忍者ブログ
  • 2017.06
  • 1
  • 2
  • 3
  • 4
  • 5
  • 6
  • 7
  • 8
  • 9
  • 10
  • 11
  • 12
  • 13
  • 14
  • 15
  • 16
  • 17
  • 18
  • 19
  • 20
  • 21
  • 22
  • 23
  • 24
  • 25
  • 26
  • 27
  • 28
  • 29
  • 30
  • 31
  • 2017.08
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【2017/07/25 05:50 】 |
Spicyな彼
Spicyシリーズ



この世界には、まだまだ知らないことが沢山ある。
僕はちっぽけな人間で、明日に何が起こるのかだって分からない。
たった数秒後のことだって。
予測することは出来るかもしれないが、それが必ずしも正解する確立は極めて低い。
いや、低いどころの話しではないだろう。この世界は予測することが出来ない出来事の方が多いんだ。
たとえば人間相手でも。

相手が一体何を考えているのか。
相手がどう行動するのか。
相手が僕に何をするのか。
相手が僕をどう思っているのか。

身近にいる相手であっても、分からないことが多い。
その“相手”の中には、もちろん“悪魔”だって含まれている。
むしろ今このようなことを考えているのは、悪魔のせいだと言っても過言ではない。
今までの考えを簡潔に、かつストレートに言うと。

僕はセバスチャンの考えていることが分からない。


― Spicyな彼 -


「…何を企んでいる?」
「企んでいるだなんて酷いですね」
「じゃぁ、何を考えているんだ」

シエルは椅子に座ったまま、机の向こう側にいる執事…セバスチャン・ミカエリスと名付けた悪魔を睨みつける。
思考を読み取るように見やるが、全くもって何も読み取ることは出来ない。
それでも気は抜かずに、相手の様子を窺う。

「私はただ告白をしたまでですよ」
「ふざけるな」
「ふざけてなどおりません。本気です」
「僕がそんな言葉に惑わされるとでも思っているのか」
「いえ?そんなことは思っていませんよ。惑わそうともしていませんしね」

睨みつけられていることをもろともせずに、ペラペラと喋るセバスチャン。
僕に嘘はつくなと命令はしてある。だから惑わそうとしていないのは真実だろう。
僕が惑わされたのならば話しは別だったかもしれないが。
それじゃぁ、一体何が目的だ?

「全く…」
「…なんだ」

警戒し続けていることに気がついたのだろうか。
セバスチャンはクスリと笑いながらも、呆れたようにため息をついた。

「人の愛の告白をここまで疑うとは。随分と捻くれていますね、坊ちゃん」
「人じゃない。悪魔だ」
「では私が人間だったら素直に受け止めていたと?」
「そんなわけあるか」

セバスチャンの言葉にシエルは呻くように返した。

そう。
先ほどこの悪魔から愛の告白をされたのだ。
呼んでもいないのに部屋に来たかと思えば、急に“愛している”とほざきだした。
まるで手紙が届いた時の報告と同じような感じに。


「私の愛が信じられませんか?」
「信じる信じないの問題ではないだろう」
「じゃぁ一体何をそんなにも苛立っているのですか?」

わざと言っているのか。
それとも本気で疑問を抱いているのか。
薄っぺらい笑みを浮かべたまま首を傾げるセバスチャン。
その顔も、仕草も、全て己を試しているかのようで気に入らない。
シエルは息を吐きながら、分かったと頷き、頬杖をついて黒く微笑んだ。

「お前の告白が本気だという前提で話しをしよう」
「前提、ですか」
「それが嫌なら話しすらしないが?」
「まぁいいでしょう」

セバスチャンも頷き、どこか芝居がかったため息をついた。

「お前は僕を愛していると?」
「はい」
「それで、僕にどうして欲しいんだ」
「どうして欲しいかと申しますと?」
「告白してきたということは、何かを求めているということだろう?」
「…そういうふうにも捉えられますかね」
「じゃぁお前は何を求めて僕に告白したんだ?」

