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【2017/09/25 02:36 】 |
Spicyな嫉妬
Spicyシリーズ





気持ちを受け止めたからって返すつもりは一切ない。
アイツはこれからも僕が契約した悪魔であって。
それ以上もそれ以下もない。
けれど。

これは一体なんなのだろうか。
この気持ちは。

一体なんだっただろうか。


― Spicyな嫉妬 -


「では伯爵は次の商品の案をすでに考えていると?」
「はい。子供はすぐに厭き、親に新しい玩具を強請るでしょう。その親も位の高い貴族でしたら、流行の先端を行こうと新たに発売された玩具を買う…。そこを突くのです」
「なるほど。流石はファントム社社長。先を見越しての行動なのですなぁ」
「いえいえ、自分がまだ子供だから分かることなので。先を見越しているよりも自分を見ていると言った方が正しいかもしれません」
「またまた、そんなことを」

大きく笑いながら立派な髭を生やした男はシエルの背中をバシリと叩く。
周りも楽しそうに笑みを浮かべ、このファントム社の小さな社長を受け入れいている様子だ。
シエルは叩かれた背中を撫でつつ、その周りと同じように笑みを浮かべるが。
(気安く触るな、このクソジジイがっ)
内心は酷く苛立っていた。



シエル・ファントムハイヴは裏社会の秩序であり、政府の汚れ役を引き受ける女王の番犬。
けれど表の顔では人気玩具メーカー、ファントム社社長だ。
2つの顔を持つシエルは、その2つの顔があるだけに出席しなければいけない夜会は多い。
今回の夜会は表の顔、ファントム社の社長としての出席だった。
裏の顔での夜会だったら、ここまで愛想を振りまく必要はない。なんせ自分こそが裏社会の秩序であるのだから。
だが表の顔ではそうはいかない。
社会へ対応するには、気品よく、そして貴族らしく優雅に。だが高飛車であってはいけない。
相手を立てつつも自分の位置をキープ。そうしなければ、この歳でファントム社社長の座はあっという間に崩れ落ちてしまうだろう。
だからシエルはあらゆるものを我慢して笑顔を作り上げているのだ。

「すみません、まだ挨拶が済んでいない方がいらっしゃいますので…」
「おぉ、そうだった。挨拶回りをしていたのだったな」

引き止めてしまって悪かった、との言葉に内心では大きく頷き、口では「いえ、お話が出来て良かったです」と返す。

「また是非この若輩者にお話をお聞かせください」
「あぁ勿論だ。今度は私の家に遊びにおいで」
「ありがとうございます」

それでは、と一礼し、その場を後にする。
シエルが歩き出せば、同じように足を踏み出す人物が。

「随分と素晴らしい笑顔ですね」
「黙れ。少しくらい先を促す言葉くらい掛けたらどうだ」
「そのような命令はございませんでしたので」

斜め後ろに立つ男、否、悪魔セバスチャン・ミカエリスはシエルの後に続き、一緒に歩いていく。
その顔には嫌味ったらしい笑みを浮かべ、まるでシエルの苛立っている姿を見るのを愉しんでいるかのようだ。
いや、きっと愉しんでいるのだろう。
この悪魔はそういう奴だ。
そして。

「主人を思いやる気持ちは?」
「思いやる気持ち、ですか。執事としてでしたら主人の仕事を上手く回すため、先ほどのような時は手を出さない方が宜しいかと」
「……執事としてということは、別の場合もあるということか?」
「それは坊ちゃんがよくお分かりでしょう?」

その言葉に足を止め、シエルは振り返る。
そこには嫌味な顔と。そしてほんの少しの苛立ち。
それが何なのかはアンダーテイカーの件で学んだので、セバスチャンの言う通り“よく分かっている”

「なら主人を思いやる気持ちはいらないな」

フン、と再び前を向いて歩き出し、視界からセバスチャンを外した。
ここの場で“何か”されるとは思わないけれど、コイツを怒らせたら少々厄介だろう。
背中を叩かれたぐらいはまだ許されるみたいだが。
ただでさえこの夜会は面倒だというのに、これ以上面倒ごとは増やしたくない。
シエルはまだ挨拶していない人を探しキョロキョロと視線を動かせば、クスリと笑い声がシエルの耳に届いた。

