(大人パロ)
「さてと。そろそろお誘いの部屋へ向かうとするか」
シエルはポケットの中に忍ばせていた鷲の絵柄がついたコインを握り締めてニヤリと哂った。
先ほど今日の夜会の主催者から受け取った物。それは色事のお誘いの印であった。
これを手にしてその絵柄がついた部屋に来たというのは合意のサインであり、今宵一晩の夢を見ることになるというわけだ。
「もう、ですか?」
シエルの言葉を聞いたセバスチャンは無表情、そしてその顔と同じく何の感情もない声音で言う。
けれど付き合いの長いシエルは相手の心境を正確に読み取り、ポンと肩を軽く叩いた。
「そろそろゲームセットにしてもいいだろう。これ以上お相手様を待たせるのも可哀相だ」
「もっと長く首を待たせてやってもいいでしょう」
「僕が飽きたんだ。挨拶をしなければいけない連中には挨拶をしたし、これ以上ここにいてもダンスのお誘いの断りを繰り返すだけだ」
チラリと周りに視線をやれば、強い香りを放つ者たちと目線が合う。
それだけで小さな歓声があがるのだから、シエルは馬鹿馬鹿しくて頭が痛くなりそうだ。
「それもそうですね」
セバスチャンが小さく頷いたのを見て、シエルはダンス避けに持っていたグラスを一気に呷り近くのボーイに空グラスを渡す。
そして行くぞと短く声を掛けて、喧騒とも同等にとれる鮮やかなホールを後にした。
調べた情報によると、鷲の絵柄がついた部屋はこの屋敷の一番奥にある。
イコールそれはこの屋敷の中で一番いい部屋だということだ。
この僕を呼ぶには勿体無い部屋だな、とシエルは冗談めかして呟いた。
「貴方を呼ぶことがすでに出過ぎた真似ですよ」
その呟きを聞き逃すことが無かったセバスチャンは奥の部屋へ進みながら言葉を返す。
周りにはもう人の気配はどこにも無く、まるで先ほどの場所から切り離された異空間のような感覚だ。
まぁ、色事をするにはピッタリというわけだ。
「そんなに怒ってくれるな、セバスチャン」
元々こうなるように仕向けたのは僕の方だ。
シエルは苦笑する。
これから会う相手は裏の世界の住人で、女王の瞳に睨まれた者だ。
それを排除するべくこの夜会に参加しご対面というわけだが、表の人間が多くいるところで裏の話しなど出来るわけもなく、そして排除するなんてことももってのほか。
よってシエルは自分自身を使った・・・つまりは色事に誘われるよう、この夜会の少し前からアプローチを掛けていた。
そして今日あっけなく釣れたわけだが・・・。
「こんなことをしなくても、私がとっ捕まえて聞き出せばいいでしょう」
証拠が足りないのだ。
相手が本当に法に触れた者なのかを確定する証拠が。
だから尚更色事へと進めたというわけだ。
欲に酔った奴ほど良く喋る奴はいないとシエルは今までの経験上理解している。
そして。
「それじゃぁ、僕が仕事をしたことにならないだろう?」
悪魔にとってこの手段が一番嫌いだということも理解しているのだ。
「・・・意地悪ですね」
「お前から意地悪だなんて言葉が出てくると気持ち悪いな」
「酷いお方です」
セバスチャンはあくまで静かに言う。
別にこちらが相手に指一本触れさせることなどしないと分かっていても、いつもこの悪魔は不機嫌になる。
その独占欲が心地よく、シエルは口角を吊り上げ一歩セバスチャンよりも前に進みでて襟首を掴み、まだ少し高い位置にある顔を無理やり此方に向けて自分から口付けた。
「・・・ッ!!」
驚いたようにセバスチャンは一瞬だけ息を詰まらせるのを感じるが、シエルはそれを好都合と思い、そのまま薄く開いている唇に舌をねじ込む。
口腔を荒々しく舐め回し、舌を強く吸えば相手の肩がピクリと上に跳ねた。
シエルは掴んでいた襟首を離してその首周りに腕を絡めれば、足の間にセバスチャンの足が入り込み、そのまま壁に押し付けられる形になる。
ダンっと強く押し付けられた身体は少しの衝撃を受けたが唇は離れはしない。
「ん・・・ンン」
シエルからしていた口付けがいつの間にか形勢逆転し、セバスチャンの舌が口腔に入り込み甘く愛撫していく。
どんなに口付けを交わしている年月が経とうとも慣れることなどなく、先ほどの余裕もだんだんと無くなってきた。
「ッ・・・ン・・んぁ」
そろそろ息が苦しくなり舌を軽く噛むとセバスチャンも同じように悪戯げにシエルの舌を噛んで離れていく。
はぁはぁ、と息を乱したまま見つめ合えば、相手もどこか余裕なさげに眉を顰め名前を囁きながら頬を優しく撫でた。
そしてそのままセバスチャンはシエルの首元のボタンを外し、ギリギリの位置に唇を寄せる。
その間逆の手は服の下から入り込み、腰周りを厭らしく撫で上げていく。
「ちょ、セバスチャンっ」
まさかここまでされるとは思わなかったシエルは頬を染めて自分の首元に埋める頭を引っ張るが、びくともしない。
チュっと濡れた音がしたかと思えば、強く吸われ、誰もいない屋敷の廊下に小さな声が響いた。
「ま、だめ、やめろセバスチャン」
何度も繰り返されるソレに、ん・・・ん・・と耐えながら言えば、ようやくセバスチャンは顔を上げシエルと目線を絡ませた。
「ボタン1つ外せば、綺麗な痕が見えてしまいますからね」
「っ!!」
「貴方は私のものです」
すべてなにもかもぜんぶ。
この身体も。
魂も。
「・・・分かっている」
シエルはセバスチャンの頭を抱き、露わになっている自分の素肌に触れ合わせる。
全部ぜんぶ、お前の物だと分からせる為に。
すると悪戯げに舌でソコを舐められ、ビクリと肩を震わせれば笑った息が濡れたそこを冷やす。
「ところで、近くに鷲以外の部屋があるみたいですが」
「・・・・」
「その持て余した身体を冷やしては如何ですか?」
それは言わずもがな、正真正銘の色事のお誘いで。
そして相手はこれから排除するべき相手ではなく、シエルの恋人で。
そしてなにより、首を横に振る余裕なんてもうどこにもなくて。
「冷やすどころか、熱くなるだけだろう」
結局は自分がセバスチャンに酔わされている真実に舌打ちをし、大きくため息をつきながらシエルは呟いた。
それはコインなんて必要ない合意のサイン。
セバスチャンは嬉しそうに微笑んで、シエルを抱き上げ別の部屋へと歩いていく。
焦る必要はない。
夜はまだまだこれからなのだから。
End

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