「・・・・」
「・・・・」
どうしてこういう状況になっているのか分からない。
ただ目の前に執事が来た。それに気が付いて紙面を眺めていた瞳を其方に向け、そして視線を絡めた。
そしてそのまま。そう、そのまま。
何も喋ることもなく、視線を絡ませたまま時を過ごしている。
いうなれば、見つめ合っているのだ。僕とセバスチャンは。
赤い瞳が此方を見ている。
ずっと見すぎてその瞳に自分が映り、その自分と瞳を合わせているような気持ちにもなってくる。
なぜこんなことをしているのだろうか。
だが今更逸らすのはなんだか負けた気がして嫌だ。
あの時すぐに目線を逸らしてしまえば良かった。
そうしていれば、こんな無駄な時間を過ごす羽目にはならなかった筈だ。
「・・・・」
「・・・・」
無言が続く執務室。
けれど自分の鼓動は酷く煩い。
吐く息までも熱い気がして、それがバレていないか不安にもなってくる。
こういう時自分の負けず嫌いの性格が仇となるのだ。
このまま仕事に戻ればいいものを。
早く向こうが視線を逸らせばいいんだと自分のことを棚にあげてシエルは睨みつける。
どれくらい時間が経ったのだろうか。
もしかしたら一時間、もしかしたら一分。
長いのか短いのかシエルには分からない。
コツリ。
何の音もしなかった部屋にセバスチャンの足音が響き渡った。
けれど瞳は合わせたまま。
ゆっくりと近づいてくる。
皴になるほど紙面を握り締め、近づいてくるセバスチャンを待ち受ける。
(ここまで我慢したんだ、僕から逸らしてなどしてやるものか)
意地で相手を見つめていればフッと口元に弧を描き屈んでくる。
そうするとセバスチャンとシエルの顔の高さは同じになり・・・そこで何をされるのかシエルは分かり、顔を赤くした。
歩調と同じようにゆっくりと顔が近づいてくる。
見つめ合ったまま。
唇と唇が触れ合うまであと少し。
(も、無理だッ!!!)
吐息を感じたところで、ついにシエルは自分から瞳を閉じた。
「私の勝ちですね」
End

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