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【2017/01/22 08:54 】 |
Spicyな戸惑い
Spicyシリーズ




生きている限り、変化はある。
それは時の流れだったり、己自身の成長だったり、様々だろう。
勿論その変化には痛みを伴うものもあれば、変化を嫌がるものもいる。
だが、変化を恐れていては何も始まらない。
変化を恐れて立ち止まり、その場から動かずに殻に籠る人間など、己を高める気がない奴だ。
それを否定する気はない。それもそれで1つの人生なのだから。
けれど自分は変化を恐れず、常に変化を望み、進化し、高みを目指す人間でありたい。

ありたいのに。

なぜだろう。
今は変化を心の底から恐れている。


― Spicyな戸惑い -


―――君達は本当にそっくりだね

シェバーがバルコニーで微笑む。
そこにはただ彼特有の純粋さがあるだけで、こちらを陥れようなどという気配は1つもない。
ただ何か愛らしいものを見たときのような瞳だ。

―――じゃぁその色に染め上げているのは、あの執事かな?

いくら悪意はないといっても、その言葉は聞き捨てならないだろう。
僕は僕だ。誰のものでもない。なら僕の色だって誰かに染められたものではなく、僕自身の色だ。
その色が濁っているのは…この裏社会に身を置くと決めたときに自ら選択した色。
決してアイツに染められたものではない。

「違う」

あの場では言わなかった否定の言葉。
あの時はシェバーの様子を伺う為の言葉を発したのだ。
しかし今は心の底からの本心を言い、ばっさりと彼の言葉を一刀両断する。
がしかし彼はクスクスと笑い、本当にそうかな、と言った。
黒髪に長身で笑う姿は、今ここにはいない悪魔の姿を連想させる。とはいえ、あの悪魔がここまで純粋に笑うことなどないけれど。

「伯爵だって本当は分かっているんじゃない?」
「…なにがだ」

あの場とは違う会話が繰り広げられる。
それを頭のどこかで理解しているにも関わらず、本当はこの会話こそがあの場で行われる“べき”だったのだと、人間に備わっている第六感のようなものがそう告げている。
そしてこの先の言葉を聞きたくないということもどこかで…。

「自分の気持ち」
「意味が分からんな」

ハッと鼻で嗤い、シエルはシェバーの言葉を否定する。
意味が分からないと言いつつも、心から否定するのだ。

「あれはただの執事だ。僕の願いを叶えさせる為に置いているに過ぎない。それ以上もそれ以下もないんだ」
「ならどうしてそんなにも苛立っているのかな?」
「は?」
「それとも寂しい?」
「ちょっと待て、話が見えん」

心が焦り始める。
意味が分からないと言いつつも心が否定したように、話が見えないにも関わらず、シエルは焦り始める。
このままではいけない。このままではきっと彼は。“アイツ”は。


「“私”があの女と一緒にいたのを酷く嫌がったじゃないですか」


いつの間にかシェバーがセバスチャン・ミカエリスの姿へと変え、シエルへと微笑みかける。
彼のような純粋な笑みではなく、こちらを追い詰めるかのような。
ねっとりとした“欲情”を含ませた笑みで、彼は自分に笑いかける。

「貴方は嫉妬していたんですよ」
「だから違うと」
「ではお聞きしますが」

悪魔は一歩前に進み出てシエルへと近づき、前屈みになってシエルの顔を覗きこみ見上げてくる。
そこには赤い瞳が輝いていて、いつもの彼の姿が。
優しくない、最悪の姿が・・・―――

「貴方は私を執事としてしか見ていない。願いを叶える為に置いているに過ぎない…まるで道具のような扱いですよね。そう思っているにも関わらず、どうして貴方は私があの女と一緒にいたのが気に食わなかったのですか」
「・・・自分の復讐を手伝わせている悪魔が女に鼻息荒くしていたら誰でも嫌だろう」
「ですが貴方の場合そうではなかった」
だって貴方は私に聞いたでしょう?

