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【2024/04/28 18:24 】 |
桜庭様より

七萬打祝い




★Attention!!★

※桜庭が病んでいるのか、セバスが病んでいるのか、よく分かりません。
※“あくまで”フィクションとして楽しめるという寛容なお嬢様のみお進みください。
※鬱展開大好きな中二病患者の桜庭から一言「中二病の何がいけないというの?」
※月猫様、七万打達成おめでとうございます!もう愛しています!(え)
※軽いですが性的な表現があるので義務教育中のお嬢様は閲覧をご遠慮くださいますようお願いします。





自ら苦しむか、もしくは相手を苦しませるか。そのいずれかなしに恋というものは存在しない。
                                                  アンリ・ド・レニエ




ひどく眩暈がした。頭痛が止まない。ここ最近のシエルの体調は頗る悪かった。顔色も悪く、立ち眩みをすることも多かった。疲れやすくなり、何をするにも億劫になっていた。
一度、客人の前で倒れてしまったことがあり、メイリンやフィニ、バルド、いつも冷静で動揺した姿を見せることがほとんどないタナカでさえ、あの時は泡を食って蒼白になっていた。動じなかったセバスチャンだけが冷静に対処して医者を呼んだ。医者の診断の結果、どうやら貧血で倒れたらしい。メイリンやフィニ達は、大きな病気でもなくて、ただの貧血と聞いて安堵していたようだった。
医者は、赤身の肉、レバーや魚を積極的に摂取するのと、シエルに少しの間、静養を取るようにセバスチャンに説明して帰って行った。
だが、その後のシエルの貧血は一向に回復の兆しを見せなかった。
ファントム社の決裁書類にこうしてサインをしている今でも眩暈と頭痛の波に襲われている。

「…気持ち悪い…」
頭の中をぐちゃぐちゃに掻き回されているような感覚に陥る。身体は怠く力が入らない。シエルは溜息を吐いた。もう今日は何も手につかないだろうと持っていた羽ペンを机に乱暴に放り出した。蟀谷を抑えて必死に耐える。シエルはこうなった原因が全く思いつかない。身体に異常はない。医者はストレスによる貧血ではないかとの見方だ。だが、ここまで貧血がひどくなるようなストレスにシエルは心当たりがなかった。そもそも、シエルはストレスで頭痛がすることはあっても、貧血を起こすなど初めてのことだった。

「……疲れたな」

シエルは重い溜息を吐いて、立ち上がる。もう仕事など手につかない。今日は特に差し迫った仕事もなければ、客人が来る日でもない。裏の女王の番犬としての仕事もない。今日は一日休みにしてしまおうとシエルは立ち上がる。まだ日が昇ってから数刻も経ってないが、一度寝室に戻って休んでしまおう。シエルは執務室を出て自分の寝室へと歩いた。





茫洋とした闇が辺りに広がっている。窓から差す淡い月光の光が部屋全体の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせていた。月明かりが照らす部屋の隅に奇妙に動く影がある。
何だ、あれは。シエルは目を凝らす。二つの人影が重なり合っているのが見える。そのうちのひとつは自分のよくしっている男のものだった。
「……セバスチャン?」
暗くてはっきりとしないが、あれはセバスチャンだった。こちらに背を向けて身体を前後に揺すっている。何をしているかはシエルの立ち位置からは分からなかった。一応、声を掛けてみたが聞こえないのかこちらに注意を向ける気配は全くない。もう一度大きな声で声を掛けたがやはり振り向かない。
「主人を無視とはいい度胸だな」
シエルは苛立ちながら、吐き捨てるように言った。シエルは暗闇でよく見えない足元に注意しながらセバスチャンの方に進む。そして、主人を無視するは何事だと叱りつけようとした矢先に、もうひとつの影の人物に気付き、驚愕のあまり凍りついた。
――――――僕……?
セバスチャンの身体の下にいたのはシエルだった。全裸で生気がなく、虚ろな瞳で焦点が合ってない。まるで人形のような、死体のような自分。そしてこの二人が何をしていたのか認識した瞬間にシエルは心臓が凍りついたかのような衝撃を受けた。
セバスチャンの肉体の一部を受け入れて揺さぶられている。それは文字通りセックスであった。何で僕がセバスチャンとセックスを?シエルは困惑しながらもその光景から目が離せずにいた。
「……坊ちゃん、坊ちゃん、坊ちゃん…」
セバスチャンの今までに聞いたことのないような切羽詰まった声で何度も呼びかけられる。セバスチャンは激しく腰をシエルに突き立てて揺さぶり続けている。シエルの細い腰を掴んで、何度も何度も律動を繰り返す。セバスチャンに犯されているシエルは人形のように横たわっており、何の反応も示さない。そして、一際強く腰を突き上げるとセバスチャンの腰が痙攣を繰り返す。それで僕はセバスチャンが達したのが分かった。
「……坊ちゃん」
セバスチャンが物言わぬシエルの唇にそっと己のそれを重ねる。
シエルの世界は真っ暗な視界に閉ざされた。






