「明日の天気は何かな」
主人は聞く。
それに自分はどう答えたらいいだろう。
手にしていた書類を机に置いてチラリと窓の外を見て、雲の動きを目で追った。
「このまま風が吹いていれば晴れるかと」
「そっか」
こちらの答えに主人は笑顔で頷いた。
けれどそこの瞳には“面白くない”と描かれていてため息をつく。
面白くなければ面白くないと素直に言えばいいのに、という思いは口にはしない。
この主人の“嘘”は息をするかのように当たり前で、この見えない“威圧感”が裏社会の秩序として存在する為には“都合がいい”からだ。
「旦那様は雨が宜しいのですか?」
「うん、そうだね。その方がいい」
また笑顔で頷く。
「そうですか」
「あれ?理由は聞かないの?」
「主人のすることなすことに疑問を持たないのが執事というものです」
「田中は本当に執事の鑑だね」
それにさ。
「聞かなくても分かってるんだろう?」
主人は手の中でクルリとペンを回し、視線をそのペンへと向けた。
黒いインクをつけたせいか、回したペンの先から黒いインクが机に飛び散り、歪な形の雫を落としていく。
しかし主人の手には黒い手袋が嵌められているおかげで、黒いインクがついたことなど分からない状態で。
それこそが、主人が明日雨を望む理由。
「明日の予定は?田中」
(さぁ、狩りの時間だ)

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