「やはり冷たい方ですね。やっとそこまで私のことを分かってくださったというのに、他に何か言葉を掛けてくださらないのですか?」
「他に貴様に掛ける言葉などないだろう」
「坊ちゃんに関わる人間に手を出さないで我慢をしている犬への褒美は?」
「我慢して当たり前のことに褒美などいちいちやっていられるか」

振り返ることもせず投げ捨てるように言えば、ほらやはり冷たい、とセバスチャンは笑う。
まだこうやって笑っているうちが花だろう。
(…やはりもう厄介だな)
自分も嫌いな夜会だ。早く挨拶を済ませ、さっさと帰ろう。
そう思い、シエルは一人内心で呆れるように頷いた。







「ファントムハイヴ伯爵!」
「こんばんは、シュバー伯爵。挨拶が遅くなってしまって申し訳ありません」
「いやいや、伯爵は顔が広いですから!挨拶をしなければいけない人が多くて大変でしょう」
「シュバー伯爵ほどではありませんよ」

言いながら作り笑顔を浮かべた先には短く切りそろえられた黒髪の男。
細身の身体でシエルの身長よりも頭二個分くらい高い。服装も髪の色と同じ黒色だ。
このような華やかな場所で黒など…と思うものだが、この男には他の派手な色よりもこのような黒い服が一番似合っているだろう。
こちらに向けてくる笑顔も柔らかく、どこか堅実さを漂わせている。

シエルはシュバーに差し出された手に嫌な顔を1つ見せないようにしながらニコヤカに握手をした。

「疲れただろう?夜風を浴びたらどうかな」
「あ、いえ。私は…」

出来るだけ簡単な挨拶で済ませたいのだが、そんなことも言えるはずもなく。
シュバーはシエルの手を握ったままバルコニーへと足を運ぼうとし始めたが、それをやんわりと制する声が。

「申し訳ありません、シュバー様。主人にはまだ挨拶をしなければならない方がいらっしゃいますので」

シュバーと同じ黒髪の悪魔がいつの間にかシエルの一歩前へと進み出て、引き剥がす。
その動作は声と同じように柔らかだが、ただ瞳だけは真っ赤に燃えていた。
(これは助かったのか助かっていないのか分からない状態だな…)
それを見たシエルは内心でため息をつくが、何も知らない人間から見たらその姿に恐怖など感じるわけがなく、それはシュバーも同じ。

「だが、ずっと挨拶に回っていたら疲れてしまうだろう」
私も若いうちから、この座にいたから大変さはよく分かっているつもりだよ。

苦笑のような笑みを浮かべて言う。
そこには計算も企みも感じない、ただ純粋な気遣い。
裏社会でも表社会でも、このような夜会は嫌な噂をしたり相手を貶めたりする人間が多いのだが、どうやらこの人間は“そちらの方”の人間ではないらしい。
シエルはそんな珍しいシュバーにクスリと笑い、また口を開こうとしていたセバスチャンを後ろに下がらせる。

「相手に失礼だ、下がれセバスチャン」
「ですが」
「申し訳ありませんシュバー伯爵。私の執事が出過ぎた真似を」
「全然だよ。主人思いのいい執事だ」

(主人思い、ねぇ?)
言われた言葉に一瞬だけ目線をそちらにやれば、赤い瞳が意味ありげに細められた。

「なんだか余計なお世話だったみたいで、すまなかったね」
「そんなことありません。シュバー伯爵のお気持ちは凄く嬉しかったですよ」

黒髪の頭を掻きながら謝るシュバーに、シエルは今日ここで初めて本物の笑みを浮かべて言う。
社会の“色”に染まってないその姿を見るのはどこか滑稽にも感じるけれど、悪い気はしない。
だからシエルのその言葉は本物だった。
するとシュバーもシエルの言葉に笑みを浮かべ何か言おうと口を開いたのだが、再びセバスチャンがそれを制して
「ではそろそろ参りましょう」とシエルを促した。
また失礼な態度を…とも思ったが、また変に長くなったりしても嫌なので、それにそのまま流されようと思ったのだが。