―――貴様は誰のものだ、セバスチャン・ミカエリス

「どうして?貴方はどうしてそう聞いたのですか」

悪魔は顔をより近づけ、訊ねてくる。
一歩後ろに下がろうとしたが足が動かず、そのままシエルは相手の顔を見つめることしか出来ない。しかも己の視線が無意識に相手の唇にいってしまっている真実にショックを覚えた。
(いや、仕方が無いだろう)
あんなにも嫌いな相手から口付けをされたんだ、意識するなという方が難しいに決まっている。
何に対しての、誰に対しての言い訳なのか自分自身理解出来ずにそう心の中で呟き、相手を睨みつけた。

どうしてそう聞いたのかだと?
そんなもの。

「貴様が誰と契約しているのか再確認させる為だ」
「どうして再確認させたのですか?」
「どうしてって…別の女と再契約されたら……契約違反だからだろう」
「それだけの為に?」
「それだけの為って…」
「だって貴方は…―――」

己の手で復讐を遂げるつもりなのでしょう?



「・・・・っ」

頭が痛い。
体が鉛のように重い。
にもかかわらず、己の背中はフワリとした感触で。
・・・・フワリとした感触?

シエルはゆっくりと瞳を開けていく。
霞んだ景色の向こうには見慣れた天井がだんだんとハッキリとした形となって現れてきた。
(僕の…部屋?)
どうやら今自分は寝室のベッドで寝ている状態らしい。
じゃぁ先ほどまでの会話は全て夢で。いやちょっと待て。確か昨晩は…。

「お目覚めになりましたか、坊ちゃん」

夢で聞いた声と同じ声。
シエルは声がした方に顔を動かせば、そこにはベッドの傍らに椅子を置き、腰を掛けた状態のセバスチャンの姿があった。
しかしいつもの黒い燕尾服は羽織っておらず、白いワイシャツとベストの姿だ。

「セバス、チャン?」

まだボーっとした頭で名前を呼べば、額から白いタオルが落ちてきた。どうやら顔を彼の方に傾けたせいで落ちてしまったらしい。
ということは元々この白いタオルは自分の額に乗っていたというわけで。

「熱を出されたのですよ」

こちらの疑問を掬い上げるようにセバスチャンはそう答えながら立ち上がり、ベッドに落ちたタオルを取って小さなテーブルに置かれている大きいボールの中へと放り投げた。
そして今までタオルが置かれていたであろう額に手袋を脱いであった手で触れ、大分下がりましたね、と微笑む。

「驚きましたよ、あのまま意識を失われてしまったので」
「あのまま…?」

一体何があったのだったか。
シエルは思い出すように一度セバスチャンから視線を外し、天井を見上げ思考を回し始める。
そして一気に目が覚めた。

「貴様ぁぁぁぁぁッ!!」

シエルは上半身を起こし枕を思い切り相手へと投げつけるが、思い出した瞬間なにをされるのか理解していたらしく、すでに彼は若干距離を取っていて、その枕を軽々と取ってしまった。(いや、距離をとっていなくとも軽々取っていただろうが)
それに舌打ちをしたシエルだったが、多少なりとも熱があるにもかかわらず急に起き上がったせいで視界が歪み、ベッドの上でよろけてしまう。
それにセバスチャンが慌てたように名前を呼び近づいてくるが、

「来るなっ!!」

息を若干荒くした状態で相手を睨みつけた。

「僕に近寄るな!そのまま部屋から出て行け」
「…昨晩からずっと看病していたというのに、酷い扱いですね」
「どうしてこんな扱いをされるのか、自分の胸に聞いてみろ」

シエルはベッドに両手をつき上半身を持ち上げ、元の体勢に戻る。
そして身体を枕の置かれていたところまで引きずりながら持っていき、壁を背凭れにして寄り掛かる。
幼い頃から熱を出していたので、身体のダルさには耐性がある。が、やはりダルいものはダルくて。
シエルが大きくため息をつくように息を吐けば、別の方から自分に劣らないほどの大きなため息が聞こえた。

「横になってください」
「貴様が出て行ったらな」
「この枕は?これが無いと眠れないでしょう」
「…そこに置いていけ」

貴様がいなくなったら取りに行くと言えば、再び大きなため息。
主人の前で何度もため息とは、失礼な執事だ。それに、ため息をつきたいのは僕の方だ。
外であんなことをされて…いや、外でなくともあんなことをされてしまうなんて、最悪だろう。
あんなふうに触られて……。

