忍者ブログ
  • 2024.02
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31
  • 2024.04
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【2024/03/29 14:49 】 |
本当の…
一周年オマケ




それは最初から仕組んでいた。
シエルが今は仕事中だということも、そして俺がゲームに勝てないということも。
そして最終的に、あの悪魔の名を呼ぶことも。

「それじゃぁクロードはここにいてよね」

馬車から降ろしてくれたクロードにアロイスは若干眉毛を吊り上げて言う。
それは彼がどんなに無表情を装っていたって実は不機嫌なのだと知っているからだ。

「別に私が一緒でも結果は変わらないのでは」
「だからー、クロードが一緒だったら絶対にセバスチャンが意地張って罰ゲームを受けないって言うに決まってるって何度説明したらいいわけ?」
「ですが…」

眼鏡を上げる仕草がいつもより遅いのは彼の心の様子を表している。
しかしそれを知らぬフリをして、アロイスは手を振りながらクロードに背を向けて歩き始めた。

「大丈夫だってば。別にファントムハイヴ家で何か起こる訳でもないし、それにさ」

アロイスは言う。

「悪魔の事情なんて、俺たち人間には関係ないし?」









「セバスチャンってさ、絶対にシエルのこと好きだよね」

クロードが淹れた紅茶に口をつけながら言う台詞は、どことなくいじけているような声音になってしまったのは無意識だ。
ムカつく悪魔にシエルが取られてしまうだろう未来を考えて、こんな声音になったわけでは決してない。

「それか何か問題でもありましたか、旦那様」
「問題大有りだよ」

本日のケーキを食べ終えた、空のお皿をワゴンに置きながらクロードは首を傾げる。
この悪魔はそういうテのものに大変疎い。自分と恋人同士になる時は酷く単純だったというのに。…このクロードという名をつけた悪魔は何よりも自分の心に素直なのだ。セバスチャンと名付けられた悪魔と違って。
アロイスはカップを持ったまま椅子の背に寄り掛かり、首を背凭れに乗せた。

「シエルもセバスチャンのことが好きだからだよ」

多分ね、という言葉は心の中で。

「お互いにお互いのことを想っているなら、それって両思いじゃん」
「……それが何か」
「だからさー、それを知りながらどうしてセバスチャンはシエルに想いを伝えないの?」

たまにしか逢わない自分だってシエルの気持ちに気が付いたのだ。
いつも傍にいる彼がシエルの気持ちに気が付かないわけがない。

「さぁ。私にはあの変態悪魔のことは理解出来ませんので」
「……ほんっとクロードとセバスチャンって仲悪いよね」
しかも変態って人(悪魔)のこと言えねぇし。

悪魔同士は皆仲が悪いものなのだろうか、と考えてしまうほどクロードとセバスチャンは仲が悪い。
ハンナは、この二人とは違って表立って喧嘩らしきものをすることはないけれど、冷たい稲妻なようなものを全身から放っている気がする。
(ま、クロードとセバスチャンが仲がいいというのも気持ち悪いかも)
二人で好青年のように微笑みあっている絵なんて見たくもない。

「ですが」
「ん?」

キラキラと輝く気持ち悪い二人を想像しているところにクロードが呟く。
反射的に預けていた背を浮かせ、カップをソーサーに戻す。

「なに、クロード」
「……悪魔として、手を出していないのでしたら……少しは気持ちは分かるかと」
「………随分と意味深な感じだけど」

アロイスは瞳を細め、クロードを睨むように見つめた。

「悪魔としてって、プライドか何かなわけ?」
「いえ、そういうわけでは」
「じゃぁなに」
「……旦那様」

こちらの苛立ちに気がついたのか、クロードはアロイスの元に跪き、頬に手を伸ばす。
その手は手袋越しだが小さな灯火のような体温が感じられて、アロイスは無意識にその手に擦り寄り、唇を尖らせた。

「俺はただ想い合っているのにくっつかないシエルとセバスチャンがじれったいだけ」
「そうですね。ですが、全ての関係が私たちのように上手くいくとは限りません」
「そんなこと、分かってるよ…。でも、それでも」

シエルは幸せになるべきだ。
そう思うのは我侭だろうか。
俺はクロードと想いが通じ合ってから独りぼっちじゃないと思えたし、勿論執事として傍にいてくれたけれど、今では本当の意味で傍にいてくれると安心出来る。
たとえ、これから二人を引き離す未来が必然的に来るとしても。

「ってかさ。ここは普通悪魔であるセバスチャンが頑張るべきだよね」
「……あの変態にそこまでの根性があるとは思えませんが」
「だからクロードが言えたことじゃないっての」

頬に触れている手に己の手を重ね、ぺしぺしと叩いて笑う。

「どうせシエルは自分の気持ちに気がついてないだろうし…うん、そこはセバスチャンが一歩踏み込むべき」
「何をするつもりですか、旦那様」
「あれ?俺まだ何かするなんて言ってないよ?」

そうおどけて言ってみせれば彼は困ったようにため息をついた。
どうやら俺が彼を分かるように、彼も俺のことが分かるのだろう。
そんな些細なことがとても嬉しいし、本当はこんな奇跡のようなことが“些細なこと”と思えることも幸せだ。
それをシエルにも感じて欲しい。