「あの、少し宜しいかしら」

突然女性の声。
シエルとセバスチャンは眉を顰めながら振り返れば、香水の香りをきつく放つ派手な女性が立っていた。
その顔に見覚えなどなく、仕事関係の人間ではないだろう。それに。
(…僕に用事ではないらしいな)
女性の視線はシエルではなく、セバスチャンの方へと向いている。
それにどことなく頬を赤く染めているような。

「何か私の執事に御用ですか?」

もう答えは半分以上分かっているけれど、シエルは笑みを浮かべながら聞いてやる。
すると相手は「えぇ」と、何かを自慢でもするのかというように自信満々に頷いた。

「少しこの執事を貸していただけない?」
「これを、ですか」
「えぇ。貴方はそこのお方とお話をしているようですし、少しくらいいいでしょう?」

女性はそう言いながらセバスチャンの腕に自分の腕を絡めて、シエルにではなくセバスチャンに「ね?」と同意を求めている。
このマナーのなっていなさを見る限り、どこぞの“パパ”の夜会についてきた“ガキ”なのだろう。
きっと前々からファントムハイヴ家の執事の噂を耳にしていたに違いない。
だがシエルは、そんな彼女の行動よりも。

なぜセバスチャンが彼女の腕を振り払わないのかが疑問だった。

彼は今この場では執事だ。
けれど彼が気に食わないことがあったら執事の皮を最低限剥がして、それを拒絶していく。
先ほどのシェバーのように。
だが、今彼は彼女の腕を振り払うことはせず、そのまま絡ませている。
(あんなに僕と伯爵の手は振り解かせたのに)
この違いは何なのか。
その答えは簡単に導かれる。

結局悪魔も人間の男と同じだということだ。

「行ってきたらどうだ、セバスチャン」
「……坊ちゃん?」
「ステキなレディのお誘いだぞ?それを断れる男がどこにいる」
「ですが私は坊ちゃんのお傍に」
「構わん」

シエルはセバスチャンからフイと顔を背け、歩いていく。
その先にはこちらを見たままどこか呆けているシェバー伯爵が。

「僕はバルコニーでシェバー伯爵と少しの間休憩していよう」
「……それは本気で言っておられるのですか」
「あぁ。一度断ってしまっておいてなんなのですが…宜しいですか?」

視線を向け苦笑しながら問えばシェバー伯爵はハッとしたような表情になり、勿論だ!と両手を広げた。

「ということだ、セバスチャン。僕はシェバー伯爵と“二人で”バルコニーにいる。お前はそのレディを満足させてから来い」

シエルはセバスチャンに振り返ることなく冷たく言い放ち、

「では行きましょう、シェバー伯爵」
「あ、あぁ」

バルコニーへと足を進める。
背中からじっとこちらを見つめる視線を感じるが、やはり振り返ることはしない。
女性と腕を組んだ悪魔なんて見たくない。僕が契約した相手は、もっと悪魔らしくて。

あんな悪魔、シエル・ファントムハイヴには必要ない。

シエルは歩を進めさせながらも、口元を引きつらせた。











「大丈夫?伯爵」
「え?」

少し屈んだ状態でこちらを覗きこんでくるシェバーに、シエルは驚いたように身を引いた。
バルコニーには室内の明りが漏れている程度の明るさしかなく、相手の黒は闇夜に紛れてしまいそうだ。
咄嗟にとってしまった行動にシエルが謝れば、シェバーはその黒髪を揺らしながら優しく笑う。

「そんなにあの執事のことが気になるのかな」
「いえ、そんなことありませんよ」
「でもさっきから心ここに在らずって感じだよ」
「…そうですか?」

先ほどまで互いに他愛ない話しをしていたが、自分の仮面は壊れていなかったはずだ。
若干警戒するように言えば、相手はバルコニーの手摺に寄り掛かり夜空を見上げた。

「別にいつもの調子で話してくれても、咎めたり悪い噂を流したりしないよ」
「・・・・」
「そう言う奴の方が信じられない、かな」
「…貴方は本当に変わった方ですね」
「よく言われるよ」