「ッ・・・」

シエルは思い出してしまった感覚に唇を噛み締め、クシャリと前髪をかき上げながら額に手を置いた。

「随分な顔ですね」
「当たり前だ」
「気持ち良さそうにしていたくせに」
「なんだとッ」

額に手を置いた状態のまま手首越しに彼を睨みつければ、彼はおどける様に眉を下げ、肩を揺らす。
そして一歩ずつ歩を進めてきたのを見て、シエルは再度近寄るなと叫ぶが勿論それを聞く相手ではない。
コツリコツリと着々とシエルとの距離を縮めていく。

「来るな、命令だ!」
「イッたのが事実でしょう?」
「もうやめろ!」
「ねぇ坊ちゃん」

ギシリとベッドが揺れる。
いや、大きく立派なベッドがギシリとなんて音はしない。それはシエルの心の中の音だ。
ベッドに腰を掛けた悪魔は淡く微笑んで、顔を屈めてシエルと向かい合わせになり、瞳を無理やり合わせる。
そして鼻と鼻がぶつかりそうなほど近づけて。

「貴方は私が好きなのですよ」
「そんなわけあるか!」
「あんな女にも嫉妬しておきながら、まだ自分の想いを認めないと?」
「認める認めないの問題じゃない!そんな気持ち悪い想いなど微塵も持っていないッ」

シエルはセバスチャンと鼻がぶつかりそうなほどの近さでありながらも、首を横に振り否定する。

「自惚れるのもいい加減にしろッ!命令にまで背いて、本当に貴様は堕ちたものだな!以前の方がまだ使える良い駒だった!!」

そうだ、コイツはただの駒にすぎない。
どんなに僕へ気持ちを向けていたって、それは邪魔な感情でしかなくて。

『貴様は誰のものだ、セバスチャン・ミカエリス』
―――どうして?貴方はどうしてそう聞いたのですか

黙れ!貴様はただの僕の夢だろう!

(でも、夢ならこの声は)

―――どうして再確認させたのですか?
―――それだけの為に?


だって貴方は…―――



己の手で復讐を遂げるつもりなのでしょう?



(僕の、声だ)


「ちがうッ・・・・・・・!!」
「っ!!!」

シエルは否定の言葉を叫びながら手を伸ばし、目の前の悪魔の首を両手で絞める。
これでもかというほど己の力を込めるが熱のせいと震えで上手く首を絞めることが出来ず、きっと首を絞めている相手が悪魔でなくとも、少し苦しいくらいにしか感じないだろう。
熱があるからか、それとも相手が人ならざるものだからなのか、その首は酷く冷たくて気持ちが良くて…気持ちが悪い。
そう、気持ちが悪いんだ。

「いらない」

全部ぜんぶ、気持ち悪い。
この悪魔の想いも、そして。
一瞬でもセバスチャンが傍にいるのが当たり前だと、意識することなく思っていた自分自身も!

「もう駒として使えない貴様なんかいらない」
「・・・・」
「僕のことが好き?笑わせるな、そんな感情不必要だろう。僕は復讐のためだけにここに立っているのだから」

―――必要、不必要の問題ではないのですよ。愛なんて人間が持つ感情の1つではないですか。それが貴方には欠落しているということでしょうかね。

その話をこの悪魔としたのはいつのことだっただろうか。
その時は心が痛んだけれど…痛んだ方が馬鹿だった。

「僕は自分の手で復讐を遂げる。だから独りでこの場に立つ。貴様はその駒として使われるだけの存在。でしゃばるなよ駄犬が」

(もう嫌だ、この悪魔に僕を壊されるのが。グチャグチャにかき回されるのが)

「これ以上僕に手を出してみろ、必要以上の接触をしてみろ、貴様の名前さえも捨てて存在すら認めないぞ」

顔を上げて、首を絞めたままシエルは瞳をギラギラと輝かせ。
無理やり口角を吊り上げた。


だが。








「貴方は“なに”に対して、そう仰っているのですか?」

彼もまた、否、彼“は”嗤った。

「・・・・ッ!?」
「貴方自身に?それとも貴方の目の前にいる悪魔に?」

伸ばされた腕と囁かれる言葉。
吊り上がっていた口角が歪んだのが自分でも分かった。
その腕はシエルと同じように相手の首元へ伸ばされ、その首を締め付ける…だが彼はそれだけではなく、シエルが背にしている壁へ押し付けるように力を込めてくる。
しかし彼にとっては全く力を入れていないに等しいのだろう。

