自分の恋人が生まれた日。
それは本人にとっても、そして自分にとっても特別なことだ。
この世界に生まれて来てくれたからこそ出会うことが出来たのだから。
そんな特別な日にはもちろん何かプレゼントを渡したい。
執事としてではなく、恋人として。
その恋人が一番喜ぶものを。
そんなことを考え始めたのは恋人の誕生日がまだ一ヶ月も先の時。
「坊ちゃんは何か欲しい物とかございますか?」
元々自分の誕生日には興味がない恋人のことだ。
一ヶ月も前に“プレゼントは何がいいか”という詮索には気が付かないだろう。
案の定、恋人は特に気にしたふうもなく、書類から目を離すこともせずに言葉を返した。
「欲しい物?」
「はい」
「何だ急に」
「ファントム社を経営する坊ちゃんはいつも人に贈る側です。では贈る側の坊ちゃん自身は何か欲しい物があるのか…と考えまして」
「そうだな…。たまには自分が欲しい物を考えた方が商品についての案も浮かぶかもしれん」
あくまで仕事と結びつける恋人。
セバスチャンは苦笑しながら、欲しい物は?と答えを促す。
「僕が欲しい物か…」
手に持っていた書類を置き、真剣に考え始める。
ということは、真剣に考えなければいけないほど欲しい物が浮かばないのだろうか。
「服やら宝石やら、何かないのですか?」
「そういう物には興味がない」
知っているだろう?と返されてしまう。
そして結局出た答えは。
「何も無いな」
本来の年齢にそぐわない答え。
「何も、ですか?」
「…強いて言うならインクか?」
「まだ仕事をなさるおつもりで?」
「じゃぁスイーツ」
「いつも食べているじゃないですか」
「じゃぁ…」
再び考え出した恋人はチラリとこちらの方を窺うように見つめてくる。
その意図が分からず首を傾げると、ふいっと視線を外して、もう一度、何も無いという言葉を吐き出した。
けれどその言葉は先ほどと同じものでは無いということをセバスチャンは感じ取った。
「何か見つけましたね」
「別に」
「何が欲しいのですか」
「何も無いと言っているだろう」
「いえ、絶対に何か欲しい物が浮かびましたね」
顔に書いてありましたと言えば、恋人はどこか不機嫌そうな顔をしてしまう。
「どうしてそんなに僕が欲しい物を知りたがるんだ」
「…恋人が何を欲しているのかはいつでも気になりますが?」
「ッ!べ、別に知らなくても死なんだろう!」
「そういうことじゃないでしょう」
ため息をつくと、恋人は顔を赤くして煩いッ!と叫び、書類を持ち上げて顔を隠した。
これ以上詮索されるのが嫌なのか、それとも別の意味なのか。
「仕事の邪魔だ。出て行け」
「坊ちゃん」
「僕が欲しい物はスイーツだ。作って持って来い」
「……御意」
反論を許さない命令に、セバスチャンは仕方なく一礼する。
本当に欲しい物は別にある。
欲しい物があると分かっただけでも一ヶ月前から話しを聞いた甲斐はあったのだが。
(この一ヶ月で、その欲しい物が何なのか探せますかね…)
先ほどの反応を見る限り、これ以上問い詰めても答える気はないだろう。
もしかしたら思いついたことさえ記憶の中から抹消してしまうかもしれない。
自分の恋人はそういうことを平気でしてしまう人間だ。
(これは苦戦しそうです)
部屋から追い出されたセバスチャンは、厨房に向かいながら大きなため息をついた。
-いちばん欲しいもの-
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あとがき
坊ちゃん、お誕生日おめでとーーー!!
ということで、坊ちゃん誕生日文章です。
是非お付き合いしてくださると嬉しいです!!
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