そんなに変わっているように自分では思えないんだけどな、とまた笑うシェバーをシエルは真っ直ぐ見つめる。
黒髪に細身の長身。その姿は今ここにいない彼を思い起こさせるが、彼とは似ても似つかない。

「貴方はこの社会の色に染まっていないんです」

言いながらシエルはどこか自嘲的な笑みを浮かべる。
自分でもどうしてか分からない。
けれどなぜか自嘲的な笑みが零れた。

「普通ならそんな純粋な心など、押しつぶされてしまうんです。そんな心はただの足を掬い取られる甘さにしかならず、そして…」

己の足を引っ張る弱さでしかない、という言葉は吐き出さず、自分の中に飲み込む。
彼はあくまで表社会の人間なのだ。
そこまで言う必要はないだろう。
だがシェバーはその言葉すら見抜いたかのように目線だけをシエルに向けた。
しかしそれも鋭いものではなく、どこまでも優しいもの。

「確かに“ここ”は汚いことが多いね。だけど、別に私がそれに染まっていないわけではないと思うよ」
ただ慣れているだけさ。

それに、とシェバーは続けながら、手を伸ばしてシエルの頭をそっと撫でた。

「染まっていないのは君じゃないかな、ファントムハイヴ伯爵」
「………ッ!!」

それをシエルはパンと叩き落とす。
勿論相手はただ撫でただけで何か意図があるわけではないので、その叩き落された手がシエルの方へ戻ってくることはない。
彼は本当にただ純粋な気持ちで撫でただけなのだから。
けれどシエルは。

「何を仰いますか、シェバー伯爵」

その“優しさ”こそが気持ち悪かった。

「私はその色には染まっていませんが、別の色には染まっていますよ」
別に染まっていないわけではありません。

言いながらシエルは一歩後ろに下がり、バルコニーの手摺に手を掛ける。
手袋越しに無機物の冷たさを感じるが慰めにもなりはしない。

「じゃぁその色に染め上げているのは、あの執事かな?」
「随分とアレの名前を出したがりますね。何か気に掛かることでも?」
「だって伯爵は」

「坊ちゃん!」

突然自分を呼ぶ声がしたかと思えば、そのまま視界が暗くなった。いや違う、自分の視界に黒い背中が映ったのだ。

「…そんなに睨まないで。別に何もしていないよ」
「信用なりませんと言ったら?」

セバスチャンはシェバーからシエルを隠すように前に立ち塞がる。
声音から考えるに、きっと赤い瞳で相手のことをこれでもかというように睨んでいるだろう。
シエルは自分のしたことを棚に上げて、慌ててセバスチャンの背中を叩きながら何もないと叫ぶが、セバスチャンは振り返らない。

その二人を見ていたシェバーは、セバスチャンに睨まれているというのに

「君達は本当にそっくりだね」

と笑った。

「…どういうことですか」
「そのままの意味だよ、うん」

セバスチャンの怪訝な様子にもシェバーは笑い続け、そしてまだ騒がしい室内へと足を進めた。

「これ以上怒らせちゃうのも嫌だから、私はあちらへ戻るよ。嫌な思いをさせてしまったようですまなかったね。伯爵も」
でも、一緒にお喋りをしてくれてありがとう。

一度だけシェバーは振り返り、シエルから見える位置で小さく手を振る。
その表情はどこか愉しそうで…。
けれどその意味を探る暇もなく、そのまま彼は室内へと戻っていった。

そして。
その戻った彼の口から葬儀屋の名が出たことを、シエルは知らない。





シェバーが室内へと戻り、シエルとセバスチャンは二人きりの状態になる。
が、まだ意識をシェバーに向けていたシエルはセバスチャンがこちらに振り返っていたことに気が付かず。