頭痛がひどい。吐き気もする。全身の血が足りないのかふらふらと覚束ない足取りで寝室へと歩く。セバスチャンに抱かれる夢を見た以降、シエルの貧血は更に症状を悪化させていた。ひどいときにはベッドから立ち上がれないほどであった。あれ以来、まともにセバスチャンの顔も見られない。しかもあの夢は一回きりで終わることなく、何度も何度も繰り返し夢に現れた。やはり人形のような僕を抱いているセバスチャン。どうして、あのような夢を見るのかシエルには分からない。もしや、深層心理から見せるシエルの願望なのか。僕があいつに抱かれたいと思っていた?いや、答えは否、であろう。シエルは一度もセバスチャンを性的な対象として、まして恋愛対象として見たことはない。それは向こうも同じであろう。
「しまった…」
シエルは自分の寝室へと歩いてきたつもりであったが、頭痛に苛まれながら歩いてきたせいでうっかり道を間違えたらしい。無駄に広い屋敷だから、ぼんやりと歩いているとたまに道を間違えたり、目的地を通り過ぎて引き返したりすることもある。仕方ないとシエルは踵を返して立ち去ろうとする。
「―――――――――」
声がした。シエルは立ち止まる。どこからか僕を呼ぶ声がする。だが、はっきりと聞こえてくるわけではない。聞こえているような気がするのだ。
「―――――――――」
まただ。僕を呼ぶ声がする。呼ばれている。何かに引き寄せられるようにシエルは歩を進める。シエルはあるひとつの扉の前に立ち止まった。シエルはその扉の場所を確認してそれがセバスチャンの部屋であることに気が付いた。扉のノブに手を掛けてしばし逡巡する。だが、また何かに呼ばれたような感覚が扉の向こうからして、シエルは迷いを捨てた。ゆっくりとノブを回して音を立てぬように扉を開けて中へと入る。その部屋はシエルが最後に見た時と、そして夢の中で見た時と同じままであった。最低限の家具しか置かれてない。生活臭というものが微塵も感じられない、無機質で冷たい空間。シエルは視線を寝台に移して呼吸が止まった。
――――――誰かいる。
シーツを被っているため、誰かは分からない。シエルは相手に気付かれないようそっと忍びよる。シエルはシーツに手を掛けるとそれを勢いよく剥がす。その瞬間にシエルは戦慄の悲鳴を上げそうになった。
そこにいたのは自分だった。夢の中で見た人形のような自分。全裸で虚ろな瞳。精巧に出来た人形のようにも、死体のようにも見えるそれにシエルは恐怖で戦慄きが止まらない。ふらふらとした足取りで後ずさると何かにぶつかった。
「――――見てしまったのですね、坊ちゃん」
「―――――セバスチャン……」
肩を掴まれてシエルは身動きひとつ取れなくなってしまった。シエルは首だけで後ろを振り向くとセバスチャンの顔を見やった。表面上は穏やかに微笑んでいるものの、瞳の虹彩は赤く輝き、瞳孔は開いている。
「これは…どういう事なんだ…?セバスチャン…」
「よくできているでしょう?」
そうしてセバスチャンは寝台の上に横たわっている僕を指差す。
「あれは…何だ?」
「お人形ですよ、私の愛玩人形です」
人形とセバスチャンは言ったが、どうみても本物の人間にしか見えない。
「……人形には見えないが…」
「ええ。生きていますから」
生きているという言葉に更なる衝撃を受けた。シエルにはどう見ても生きているようには見えなかった。まだ死体と言われた方が納得できる。
「あれは誰なんだ?」
「可笑しな事を仰る。あれは坊ちゃんですよ」
「……僕?」
「見られてしまっては仕方ありませんね。種明かしして差し上げましょう」
セバスチャンは流暢な言葉で語りだした。