「たとえどちらであろうと答えは変わらないですよ。貴方自身であっても、私…悪魔であっても」
「どういう、意味だ」

シエルは首を絞められ壁に押し付けられながらも、セバスチャンの首から手を離すことはしない。
口元が歪んでいるにもかかわらず、瞳をギラギラさせ睨みつけたままでいることに満足しているのか分からないが、セバスチャンは酷く愉しそうな顔をしながら言葉を放った。

「貴方のそれは無意味」
「……な、に?」
「無意味なんですよ」

貴方の言葉はね。
セバスチャンはそう言う。
一体どういう意味なのだろうか。

「貴方が私を認めないように己に暗示をかけようが、私を追い払う為に脅そうが、どちらも無意味だと言っているのです」
「あ?」
「簡単に一言で申し上げますと」

セバスチャンはシエルに顔を近づけ、真っ赤な舌を唇の隙間から覗かせながら囁く。

「貴方は私のものなのですから、逃げることは不可能です」

唇が重なった。

「ッ…んンっ……!!」

唇に触れる、もうすでに知った柔らかさ。
そして近くにある赤い瞳。
シエルは首を横に振り、逃れようとするが相手に首を絞めて壁に押し付けられている状態だ。逃れられるわけがない。
その間にも先ほど見えた赤い舌が蠢き、こちらの口腔へと入り込んでくる。

「ふ…うン…っ…」

ピチャリと聞こえる水音に、なぜか頬に熱が灯ってくる。
首を絞めていた筈の手はいつの間にか離れ、セバスチャンの肩へと添えられた状態になっていて。
このままでは本当に彼の思うままにされてしまう。
(そんなこと、許してたまるかッ)
シエルは震える手を目の前にある顔…頬に思い切り振り下ろした。

「ッ……」

痛みよりも驚いたのだろう。
首を絞める手が緩み、そして若干唇がずれた隙をついてシエルは己の唇を片手で塞ぎ、ベッドの端へと移動する。
そのまま地面に足をついて逃げ出そうとするが。

「ダメですよ」
「やッ…!!離せっ!!」

ベッドの下に下ろそうとしていた足を掴まれ、そのままズルズルとセバスチャンの方に引き寄せられてしまい、そしてトンと背中に彼の胸板がぶつかった。

「言ったでしょう?逃げることは不可能だと」
「黙れ、だまれッ!!」
「お静かに。また熱が上がってしまいますよ」

耳元で小さく囁きながら右手は腰周りに、そして左手は顎に添えられ、指で唇を撫でられる。

「貴方は私のもの。私だけのものです。そして私は貴方のもの」
「もう貴様などいらないっ」
「そのお言葉、契約違反だとみなしてもいいのですよ?」
「契約違反は貴様の方だろう!」

顔に触れる左手の甲、自分の右目に刻まれたものと同じ契約印に爪を立て、引っ掻いていく。
血は出ていないだろうが、ミミズ腫れくらいにはなるだろう。
本当は今この場でこの手を引きちぎってしまいたいところなのに。

「僕の命令も無視して、こんな…こんなッ!!」
「……私はあくまで執事。たとえ執事の皮を被ったところで悪魔であることには変わらないのです」

手の甲の痛みなど感じていないのだろう。
淡々とした声で彼は答えた。

「はっ。今までずっと美学美学と掲げていたくせに、都合のいいときだけ悪魔に戻るか」
「己の美学よりも大切なものを見つけてしまったので」
「っ……!!」

セバスチャンの言葉にシエルはギリリと奥歯を噛み締める。
そんな言葉を口にするな、そんな言葉を口にするなッ!!
いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだ、いやだッ…!!