「さて。では私たちも参りましょうか」
「うわっ」

拒絶する間もなくセバスチャンに抱き上げられ、彼はシエルを抱き上げながらバルコニーの手摺を踏み台にその場から飛び降りた。
いきなりの出来事に心構えをしていなかったシエルは咄嗟に目を閉じて首に抱きつくが。
ふわりと香った別の香水の匂いにシエルは顔を上げ、地面に着地したセバスチャンの頬を思い切り叩いた。

「ッ…いきなり頬を叩きますか」
「下ろせ」
「別にもう挨拶に回らなければならない方はいないでしょう」
「いいから下ろせッ」

再度手を振り上げれば、セバスチャンは諦めたようにため息をつき、シエルを地面へと下ろす。
バルコニーから飛び降りた先は出入り口とは逆の方で、森のように沢山木が茂っている庭だった。
下ろされたシエルはセバスチャンから距離を取り、身体を払う。
まるで自分にまであのキツイ香水の香りが移ったかと思うと反吐がでる。

「随分な扱いですね」

それを見たセバスチャンは赤い瞳を細め、口角を吊り上げた。

「いきなりなぜそんなに怒っているのです?」
「・・・・」
「ねぇ、坊ちゃん」

距離を取ったシエルを追いかけるようにセバスチャンは腕を伸ばす。
それから逃げようとまた一歩下がるが腕を取られ、そのまま引き寄せられてしまい…。
顎を掬い上げられ顔が近づいてくるのが分かったシエルは、やめろ!と叫んだ。

「貴様ッ!外で何を考えているんだ!」
「では外じゃなければいいのですね?」
「そういうことじゃないッ」

近づいてきた顔を押しやり顔を背けるが、またあの香りが鼻腔を擽る。
目の前にはセバスチャンと腕を組むあの女性の姿が浮かび上がってきて、胃の辺りがムカムカしてくる。
(……気色悪いッ)
シエルは表情をあからさまに崩せば、セバスチャンは先ほどよりも乱暴な強い力で無理やり顎を掴んで自分の方に向けさせた。

「痛…っ」
「そんなにあの方が宜しいですか」
「痛い!セバスチャン、離せッ」
「葬儀屋さんの時といい、今回のシェバー様といい…貴方は本当に困った方ですね」
貴方が誰のものか忘れているのですか?

いつもよりも低い声で言いながら、赤い瞳でこちらを睨みつけてくる。
しかしその睨みに負けるようなシエルではない。
むしろその瞳や言葉、そして香りに、シエルの中の何かがブチリと音を立ててちぎれた。
(僕が誰のものかだって?)
そんなの僕は僕のものに決まっている。誰のものでもない。
だが、だがお前は…ッ。

「じゃぁ、貴様はどうなんだ!」

シエルも相手の襟首を掴み、揺さ振った。

「貴様だってあの女と腕を組んでいただろうがっ」
「…坊ちゃん?」
「僕が誰かといたらすぐに怒るくせに、貴様は他の女に手を出すっていうのか。あ?いつの間にか随分と首輪が緩んだなぁ、駄犬が」

怒りに任せドンと思い切り押すと、セバスチャンはシエルの様子に驚いていたのか力が抜けていたようで、よろけて数歩後ろへと下がった。
若干シエルとセバスチャンの間に距離があき、シエルはそのよろけたセバスチャンを見下すかのような視線を向けて嗤う。

「悪魔の癖にあんな下等な女に手を出すなんて…貴様にはプライドがないのか。僕はそんな安い悪魔と契約をした憶えはないんだがな」
「・・・・」
「はッ。悪魔であっても所詮は薄汚い男か」

ガッカリだ。
そう言い放ち、シエルはセバスチャンに背を向けて歩き出す。
サクサクと草を踏む音が静かな夜に響き渡り大きく感じるが、その音はシエルの耳には届いていない。
ただ今は胃の辺りがムカムカするのと、セバスチャンに対する苛立ちばかりがシエルを占めている。
そして、まだあの女の姿が頭から離れない。

どうして自分がこんな思いをしなければならないのだろうか。
夜会に来ると本当にろくなことがない。
(もう風呂に入って眠ってしまいたい)
その思いを叶えるには後ろにいる悪魔が必要不可欠なのだが、シエルは歩みを止めない。
しかし。

