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【2017/09/25 02:35 】 |
重なる鼓動、重なる気持ち
いつもと表記(?)の仕方が違います!



どう言葉にしたらいいのか、分からない。
 まさかこんな、本当に、どうして。
 一瞬にして世界が真っ白になった。いや、全身に電気が流れたとも言えるかもしれない。
「私は、坊ちゃんが好きです」
 その言葉はずっとずっと欲しかったもので、けれど絶対に手に入らないものだと思っていた。
 それなのに、こんな、いきなり、急に、目の前に降ってきて。
「・・・・」
 だから、だから。
「そう、か」
 どうしたらいいのか分からなくて。
「・・・・ッ」

 逃げ出した。



 この気持ちは、気が付いたら湧水のように心の中に溢れていた。
 じわり、じわりと広がっていた筈なのに、その気持ちを忘れていた僕は、その気持ちの存在を認知することがなく、溢れてからやっと気が付いたのだ。
 湧水のように綺麗なものだとは思わない。一度は捨て、忘れてしまった気持ちだ。きっと泥のように濁ったものだろう。
 それに気持ちを抱いた相手は悪魔という、僕のことを餌としか見ていない相手。
 そんな相手に想いを抱いてしまうだなんて、なんて滑稽なのだろうか。
 それでも、この溢れた気持ちを再び捨てることも、忘れてしまうことも出来なかった。
 けれど伝えることだって出来ない。だからこの気持ちはずっと胸に秘めたまま、セバスチャンに喰らわれる最期を迎えようと決めていた。
 そう決めていたのに――――
『私は、坊ちゃんが好きです』
 まさか、彼からその言葉が聞けるなんて、誰が想像しただろうか。
 何度も思う、相手は悪魔だ。人間を餌としか考えない悪魔だ。それなのに、それなのに!
 彼は僕のことが好きだという。

(ありえないだろうっ!!)
 先ほどまでいた執務室の扉も閉めず、広い屋敷の中をひたすら走る。
 自分がどこに向かっているのかも分からないけれど、ただただセバスチャンから逃げるようにシエルは足を進めていた。
 体力などゼロに等しい身体で、しかも喘息持ちだ。すでに呼吸は乱れ、喉がヒリヒリする。
 それでもシエルは別の意味で頬を真っ赤に染めて走る、走る、走る。

「ぼ、坊ちゃん?!そんなに急いでどうしましただ?!」
 屋敷を掃除していたメイリンの声だって、
「お、坊ちゃん何か急用ですかい?」
 何に使うのか、ワインのボトルを数本抱いているバルドの声だって、
「ぼーっちゃん、急いでどこに行くんですか~?」
 土に汚れた顔に満面の笑みを咲かせているフィニの声だって、シエルには届いていない。

 ありえないっ、ひたすら首まで横に振りながらシエルは走っていく。けれど。
「ごほ、けほっ」
 ついに限界がきて立ち止まり、膝に両手を乗せて咳き込んだ。
 こんなに走ったのはかなり久しぶりだろう。肩で息をするだけでは酸素が足りていないような気がする。
 ――――ふと汗が伝った額がフワリと冷える感覚に顔を上げれば、優しく全身を撫でていく風が。
 いつの間にか外まで走り出ていたらしい。
 周りは綺麗に整理された花で満ちていて、乱れた呼吸を押さえて鼻で空気を吸い込めば花独特の良い香りが体内に入っていく。
「っ、はぁ…」
 シエルは汗を腕で拭いながら落ち着こうと、ため息に似た息を吐き出した。
(僕らしく、ないな)
 火照った身体を冷やす風に吹かれながら、乱れた心を落ち着かせる花の香りを吸い込みながらシエルは一人苦笑する。
 まだ頬は熱い、それでも先ほどよりもだいぶ落ち着いた。
 きっとセバスチャンは呆れているだろう。そういえば走っている最中に使用人たちともすれ違った気がする。
「最悪だ…」
 あとで適当にごまかさなくてはいけない。
 彼らは騙されやすいので問題はないだろうけれど、そうしなければいけない事態に陥ってしまったのは完全に自分のミスだ。
 でも仕方がないだろう、まさか、あんな。
「っ・・・」
 思い出せばすぐに走り出してしまいたくなる気持ちを押さえ、シエルはゆっくりと歩き始める。
 こんな庭で立っていては屋敷内から丸見えだろう。いや、見えなくてもあの悪魔にはどこにいるかバレてしまうと思うが、またあの使用人に見掛けられたら厄介だ。
 シエルはそのまま真っ直ぐ、少し向こうにある木の根元に屋敷から隠れるように座った。
 屋敷から、そして庭から少し離れたここは花の香りはしない。けれど風が木々を揺らす心地良い音が耳を擽っている。
「はぁ…」
 膝を立て、背凭れの木に身体を預けながら大きなため息。
 周りからは、さわさわさわ、木々の音が響く。

