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【2024/04/25 17:16 】 |
4日目②/どうしてどうしてどうして、違う――どうしよう。
一周年。





―――女王でも無い、取引の相手でもない、追い込む鼠でもない“俺”の言うことを何で聞いてるの?

そんなこと、聞くな。
別に快くこの罰ゲームを受け入れたわけでも、いや、受け入れたつもりもなかった。
本当にただ流されただけで。

流された?
この自分が?
シエル・ファントムハイヴという人間がただ流されただけ?

自分はただ流されてしまうような弱い人間だったか?いや、そんなことはない。
だから流されていたことを理解した昨日、それをやめようという話をセバスチャンとしたのだ。
“本来の自分自身”でこのゲームをしよう、と。

でも、そしたら。
自分はこの罰ゲームを受け入れたことで。
恋人ゲームを認めたということで。

でも、最初は認めてなくて。
それなのに流されて。

どうして。
どうして?
ちがう、そうじゃなくて。
ちゃんと…―――。


「坊ちゃん?」
「――――ッ!!」

考え込んでいたところ急に声を掛けられ、シエルはビクリと肩を震わせた。
手にしていたカップの中身がその振動で揺れたが、多少冷たい雫が飛んだだけで零れることはなく。
シエルは冷静さを取り繕ってカップをソーサーに戻した。

「なんだ」
「どうなされました?大好きなスイーツにもあまり手をつけず…」
「少し考え事をしていただけだ」

目の前に置かれたショートケーキはまだ半分も食べられておらず、それなのにカップの中身はもう冷たい。
それだけの時間が経っているというのにケーキが半分もなくなっていないなんて、日々のシエルのスイーツ好きを考えたら有り得ないことだろう。

「考え事?」

セバスチャンはワゴンに載せていた白いナフキンを手にしてシエルの横に身を屈め、飛んだ雫を綺麗に拭いていく。
拭いていくといってもその雫は本当に小さいもので、拭く意味などないだろう。少しだけ水分を含んだ部分に布を当てるといったぐらいだ。
しかし今のシエルはそれについて特に気にせず、いや、拭く意味がないという考え自体が浮かんでこなかった。

「あぁ…少し、な」
「・・・・」
「だがお前には関係の無いことだ。気にするな」
「…アロイス様のことですか?」

ピクリと指先が動いてしまったのに、彼は気が付いただろうか。
別にアロイスのことを考えていたわけではない。正確に言えばアロイスに言われた言葉について考えていただけで、むしろセバスチャンのことを考えていたに近いだろう。
彼に言われた言葉に対して、違う、と返そうと口を開くが、それは音にならず。
なぜか自分はその答えを引っ込めてしまった。

「早速昨日の約束を破るおつもりですか、坊ちゃん」
「・・・?」
「一緒にいる間は別の人のことを考えてはならない」
「あ、あぁ…そうだったな」

セバスチャンの言葉にシエルはぎこちなげに頷く。
恋人同士なのだから、二人でいるときは二人のことを考えるのが当たり前。

当たり前?
これはただのゲームなのに?

―――ねぇシエル、ちゃんと考えて

「坊ちゃんっ」
「っ?!」

グイっと顎を掴まれ、無理やりセバスチャンの方へ首を曲げられる。
痛みは無くとも強引なソレに眉を顰めるが、赤い瞳とぶつかり合った瞬間に驚きと戸惑いがシエルを包み込んだ。

「午前中アロイス様に何を言われたのかは知りません。ですがもう別にいいでしょう。そこまで気にすることなどありません。これ以上私以外のことを考えていたら浮気とみなしますよ」
「はぁ?!どうしてそうなるんだ!」
「約束も破って、酷い恋人ですよ」

セバスチャンはワザとらしく大きなため息をつく。
赤い瞳と吊り合わない、悪魔としては酷く腑抜けた言葉。
しかしそこには爛々と輝く怒りも見えて、口調としてはあまりいつもと変わらないが、言葉に込められている意味は本物なのだろう。
だからこそ、シエルはどうしていいか分からなくなった。
きっと昨日までだったら“恋人だから”という理由で納得し、自分が悪かったと面倒くさげに謝るのだろう。だが。