「誰があの女に手を出したのですか?」

セバスチャンの声にピタリと歩みを止めた。

「私はただあの女の話しを少し聞いただけです。命令通り、ね」
ねぇ、坊ちゃん。

サクリと草を踏む音が近づく。

「私からあの女に近づいたわけではないでしょう?むしろ一緒にいろと命令したのは貴方ですよ」
それなのに。
「貴方はどうしてそんなにも怒っていらっしゃるのですか?」

夜風がシエルの頬を撫でた。
振り返れば、あと2、3歩の距離の向こうにセバスチャンの姿が。
その表情はどこか苦笑しているのだが、酷く愉しそうな顔にも見える。
シエルはその顔を見つめたまま無表情で言葉を返した。

「命令の前、貴様はあの女の腕を振り払わなかった」
「あそこで振り払っていたら、ファントムハイヴ家の評判が悪くなってしまいます」
「だが僕に近づく相手には容赦なく拒絶するだろう」
「男性と女性では噂の種類が違うのですよ。広まり方もね」
「…そんなのただのいい訳だ」
「・・・・」

まっすぐ赤い瞳を見つめる。
今までこの赤い瞳を見るのが嫌だった。
だってその赤い瞳は自分を追い込むものだったから。
けれど今はなぜか、闇の中に輝くソレが美しく思える。

「貴様はどんな理由があれ、あの女の腕を振り払わなかった。困ったような素振りも見せなかった。いつもは聞かない命令もこういう時だけ素直に聞いた。なのに、貴様はシェバー伯爵と一緒にいた僕だけを責める」

おかしいだろう、そんなの。
シエルはあくまで淡々と言う。
笑顔なんて作らずに、ただ淡々と。

「貴様は僕に聞いたな、貴方は誰のものかと。僕は僕のものだ。魂はいずれ貴様のものになるだろうが、今はまだ僕のものだろう。…じゃぁ貴様は?」


「貴様は誰のものだ、セバスチャン・ミカエリス」









「…この身も」

サクリと一歩前に進む音。

「この心も」

また一歩。

「全て貴方のものですよ。マイロード、いえ、シエル・ファントムハイヴ」

夜風ではなく、セバスチャンの手がシエルの頬を撫でた。
赤い瞳が近づいてくるのを見ながらも、シエルは逃げることはしない。
いつも拒絶するはずの手を、今日は拒絶せずに受け入れる。
優しくも無い、その冷たい手を。

「…それが分かっているなら別にいい」
「坊ちゃん…」

赤い瞳と蒼い瞳がお互いの瞳で1つになり、不思議な感覚に陥る。
その相手の瞳と自分の瞳が近くなることを視覚で理解しながらもシエルはそのままで。
そっと唇に柔らかい感触が触れた。

「…坊ちゃん」

名前を呼んで、もう一度。
けれど今度は一瞬じゃなくて、相手の唇を味わうかのような口付け。
でもシエルは拒絶しなかった。


頭のどこかで“やめろ”と思っている筈なのに今日は身体が動かない。
おかしいだろう、コイツの口付けを受け入れているだなんて。
こんなの自分じゃない。
さっきの質問だってそうだ。
何であんなことを聞いてしまったんだろう。
あんなの、まるでお前は僕のものだと言っているようなものじゃないか。
いや、でもそういうことじゃなくて。ただ…。

そう、ただ。
いつも僕のことが好きだと言っているのに、いつも僕だけしか見ていないのに
別の女にも手を出すだなんて許せなかっただけだ。

“自分と契約している悪魔”がそんなあちこちに手を出すような奴だったなんて、許せなかっただけだ。

ただ、それだけ。



「ん…はぁ…」
「…坊ちゃん」

唇が離れ息をつけば、チュっと額に口付けられる。
そのまま抱きしめようとセバスチャンが腕を回してくるが。

「……ストップ」
「なぜですか」

またフワリと香る香水の匂い。

「お前…臭い」
「は?」

またあからさまに表情を歪めながら言えばセバスチャンは眉を顰め、ピクリと口角を引きつらせる。
シエルは自分の腕で鼻と口元を覆い、香水臭い、と言えば、また別の意味でセバスチャンはピクリと反応した。