この悪魔が何を欲しているのか。何を目的として動いているのかを探る。
いきなりの告白に驚いたけれど、冷静になると面白い展開だった。
悪魔が囁く愛。
その相手はちっぽけな人間、そして主人である自分だという。
それを信じろという方が無理な話しだ。
何か企んでいるのか、意図があるに決まっている。
この悪魔が誰かを愛することなんて、出来るわけがないだろう。
僕が誰かを愛することが出来ないように。
シエルは笑みを浮かべたまま瞳を細めれば、セバスチャンの瞳も同じように細められる。
その瞳はすでに赤く染まり、執事の姿で出せる最低限の悪魔の片鱗を覗かせている。

「私の求めるもの…」

セバスチャンは言いながら、ゆっくりと歩いて来た。
シエルは動くことなく頬杖をついたまま、自分の方に向かってくるセバスチャンを見守る。

「それは貴方の魂」
「・・・」
「それは貴方の身体」
「は?」
「私が欲しいのはね、坊ちゃん」



「貴方の全てですよ」



目の前まで来たセバスチャンは、机に置いていた頬杖をついていない方の手を取り、その甲に口付ける。

「なぁ?!」

焦ったシエルはその手を引っ張るが開放されることはない。
逆に強く握られ、捕らえられてしまう。

「魂だけじゃない。その心も私のモノにしたい」
「貴様、離せッ!」
「身体も全部。貴方の全てを私に染め上げたい」
「何おかしなことを言っているんだ!」
「おかしなこと?おかしくないでしょう」
「ッ!」

今度は指先に口付けられる。
それどころかそっと濡れた感触まで伝わってきて、シエルはガタンと椅子を倒しながら立ち上がり首を振る。
まさかこんなことになるなんて誰が思っていただろうか。

「やめろ!」
「愛している人を自分のモノにしたいなんて、普通の感情でしょう?」
「貴様が言うと洒落にならん!」
「もちろんですよ。洒落じゃないですから」
言ったでしょう?本気だと。

ふと捕らえられていた手を離したかと思えば、机に乗り上がるセバスチャン。
そして抵抗する暇もなくシエルは持ち上げられ、その机に座るように降ろされてしまった。
目の前には執事の服を着た悪魔の顔があり、どこかうっとりとした瞳で見つめられる。
その顔を殴りつけたくても自分の手はセバスチャンの手と重ね合わせられ、自分の意志では動かすことも出来ない。
せめてもの抵抗として睨みつけるが、やはり相手をひるませるほどの効果などこれっぽっちもない。

「坊ちゃん…」
「離せ」
「愛しています」
「分かったから離せ」
「離したら逃げるでしょう?」
「逃げない。この机からも降りない。だから両手だけは開放しろ」

まるで犯人に交渉するかのように言葉を重ねるが、セバスチャンは即座に嫌ですと一蹴した。

「坊ちゃんは私と違って嘘をつきますから」
「じゃぁ一生こうするつもりか?」
「出来たら一生私の腕に閉じ込めておきたいですが」
「…な!き、さま!やめ!」

顔が近づいたかと思えば、頬に舌を這わされる。
シエルは抵抗するように首を振るが、頭の中で何かが切れるような音が聞こえ、ピタリと動きを止めた。
急に大人しくなったシエルを不思議に思ったのか、セバスチャンの舌の動きも止まり、シエルをじっと観察する。

「坊ちゃん?」
「はっ。悪魔は恋愛に関して低脳らしいな?」
「…どういうことですか?」

ここで初めてセバスチャンは眉間に皴を寄せ、不機嫌そうな顔をした。
代わりに今度はシエルがセバスチャンを攻める。

「愛しているからと言って、すぐに己のモノにしようとする。相手が自分よりも弱いから出来ることだな」
「・・・」
「相手の気持ちも考えない。まるで獣だ。ただ本能のままに動いているだけじゃないか。理性が泣いてるな」

