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【2018/06/19 09:36 】 |
Spicyな唇
Spicyシリーズ



たとえばの話し。
人間が誰かを愛することが出来ないようになってしまったら、それは人間と言えるのだろうか。
独りであっても寂しいとも思わない。嫌われていても何とも思わない。
本当の孤独となっても、何も感じない存在。
それは本当に人間と言えるのだろうか。

では逆に。
悪魔が誰かを本当に愛してしまったら、それは悪魔と言えるのだろうか。
独りであることが寂しいと思い始めた。嫌われることを恐れ始めた。
本当の孤独となることを、恐怖し始めた存在。
それは本当に悪魔と言えるのだろうか。


なぁセバスチャン。
僕は人間と呼べるのだろうか。
そしてお前は。

まだ悪魔と呼べるのだろうか。


― Spicyな唇 -


「・・・」
「・・・」
「…出て行け」
「嫌です」
「命令だ」
「嫌です」

シエルは書類を片手に持ちながら呻くが、セバスチャンは気にした様子もなく淡々とチェックが入った書類を整理していく。
シエルのいる机の近くにある小さなテーブルの上で、だ。
いつもならば書類を受け取ればすぐに出て行き、いつしているのかは知らないが、ここではない場所でその作業をしていたというのに。
どうしてここでしているのかという疑問は浮かばないことも無いが、その答えは何となくだが、すでに導かれている。
だからシエルはあえてセバスチャンに聞くようなことはしない。
聞いたら聞いたで厄介なことが起こるのは目に見えているのだから。

「命令を無視するとはいい度胸だな」
「出て行かなければいけない理由があるのでしたら出て行きますが?」
「邪魔だ」
「邪魔はしていないでしょう」
「気が散る」
「坊ちゃんの集中力が足りないからです」
「あぁ言えばこう言うな」

舌打ちをしながら書類を机に置き、椅子の背もたれに寄りかかった。
それは坊ちゃんの方だと思いますが、という言葉は綺麗に無視する。


あれから…。
告白された日から、セバスチャンはシエルの傍にいることが多くなった。
周りから、いつもセバスチャンはシエルの傍にいて付き従っていると言われるが、実は一緒にいることはあまりない。
朝や仕事の書類の受け渡し。出かける時や寝る時などはいるが、それ以外の時には傍にいることはないのだ。
顔を合わせる程度だろう。
客人を招いている時は仕事として傍にいるだけで、僕に付き従っているワケではないのである。

だが今は、意味もなく傍にいるのだ。
食事が出来たのだったら呼んだあと先に行っていればいいものを、一緒に行くまで待っている。
手紙や書類を持ってきたあと出て行けばいいものを、読み終わるまで待っている。
与えられた自分の部屋ですればいい仕事を、自分と同じ執務室でし始める。

本当に邪魔だ。

あんなことをされた後なのだから、尚更一緒にいたくなどないのに、セバスチャンはむしろ一緒にいようとする。
嫌がっているのが分かっているからの行動なのか。
それとも…。

「私が傍にいることがお嫌ですか?」
「あぁ、嫌だ」
「そういうところは素直ですね」

セバスチャンは苦笑する。

「どうして嫌なのですか?」
「お前と一緒にいて楽しいと感じる奴がどこにいる」
「おや、今まで経験した中では喜んでその身を差し出す方もいらっしゃいましたが」
「…そっちの方が頭がおかしいんだ」
「私から言わせれば、貴方の方が珍しいですがね」

トン!と書類の角を合わせる音を高らかに響かせ、そしてテーブルの上に音を立てずに置く。
セバスチャンは立ち上がり、いつかのようにシエルの方へと足をゆっくり進ませた。

「普通人間は悪魔に魅入られるものでしょう」
「なぜ自分の魂を喰う相手に魅入られるんだ。まぁ復讐をする為の駒としての使い勝手はいいとは思うがな」

勝気に言うが、セバスチャンがこちらに足を進ませたと分かった瞬間シエルは椅子から立ち上がり後ろに下がる。
前回そのまま成り行きを見守ったら酷いことになったのを忘れる筈が無い。
逃げるようなソレは格好悪い姿かもしれないが、どう足掻いても勝ち目はない相手なのだ。
勝ち目がない相手にゲームを仕掛けるほど、シエルは馬鹿ではない。
だが。

「今日は逃げるのですね」
いえ…今日も、ですか?