「僕は、美学を大切にしている貴様の方が、気に入っていたッ」
「・・・・」
「今の貴様は、嫌いだ!」

嫌い。
嫌い。
大嫌いだ。

だから、もう。

「私も貴方が嫌いですよ」










私も
貴方が嫌いですよ。







「え?」



振り返ってしまったのは。
きっと、

―――貴様は誰のものだ、セバスチャン・ミカエリス


(僕の、声【本心】だ)



振り返ってしまった先には、悪魔の笑顔。

「自分の気持ちから逃げる貴方が、ね」

ねっとりとした“欲情”を含ませた声に、多少の“苛立ち”が混じっているように感じたのはきっと気のせいではないだろう。

「セバス、チャン…」

自分から振り向いた状態で、再び唇が塞がれた。










熱い。
身体が凄く、熱い。

「大丈夫ですか、坊ちゃん」

その声も熱くて、耳障りだ。
シエルは霞んでしまいそうな思考を何とか正常に戻すよう、シーツを強く握り締め首を振る。
しかしもう身体は自分のものではないように言うことを聞いてくれない。いや、身体だけではない。
全て。そう、すべてだ。
全て自分の言うことを聞いてくれない。

「やッ…も、放せ…っ」
「ダメです」

チュ、と首元に口付けを落とされ、ビクリと身体が反応する。
すでにナイティのボタンは全て外され、肌が曝け出された状態だ。
口付けている間に片手で素早く外してしまうなんて、なんていう悪魔だろうか。

その手は胸の尖りを遊び、もう片方の手は下肢へと伸びている。
後ろから抱きしめられるような形なので、今悪魔がどんな表情をしているのかは分からないが、きっとどんな顔をしていても気に食わない顔に違いない。
しかしなぜか、口付けの前に聞いた声…苛立った声が耳から離れず、自分にこんなことをしているにも関わらずに苛立った表情をしているのではないかと考える自分は、一体何なのだろう。

「どうされました?」
「うぁ……ッ」

いきなり胸の尖りと下肢のソレを強く握られ、痛みなのか、それとも別の何かなのか分からないものに声をあげる。
何をするんだ、という文句はもう出てこない。
今この状況全てがすでに許せない状況だからか。

「何をお考えで?」
「貴様に、関係ないだろう」
「……随分と余裕があるようですね?」
「やっ…ふぅ…んン!」

途端にソレを強く擦られてシエルは唇を噛み締めた。

「坊ちゃん、気持ちいいですか?」
「はっ…ん…ん…」
「声、聞かせてくださいよ」
「だま、ぁ…れ」

耳元で囁かれるのにもゾクゾクと背筋が震え、ピクンと揺れてしまう身体。
(も、嫌だ…っ)
そう思うのに、身体はもう逃げることをやめ、力が入らない状況だ。
また熱が上がってしまったのか、身体もダルイ。

どうしてだろう。
どうして、逃げられないのだろう。
相手が悪魔だからか。
人間は悪魔に敵うわけが無い。
けれど。

「坊ちゃん…」
「ん…ふ……はッ……ぁ…」

身体は嫌というほど反応して。
泣きたくなってくる。

「イッても、いいですよ」
「く、そ……やッ……んぁ…んんンッ!!!」

シエルはシーツを掴んでいた手を離し、両手で口を塞ぐ。
そうしなければ、みっともない声を上げてしまっていただろう。
訪れた、否、訪れてしまった開放感に肩で息をしていると、可愛らしいですね、と耳を擽られた。

「本当は声も聞きたかったのですが」
「…だれが、きかせるか」
「こんな状態になってもまだ牙を向きますか」

悪戯に胸の尖りを摘まれ、驚きに小さな声を洩らしてしまいシエルは苛立ちに舌打ちをし、

「…もういいだろう、放せ」

ダルイ身体を感じてため息を吐きながら手を額に乗せてそう言ったが、悪魔はシエルの身体にまわしている腕を退ける様子もなく、むしろソレに触れていた手をもっと下へとおろしていった。
それに慌てて、おい!と手首を掴めば。

「まだですよ」
これで終わりなわけがないでしょう。

どこか責めるような声と共に、己が吐き出したものに濡れた指がグチュリと嫌な音を立てて、後ろへ侵入してきた。

「いッ…!!なっ…や、セバ、スチャ!」

シエルは焦り、その手首に再び爪を立てるけれど相手が止める様子はなく、内を探るように指を動かしてくる。
初めての感覚に痛みと気持ち悪さが襲い掛かり、何度も何度も、やめろ、と懇願するけれどセバスチャンは慰めるようにもう片方の手でシエルの頭を撫でるだけ。
しかしある一点を指が掠めたとき、強烈な快感に襲われ、シエルは耐える暇もなく声が溢れ出た。