馬鹿にしたように哂えば、セバスチャンは唇を噛んだ。

「我慢も出来ないのか駄犬。マテを1から教えないと駄目か?随分と恥ずかしい奴だ」
「…言ってくれますね」

セバスチャンはゆらりと揺れるように、シエルから少し離れ、両手も離し開放する。
どうやら馬鹿にした言葉が効いたらしい。

「襲われかけていたというのに、貴方のその負けん気にはほとほと感心しますよ」
「負けん気?僕はただ正論を駄犬に投げつけただけだ」

開放されても机から降りず、ましてやセバスチャンから逃げることもせず言う。
ここでは逃げてはいけないと分かっている。
獣は逃げているものを追うのだから。
この悪魔にも背中を見せた瞬間、そこでアウトだろう。

「いいえ負けん気でしょう。だって貴方の瞳はこんなにも不安で揺れている」

眼帯を外しながら顔を覗きこんでくる。
その表情は幾分柔らかく、けれどどこか上から見ているものだった。

「怖がらせて、しまいましたね」

そのままセバスチャンは再び手を伸ばし、今度は目下を優しく撫で上げた。
シエルは反射的に怖がってなどいない、と言いそうになったが、それを押しとどめる。
正直、セバスチャンが恐ろしかった。
しかしここで強がっては、相手を喜ばせるだけ。

「…返事をするとすれば」

なので話しの向きを変え始める。

「返事?」
「告白に返事はつきものだろう?貴様、そんなことも分かっていなかったのか?」
「……それで返事は」
「僕はそういう対象で貴様を見ることは出来ない」
「でしょうね」

答えなど分かりきっていたかのように、あっさりと受け止めるセバスチャン。
それはそうだろう。
ここで僕も愛しているだなんて言ったら、世界が滅びると聞かされたことよりも驚く。

「だが、駒として忠実なお前とは一緒にいたいと思っている」
「ほう?」
「僕の背中を任せられるのはお前だけだからな」

シエルは少しでも今の状況を打開しようと試みる。
出来るだけ相手を否定しない言葉を選び、受け止める言葉を投げかける。
けれどきっと。いや、絶対に。

「契約がありますからね」

コイツは騙されてはくれない。

「契約で結ばれた駒は、勝手に動くこともせず、ましてや噛み付くこともしない。一緒にいたいというのは復讐が出来るからでしょう?綺麗な言葉だけを並べたって無駄ですよ」
「人間そんなもんだろう。利用するかしないかで価値は決まる。この世界では特にな。一緒にいたいと思われるだけいいってものだ」
「そうかもしれませんが、悪魔は貪欲なんです。貴方だってそうでしょう?」
「けれどゲームでは、ここまで段階を踏まない荒々しいプレイはしない。1つ1つ念密に組み立てて、いかに鮮やかに勝利を掴むのが面白いところだ。貴様はただの何も考えていない、味気ないものだな」
「では、華麗に勝利をおさめれば文句はないですか?」

言われた言葉に、しまったと焦るが言葉を挟む隙もなく続けられてしまう。

「まぁ、これはゲームとも言えるかもしれませんが、そんなぬるいものをやるつもりは全くありません。ルールなんて悪魔には卓上の便宜に過ぎませんから。けれど貴方が1つ1つ念密に組み立てていって欲しいと言うのでしたら、そうしましょう?」

セバスチャンは歌うように言う。

「貴方を確実に私のモノにしてみせましょう。貴方が望むように美しく、華麗に」
「僕はそんなつもりで言ったわけじゃない」
「おや、そうですか。ですがもう手遅れです」
「貴様ッ」
「失ったものが二度と戻らないように、放ってしまった言葉もなかったことには出来ないんですよ」

瞳を細めながらツツツ…と親指でシエルの唇を辿る。

「ですが勘違いしないでくださいね。私は執事であろうと正体は悪魔。本当ならば貴方はすでに私のモノなんですからね」
「…魂だけ、だろ?」
「今はまだ、そうかもしれないですね」

