叫ぶシエルに、セバスチャンは安堵した。
シエルは人間で、自分は悪魔だ。いつシエルが自分から離れていってもおかしくない。
契約があっても、心までは縛れない。
悪魔の力を使えば簡単に出来るかもしれないが、そんなまがい物の心が欲しいわけではない。

「すみません、もう少し場所を考えれば良かったですね」

セバスチャンは苦笑しながらシエルの頭を撫でる。

「別に・・・。結果的にリジーと死神は接触しなかったんだ。それに、お前は口説いていたワケじゃなかったって分かったし」
でも・・・。

シエルは唇を尖らせながらセバスチャンの首に巻き付く。
セバスチャンは驚いて頭を撫でる手を止め、固まってしまう。

「やっぱりお前が死神に迫っていたのは気に食わない」
「あの、だから迫っていたわけでは」
「分かってる。でも、あんな姿・・・僕の為としても見たくないし、して欲しくない」
するのは僕だけにだ。

恥ずかしそうに、でもキッパリと言う声にセバスチャンは口元が緩む。

『自分のものにして閉じ込める代わりに、相手からも愛してもらうんでしょ?』

――― しっかり愛してくださっているのですね。

「坊ちゃん」
「んっ」

セバスチャンはシエルを抱きしめかえし、ちゅっと口付ける。

「これからは、そんな方法を取らないと約束します」
ですから。
「坊ちゃんも、出来るだけ他の人に身体を触れさせないでください」
「・・・ん」

シエルは頷き、まるでお互いに約束だと言うようにセバスチャンに口付けを返す。
甘い甘いやり取りに、シエルのセバスチャンも胸が満たされていく。

このまま永遠に二人きりならばいいのに。
邪魔なんてされずに、互いのことだけをその瞳に映して。
甘く蕩けた世界に浸かりたい。

けれど、それを叶えることは出来ないから。

「坊ちゃん、愛していますよ」
「何だ急に」

閉じ込めることは、したくないから。

「だから、“ひととき”だけでも坊ちゃんを私の手に閉じ込めさせてください」
「は?何を言っているんだ」
「・・・?」
「もうお前は僕をその手に閉じ込めているだろう?」
ここから出て行く気はないぞ?

悪戯に笑う顔。
目を見開いたセバスチャンは何か言おうと口を開けるが、うまく言葉が見つからなくて。



その腕で、より強くシエルを抱きしめた。




END



******

10000という記念キリ番を踏んでくださいましたポッポ様に捧げます・・・!!!
リクエストの『セバスとシエルが両方嫉妬し合って喧嘩になる』お話を書かせて頂きました^^
喧嘩の部分が薄い気がしなくもないのですが・・・。
罵倒、ののしり、書き直し、何でも受け付けますm(__)m
それでも、こんな文章で宜しければ是非お持ち帰りくださいませ!
記念すべきキリ番を踏み、そしてリクエストをしてくださりありがとうございました!

これからも、是非いつでも遊びに来てくださいね^^

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【2011/05/18 16:37 】 | Gift | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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