(大人パロ)
「眠たい」
そう言いながらシエルは持っていた書類を乱雑に机の上に放った。
それを見た執事はため息をつきながら少し目を吊り上げて主人を嗜める。
「会社の方に提出する書類をそのように扱わないでください」
「いいだろう別に。折れたりしないんだから」
「子供みたいなことを言わないでください」
「相変わらずお前はお固い奴だ」
シエルは少し伸びた髪をかき上げながら口元を歪ませる。
その表情は美しいというよりもどこか妖麗で、人を怖いほどに魅了してしまうものだろう。
ここ最近は執事の自分が悪魔で良かったと思うのは裏社会の仕事をしている時だけじゃなくなっていた。
「坊ちゃんは昔よりも子供らしくなってしまったのでは?」
揶揄するように言えば、それにクスリと笑い頬杖を付いて此方を真っ直ぐと見つめてくる。
「甘え上手になったと言って欲しいものだな」
「・・・貴方が甘えたらろくな事にならないでしょう」
「この間の夜会の主催者に甘えたらファントム社の方に多額の寄付金が寄せられた」
「それがろくな事じゃないと言っているんです」
主人は年を重ねるごとに、自分を上手く使った世渡りを覚え始めた。
それはここで生きる主人にはいい知恵なのかもしれないが、セバスチャンとしてはたまったものじゃない。
しかしそれを分かっているからこそあえてその手段を選ぶシエルには本当にお手上げだ。
「いいだろう別に。利用できるものは利用するべきだ」
「いつか痛い目に遭いますよ」
「遭わないさ」
その強い口調にセバスチャンはため息をつく。
「一体その自信はどこから来るんですか」
「お前がいるだろう?」
「・・・は?」
シエルは言いながら、まるでダンスに誘うかのように手を差し出した。
それはとてもしなやかで真っ白い肌。
「お前がいる限り、僕に手を出せる奴なんていないだろう」
「・・・本当に貴方という人は」
セバスチャンはその“挑発”に自らも挑発するように大きな足音を立てて近づき、その手を掬い取る。
その時のシエルの満足そうな顔は、きっと先代と似ているのだろうと、ふと思った。
「なんだ」
「いえ、困ったお子様だなぁと」
「あぁ。だから寝室まで連れて行け」
「本当に年齢が退行したのでは?」
「甘え上手になったと言っているだろう?」
掬い取った手と逆の手がセバスチャンの首に絡みつき、耳元に唇が寄せられる。
そしてワザと息を含んだ声でシエルはそっと囁いた。
「僕をベッドに運んだら、そのまま僕をくれてやる」
「・・・ッ」
「どうだ?セバスチャン」
得意げな顔にセバスチャンは少しだけ大きくなった身体を抱き上げて。
「その台詞を私以外の者に囁いた日には地獄を見ますよ?」
「安心しろ、貴様専用の台詞だ」
「まったく本当に貴方はッ」
そのまま苛立つほど誘う唇に噛み付いた。
End

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