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【2024/05/19 10:23 】 |
彼方なる火をつけて(子供)
子供の貴方。
焼印(リクエスト)



夢を見た朝は顔色が悪い。
けれどカーテンを開けた後の目覚めは良いし、本日の仕事の内容や勉強の予定の話をしても嫌な顔を一切しない。
夢を見た彼は人間の鑑と言っても良いほど出来た人間へと変わるが、その精神はどうだろうか。
だが彼は何も言わない。言おうとしない。逆に触れて欲しくないような雰囲気をかもし出すので、セバスチャンはいつも何も言うことなく、その顔色の悪い主人の下で一日働くのだが。

――――ガシャン!!

今日はそうもいかなくなった。

「っ・・・はぁ、はぁッ・・・」
「・・・大丈夫ですか、坊ちゃん」

上に何も纏っていない状態で、ある一点を見つめたまま肩で息をしているシエルにセバスチャンは声を掛ける。
ある一点とは目の前にある鏡・・・だったものだ。
その鏡はシエルの投げた物によって割れ、全身を映すことのない使えない代物と化してしまったが、きっと彼はそれを目的としてわざと物を投げたのだろう。
己の身体に刻まれたものを見たくなくて・・・――――

「はぁ、はっ・・・後で片付けておけ」

シエルは荒い呼吸をしたまま額に浮いた脂汗を腕で拭い、言う。
顔色も悪く、表情も険しい。
けれど彼はそれ以上なにかを言うつもりもないらしく、服を着せるよう指示するかのように腕を伸ばした。

「・・・お怪我はありませんか」
「ッ・・・無いから、早く着せろっ」

しかしセバスチャンはそれに応えることはせず、割れた鏡に辛うじて映るシエルの顔を見つめたまま訊ねる。
それにシエルは怒鳴り怒りを露わにするけれど、それでもセバスチャンは服を着せようとはしない。
むしろ手に持つ服を皴が出来てしまうほど強く握り締めた。

「おい、セバスチャ」
「なぜ鏡をお割りに?」
「貴様には関係の無いことだ」
「関係ない、ですか」

関係ない。
シエルはいつも必要以上に自分に関わろうとはしてこない。
得に過去が絡むと拒絶を示す。
夢を見た朝と同じように。
それは恋人という関係になっても同じことで。
(いつまでもそれで済むと思っているんですかねぇ)
セバスチャンはシエルにも伝わるよう大げさにため息をつき、そして赤い瞳を細めた。

「貴方はいつまで逃げるおつもりですか」
「・・・なに?」
「過去には立ち向かうクセに、私からは逃げると」
心底ガッカリですよ。

言いながらセバスチャンは握り締めていた服を放り、その手でシエルが見たくなかったもの…刻まれた焼印に触れる。
その瞬間にシエルは過敏に反応し「触るな!」とセバスチャンの手を振り払おうとするが、その手をもう片方の手で掴み、暴れぬようその腕で彼の身体抱きしめた。

「離せッ~~~!!」
「悪夢にも、己の中にまだある恐怖にも立ち向かう姿は立派だと思います。ですがそれ以上にそれを私に言うことは恐ろしいと?」
「貴様に言っても何も、何も解決しない!!」
「・・・恋人に向かって言ってくれますね」

セバスチャンはハッ、と鼻で嗤い、そして。

「いッ・・・!!!」

焼印に唇を寄せ、歯を突き立てた。
悪魔の鋭い歯は彼の肌を切り、鮮血を露わにさせる。
それを一滴も残さぬようセバスチャンは舌で掬い、そしてまるで吸血鬼のように吸い付いた。

「や、め、セバス、チャンっ!!」

シエルは全身を震わせながら叫ぶが、セバスチャンはやめない。
より両腕で彼の身体を抱きしめ、その焼印に吸い付く。
その度に痛みのせいか、それとも別の何かのせいか・・・彼は小さく声を上げ、耐えるように唇を噛み締めている。
その姿にも煽られるようにセバスチャンは何度も何度もその焼印を犯した。

唇を離した頃には、シエルはもう1人で立っていることも出来ず、後ろにいるセバスチャンに身体を凭れ掛けた状態になっており、焼印の方は血は止ったものの赤く腫れてその印はうっすらとしか見えなくなっていた。

「貴方が何を考えて私に何も言わないのかは知りません」
想像は出来てもね。

セバスチャンは力が抜けてしまったシエルを己の膝に座らせ、彼の肩に顎を乗せて耳元で囁く。

「ですが貴方の過去も、恐怖も、そして貴方を縛る怒りという名の焼印も、全て私のものです」

ねぇ、坊ちゃん。

「いつでもまた、“上書き”して差し上げますよ」




その焼印が、消えて無くなるまで。





彼方なる火をつけて
 

 

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【2011/11/29 19:19 】 | Project | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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