「あッ…、やッ、なんだ?!…あ、あ、あァっ!」
「ここ、ですね」
「セバっ…やッ!!んァ…あ!」

痛みと気持ち悪さと、けれどそれに勝る快感。
再び達してしまうまでそこを重点的に刺激され、指が抜かれた頃にはもう肩で息をするどころか、自分ひとりでは身体を支える事も出来ず、セバスチャンに寄り掛かる状態になっていた。

「さて、そろそろいいでしょう」
「う、あ?」

ずっと放されることがなかった身体が開放され、ベッドへとそっと横たわらせられる。
仰向けに、しかし下半身だけは持ち上がった状態という、何とも屈辱な体勢でありつつも、すでに抵抗する力も、文句を言う力もシエルには残っていない。
だが、シエルの残ったプライドが理性をかき集め、そしてその中に存在する本能が、このままではいけないと警鐘を鳴らす。

「や、めろ…セバス、チャン…」
「まだ言いますか」

もう遅いですよ。

熱く固いものが、先ほど指が入っていた場所に当てられ。

「や、やめッ……!!」
「嫌です」

そして。

「あ、ひぐッ…やァァ!!」

ズブズブと内へと押し入ってきた。

「いっ…くぅ……はぁっ」
「っ……」

痛みによって視界が真っ赤に点滅する。
三年前から今日にかけて、痛みなどには耐性、否、無関心を装うことが出来たけれど、この痛みはそうはいかない。
こんな場所の痛みを受けたことがないからか変に意識が回り、妙にクリアに痛みを受け止めてしまうのだ。
シエルはシーツを引き千切らんばかりに握り締め、自分を落ち着けさせるように何度も何度も浅い呼吸を繰り返す。
悪魔である彼もまた余裕が無いのか、いつもよりも掠れた声で名前を呼び、息を若干荒くさせていた。

「ぼ、っちゃん」
「っぬ、け…ッ!!

シーツを握り締めたまま言う。
けれど彼はその言葉に何も答えることなく、そしてそのまま腰を動かし始めた。

「ひ、うぁっ…や、やめッろ!!ぁあ…」
「・・・・」
「いっ…あ、ぐ…はぁ……っ」

動かされる度に感じる、肉が引き攣るような感覚と、圧迫感。
そして屈辱感と、苛立ち。

使用人の執事に犯され、契約者である悪魔に犯されている。
自分が女だったら、勿論許せることではないがまだそうなってしまったことに現実味があっただろう。
だが自分は男で、しかも子供で。
いや、そんなことはもうどうでもいい。
悪魔が人間に愛を囁いた時点でそんなことは些細な問題に過ぎないのだ。

そう、悪魔が人間に愛を囁いた。
セバスチャンが自分に。

―――貴方は私のものなのですから、逃げることは不可能です

それも愛があるが故にか。
愛しているから僕を今抱いているのか。
僕の気持ちも無視して、強姦しているのか。
それのどこに愛があるんだ。

前にもその疑問をこの悪魔にぶつけた。
その結果、この悪魔は求めたものが手に入らないという真実を受け止められない奴だと理解した。
だから、少しくらい受け止めてやってもいいと思ったのだ。

けれど。

自分は自分のものであって、この悪魔のものではない。
たとえどんなに関係が変わろうとも、そこだけは譲れない。
決して自分は悪魔に囚われているのではないのだ。

(でも)

でも、もう気付いてしまった。
無意識に、己の手が彼の燕尾服を掴んでいたことを。
無意識に、この悪魔と同じように、彼を己のものだと思っていたことを。

それは決して愛ではないけれど。

もしかしたら、この悪魔…セバスチャンが持っている気持ちと、僕の気持ちは。

(――――かもしれないな)









シエルは勝手に漏れ出てしまう痛みの声を、奥歯を噛み締めることによって耐え、なんとか息を整えようとする。
その間も彼は勿論止ることはなく、シエルは何度も何度も必死に息を吸い、そして。

