「坊ちゃん、お目覚めの時間ですよ?」
セバスチャンは、部屋を暗くしていたカーテンを一気に開ける。
するとまだ白い朝の光が部屋の中を照らし、明るくなる。
シエルは眩しかったようで、んん~、と声を漏らしながら、布団の中に顔を隠してしまう。
「全く。布団から出るのではなく、逆にもぐってしまってどうします」
セバスチャンはため息を付きながらシエルへと近づき、布団をめくりそっと顔を覗きこむ。
起きた時には見られない、あどけない表情。
まさに13歳らしい顔だ。
上質な絹のような白い肌。
サラサラと流れる美しい髪。
噛み付きたくなるような細い首。
「坊ちゃん」
セバスチャンは無意識に手が伸びる。
優しく頬に触れ、顔にかかる髪をそっと避ける。
「ん」
シエルはくすぐったかったのか、ふわりと口元が緩む。
そんな様子にセバスチャンは目を細める。
こんなに美しい人間を見たことがない。
こんなに美しい魂を見たことがない。
こんなに悲惨な人生の子供を見たことがない。
「ねぇ、坊ちゃん」
静かに話しかける。
しかしそれは、話しかけるというより独り言のように感じる。
「私は、ここにいますよ」
ずっと、傍におります。
まだ瞳を開けないシエルを
セバスチャンは、力強く抱きしめた。
― 隣には私が ―
私は貴方を守りたい。
END

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