「最近、坊ちゃんは貧血でお悩みになっていたでしょう?医者はストレスや疲れだからと申しておりましたが、貴方の貧血はストレスでも疲れでも、ましてや病気などでもありません。私が貴方の身体から夜な夜な血を抜いていたのです」
シエルはセバスチャンの告白に思考が停止してしまった。でも、どうしてこいつが僕の血を抜いているのか分からない。何故こいつが吸血鬼みたいな真似事をするのか。それとも悪魔は人間の魂だけでなく人間の血も糧にしているのか。戸惑うシエルの心中を察したセバスチャンは話を続ける。
「ええ、貴方の疑問は正当なものでしょう。何故、私が貴方の血を抜き取るのか。全てはこれの為なのです」
セバスチャンは視線を一度寝台の上のシエルに向けてすぐに逃がさないとばかりに肩を掴んでいるもう一人のシエルに視線を戻す。
「これは貴方の血を対価に私が魔力で作り上げた、いわば貴方の精巧なレプリカのようなものです。ただし、そこに魂はない。悪魔は人間の肉体を作り上げることは出来ても魂を複製することは不可能なのです。ですからこれには自我というものがほとんどありません。極めて薄らとぼんやりとした意識が残っているのみなのです。そしてこれを生きている状態に保つには貴方の血が必要だった。人間も糧がなければ死んでしまうでしょう?それと同じです。ただ、これは普通の人間と違って貴方の血が必要だった、それだけなのです」
「…だから、僕から血を抜いていたのか…?」
「ええ、ですが所詮はレプリカであり、魂の入っていない入れ物ほど脆く壊れやすいものはない。時間が経てば経つほどこれは大量の血が必要になっていく。いくら私の魔力で修復しても限度がありますから。そして魂のない入れ物はその空白を埋めるために自分に入れるべき中身である魂を求める。そう、磁石のようにね。お互いを引きあうのですよ。坊ちゃん、何故この部屋に入ったんですか?」
「……誰かに呼ばれた様な気がして…」
「それはこの『坊ちゃん』が貴方を呼んだのですよ。自分に入れるべき魂として。まさか、私も貴方を呼びよせることができるほどこれの自我が発達しているとは思いませんでした」
「……何のために…そこまで…」
「――――分かりませんか?」
セバスチャンはいつもより穏やかな口調であったが、それが余計に恐ろしく感じられた。シエルの正体の分からない恐怖は頂点に達して、セバスチャンの手を振り払おうとする。抵抗を始めたシエルにセバスチャンは無言で腕を掴んで『坊ちゃん』の隣へ放り投げた。寝台に叩きつけられるように放り投げられたシエルはすぐさま身体を起こして逃げようとするもセバスチャンがそれより素早くシエルの身体に伸し掛かり、押さえつけた。
「離せ!セバスチャン!!」
「どうしてです?折角本物の貴方が手に入ったのに?」
酷薄に笑うセバスチャンは今までに見たことがないほど美しく見えた。だが、これは悪魔の笑みだ。僕に不吉を呼び込む魔の微笑み。シエルは何とか逃れようとするも難なくシエルの抵抗を塞いだセバスチャンは、シエルの両手両足に鉄枷を嵌めて、その鉄枷から延びる鎖をベッドの脚に繋いだ。シエルの豪奢な寝台とは違い簡素な使用人用の寝台とはいえ、シエルの細腕ではとても持ち上げられそうにない。そうしてシエルを拘束したセバスチャンは満足そうに微笑んだ。シエルはこれから行われる凶行に身体は強張って震えが止まらない。
「このお人形にして差し上げたことと同じことを貴方にして差し上げますよ」
「いやだ…いやだ!やめろ、セバスチャン!!」
シエルの悲痛な叫びにセバスチャンが艶美に微笑むだけだった。