「セバス、チャンッ…!!」

一番深く息が吸えた時を見計らって、名前を呼ぶ。
すると今まで無言で腰を動かしていたセバスチャンが、ピタリと動きを止めた。

「セ、バス、チャ…」

息を荒くした状態で再び名前を呼び、無理やり上半身を曲げる。
もう逃げることはしない。きっと逃げたら余計に彼は追ってくるだろうということを学んだ。
シエルは上半身を曲げた状態で首を後ろに回し、彼を見上げる。
生理的な涙が流れ、濡れた視界に映った彼の表情にシエルは反射的に、馬鹿か、と呟いた。

自分の腰を痛いくらい掴み上げ、そして彼はどこまでも無表情だった。
けれど瞳は真っ赤に燃え、どこか怒りを露わにしているにもかかわらず、唇を噛み締めていて。
全てがアンバランス。
けれど分かるのは・・・―――

「この、僕を、犯して、るクセに、なんで、泣く」
「泣いていませんよ」
「だま、れ、この、駄犬、が」
「・・・・」
「満足、か?」

貴様はこれで満足か?
無理やりに僕を犯して。
それで満足か?

「……さぁ、どうでしょうね。貴方の処女を奪えたことは嬉しいですよ」
「この、下衆が…」
「まぁ、それ以外は何も奪えませんけどね」

セバスチャンは言いながら自嘲的な笑みを零す。

「本当に、どうしてこんなにも手に入らないんでしょう」

こんなにも、こんなにも欲しているのに。彼はそう言って赤い瞳を輝かせ、掴んでいた腰から手を離し、代わりに足を掴んでそのままシエルを回して仰向けにさせた。
その時も内に入っているものが動き、小さく息を洩らしたが、彼はそれ以上動くことはなく向かい合う形となっただけだった。

「それでも貴方は私のものなんですよ」
「・・・・」
「貴方がいくら嫌がろうと、いくら逃げようと、いくらその気持ちを認めようとしなくとも、貴方は私のものです。もうそれは諦めてくださいね」
「・・・その台詞、」

なんとも自分勝手な言葉を吐いた目の前の悪魔の頬に触れて笑う。

「もっと悪魔らしい顔をして吐いたんだったら、多分聞かなかった」
「……今は悪魔らしい顔をしていないと?」
「そんな顔が悪魔なんていったら、笑いものだ」
「一体どんな顔ですか」
「だからさっき言っただろうが」

泣いているって。

シエルは頬に触れた手で涙を拭うような仕草をすれば、セバスチャンは仏頂面で「だから泣いていません」と抗議するが、それを無視し何度もその頬を拭う。
その手をどう感じているのか、彼は赤い瞳を柔らかく細め、そして同じように手を伸ばしてシエルの頬に伝う涙を拭った。

「泣いているのは貴方の方でしょう」
「…生理的なものだろう、これは。でも、痛い」
「……そうですね」
「謝らないのか」
「謝るくらいだったらしませんよ」
「……そうだな」

きっとここで謝られたらぶん殴っていた、と口にすれば、それは恐ろしいですね、と本心なのか分からない言葉を返してきて、一瞬殴ってやろうかと思ったが、その前にセバスチャンに覆い被さられるように抱きしめられ、それは出来ずに終わる。

「愛していますよ、坊ちゃん」
「・・・・」
「愛しています」

囁かれる悪魔の愛の告白。
それはすでに何度も聞いた言葉であるのに。
前まではその言葉も信用出来ず、気持ち悪い言葉でしかなかったのに。

「……知ってる」

シエルはそっと燕尾服の裾を握った。






コイツに振り回されるのは嫌だ。
コイツに僕を壊されるのは嫌だ。
グチャグチャにかき回されるのは嫌だ。

だけど。

でも、もう気付いてしまった。
無意識に、己の手が彼の燕尾服を掴んでいたことを。
無意識に、この悪魔と同じように、彼を己のものだと思っていたことを。

それは決して愛ではないけれど。

もしかしたら、この悪魔…セバスチャンが持っている気持ちと、僕の気持ちは。





似ているのかもしれないな。








(くそったれ)






燕尾服の裾を掴んだまま、シエルは恥ずかしくて
しばらく顔をあげられなかった。




END

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【2011/09/25 18:26 】 | Series | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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