①
しかし、警鐘の意味はすぐに理解することとなる。
「やっぱりセバスチャンはずるいね」
この舞台を作り上げた餓鬼はそう言った。
“ずるい”
その言葉は、彼の気持ちを知りつつも“まだ”本当の恋人同士として接していないからだろう。
自分の気持ちを彼に伝えて、そしてこんな作られた舞台を降りる…否、この舞台を本物のものとする。
しかしまだ自分は彼に気持ちを伝えていなかった。
「ま、いいよ。俺はシエルと話がしたいから部屋から出てって」
「…私は邪魔だと?」
「うん。だってセバスチャンがいたらシエルは素直に話さないだろう?」
「“今は恋人”の私が離れて、別の人間と二人きりにさせろというのは面白い話ですね」
「……その台詞、もう一度言ってよ」
なぜですか。
そう聞く言葉は出てこない。
いいですよ。
そう嗤う言葉も出てこない。
「そうだ、シエルを見て言って。さっきの台詞」
「・・・・」
言えるわけが、ないのだ。
―――ではいいのですね?私が“私のまま”貴方の恋人になって
嘘だ。
本当にそうするのならば、もう彼にこの気持ちを伝えている。
むしろ、そんなことを確認する必要なんてどこにもない。
欲しいなら手に入れる、それが己の筈なのだから。
(気が付いてはいけない) 気が付いたら、ゲームオーバー。
ならば、なぜ確認した。
(もう答えは出ていた筈だ。昨日気が付いていなかっただけで)
きっとその確認は無意識で、
(―――もし僕に大切な人が出来たのならば、そいつを僕から遠ざける)
本当は、本当に聞きたかったのは、
―――ではいいのですね?私が“悪魔の私が”貴方の恋人になって
“ずるいよ。セバスチャンはずるい。ねぇ?”
「もうやめろアロイスっ」
彼は大きな声で、止めに入る。
「セバスチャンも変な意地を張ってないで別の仕事をしてこい。別にもうここでやらなければいけない仕事はないだろう。食器を片付けるのも後ででいい」
きっと自分と餓鬼の間に生まれた不穏な空気を感じて、止めに入ってくれたのだろう。
その証拠に彼からは不安そうな視線を感じる。
だから。
「嫉妬させました?」
「…さっさと出て行けッ!!」
笑ってごまかして。
出て行った部屋の先で、
「…本当に、私はずるいですね」
壁に凭れ掛かり、小さくそう笑った。
②
気が付いた。
もう気が付いてしまった。
どうして自分が彼に気持ちを伝えなかったのか。
ただ、逃げているのだ。
己の気持ちから。
彼の気持ちから。
いずれ来る未来から。
それなのに、なんでもないように振舞って。
「どうなされました?大好きなスイーツにもあまり手をつけず…」
それなのに、彼を自分のものにしたくて。
「午前中アロイス様に何を言われたのかは知りません。ですがもう別にいいでしょう。そこまで気にすることなどありません。これ以上私以外のことを考えていたら浮気とみなしますよ」
それなのに、
それなのに、
「セバスチャン」
「……なんでしょう」
「お前はどうしてこのゲー」
気が付かないで欲しいと願っている。
己の気持ちを。
彼の気持ちを。
いずれ来る未来を。
それでも、本当は。
「いいじゃないですか。恋人同士なのですから」
口付けるのも当たり前です。
気付いて欲しいのだ。
だって、本当は喉から手が出るほど、
「セバス、チャン」
「坊ちゃん…」
彼が欲しいのだから。
矛盾した気持ち。
答えの出ない迷路。
けれど恋人ゲームは、
あと残り3日。

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