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【2024/03/29 02:14 】 |
2日目/今の関係を意識して

一周年



「大丈夫ですか?」

心配そうな顔をして覗き込んでくる相手にシエルは仏頂面で一応、あぁ、とだけ返す。
本音を言えば、全然大丈夫ではない。
足の痛みもそうだが、精神的に。

「もうあんなもの二度とやりたくない」
「無理仰らないでください。むしろこのような怪我をされないように、もっと練習を積まねばなりませんよ」

セバスチャンは足にのせた濡れタオルを取り、氷と水で冷やして置いたもう一枚のタオルと交換する。
新しくのったタオルの冷たさを心地よく感じながらも、ソファで横になったままシエルは勘弁しろと呟いた。

今日はダンスのレッスン日。
何よりも苦手とするものに文句を言いつつも必死にレッスンを受けていたのだが。
見事に己の足に躓き、転倒。
足首を捻ったのである。

「しかし…本当に坊ちゃんはダンスが苦手ですねぇ」
「しみじみと言うな、しみじみと」
「そこまで不器用というわけでは無いと思うのですが」

ビリヤードなどは得意でしょう?
そう聞いてくるセバスチャンに、シエルは口を尖らせる。

「僕だって聞きたいくらいだ」
「足を使うゲームとかはないのですか?」
「……聞いたことはないが」
「では今度探してみましょうか。もし足を使うゲームが不得意なのならば、足のみが不器用ということになるでしょう」
「足のみが不器用って…妙な話しだな」

ため息をつきながら言えば、貴方のことですよ、と笑われる。
その表情は昨日一緒に話しをした時と同じもので。

昨日からセバスチャンは魔法が掛かったように優しい。
そして僕も魔法が掛かったかのように、相手に突っかかることもなく会話をしている。
ただの罰ゲームなのに、ここまで変わるなんて。
不思議だと思いつつも、違和感無く接しているのはどうしてだろう。

「まだ痛みますか?」
「…少しだけ、な」

さっきは大丈夫かという質問に、あぁ、と返したのに。
やはり素直になってしまう自分はどこか可笑しい。
けれどセバスチャンもやはりそれを指摘することはなく、むしろどこか苦しげな表情で、そうですか、と頷いた。

「どうした」
「いえ、何でもありませんよ」
「ならどうしてそんな顔をしている」

眉間に寄ってしまっているシワを指先で突けば、相手はその指をそっと握り、自分の頬に押し当てた。
もしかしたら初めてセバスチャンの頬に触れたかもしれない。
その自分よりも冷たい体温を拒絶することもなく、そのまま好きにさせていれば、小さく呟く声が。

「すみませんでした」
「何がだ」
「怪我をさせてしまって」
「は?」

シエルはセバスチャンに負けないほど眉間にシワを寄せて傾げた。

「なぜお前が謝る」
「怪我をさせてしまったからです」
「別にお前が怪我を負わせたわけではないだろう」
「でも、傍にいたら助けることが出来たのに…」

そう。
シエルが転倒した時は丁度セバスチャンがレッスン後に飲む為の紅茶を用意しに行っている時だったのだ。
きっと悪魔であるセバスチャンならば、シエルが転倒したとき、床に着く前に受け止めることが出来ただろう。
足を捻らせることはなかったかもしれない。
だが、いま足を捻ってしまった現状は決してセバスチャンが悪いわけではない。

「そんなの仕方が無いだろうが。この怪我だって転んだ僕が悪いんだ。お前が気に病むことなど1つもない」

落ち込んでいるような様子の相手を宥めるように言うが、セバスチャンの表情が晴れることはない。
それほど悔やんでいるのだろう。(ったく、馬鹿な奴だ)
シエルはあからさまに大きなため息をついて、セバスチャンの頬に触れていた手で、その頬を思いきりつねった。

「坊ちゃん?」
「変な顔だな」

横に伸びた悪魔の顔にシエルは笑う。

「今そんな自分を責めてどうなる。時間が戻るわけじゃないだろう?別に僕はお前を責めていないし、たとえお前がいてくれたとしても怪我をしていたかもしれないじゃないか」
「でも、恋人を助けるのは当たり前のことでしょう」
「こいッ…!」

恋人言うな!という台詞は何とか自分で抑える。
けれどその気持ちを込めて相手を睨んでやれば、まだ落ち込んでいる姿が瞳に映って。
シエルはもう一度ため息をついて、つねっていた頬を離し、顔を隠すように両腕を自分の瞳に乗せた。
これから言おうとしている言葉は相手の顔を見ながら言うことなど出来るわけが無い。