「あの女の匂いがする」
「…だからもしかして、先ほど私を叩いたのですか?」
「……僕にその匂いが移ったらどうしてくれる」

セバスチャンの言葉に素直に頷くことはせず遠回しに、そうだと伝える。
すると相手は、すみませんでした、と頭を下げ、そして。

「坊ちゃんにお願いがあります」

唐突にそう言った。

「…なんだ」

いつもは“お願い”だなんて単語を口にしないのに一体何なんだ。
彼はお願いをする前に、全て勝手にしてしまうのだから。
珍しいことに怪訝な表情をすれば、セバスチャンはおもむろに燕尾服を脱ぎ、そして。

「………っ!!」

目の前でそれを燃やす。
彼の手の中にあった筈の燕尾服は一瞬にして燃え上がり、灰すらも残らずに消えていった。
それと共に消えたのは、あの女の匂い。
シエルが驚きに瞳を見開いていれば、セバスチャンはにっこり笑って、そのお願い事を口にした。

「新しい燕尾服を買ってください」
「……燃やしてから言うな、燃やしてから」
「燃やす前に言ったら坊ちゃんは洗えばいい、と仰るでしょう?」
「当たり前だ。それで済むんだからな」
「それじゃぁ済まないでしょう」

セバスチャンはギュッとシエルを抱きしめる。
それに、お前!と声を上げるも、元のセバスチャンの香りがどこか久しぶりな感じがして。
また拒絶することもなく、相手の胸元に顔を埋めた。

「坊ちゃんの心を掻き乱すものなど、私だけで十分です」
「…馬鹿か、お前は」
「馬鹿で結構ですよ」

言いながらトントン、と背中を軽く叩く。
そのリズムがどこか心地よくて、今日は本当に変な日だと考えつつも瞳を閉じれば。
リズムを刻んでいた手が止まり、ツツツ…と背中を辿って腰の方へ降りていく感触にシエルは慌てて顔を上げた。

「おいッ…!!」
「まさかあんな女にここまで嫉妬をしてくださるなんて…。坊ちゃんはここまで成長なさってくださっていたのですね」
「……!!!!」

どこかウットリしながら呟く相手に、本能が逃げろと叫ぶが、自分の身体はその相手に抱きしめられてしまっているので逃げることなど出来ない。
シエルは背中に冷や汗が流れたのを感じた。

「嫌な思いをさせてしまって申し訳ありませんでした」
「別に僕は嫉妬なんかッ」
「していないとでも?あれを嫉妬と言わないで何を嫉妬だと言うのですか」
「違う!僕はただ悪魔のくせにって…やめろ!」

首筋に顔を埋めてくるセバスチャンにシエルはワイシャツを引っ張るが離れることはない。

「まぁ、嫉妬していたのは私もなのですが」
「ん…ッ…ちょ、セバスチャっ…」

耳を指で擽られ首を縮めれば、それを追いかけるように今度は舌を伸ばして擽ってくる。
ゾクリとした感覚に首を振るがセバスチャンはやめるという選択肢などない。

「細身の長身に黒髪の男。貴方とシェバー伯爵の後ろ姿を見ているのは酷く苛立ちましたよ」
「ん…ふ…ッ」
「なんで隣にいるのが私じゃないのかってね」
「っ……んんんん!!」

また口付けられ、今度は閉じている唇をこじ開けて口腔へと進入してくる。
逃げた舌を追い、絡ませ、吸う。
ただそれだけなのに、全身から力が抜けてしまい足元が震えてきた。
するとそれに気が付いたセバスチャンは足の間に自分の足を差し込み、後ろにある木にシエルを押し付ける。

「ぷはっ…離せッ…このぉ…」
「そんな赤い顔をして睨んできても誘っているようにしか見えませんよ」

口で自分の手袋を脱ぎ捨て、シエルの服のボタンを外していく。
それは酷く複雑なものに見えるのだが、流石はそれを着せた相手。
簡単に脱がしていってしまう。

「や、めろ!いい加減にッ…」
「これは私を嫉妬させたお仕置きですよ。あぁ…でも」
「んッ…や、だ…!!」
「坊ちゃんが嫉妬を憶えたご褒美、でもあるかもしれませんね」
「ん…ぁっ」