「簡単なことだよクロード」
「簡単なこと?」
「うん」

シエルとセバスチャンに、一週間恋人同士になってもらうんだ。


ただ、シエルが幸せになって欲しいから。
切欠はそんな、単純なこと。



けれど。



「アロイスッ…!!!」


彼は、涙を流した。

















「ねぇ、クロード」
「・・・・」

遠くなる馬車の姿を見つめながら、アロイスは涙を流す。
『頑張ってね』なんて、なんて簡単な言葉なんだろう。
もう彼はこの一週間、これでもかというほど勇気を奮ってきたに違わないのに、もうこれ以上頑張る必要なんてないのに。
今の俺には、その言葉しか言えない。

「俺はシエルに幸せになって欲しかっただけだったんだ」
「・・・・」
「“恋人同士”になってまで逃げるセバスチャンはイライラするよ。きっとそれは前にクロードが言っていた“悪魔として手を出せない”んだとしても、あんなにシエルを傷つけるなんて許せない」

まさか、こんなことになるなんて誰が予想しただろうか。
セバスチャンがシエルに本当の気持ちを伝えたか確認する為にシエルの元へ訪れたというのに、彼は一歩を踏み出すこともせず、罰ゲームの現状…ぬるま湯に浸かったまま、シエルの気持ちを受け取ることをしていなかった。
それなのにあのいけ好かない笑顔を浮かべて、いけしゃあしゃあと“恋人同士”なんてほざいて……口を何度潰したくなったことか。
今だってシエルを一人屋敷に戻すのではなく、己も行って、ずるい悪魔の首を絞めたくてたまらない。
でも。

「このゲームを始めたのは、俺」
「・・・・」
「あんなにシエルを悲しませる切欠を作ったのは、俺…なんだよね」

馬車の姿はもう見えない。
けれどアロイスは真っ直ぐ前を向いたまま涙を流す。

「だから、俺はちゃんと見届ける」

このゲームを始めたのは俺。
この“恋人同士”という偽りの舞台を作ったのも俺。
舞台に乗った役者を助けることは出来る、手伝うことは出来る。
けれど、そのスポットライトを浴びた役者のフィナーレの中へ俺が入ることは出来ない。
舞台袖で、成功を祈ることしか。

ねぇ、シエル。
そして。
セバスチャン。

「がんばれ」

もう頑張る必要などない、そう思いつつもあえてその言葉を見えない背中に投げかければ。
クロードは何も言わずに俺の背中を強く抱きしめてくれた。






















「とかさ、思い返せば結構涙ものだったと思うんだけど」
「どうしたかアロイス」

目の前で紅茶を飲んでいるシエルはアロイスの呟きに首を傾げたが、別に、と素っ気無く返し、少し乱暴にソーサーにカップを戻す。
先日見た時とは違い、瞳の赤さも腫れも引いて、いつものシエルの顔だ。
違うのは。

「坊ちゃん、紅茶のおかわりは」
「…ん」

どこまでもニヤけた面の悪魔がシエルの隣にいることだ。
シエルもいつもの鉄火面のような表情を保ちつつも、若干頬を赤く染めているのは気のせいではないだろう。

「・・・・」

あんなにも…あんなにも二人で悩み悩み苦悩していたというのに、付き合った途端にコレ?!

「あのさぁ、シエル」
「なんだ」
「それでいいわけ?」
「…どういう意味だ」

眉を顰めながら聞いてくるシエル。
どうやら本気で俺の言いたいことが分からないらしい。あんなに傷つけられて涙を流していたというのに…。
シエルが屋敷に戻ってからセバスチャンとどんなやり取りがあったのかは分からない。でも、シエルは次の日の朝「付き合うことになった」と報告しに来てくれた。「世話になった」とも…。
俺としては色々と不満があるけれど。

「別にいいや」

シエルが幸せそうなんだし。

「なんだ、分からん奴だな」
「いいでしょう、坊ちゃん。アロイス様の考えなんて理解できずとも」
「ちょっとセバスチャン、何その言い方」
「旦那様は紅茶のおかわりどうされますか」
「……いる」

ムスッとした顔でカップを手にしてクロードに渡そうとすると、
(あ…)
空っぽのカップの底が瞳に映る。











悪魔の事情とか、
人間の事情とか、
そんな面倒くさいもの、俺は知らないし考えたくもないし。

でもきっと考えなかったことに後悔するときが来て、
でもきっと考えなかったときを羨ましく思うときが来る。

それをここにいるみんなが分かっていて、それでもこうやって紅茶を一緒に飲んでる。


「どうした?アロイス」
「……ううん、なんでもないッ」
クロード、紅茶おかわり!


ほんっと、クソ幸せだよ。






Happy End


(もちろん最後は全員・全部・幸せ!!)

拍手

PR
【2011/09/13 18:47 】 | Project | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
<<れん様より | ホーム | 最終日/綺麗事なんて、クソ喰らえ。>>
有り難いご意見
貴重なご意見の投稿














虎カムバック
トラックバックURL

<<前ページ | ホーム | 次ページ>>