「なら僕も嫌だ」
「坊ちゃん?」

顔を隠してしまったせいか、それとも言葉の意味が分からないのかセバスチャンの怪訝そうな声を聞きながら、シエルは一度深呼吸をして。

「恋人には笑顔でいて欲しいと願うだろう?」
だから。
「お前のそんな顔、見たくない」

そう言いながらも心のどこかで“期間限定の”という冷たい自分の声が聞こえたが、すぐにそれは霧散される。
言葉を放った後すぐに身体は相手に力強く抱きしめられ、シエルは驚きに両腕をどかして己の身体を見た。
そこには自分の身体に抱きつくセバスチャンと、笑顔。

「そうですね。恋人の悲しい顔は見たくありません」
「…だろう?」
「すみません、坊ちゃん」
「もうその言葉は厭きた」

もう謝る必要などないということをストレートに伝えず、恋人という単語を自ら使った恥ずかしさで意地が悪い言い方をしてやったのに、セバスチャンは嬉しそうに、はい、とシエルの頭を撫でる。

「…昨日からよく頭を撫でるな」
「恋人同士ですから」
「恋人相手に頭を撫でるクセでもあるのか?」

ふと思った疑問をそのまま口にすれば、今度はセバスチャンがキョトンとした顔で首を横に傾げた。

「いえ、そんなことは無いと思いますが。そんなに頭を撫でていましたか?」
「結構な頻度で頭を撫でるな」

思い返せば。
昨日いっしょに話しをした後から、ことあるごとに頭を撫でられている。
仕事が終わった後。
食事をする前、終わった後。
入浴する時。
ナイティに着替える時。
蝋燭の火を消す時。
昨日頭を撫でられた時のことを憶えている限りのことを全て言えば、セバスチャンは一瞬だけ目が点になっていた。

「そんなに撫でていましたか」
「撫でていたな」
「それは…無意識かもしれませんね」

そう言いながら、またセバスチャンはシエルの頭を撫でる。

「仮の恋人にも無意識で頭を撫でるなんて…ある意味本当に最強だな、お前は」
「…今はちゃんとした恋人でしょう?心の底から坊ちゃんを恋人だと思っている証拠ですね」

先ほどの落ち込み具合が嘘のように力強く言うセバスチャンに、シエルは投げやりに、そうか、と返した。
―――心の底から坊ちゃんを恋人だと思っている。
その言葉はなぜか自分の何かを抉った。
(やっぱり、おかしいだろう)
昨日からセバスチャンが魔法が掛かったように優しいことも。
そして僕も魔法が掛かったかのように、相手に突っかかることもなく会話をしていることも。

きっと今の状態は後に良くない。
抉られた部分がシエルにそう告げる。

けれどそれに答えを返す前に、セバスチャンの声が響き。
シエルの思考を遮断させた。

「嬉しくないですか?」
「なにが」
「恋人にこんなに想われてですよ」
「想われていると言っても、」
「私は」

思考だけではなく、セバスチャンはシエルの言葉も遮って微笑む。
その笑みは昨日のものとも、先ほどのものとも違う。
どこか必死な笑み。

「嬉しかったですよ」

けれどその言葉は本物で。

「坊ちゃんの口から恋人だという言葉が聞けて」
「・・・・」
「…坊ちゃん」

その言葉に黙ったまま目線をずらせば、額に柔らかい感触。
額に口付けられたのだと分かったのは目線を戻した時にセバスチャンの顔が近くなっていたからだ。

「…おまッ」
「この後の授業は全てキャンセルにしましょう」

何をされたか分かったシエルは額を押さえて、口をパクパクさせたがセバスチャンは何にも無かったかのようにニッコリと微笑んで抱きしめていた身体を離した。
そして大分温まってしまった足にのせていたタオルを交換し、立ち上がる。

「冷たい飲み物でも用意しましょう」
「ちょ、待て!お前ッ!」

そしてそのまま出て行こうとしてしまうセバスチャンに、声を掛ければ相手は扉に手を掛けた状態で振り返り。

「ねぇ、坊ちゃん」

今は。
あくまで坊ちゃんの恋人なんですよ。

いつもの台詞とは違う台詞をシエルに投げて、そのまま出て行く。
取り残されたシエルはそれに一瞬ポカンとして。

「やっぱり馬鹿だろう…アイツは」

額を押さえて赤い顔をしたまま、ボソリと呟いた。


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【2011/07/15 22:18 】 | Project | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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