 どうしたら、いいのだろうか。
 
 いや、本当は別に悩むことなどどこにもない。
 自分だってセバスチャンのことを想っているのだ。ならばさっきだって逃げ出さずに「僕もだ」と返せばよかっただけの話である。
 彼には嘘をつくなと『命令』してある。だから彼がその命令を破って嘘をつくことはないだろう。…騙すことはあったとしても。
 それにこんなことで嘘をつく意味が分からない。もしも彼がこの気持ちに気が付いていたとしても、ただ傷つけたいから、ということでこんな嘘はしないだろう――――根拠は今まで一緒にいたから分かる、という何とも頼りないものだけれど。
 だからあの気持ちが嘘だとは思わない。
 それでも『ありえない』という気持ちでいっぱいで、素直に喜ぶことが出来ない。
 信じられない、というものとも違う。ただありえない、という気持ちで…。
 まるで夢を見たということは真実であるのに、起きてしまえば夢は幻であるような感覚。
 本物なのに、幻。
 セバスチャンからの気持ちは、そう感じる。

 だから。

 サク、

 返事だって、

 サクリ、

 出来ないのに。

「坊ちゃん、」

 彼は来てしまう。

「・・・・」
「喘息をお持ちだというのにこんなに走って、大丈夫ですか」
 心配するような声が背後から聞こえ、近づいていることが分かる。
 けれどもう足は逃げることをしてくれなくて。
「来るな」
「坊ちゃん」
「こっちまで、来るな」
 頼むから来てくれるな。
 立てた膝の間に顔を埋め、シエルは呻くように呟いた。
 きっとじゃなく、セバスチャンは逃げ出した僕のことを心配して追いかけてきてくれたのだろう。走っていた足音も聞こえていただろうから。
 (あぁ…情けない)
 どうしてこんなにも胸が苦しいのか。
 彼の告白を疑っているわけではないのに、素直に喜べなくて。
 『僕もお前が好きだ』と、言えなくて。
「…失望、しましたか?」
 ふわりと髪を浮かせる風と共に、少し切ない声が流れてくる。
「契約をしている悪魔だというのに、その契約者に想いを寄せてしまうなんて。貴方にとっては迷惑な話ですよね」
 振り返らなくても分かる。彼が今どのような顔をしているのか。
 ――――違う、そういう顔をさせたいわけじゃない。悲しませたいわけじゃない。そうじゃないんだ。
 けれどそう思ったところで口からは震えた息しか出てこず、言葉を返せない。
「困らせてしまうだろうと分かっていました。気持ち悪いと一蹴されるのも、覚悟していました」
 けれどね、坊ちゃん。
 トン、と背中の幹が揺れ、振動を伝える。背中合わせになるようにセバスチャンも幹の元に座り、背を預けたのだろう。その証拠に声が近くなったのに、別の方向を向いて話しているように声が遠い。
「もう、抑えきれなくなったんです。この気持ちが。溢れてしまう想いが。貴方に伝えたくて、仕方がなかった」
「・・・・」
「悪魔のくせにと思うかもしれませんが、悪魔だからこそ欲求に素直なんです」
 困ったように笑う声。
「好きです。貴方が好きです、坊ちゃん」
「っ・・・・」
「顔を上げてください」
 (そんなこと無理だッ)
 シエルは膝に頭を埋めたまま顔を横に振り、拒絶を表す。このまま呆れてしまっても仕方がないだろう。こんなにも情けない姿をさらしているのだから。
 けれどセバスチャンは優しい声音で話し掛けてくる。
「では、声だけでも聞かせて」
 こちらの方を向いたのだろう。先ほどよりもまた声が近くなるけれどシエルは首を横に振る。
「坊ちゃん・・・」
 そっと肩に触れられた感触にビクリと身体が跳ねてしまい、その隙を逃さずにセバスチャンは背と幹の間に手を差し込み、後ろから抱きしめた状態になってしまう。
 捕まえた、と耳元で囁かれ、ぞわぞわとしたものが身体の中を通っていった。
「好き、好きです」
「~~~~~~~っ」
 そんなに何度も言わないでほしい。蕩けるような声で言わないでほしい。耳元で、言わないでほしい。
 強く背後から抱きしめられている身体はスッポリとセバスチャンの両腕に包まれ、きっと彼の胸板に己の早い鼓動が響いてしまっているだろう。
 ほら、こんなにも鼓動が身体を震わせて自身の気持ちを表してしまっているのだ。セバスチャンに伝わらないわけがない。
 なんの意味もないというのに、少しでも鼓動が相手に伝わらないように身体を小さくしようとして、ふと違和感が。
 確かに自分の早い鼓動は身体を震わせている。それほど速く、強く波立っているのだ。けれど・・・――――違う。僕の音だけじゃ、ない。
「坊ちゃん…」
「セバス、チャン?」
 この重なる鼓動は、セバスチャンのもの?