セバスチャンはすでにあの日からゲームをしている。
し続けているのだ。
シエルという存在を己のモノにするというゲームを。
たとえシエルがそれをしようとしていなくとも、セバスチャンが勝手に駒を進めればシエルは関係なく追い詰められてしまう。
セバスチャンが今しているゲームは、シエルの存在が必要不可欠なのだから。
まぁルールがない以上、先日セバスチャンが言ったようにコレがゲームとは言えないだろうけれど。

「あの日、眼帯を奪い返しに来ませんでしたね」
「・・・」
「楽しみに待っていたんですが」
「別に無くても困らなかったからな」
「夕食時まで契約印を曝け出させておくなんて…」
「僕の勝手だ」

会話を続けながらも、シエルはジリジリと迫ってくるセバスチャンから必死で逃げる。
後ろなど見なくとも、この執務室を使い始めて数年だ。
後退するように進んでも転ぶこともないし、ましてや壁にぶつかるようなヘマはしない。
シエルは赤に染まった瞳を見つめながら、静かに扉の方へと向かっていく。

「もし他の使用人が部屋に飛び込んできたらどうするつもりだったんですか」
「あいつ等を誤魔化す方法なんていくらでもある」
「でもその瞳に刻まれている印を知られてしまいますよね」
「これが悪魔との契約印だとバレなければいい話だろう」

あと扉までもう少しだ。
話しをしていても頭の中を埋めるのは逃げることばかり。
少々みっとも無いと思うけれど、そうも言っていられないだろう。
一歩、また一歩と後ろに下がっていく。
そしてついに壁…扉がある気配がした。
このまま出て行ってしまえばきっとセバスチャンも手出しは出来ないはずだ。
内心ニヤリとシエルは笑ったのだが。

「・・・?」

一回まばたきをした瞬間、見つめていた赤い瞳が視界から消えた。
目の前からいきなりセバスチャンの姿が消えたのだ。
ほんのまばたきをしている間に、だ。
代わりに。

「残念でしたね、坊ちゃん」

後ろから黒い声が耳に注ぎ込まれた。

「な、に?」
「甘いですよ」
私が簡単に逃がすとお思いで?

一歩下がったシエルの身体は、セバスチャンの胸板にぶつかる。
先ほどまで、いや、ほんの一瞬前まで目の前にいたというのに。
まさに悪魔がなせる業。人間外の動きだ。
そのままセバスチャンは両手を前に回し、後ろからシエルのことを抱きしめる。
シエルは完璧に捕らえられてしまった。

「ここまであからさまに逃げられると、私も少しショックを受けますよ」
「ショック…?貴様が?」

捕らえられた動揺を隠すように笑うが、セバスチャンにはバレてしまっているだろう。
きっとその腕に、自分の鼓動の早さが伝わってしまっているから。

「愛している相手に逃げられれば、誰でもショックは受けるでしょう?」
「悪魔の貴様にそんな感情があるとは思わないが」
「芽生えたと言えば、貴方は笑うんでしょうね」
「あぁ、そうだな…?!」

望み通り馬鹿にしながら笑ってやろうと思った矢先、首筋に柔らかい感触が襲い掛かった。
これは、どう考えてもセバスチャンの唇だろう…!

「やめろッ」
シエルはもがくが、その腕から逃れることなんて出来ない。
今日に限って襟がほとんど無い服なので、首が無防備に晒されている状態だ。
唇は肩に近い首筋から耳元にかけて、ゆっくりと口付けていく。
なんとも言えない感覚に、シエルは身体に回されている腕に爪を立てて耐える。
きっと今日もその手は震えているだろう。

「んッ!痛!」

うなじに近いところで、チリリとした痛みに襲われた。
一瞬血でも吸われるのかと思ったが、ただ噛み付かれただけのようだ。
悪魔も吸血鬼まがいのことをするのかと焦ったが、そうではないと分かり、危機的状況は変わりないとしても、ほんの少しだけ安堵の息をつく。
がしかし。

