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【2024/04/25 09:03 】 |
椅子取りゲームの勝者のために(大人)
大人の貴方。
自分が傍からどのような目で見られているのかは知っている。
その視線がもっと子供の頃から受けていたのかは分からないが、確かにあの頃からも妙な視線や問題は多々あったような気がする。
(きっとあの頃の自分だったら許さなかっただろうな)
あの頃と言っても数年前の話であり、そこまで多大な年月を重ねたわけではない。
それでも子供から大人へと片足を踏み込み始めた年齢は、妙に一年の中で思考も、そして知能も変化していくような気がするのはなぜだろう。
まぁ、その変化は成長という意味のもので“失う”という意味ではないのだから別に何だっていいだろう。
――――別の意味で他のものを失っているのでは、という思いは見てみぬふり。

「さて・・・と」

シエルは廊下の先にあるひとつの扉の前に立つ。
それは自分の屋敷とは違い、趣味の悪い色や飾りであしらわれており、げっそりしたくなってしまう。
それでもシエルはこの扉の向こう・・・客室という名の身体を重ねる為の牢屋に足を踏み込まなくてはならない。
相手から情報を引き出すために――――

自分が傍からどのような目で見られているのか理解したと同時に、新たな情報の引き出し方を考えた。
それはきっとあの頃の自分なら絶対にしなかったことだが、今の自分は“自身を利用すること”に対して、なんの反感もない。むしろ好都合だと思っている。
他の駒を使うことに対して信用がないというワケではない。それでも一番信用できるのは己だ。
だからシエルは自身を餌に情報を引き出すことを躊躇しなかった。

本当に身体を重ねることはしない。
少しだけ己の身体に触れさせ、お預けを出し、そして代わりに情報を頂戴する。
その情報を元にその場で計算し、その相手こそが黒幕だと分かれば己の手で無き者にしてしまう場合もあれば、他の人間こそが黒幕だと分かれば、そこへ案内してくれるようにまたお預けを出す。
――――本当に愚かな奴らだ。
お預けをした暁にはご褒美が貰えるのだと疑わず、己の手の平で動いてくれる。
それを見る様は酷く滑稽で面白く、それと同時に心が冷えてくるのが分かるけれど。

(無様だな腐れジジイ共め/キモチワルイ)

チェックメイトの快感に勝るものではない。




しかし、ひとつ問題が。




―――ガチャリ。
ノックはせず、シエルはその扉を開ける。
中にいる相手は自分が来ることを知っているのだ、そんな気遣いは無用だろう。

「お待たせしました」

言いながら入ってきた扉を閉め、振り返る。
―――その瞬間シエルは鼻についたよく知る匂いに顔を歪めた。

「そんなに待っておりませんよ」
「・・・“またか”」

室内の明かりも、そして外の月明かりすら入ってこないまさに闇の空間。
しかしその声と、赤く輝く瞳がその空間の全てを物語っていた。

「相手は」
「ゲームに負けた方には早々にご退場していただきましたよ」
「・・・本当に相手は負けたのか?」
「えぇ。ちゃんと証拠もこちらに」

バサリと紙の束が落ちたような音が耳に響き、きっとそれは今回の事件についての証拠となる書類なのだとシエルは理解する。
本当に相手が黒幕だったかなんて確認せずとも、彼がこういうことに関して失敗するわけがない。
それでも聞かずにはいれないのだ。

「これであの腐った人間に身体を触れさせる必要が無くなりましたよ」
坊ちゃん。

彼もまた、自分を欲しがっている者のひとりなのだから・・・――――

「今日の仕事にはついて来るなと言った筈だが」
「ついてきてはいませんよ、たまたま遊びに来た部屋にたまたま坊ちゃんが探していた相手がいて、たまたま今回の事件の証拠を手に入れて、たまたまこの方が黒幕だと分かったので、駆除したまでです」

坊ちゃんを仇なす者は排除する、それも我らがファントムハイヴ家の使用人の務めでもあるでしょう?
彼はそう言いながら、コツリコツリと足を踏み出す。水音がしなかっただけまだマシだろうか。

「これでチェックメイトも済みましたね」
「・・・余計なことをするなと何度言ったら分かる」
「余計なこと?果たしてこれは本当に余計なことなんでしょうかねぇ」

クスクスと笑い声が耳元で聞こえ、シエルはこれ見よがしに大きくため息をつく。
だが彼の言葉に反論はしない。

「セバスチャン」

その代わりに彼の・・・セバスチャンの名前を呼び、諦めるように閉めた扉に身体を寄り掛からせた。
逃げることなど出来ない。きっともうその腕は己の身体の左右に置かれ、道など塞がれてしまっているだろうから。
それ以前に、悪魔から逃げることなど出来ないのだ。

「Stay」


「―――No」

まるでそれを合図にセバスチャンはシエルの身体を抱きしめ、これでもかというほどに荒々しく口付けた。

(本当に、コイツは・・・)
セバスチャンは他の連中とは違い、お預けなどせず主人に襲い掛かる。
何度躾けてもそれが直ることは無く、逆に反抗するかのように“Stay”と言えば噛みつくのだ。
それどころか他の犬にまで手を出して、己こそがシエル・ファントムハイヴの狗なのだと…―――

「ん、っは・・・やッ・・・」
「イヤじゃ、ないでしょう?」

それは確かに困ることだ。
チェックメイトをする瞬間をセバスチャンに取られてしまうのだから。
けれどそんなことは大した問題ではない。
一番困ることは、


(それを見る様は酷く滑稽で面白く、それと同時に心が冷えてくるのが分かるけれど)
(無様だな腐れジジイ共め/キモチワルイ)
(チェックメイトの快感に勝るものではない。)



(しかし、ひとつ問題が)




そのチェックメイトの快感よりも、

セバスチャンに抱かれることの方が、

自分にとって、



幸せだということだ。





椅子取りゲームの勝者のために


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【2011/11/21 23:38 】 | Project | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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