太陽が高く昇り、朝が来たことを告げる。
昨晩も遅くまで戯れていたのだから、きっと寝起きは悪いに違いない。
そのことにため息をつきたくなるが、その片棒を担いでいるのは自分なのだから苦笑せざるおえないだろう。
「おはようございます坊ちゃん」
カーテンを勢い良く開け、陽の光で部屋を明るくさせる。
すっきりと目を覚まさせるのはコレが一番いいと医学書で読んだのだ。
いつもならばここで呻き声が聞こえたり、良い時はそのまま目を覚ましたりと様々だが・・・。
「坊ちゃん?」
今日は布団に籠ったまま顔を上げることも、ピクリと動くこともない。
太陽の光が目に入らぬほど深い眠りについているのだろうか。
カーテンを端にまとめたセバスチャンはベッドに近寄り、再度声を掛けてシーツの上から触れればビクリと身体が跳ねた。
どうやら起きていることは起きているらしい。
「どうしました?」
目を覚ますのが嫌なら文句の一言が飛んでいるはず。でも飛んでこない。
ということはどこか具合が悪いのだろうか。
昨晩のこともあり、不安を覚えたセバスチャンは顔を見ようとシーツに手を掛けるが。
「僕に触るな」
小さな声で、拒絶の言葉。
それは小さいだけではなくシーツにくぐもった声だったが、悪魔であるセバスチャンは正確にその言葉を耳にし、動きを止めた。
「どうされたのです」
「・・・田中を呼べ」
質問には答えず、また拒絶の言葉。
「なぜですか」
「・・・たまにはいいだろう」
「貴方の執事はこの私です」
「・・・・」
シエルは執事という単語に一瞬身体を震わせ黙り込む。
答えが出てこない問答に苛立ったセバスチャンは無理やりシーツを剥ぎ、その顔を覗きこんだ。
何が何でも理由を聞いてやる、そんな強い気持ちでいたのだが。
「・・・?!」
泣きそうな顔で唇を噛み締めるシエルの表情に、そんな気持ちは霧散していってしまった。
シーツを無理やり剥がされたシエルは、そんな表情のままでギロリとセバスチャンを睨みつけ口を開く。
「いつだって貴様は執事執事と言って仕事を優先させる。それは使用人として美点かもしれないが」
恋人としては、最悪だ。
そう言ったシエルは悔しそうに枕を抱きしめ、顔を隠してしまう。
その抱きしめる姿は昨晩のことを思い出させるのに、どこか寂しげだ。
きっと抱きしめている相手が枕だからだろうか。
(あ・・・)
そこでやっとセバスチャンはシエルが怒っている理由に辿り着いた。
「坊ちゃん・・・」
セバスチャンは枕を抱きしめるシエルに覆い被さり、枕ごと抱きしめる。
昨晩も、いや、二人で抱き合った後に目を覚ました時は、いつも枕を抱きしめて眠っていたのだろうか。
「寂しい思いをさせてしまって、すみません」
いつも抱き合いシエルが眠った後、セバスチャンはベッドから抜け出し自室へと戻っていた。
それは恋人と執事と・・・その役をきちんと切り分けるため。
朝日が昇れば執事に戻る、ただそれだけの為に恋人を一人で寝かせていたのだ。
今更とも言える執事としての美学を守る為だけに。
「馬鹿セバス」
枕に顔を埋めたままシエルは悪態をつく。
「執事としての役をこなしたい気持ちも分かるが、恋人という役もきちんとこなせ」
抱きしめたくせに、独りでベッドに寝かせるな。
まるで泣いているかのような声音に、セバスチャンはどれほど寂しい思いをさせていたのかと胸が締め付けられて。
「・・・・・・シエル」
めいいっぱいの愛を込めて、抱きしめた身体に口付けた。
end

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