「あぁ、綺麗な跡が付きましたよ」
「跡?」

その安堵はすぐに消される。

「私のモノだという印」
「どういうことだ」
「ここに、まるで薔薇が咲いたかのような跡が刻まれたのですよ」
「!!」

先ほど痛みが走った場所を擽るように舌が撫でる。
その感触に背筋がゾクリと震えたが、唇を噛み締めてやり過ごす。

「まさに契約印と同じですね」
「最悪だな。ここだったら他の連中に見られるだろうが」
「でも悪魔との契約印だとバレなければ問題ないのでしょう?」

表情は見えないが、どこか刺々しい声音。

「貴様がつけたものはそういう問題じゃないだろうがッ」
「えぇそうです。私にとってはその瞳の契約印もそういう問題じゃないんですよ」
「うわ!」

急に向きを変えられたかと思えば、そのまま壁に両腕をひとくくり状で自分の頭の上に押し付けられ、セバスチャンと向かい合わせの状態になる。
数分振りに見た赤い瞳は、少し苛立ちを含んでいるのは気のせいではないと思う。
それでもシエルは負けじとその瞳を睨み返せば、セバスチャンはどこか寂しげに口元に弧を描き言った。

「たとえ悪魔の契約印だとバレなくとも、私はその瞳を他の誰にも見せて欲しくありません」
「なぜだ」
「この契約印は、私と坊ちゃんの二人だけの秘密にしたいのですよ」
「…はぁ?」

まるで子供のようなことを言い始めるセバスチャンにシエルは間の抜けた声を出してしまう。
今自分がどのような状況になっているかなんて頭から抜け出てしまう程、馬鹿げたものにシエルは感じた。
けれどセバスチャン自身はどこまでも真剣らしく、シエルの態度にピクリと眉を動かす。

「その瞳の契約印は私の手の甲にも刻まれています。しかしそれを知るのは私達だけ。誰にも知られず、密かに繋がっているだなんて素敵だと思いませんか?」
「…思わない」

あくまで冷たく返したシエルに、再びセバスチャンの眉はピクリと動く。
苛立ちを含んでいた瞳は、より赤みを増し、完璧に怒りを示した表情になる。
今更しまったと思ってもどうすることも出来ない。
すでにシエルは捕らえられてしまっているのだから。
それでも。

「お前は思っていた以上に乙女の思考回路をしているんだな」

怒っているのは…苛立っているのはセバスチャンだけではない。

「只今恋愛をしている真っ最中ですので」
「悪魔なのにか」
「貴方こそ人間のクセに、恋愛の“れ”の字も知らないですよね」
「生憎、僕には必要ないものだからな」
「必要、不必要の問題ではないのですよ。愛なんて人間が持つ感情の1つではないですか。それが貴方には欠落しているということでしょうかね」
「…別にいいだろう」

シエルはフイと視線を下に逸らし、俯いた。
自分が誰かを愛することが出来ないのは、もう三年前の事件以降から分かっている。
それを嘆いたこともないし、むしろ都合がいいと思った。
女王の番犬として庭を荒らしたネズミを“無きもの”にする時に躊躇ってしまう感情が生まれてくる心配がないからだ。
けれど。
(正面から誰かに言われると、意外と痛いものだな)
想像以上にセバスチャンの言葉は胸を抉った。
言われて傷つく心をまだ持っていると分かったことは喜ぶべきところではあるのだが。
傷の方が深くて、喜ぶことも出来なかった。

「…貴様だって、そうだろ」

それでもそのまま負けているシエルではない。
俯いたまま言う。

「餌である人間を愛するなんて、頭がおかしいだろう。悪魔としての性質が欠落したんじゃないのか?」
「そうかもしれませんね」
「…ッ」

自分と同じくらい傷つけてやろうと思ったのに、セバスチャンの答える声はどこまでも清々しいものだった。

「少しは気にしろッ」
「おや、坊ちゃんは気にしているんですか?自分が誰も愛せないことを」
「そんなわけないだろう」
「…実は意外と傷ついていました?」
「どうして僕が傷つかないと…ぃ?!」

