どうしたらよかったのだろう。
それはいつの間にかあって、いつの間にか大きく育っていた。
止められる暇なんてなかったんだ。
「なぁセバスチャン」
「はい、如何なさいましたか」
「・・・少し、旅に出たい」
「旅・・・ですか?」
「一人で、誰も知らない静かな所に行きたい」
誰も知らない場所で一人きり。
それはなんて寂しいものなのだろうかと笑ってしまいそうになるけれど、
それはなんて安心できるものなのだろうと泣いてしまいそうになる。
誰も知らない場所で一人きりならば、きっとこの育ってしまった気持ちが誰かにバレることがないだろうから。
「ご命令とあらば、お連れしますが」
「それじゃぁお前が場所を知っているだろう」
「そうなりますと、ちょっと無理なご相談かと思われますが・・・」
「そうだな」
困ったような表情に、シエルは頷いた。
この悪魔とは契約がある限り、自分がどんな場所にいてもこの悪魔は分かってしまう。
だから最初から誰も知らない場所で一人きりなんて無理な話しだったのだ。
そんなこと分かっていた。分かっていたけれど、口にしたくなるものだってあるだろう?
「無理なことを言って悪かったな」
「インドア派の坊ちゃんが旅に出たいだなんて、不思議なこともあるものですね」
「たまにはいいだろう、僕らしくないことを言ったって」
これくらい、たまには許せ。
本当の“自分らしくない部分”は絶対にお前に見せないから。
育ってしまった気持ちを、渡すつもりもないから。
これくらいは許して欲しい。
でも、本当は。
この気持ちを知って欲しい、なんて。
「まぁ、驚きますがたまにはいいでしょう。面白いですし」
「まったく酷い奴だ」
そう言って笑ってみせる。
お前は本当に酷い奴だな、と。
そして。
本当はこの気持ちを受け止めて欲しいと願いながら。
もう一度。
酷い奴だと、
笑った。
end

PR