アロイスの言葉が離れない。

どうして。
どうして。
どうして。

たかがゲームにどうして。
どうしてそこまで。

「セバスチャン」
「……なんでしょう」
「お前はどうしてこのゲー」

言葉は最後まで紡がれることはなく。
目の前には近すぎるところに赤い瞳があって。
唇には昨日感じた柔らかい感触があって。
口付けられたのだと、すぐに理解した。

「っ………!!」

セバスチャンの胸板を叩き、離すように言葉無き動作で伝えるが、彼は易々とその手を掴み指と指を絡め合わせてしまう。
そのスルリと指の間を撫でられるくすぐったい感触に一瞬身体が震え、それに負けじと今度は椅子から立ち上がり、後ろに下がろうとするが。

「!!」

もう片方の腕が腰に回され引き寄せられた。
そのせいで後ろに引いた身体が逆に前のめりになり、しかしそのままセバスチャンは身体を後ろに倒したので。
ドサッ、と。
床で仰向けになったセバスチャンの上にシエルが乗った状態になってしまった。

その間も指は絡まり、腕は腰に。
そして唇は唇に。
どこも開放されることはない。

「ん、んんッ…!!」

恥ずかしい体勢になってしまったこともあり、尚更シエルは離れようともがいたが。
唇に舌が這い、驚いて口を開けてしまった瞬間、口腔へと舌が侵入してしまう。
舌と舌がぶつかり、シエルは慌てて舌を奥に引っ込めるも、セバスチャンはそれを追いかけて。
指だけではなく、舌までも絡まりあう。

「ん、んっ…ふぅっ…」

妙に柔らかい感触と刺激される何か。
嫌な水音を立てながら舌を吸われれば力が抜けてしまい、そのまま全体重をセバスチャンに預けてしまうと、自分の重みで口付けもより深くなって、酸素がどんどん足りなってくる。
そのせいか、それともそれも含めた別の何かのせいで頭の中が真っ白になり、もう口付けから逃げることも、嫌がることも。
そしてアロイスの言葉も。
頭から全て抜け落ちて、消えていった。


「あッ…ふ…はぁ…はぁ…」

やっと口付けが解かれた時には息が上がり、シエルはそのままセバスチャンの上で荒くなった呼吸を何とか整えようとする。
その間セバスチャンは落ち着かせるように背中を撫でつつも、何も喋らず、黙ったままだった。

静かな空間に自分の荒い息の音だけが聞こえる。
それはどこか現実味がなくて、まるで夢を切り抜いて目を覚ましている自分の頭にそれを貼り付けたような。それぐらい妙な世界。
そんな世界が何だか居た堪れなくて、シエルはまだ呼吸が落ち着いていないにも関わらず、セバスチャンの名前を呼んだ。

「お、い…セバス、チャン」
「…大丈夫ですか、坊ちゃん」

ワンテンポ遅れてからきた返事。
その理由は分からないけれど、今はそれよりも。

「大丈夫な、わけ、あるかっ」

力なく垂れた首をセバスチャンの首元に埋めたまま、相手の頬を強く摘む。
大丈夫かなんて、もっと先に言う言葉があるはずだ。

「最悪、だ」
「…なぜです」
「当たり前、だろう、がっ」

頬を摘んでいない方の手で濡れた唇を拭う。
が、先ほどの柔らかい感触や、それ以上の何かが拭うことが出来なくて落ち着かない。
そして何より。

「いいじゃないですか。恋人同士なのですから」
口付けるのも当たり前です。

セバスチャンは頬を摘んでいる手をそっと剥がし、そして甲に口付けを落とす。
チュッと音を立てたソレにビクリと震え反射的に顔を彼に向けてしまえば、彼も若干こちら側に顔を傾けていて。
楽しそうな、嬉しそうな目線とぶつかり合った。