肌蹴た胸元をセバスチャンの手が撫で、ぶつかった尖りをキュっと摘んだ。
その瞬間に全身の力が抜けてしまって木の幹に身体を預けた状態でずり落ちれば、タイミングよくセバスチャンが膝を立たせ、その足に跨って座っている状態になってしまった。
しかしそれの文句を言おうとしても、この口からは変な声が上がるばかりでシエルは自分の口元を押さえて必死に我慢する。

「ん…んんっ」
「駄目。聞かせてください。ほら、坊ちゃん」

先端を突かれたと思えば、触るか触らないかのタッチで撫でられ、次は痛いほど摘まれる。
その度にビクリビクリと身体が奮え、声が上がってしまう。
逃げるように身体を後ろに倒そうとしても自分の上半身を支えてくれている幹があるので、どうすることも出来ない。
それでも身体は勝手に逃げようとするから。

「もっと触って欲しいんですか?」
「ち、違うッ…やぁ…っ」

まるでセバスチャンに胸を差し出すような形になってしまい、気を良くした相手はその尖りにも舌を這わせてくる。

「んッ…んッ…ぜった、いに…ぁ、ころしてやるッ」
「…貴方のそういうところが好きですよ」
「あ!…やッ…ほんと、にっ!」

スルリと胸元を撫でた手が下向きになり、そのまま下半身の方へと進んでいく。
それを止めようと抱きしめるかのようにその腕を掴むが、震えている身体がちゃんと言うことを聞くわけもなく、そのままその手は下腹部を撫で、太腿を撫で…。

「う、ぁ!!」

シエルのソレに触れた。

「濡れているのが、分かりますか?」
「うるさい」
「気持ちいのですね」
「うるさいっ…」

相手の腕に抱きついたような形のままギュッと瞳を閉じて叫ぶ。
殺してやる殺してやる殺してやるッ!と何度も頭で唱えるも、結局身体は動かなくて。
セバスチャンの好きにさせてばかりだ。

「あ…や、触るなッ…」
「大丈夫、力を抜いて。怖がる必要はありませんから」
「そういう問題じゃ…ぁ!」

手が動き始め身体が跳ねる。
この静かな庭にクチュリと水音が聞こえ、シエルはこれでもかというほどに顔を赤く染めた。
本来はまだ夜会の時間。こんな庭に誰かが来ることなどないので誰かがいるわけでもないが、こんな外で…いや、外でなくともこんなことをしているということで、恥ずかしくて死にそうだ。

「う…ふぅ…ぁ…」

セバスチャンの動いている方の腕に自分は抱きついているような状態なので、相手がその手を動かす度に自分の身体も揺れて、こいつに今触られているんだということをハッキリ理解してしまう。

嫌だと思っているのに、言うことの利かない身体。
嫌だと思っているのに、溶かされてしまいそうな思考。

(もう、だめだッ)

「っ…あぁ…!!」

ビクビクと身体を奮わせ、セバスチャンの手の内に熱を放つ。

「イケましたね」

嬉しそうなドロリとしたセバスチャンの声を聞きながらシエルは力なく木の幹に全身を預け、肩で息をする。
もう頭の中は霧が掛かったように真っ白で、うまく働かない。
それを見ながら相手は赤い瞳を爛々と輝かせチュっと唇に口付けを落とし、下半身に潜らせていた手をやっと抜いた。
その手はシエルのもので汚れ、黒い爪が白を厭らしく目立たせる。
そしてセバスチャンはそれを見せ付けるかのようにシエルの前で舐めてみせた。

「…さいあくだ、この…悪魔が」
「私は最高ですよ」

赤い舌でソレを舐める悪魔の方が白いソレよりも卑猥で。
シエルは絶対に殺してやると呟きながら。

決して優しくない最悪なその腕の中で、


意識を失った。




END

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【2011/07/05 09:06 】 | Series | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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