トクン(ドクン)
トクン(ドクン)
トクン(ドクン)

 早い、鼓動。
 重なって、揺れて。

 同じ、鼓動(きもち)。

 (あぁ、同じなのか)
 セバスチャンも、同じなのだ。
 きっと今、想いを口にしてしまったことをどうしていいか分からなくて。
 けれど今更冗談にすることだって出来ない。
 ――――あぁ、そうか。

 今の彼も。
 今の僕も。

 ドキドキして、
 緊張して、
 凄く、不安なんだ――――

 彼の気持ちを疑っていたわけではないのに、ありえないと首を横に振って。
 本物なのに、幻なような気がしてしまって。
 それは怖かったから。
 本当に欲しかったものがいきなり目の前に現れたら、誰だってどうしていいか分からなくなる。
 触れても大丈夫か不安になる。消えてしまうんじゃないかと怖くなる。
 一度忘れてしまったものならば、なおさら。

「セバスチャン…」
 ゆっくりと顔を上げて、己を抱きしめる腕に手を乗せる。
 ピクリと反応した身体に、また少し早くなった鼓動。なんだか彼の心を覗けたみたいで気分がいい。それと同時にそんな反応をしてくれることが恥ずかしい。
「坊ちゃ、ん」
「セバスチャン」
 そっと身体と首を回して振り返れば、情けない悪魔の表情。
 泣きそうなような、怒っているかのような、まるで迷子になってしまった子供のような…不安げな顔。
(そんな顔、するな)
 そう思いつつもきっと自分も同じような顔をしているのだろう。裏社会で恐れられている存在だというのに、主従でこんな状態だなんて、情けないを通り越して滑稽だ。
 自然と顔が近くなり、コツリと額と額が合わさる。互いに互いを瞳に映し不安気に揺らしているにも関わらず、強く相手を縛り付けるかのような視線で、逸らすことを許さない。
 胸も息も全て苦しいのに、全身が甘さでビリビリと痺れてしまいそうだ。
「・・・・」
「・・・・」
ゆっくりと、本当にゆっくりと近づく唇。
一瞬上唇だけ触れ合い、ビクリと震えてしまったこちらを窺うかのように少し離れる。けれど嫌がることも逃げることもしないと分かれば再び唇が近づき、もう一度一瞬だけ。そして今度は口付け合っていることを確かめるように少しだけ長く。
瞳を先に閉じたのがどちらだったのか分からない。もしかしたら同時だったのかもしれない。いつの間にか瞳を閉じて相手の唇に集中する。
柔らかくて、温かくて、なんというか、とにかく気持ちがざわめく。
「ん・・・」
 それは彼も同じようで、だんだんその唇がこちらを求めてくる。それに答えたくて、身体をしっかりとセバスチャンの方へ向き直し両手を首に絡めるけれど、そこからどうしていいかなんて分からない。
 けれどそこに先ほどのような焦りもなければ不安もない。ただただ甘くざわめいてしまう気持ちだけ。
 ――――セバスチャンを愛しいと思う気持ちだけ。
「ン、ふぁ…んン」 
時折聞こえる、ちゅう、という音は死ぬほど恥ずかしけれど、大丈夫。
 抱きしめる腕から、この唇から、彼の愛を感じるから。
 強く強く、その愛情を感じるから。

 唇が離れた最初に、僕も好きだと伝えよう。
 きっとこの唇から全てが伝わっているだろうけれど、それでもセバスチャンと同じように言葉でも気持ちを伝えたい。
 そしたらきっとセバスチャンは喜んで、また口付けてくれるだろうから――――




END

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【2012/12/04 20:44 】 | Text | 有り難いご意見(0)
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