「うるさい、離せっ」
「嫌でしたか?」
「うるさいッ」

ドクンドクンと鼓動が煩く鳴り響く。
今胸板はセバスチャンと重なりあっているのだから、きっとこの鼓動の激しさはバレてしまっているだろう。
きっとそれも分かっているから、こんな意地悪な質問をしてくるのだ。

「ねぇ坊ちゃん。答えて」
「~~~~~ッ」

再びチュっと手の甲に柔らかい感触。
しかし今度はそれだけではなく、もう先ほど嫌というほど知った、濡れた感触。

「んッ…」

今は唇にそれはないのに、こんなにもまだ口付けられているような気分になってしまう。
嫌だ、もう嫌だ。こんなの、おかしくなってしまう。
でも、一番嫌なのは。
柔らかい感触や、それ以上の何かを拭うことが出来なくて落ち着かないことでも。
それ以上の何かが身体の中でジワジワと広がっていくことでもなく。

―――嫌でしたか?

嫌じゃない、自分自身。

「も、勘弁しろッ」
「おや、自ら白旗を降るなんて貴方らしくありませんね」
「だっ…こんな!」

こんなザワザワするのは知らない。
身体中がおかしくなる、この感覚。
これなら痛みの方がまだマシだ。

「…顔、真っ赤ですね」
「だからいい加減にッ…」
「はいはい、そんな泣きそうな顔をしないでください」
「っ…」

誰が泣きそうな顔だ!と叫ぼうとするが、唇と舌が触れていた甲にチリリと痛みが走り、言葉は出ず。
しかしセバスチャンはそんなことに気を止めることもなくシエルを上に乗せたまま上半身だけを起き上がらせ、その手を開放した。
しかし開放されたのは本当にただその手だけ。

「おいっ」

彼の膝に座った状態で抱きしめられる状態になっただけで、あまり先ほどとは変わらないのだ。
座高の違いが出来たせいでシエルの顔は胸元の位置となり、見上げる形でセバスチャンを睨みつけるが、彼は苦笑しながら頭を撫でた。

「もう何もしませんから」
「そんな、信じられるかッ」
「…それは遠まわしに強請っているのですか?」
「ねだッ…!!そんなわけないだろうッ」
「ほら、坊ちゃん」

トントン、と優しく背中を叩く。
まさに子供をあやすごとく。
何がほら坊ちゃんだ、どう考えても僕のことを馬鹿にしているだろう。
そう思っても。

「・・・・」

そのリズムが心地よくて、黙り込んでしまう。
セバスチャンも先ほどの言葉通りもう何もしてくることはなく、ただ静かにシエルの背中を叩くだけだ。
その空間が何だかとても心地よくて。
あんなにも自分の身体がおかしくなってしまいそうだったのに、今はすっかり落ち着きを取り戻している。

自分をおかしくさせるのもセバスチャンで、
自分を落ち着かせるのもセバスチャン。

(腹が立つ)

そう思いつつも口元はなぜか緩み始め、シエルは力を抜いてセバスチャンの胸元に頬を寄せた。
息を吸えば彼の香りが鼻腔を擽り、まるでスイーツを食べた後のように胸が満たされる。
そして寄せた頬…胸板に近づいた耳からは、

(コイツも、鼓動が早い)

先ほどの自分くらい早い鼓動の音が聞こえ、実はセバスチャンも自分と同じぐらいドキドキしていたことが伝わってくる。
そのことが何だか嬉しくて、その鼓動が聞こえる胸元に頬擦りしてしまえば、彼もまたシエルの頭に頬擦りをした。


それもまた嬉しくて。
身体がフワフワしてくるような気がして。

あぁ、そうか。
これは。

「セバス、チャン」
「坊ちゃん…」

(駄目だ駄目だダメだダメだだめだだめだだめだ)


気が付いたら、ゲームオーバー。
―――自分の気持ちから逃げちゃ駄目だ



恋人ゲームは、

あと残り3日。

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【2011/07/28 22:12 】 | Project | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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