いきなり両腕を壁に押し付けていない方の手で顎を掴まれ、無理やり上を向かされる。
真正面にはすぐ近くにセバスチャンの顔があり、シエルは瞳を閉じてしまいそうになったが、それをなんとか押し留め、無理やり睨みつける。
セバスチャンは瞳を閉じることなく睨みつけたシエルを喜ぶかのように微笑み、そのまま顔を近づけて。

「……」

唇と唇を重ね合わせた。

「……」

何が起こっているのか分からない。
シエルはまばたきすらも忘れて、ぼやけるほど近くにある赤い瞳を見つめ返す。
ただ分かるのは、自分の唇に、何か柔らかいものが触れていることだけ。
いや、もしかしたらあえてそれ以上のことを分かろうとしていないのかもしれない。
自分が目の前の悪魔に口付けられているだなんて、理解したくもないのだ。
セバスチャンが唇を離しても、シエルの口からは文句も何も出ず、そのまま固まっている。

「別に大丈夫ですよ」

セバスチャンはまるで何もなかったかのように普通に話し出す。
固まり続けているシエルに向かって。

「これから坊ちゃんは私を愛するようになりますから。気にすることなどありません」
「・・・」
「私からの愛を一身に受けていたら、愛の返し方を思い出しますよ」

もう一度、今度は音を立てて口付けられる。

「思い出したとしても、他の人を愛することは許しませんがね」
「き、さ…ま」

やっとシエルの口から言葉が出てきた。
もう身体はワナワナと怒りで震え、顔は赤く染まっている。

「この僕に、一体なにを、した?」
「え、それすらも分からないんですか?」
「分かってるッ!だから聞いたんだろうがッ!」

噛み付く勢いで怒鳴れば、セバスチャンは愉しそうに笑いながらシエルの顎と両手を開放した。
自由になったシエルは怒りのままにセバスチャンの首に手を伸ばし、締め上げながら揺さぶる。

「貴様という奴は!本当に信じられない奴だな!」
「初めてのキスはいかがでした?」
「なっ!」

恥ずかしい質問を投げつけられてシエルはピタリと動きを止め、今度は別の意味で顔をさらに赤く染める。
何か文句を言おうとしてはうまく言葉が出てこず、口をパクパクすることしか出来ない。
そんな様子に追い討ちを掛けるかのように耳元で、坊ちゃんの唇は柔らかかったです、と囁かれ、すぐさまセバスチャンから距離を取る。

「こ、殺してやるっ!」
「出来るものならば」
「~~~ッ!」
「あ、もし驚いていたせいでキスの感触を憶えていらっしゃらないのでしたら、いくらでもキスしますが?」
「出て行け!」

扉に向かって指を指し叫ぶ。

「いますぐ出て行けッ!」
「はいはい」

出て行きますからそんな怖い顔をしないでください、とため息をつきながら、セバスチャンは扉の方へと下がって行く。
扉の前に着けば深々とお辞儀をし、

「ファーストキス、ごちそうさまでした」

と言葉を残して部屋を出て行った。

「~~~~~」

シエルは一人になった部屋で、頬を染めながら唇を手の甲で拭う。
別に感触なんて憶えてない。
けれど、セバスチャンの唇が自分の唇と重なり合わさっていたことを知っている。

「ほんっとに、何なんだ…ッ」

セバスチャンが出て行った扉を睨みつけながら呟く。
あの出て行く前に言った言葉と共に、ニヤリとした顔。
思い出しただけでも、万年筆を額に突き刺したくなる。

「あーくそ!!!」

苛立ちのままに叫び、自分の机へと戻る。
仕事をする気にはなれないが、仕事をして少し冷静になろうと思ったのだ。
しかし。

「…そういえば」

唇のことばかりに気をとられて、別の問題を忘れていたことを思い出したシエル。
今自分のうなじに近い首筋には、セバスチャンにつけられた跡が残っているのだ。
自分達の契約印とは違い、隠されていない場所に。
思い出せば再び同じ場所にチリリとした痛みが走った感覚がし、そこを押さえながらギリと歯噛みをした。
そして。

「~~~~ッ!絶対に殺してやる!」

結局シエルは、目の前にいない執事に向かって万年筆を投げたのだった。




END

 

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【2011/03/24 17:49 】 | Series | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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