あの日からシエルはセバスチャンの囚人となった。シエルはもう何日ここに閉じ込められたか数えるのをやめてしまった。そんなことは無駄なことだし、ここから出られないのなら意味のない事だから。セバスチャンは僕の不在をあの人形で誤魔化しているらしい。今でも僕との性交の最中に首筋を噛んで吸血して血を抜く。もしかしたらセバスチャンは、本当は悪魔ではなく吸血鬼なのかもしれない。そんなことをつらつらと考えているとセバスチャンがトレーに食事を乗せて戻ってきた。
「お食事ですよ、坊ちゃん」
「………」
ミルクのリゾットを持ってきたセバスチャンに僕の身体を心配していることが分かる。ここ数日ほどシエルは食事を摂ることを拒否していた。セバスチャンは何とか僕に何か食べさせようとして普段のこいつなら許さないだろうが、僕の好物ばかりを持ってきた。だが、シエルは頑なに口を付けようとしなかった。
「…お願いです。何か食べていただけませんか」
「………」
「一口だけでも構いませんから」
「ここから出せ」
セバスチャンの口調には哀願の響きさえ籠っていたがシエルは無視して自分の要求のみを伝える。全裸で四肢を投げ出して横たわっているシエルをセバスチャンは眺めてからゆっくりと悲しげに首を横に振った。
「駄目です。それは出来ません」
「………」
「私は貴方を失いたくない」
セバスチャンはトレーを机に置くと僕に覆いかぶさって愛撫をし始める。丹念に下で耳を舐めて首筋を伝って僕の胸の小さな突起に齧り付く。ころころと下で転がして僕は吐息が乱れていき、嬌声を上げ始める。セバスチャンの手は僕に下肢に伸びていき、そっとシエルの蕾の中に指を挿入する。
「…あっ…!」
咄嗟にシエルは両手で口を押えるがセバスチャンはその手を外してシーツへと縫い付ける。シエルの蕾からは昨夜の名残がどろっと奥から流れ始めてきてシエルの顔は羞恥に染まった。
「いやだ…何で…こんな」
「ここは悦んでいますが?」
「…あぁん!」
セバスチャンは自身の昂ったものを容赦なくシエルの中へ突き立てた。毎晩毎晩抱かれ続けた身体は拒むことなく、男の熱を受け入れる。
「…貴方が女の子でしたら、私の子供を孕ますこともできましたのに…」
「…そ、んな、こと……」
「そうすれば貴方は私から逃げられないでしょう?」
ぐんと突かれてシエルは少女のような悲鳴を上げた。セバスチャンはシエルの肉壁を摩って、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てさせる。シエルはその執拗な快楽に生理的な涙を流しながら喘いだ。
「ですが、貴方のここは女の子みたいですね。淫らに開いて浅ましく男を受け入れる」
「ちが、う…」
「違わないでしょう?」
「ああああぁん!!」
シエルは悲鳴のような嬌声を上げて仰け反った。前立腺を容赦なく責められて狂ったように嬌声を上げ続けるシエルにセバスチャンが舌なめずりする。
「坊ちゃん、坊ちゃん、坊ちゃん、坊ちゃん――――」
「あっ、あっ、あっ!…あ…い、や、もう…ん…あぁあん!」
獣のように何度も腰を振り、火が出るのではと思うほどつよくシエルの幼い胎内の肉壁を摩られてシエルは頭が真っ白になった。そしてシエルは絶頂に達すると快楽の飛沫をその幼い性器から迸る。
「坊ちゃん――――」
「…ぁ…」
熱い液体がシエルの胎内の最奥で流動して、シエルは自分の身体が穢されたことが分かった。乱れた吐息のままセバスチャンはシエルの身体の上に倒れこんだ。
「…お前は僕をどうしたいんだ」
「私のものにしたい」
僕の質問に間髪を容れずに答えたセバスチャンは僕の唇を人差し指でそっと撫でた。
「貴方が私だけのものになってくれるというなら私は何を失っても構わない」
「……僕はお前と契約したんだ。誰のものにもならない」
「そういう意味ではありません」
「……………」
「――――本当は坊ちゃんだって分かっているでしょう?私が何で貴方そっくりのレプリカの人形を作って抱いていたか」
知りたくない。そんなの。シエルは顔を横に向けてセバスチャンを視界から逸らそうとするがそれは許さないとばかりにセバスチャンは顔を傾けて執拗にシエルの唇を追う。激しい口づけで息が切れ切れになってようやくセバスチャンはシエルを開放した。
「貴方は見たはずです。あのレプリカを通して私が『坊ちゃん』を抱く光景を」
何度も見たあの夢。僕の胎内を何度も穢して、僕の身体にもその欲望を振りかけた。僕の白い腹の上にべったりとついたセバスチャンの精液。それを掬い取ってセバスチャンはシエルに舐めさせている。最初に見た時はあまりの悍ましさに吐き気がした。
「いつも考えていました。本物の貴方はどんな声で啼くのだろうか、どんな甘い嬌声を上げて私を受け入れるのか、坊ちゃんの身体の中はどれだけ熱くて心地いいのだろうか、その宝石のような瞳が快楽に濡れて淫らに私を求める光景を私は想像しながらいつも抱いていた」
シエルは狂気の沙汰だ、と思った。セバスチャンはシエルを見つめてまたキスをした。
「もうお分かりでしょう?」
「何を?」
「私が貴方を愛していることを」
セバスチャンはシエルを抱きしめると少し痩せてしまいましたねと耳元で囁いた。
「馬鹿馬鹿しい。悪魔が人間を愛してるなんて信じると思うか?」
「ええ、そうでしょうね、私も信じたくなかった」
「…………」
「悪魔にとって人間など食料、ただの家畜も同然だった、いや、はずでした。でも貴方の傍に居るうちに私は悪魔としての決定的なものを失ってしまったのでしょうね」
セバスチャンは自嘲気味に呟いた。そこにシエルはセバスチャンの諦観を見た。