この先は魂以外も己のモノになるのだと暗に言い、シエルは苛立ちにギリリと歯噛みをした。
セバスチャンはその様子にクスリと笑い、ことさら優しく頬を撫でると、そのまま両手を挙げ少しずつ後ろへと下がって行く。
そして執事の顔に戻り、

「今日はここまでにしておいて差し上げましょう」

と、言った。
どうやら今日はこのまま引き下がるらしい。
執事の顔に戻ったくせに、上から目線過ぎる言葉にはカチンと来たが、これ以上ここにいても欲しくないので、黙って頷くことを選択する。
そして何にもなかったようにシエルも机から降り、倒した椅子を元の位置に戻して座りなおす。
セバスチャンもドアの付近まで行けば上げていた手を降ろし、ニッコリと微笑んだ。
二人の様子は告白をする前…いつもの風景だけれど、この部屋に流れる空気は凍りつくほど痛々しいものと化してしまっている。
それについて、この悪魔は何か思うことはないのだろうか。

「それでは、夕食の時にまた呼びに来ます」
「あぁ」
「その頃までに坊ちゃん」
「…なんだ」
「身体の震えを止めておいてくださいね」
「!!」
「それでは失礼します」

どこから見ても美しいお辞儀をした後に、セバスチャンは部屋を出て行った。
何にもしなければ、優秀な執事だと思わなくもないものを。
セバスチャンが出て行ってからしばらく固まっていたシエルだが、数分後、やっと身体の力を抜き、大きく息を吐きながら机につっぷする。

「はぁ…もう何なんだ一体」

1つの事件を解決するよりも疲れた。
自分の誘導に引っかかるような相手でもないし、気を抜けばすぐに全てを持ってかれる相手だ。
そこらのマフィアよりも、数倍たちが悪い。

「震えている、か」

自嘲しながら自分の手の平を見てみれば、セバスチャンに指摘されたように細かく震えている。
言われるまで、全然気がつかなかったのだ。
一体いつから自分の身体は震えていたのだろうか。
もしかしたら、自分が震えていたから今日はこのまま引き下がったのだろうか。
いや、セバスチャンがそんな風に気を使ったりはしないだろう。
それは今日の出来事でよく分かった。

掴まれた手。
口付けられた指。
舌を這わされた頬。
指で辿られた唇。

そして。

『私は貴方を愛しています』

言われた言葉。

どれもワケが分からない。
ただ僕が困った姿を見たいだけなのか。
それともおちょくって遊んでいるだけなのか。
けれど。

『貴方を確実に私のモノにしてみせましょう』

冗談で言っているようには見えなかった。

「あーくそッ」

シエルは珍しく髪をかき回し、ため息をつく。
そしてふと違和感が。

「あ、眼帯…」

いつも契約印が刻まれている瞳を隠す眼帯をしていないことに気がついたのだ。
そういえば、先ほどセバスチャンに外されたことを思い出す。
辺りを見回すがその黒い姿は見当たらない。
どうやらセバスチャンが持って行ってしまったらしい。

「アイツ~~~~」

セバスチャン以外の使用人が部屋に入ってくることはあまりないが、絶対とは言い切れない。
きっとわざと眼帯を持って行ったに違いないだろう。
シエルの方からセバスチャンの元へ行くように。

「何が今日はここまでに…だ」

しっかり付箋を貼っておいているじゃないか。
シエルは契約印が刻まれている方の瞳を手で隠し、再び大きくため息をつく。
ここで眼帯を取りに行かなかったら行かなかったで、何か嫌味を言われるだろうけれど…。

「今日はもう勘弁しろ」

あの悪魔を相手にする元気は、もうシエルの中に残ってはいなかった。




END

 

 

拍手

PR
【2011/03/24 17:48 】 | Series | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
<<Spicyな唇 | ホーム | はじめに。>>
有り難いご意見
貴重なご意見の投稿














虎カムバック
トラックバックURL

<<前ページ | ホーム | 次ページ>>