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【2024/04/20 17:55 】 |
*031
本当に、愛してるから。




その手を伸ばした先にいたのは、小さな子供だった。
――――その子供を視た瞬間、笑みが零れた。いや真実、笑んだのは彼の方だったのかもしれない。

運命というものはなんて残酷なのか。

運命が渡した物は変えられない現実。
運命が零したのは嘲笑う痛々しい世界。
運命が選んだのは、

きっと小さな檻――――




「・・・・」

真夜中の時間。
目の前で横になっている子供の姿を赤い瞳に映して、溜息を胸の中で飲み込んだ。
ほんの少し、ほんの少しだけ手を伸ばしてみるけれど、黒く光った爪が視界の中に映りこんでハッとしたようにその手を強く握り締める。

目の前で横になっているとはいってもベッドと自分が立つ位置は一歩以上離れていて、手を伸ばしたくらいじゃ届くわけが無いというのに、なぜほんの少し伸ばしただけでこんなにも胸を痛めなければいけないのか。
飲み込んだ溜息が胸の中で暴れているからだ、なんて。そんな言い訳は馬鹿馬鹿しいにもほどがある。
それに――――
言い訳が出来る時期はとうに過ぎてしまった。

『坊ちゃん』

音にはせず、口の形だけで名前を呼ぶ。
意味はない。分かっている。呼ばなければ彼は振り向かない。
だって彼は人間なのだ。空気の動きだけで理解できるわけが無い。

『坊ちゃん』

けれどもう一度。
手は伸ばさない。それでも手袋をすることも出来ない。

触れたい。
触れたい。
この手でその身体に触れたい。

そして、
名前を呼んで、
この声で呼んで、
赤い瞳で微笑で、

『すきです』

気持ちを伝えたい。

『すきです、ぼっちゃん』

音にはならない。
声にはしない。
できない、言えない、言えない。

『すきです、すきです、あいしています』

赤くて
赤くて
喉も渇いて
空腹で
欲しくて
欲しくて
でも、
本当は欲しくなくて
手に入れたくなくて
ずっと
ずっと傍にいたくて
けれどそれは
己にはすぎた願いでしかなくて、

伸ばした手の先にいたのは天使でもなく、悪魔でもなく、ちっぽけな人間だ。
何も出来ない、ちっぽけすぎる人間だ。
けれど、それを手に入れることすら出来ない己の方がちっぽけで滑稽で

それでも、
それでも、
それでもっ、






「運命は、残酷だと思うか」
セバスチャン。

白いシーツの向こう側から聞こえてきた言葉。

「っ、」

それに瞠目し、息を詰まらせる。
彼が起きていたことには気が付いていた。
だが言葉は届いていなかった筈だ。

「・・・思います」

だが聞こえていたのかという質問はせず、問われた答えを返す。
先ほどまでこちらが何を考えていても、いま相手が何を思っていても、二人の関係は主と使用人。使用人が主人の質問に答えないなんて言語道断だ。

返した言葉に「そうか、」と小さく笑うような声。
そうだな、と繰り返し、身体を丸める仕草をしているのか白いシーツがもぞもぞと動いた。
背を向けている彼の表情は窺えない。

「運命は残酷だ」
「・・・・はい」
「けれどそれ以上に愚かだな」

あくまで笑うような声。
一体何が愚かなのか。
それも問うことはしない。
それは主従関係だからではなく、自分が弱虫だからだ。

「なぁセバスチャン」

(ねぇ坊ちゃん)
(貴方は、)

「来るなら、来い」

(いま、どんな表情(かお)をしていますか?)




伸ばした手
視界に映った黒い爪
それよりも目の前のシーツの山しか知りたくなくて

悲鳴を上げたベッドの音は歓喜の音
抱きしめた身体の冷たさは己の欲望
どこまでも満たすものは空腹で

触れた先、
見えたものは微笑みなんかじゃなくて、

「あいしています」

馬鹿みたいな、

流れ星。




涙は星となって流れて消えた。

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【2012/12/04 20:42 】 | Little Box | 有り難いご意見(0)
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