見えない糸で引っ張られるような感覚。
そう。本当にそんな感覚だ。
もう少し上手い言葉があるんじゃないかと自分の中で色々な単語を探してみるが、他にいい表現が見つからずに苦笑してしまう。
そんな感覚を感じるのは相手の視線だったり、仕草だったり。
または吐息だったり。
まるで獲物を絡み取るかのように、全身で僕のことを捕まえようとしてくる。
まさに“見えない糸で引っ張られるような感覚”
そんな糸を引っ張っている相手は勿論。
「なぁ、セバスチャン」
赤い宝石の輝きを宿した瞳を持つ、漆黒の悪魔。
「いかがなさいました?」
「集中出来ない」
「それは坊ちゃんが悪いのでは」
「無意識でやっているわけじゃないだろう?」
シエルは背後に立つセバスチャンを振り返り、口元に弧を描く。
「気付いておられましたか」
そんなシエルの様子を見たセバスチャンも同様に口元に弧を描き、どこか恍惚な顔をした。
長年狙っていた獲物を、ようやく釣り上げたかのような表情。
シエルはそんな満足げな悪魔になぜだか虫の居所が悪くなり、ネクタイを無造作に引っ張り顔を近づける。
「気付かないわけがないだろう。精一杯餌を我慢している犬の涎を掛けられて気付かない主人なんているか」
「鈍感な主人のことですから、雨だと勘違いして傘でも差しているのかと思いましたよ」
「ハッ。馬鹿にしてくれたものだな。貴様の厭らしい執着に気が付くなという方が難しいだろう」
「そこまで気が付いていながら、今の今まで黙っている貴方も厭らしいお方ですね」
「黙れ」
そのままシエルはセバスチャンに口付け、唇の端をほんの少し力を込めて噛み付いた。
「ッ…」
口の中には美味しくない鉄の味が広がり、セバスチャンの唇から血が出たのだということを知らせる。
「飼い主が犬を噛みますか」
「躾の一環だ」
「おやおや、随分と甘やかな躾ですね」
「不満か?」
「まさか」
ペロリと血に汚れた己の唇を舐め、微笑む。
「ずっと誘っていましたのに全く気が付いてない素振りだったので、正直焦れていました」
「本当はそのまま無視していても良かったんだが、いい加減お前の“誘い”が鬱陶しくなってな」
「またそんなつれないことを」
ネクタイを掴むシエルの手をツツ・・・と撫で上げ、顎まで辿り着くと優しく、けれど拒否させぬよう力強く顎を掴んだ。そして唇が触れるか触れないかのところまで顔を寄せ、囁く。
「欲しくなったのでしょう?」
「ち、ちがッ」
「ご自分から手を出される時はなんともないのに、私から貴方を求めるとどうしても逃げ腰になりますね」
初々しいままだ、とセバスチャンはクスリと笑った。
シエルは舌打ちをしながら頬を染めて少しだけ視線を逸らすが、再びセバスチャンを睨みつける。
けれど。
「ぁ・・・」
赤い瞳と視線が交じり合うのと同時に、今度はセバスチャンに唇を塞がれてしまう。
けれどシエルとは違い、噛み付くようなことはせずに、寧ろ優しくて、厭らしくて。
「ん・・・ンん」
甘く、とろけてしまいそう。
「坊ちゃん・・・」
「っ・・・」
唇を離し、その先の承諾を待つ嫌味な悪魔にシエルは。
「はぁ・・・くそッ」
顔が見えないように首元に抱きついて、小さな声でボソリと「早く・・・」と呟いた。
これ以上、お前という名の糸で
絡めてどうするつもりだ。
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年賀状をくださいました、たままはなま様に寒中見舞いを押し付けました!
これはその時の文章です><
しばらく独り占め~ということで、二月になってからUPさせていただきました。
あんな素晴らしいものを貰っておいて、こんなもので申し訳なさいっぱいなのですがorz
たままはなま様、本当にありがとうございました!!

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