「―――――貴方と出会う前に戻れたら、どんなに楽か分からない」



「ふっ…はははははは!」
「……坊ちゃん?」
突然笑い出したシエルにセバスチャンが訝しげにこちらを見る。
その言葉で分かってしまった。どれだけこいつが僕を愛しているのか。悪魔の癖にそれはただひたすら純粋で無邪気な恋であった。愚直すぎるほどの想いはシエルに悲しみを与えた。あの時、僕をあの地獄から救ってくれるのなら誰でも良かった。人間でも悪魔でも『セバスチャン』以外の誰でも良かったのだ、自分は。
だけどこいつは僕以外の誰かでは駄目なのだという。だとすれば誰でもいい自分と、自分でなければ駄目だというセバスチャンと。優先するなら後者なんだろうなと思う。僕でなければ駄目だというセバスチャンに誰でもいい自分が譲ってやらないといけないのだろう。
人形を抱き続けて本物が手に入れば逃げられないよう手枷足枷を嵌めて鎖に繋いで毎晩飽くことなく抱き続けている。そこにセバスチャンの狂気と不安と孤独をシエルは垣間見た。
それだけしなければ安心できない、そこまでしても心から安堵できないセバスチャンにシエルは哀れにと共に暗い悦びを感じた。その瞬間シエルはまるで発狂したかのように笑い出した。もしかしたら、毎夜抱かれ続けているうちに僕も狂ってしまったのかもしれない。セバスチャンの狂気に蝕まれて。セバスチャンの苦しむ顔、僕への執着と肉欲、狂気に苛まれていくこいつを見ているのが嬉しくて嬉しくて堪らない。セバスチャンは自分と出会って悪魔として決定的な何かを失ったと言った。ならばシエルはセバスチャンに出会って人間として大切な何かを失ってしまったのだろう。




愛する人を苦しませることに悦楽を感じるなんて。



「セバスチャン」
「何でしょう?」
笑いを収めてから初めて自分からセバスチャンに腕を伸ばしてキスをした。セバスチャンは一瞬だけ驚いたように瞳孔を開いてからゆっくりと瞼を閉じて僕の口づけに答え始めた。


「何のおつもりですか」
セバスチャンは口づけを解いた後に胡乱げに問いただした。僕はセバスチャンの背中に腕を回して抱きつくとセバスチャンも僕の背中に腕を回してつよく抱きしめ返す。




「僕も愛してるよ、セバスチャン」



耳元でとびっきり甘く囁いてやった。まるで嬌声のように。シエルは手をセバスチャンの首筋まで滑らせてそっと艶めかしくセバスチャンの首筋や耳元を愛撫する。シエルとセバスチャンはまだ繋がったままで、シエルの胎内で途端にセバスチャンの熱が膨張していくのを感じた。シエルはセバスチャンの首筋をいやらしく舐めてセバスチャンの耳元でわざと感じ入っているような吐息を聞かせる。セバスチャンはシエルの背中に回していた腕を解いてまたシエルの両手を強く握って激しく腰の律動を開始した。


「あ、あ、セバス、チャン!」
「………っく」


セバスチャンの絶頂が近づくにつれてお互いの吐息の乱れが酷くなっていく。シエルはもう一度セバスチャンが達する前にセバスチャンの瞳を見つめながらキスをする。セバスチャンも瞳は開いたままだった。


「ああああぁ!」
「………っくぅ!」



シエルが今日一番高い嬌声を上げると同時にセバスチャンも艶っぽく呻いてシエルの胎内に白濁をぶちまけた。






「セバスチャン、アイシテル」



お互いの息が整ってから、シエルは嗤ってセバスチャンに愛を囁いた。セバスチャンのこめかみから伝った汗がシエルの目元に落ちてそのまま流れていった。



「坊ちゃん」


セバスチャンは身体を起こしてそっとシエルの目元の涙を拭って頬を撫でる。そのまま顔を寄せてキスする直前に呟いた。






「やっぱり、貴方はウソツキですね」


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【2011/08/04 23:13 】 | Gift | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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