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【2017/09/25 02:38 】 |
Spicyな暗闇で
Spicyシリーズ



○□△×☆♪~!?

(只今思考停止中)


― Spicyな暗闇で -

(なぜこうなった、どうしてこうなった、何がどうしたらこういう状況になるんだッ!?)

薄暗く狭い中でシエルの思考は混乱の渦に飲み込まれていた。
この現状を打開しようと思っても、自分の力ではどうすることも出来ない。
外の様子を窺いたくても、その外を覗ける扉は自分の背中である。ならば振り返ればいいと考えてもこの狭さでは振り返るのは大変だろう。ならばもういっそのこと、この場から飛び出して外にいる鼠を蹴散らしてしまえばいい。いや、それも駄目だ。今回の女王陛下からの命は“内密に情報を集めろ”とのことだ。自分の姿を相手に見せるわけにはいかない。
となると、やはりこの現状を自分の力で打開することは不可能だ。

全てを目の前の悪魔に任せるしかない。

「せ、セバスチャン、奴らはいなくなったか?」

小さな声で尋ねれば。

「いえ、まだいるようです」

同じく小さな声で返事が返ってくる。

「・・・・っ」

薄暗い中。
シエルの耳元で。

耳朶に吐息がかかり、反射的に身体が逃げようと後ろに下がるが扉があるせいで逃げられない。
否、逃げたくても逃げてはいけないのだ。今ここから出たら鼠共に見つかってしまう。

「坊ちゃん後ろに下がりすぎては扉が空いて他の人に見つかってしまいます。もっとこちらへ」
「いや、大丈ぶっ」

首を横に振るがセバスチャンはそれを無視してシエルの背中を手で押さえ、奥の方へと引き寄せる。
イコール、シエルはセバスチャンの胸元へと抱きしめられる形となってしまった。
元々近かった距離がより近くなり、もう本当にどうしたらいいのか分からず、シエルは混乱に混乱を重ねパニック状態になりそうだ。

(だから、どうしてこんな目に合ってるんだっ。もっと何か他に隠れる場所は無かったのか!?)

涙目になりながら、シエルは今に至るまでを思い出す。






先日からシエルは裏社会で薬物が大量に買収されたという情報を耳に挟んでいた。
薬物ならば劉もアヘンを取り扱っており、裏社会の人間が薬物に手を出すのは全くもって日常茶飯事な出来事。
その情報だけを裏社会の秩序であるシエルが知っていれば何の問題はないのだが。
女王陛下の目に留まったのならば、話しは別だ。

「今回の命令は“内密に情報を集めろ”とのことだ。絶対に鼠共に見つからないよう周りに気を配っておけ」
「イエス・マイロード」

女王陛下からの手紙を貰ったのは今日の朝のこと。
どうやら陛下の耳にも薬物買収の件が入ったらしく、表社会へ害があるものかどうか確認して欲しいとのものだった。
不安要素となるものは、花開く前に摘み取ってしまえということだ。

調べに入ったのは買収者が住む小さな屋敷。
住むとは言ってもただマフィアの巣窟でしかなく、あちこちに鼠が睨みを利かせて立っている。
いつかの事件のように派手に行動するわけにはいかず、見つからないようコソコソと屋敷の中へと進入し、部屋の奥で簡単に機密文章も見つけ出せたのだが。
それからが不味かった。

「・・・どうやらクロのようだな。ここに表社会への流出が書いてある」

パラパラと書類を読みながらシエル言えば、斜め後ろで控えていたセバスチャンはクスリと笑う。

「もっとこっそりと買収すればいいものを。随分と頭が弱い方なのですね」
「こっそりと買収したところで結局は僕の網に引っかかるんだ。どちらにしても結果は同じだろう」
「陛下はどうするおつもりでしょう」
「さぁな。この結果を報告して“無きもの”にしろとの命令が下されたら、それに従うまでだ」

薬物がどう使われるのか情報を記憶したシエルはそれを元の位置に戻し、息を吐いた。
今のところはこれで女王陛下の命令は成し遂げた。
案外早く調べ終わったなと考えながら、セバスチャンに「もう用はない。帰るぞ」と声を掛け、入ってきた扉に手を掛ければ。

「坊ちゃん、人が来ます」

セバスチャンは小さな声でそう囁き、扉を手にしたシエルを抱きしめた状態で素早く近くにあった“タンスの中”に身を潜めたのだ。

もう一度言う。

“タンスの中”に身を潜めたのだ。






(調べ終わって少しばかり気を抜いていたのは認める。扉の向こうの気配を探らなかった僕自身の失態だ。だが)

(タンスの中に隠れる必要はないだろうッ!!)

シエルは叫んでしまいたいのと、自分を抱きしめる悪魔を殴りたいのを我慢する。
今の自分では何をどうすることも出来ないので、外にいる鼠が早くどこかへと行くことを祈るばかりだ。
けれど今のシエルには一秒すらも長いもののような気がしてならず、唇を噛み締めながら今の時を必死に耐える。

「・・・・」
「どうしました、坊ちゃん」
「煩いっ。耳元で喋るな!」

シエルは逃げ出すように自分とセバスチャンの胸板の間に腕を差し入れて、ほんの少しだが距離を取る。
けれど背中に回された腕が離れることはないのであまり意味は無く、未だにセバスチャンの吐息が耳を擽る。

「仕方がないでしょう。こんなに狭いのですから」
「だ、だが、どうして僕の耳元にお前の口があるんだ。身長の差的におかしいだろうっ」
「あぁ、それは私が少し膝を折っているからですよ。普通に立っているとお洋服を掛けている棒に頭をぶつけてしまうので」
「・・・それは凄く大変な格好じゃないのか?」
「大丈夫ですよ、奥に入っている箱に腰を掛けている状態なので」

膝に座っても大丈夫ですよ?と、セバスチャンはもう片方の手を腰に添えてシエルを持ち上げ、言葉どおり膝に座らせようとする。
それに焦ったシエルは「いらん!」と一瞬座ったセバスチャンの膝を叩けば、静かにしてくださいと苦笑し元の位置に戻した。
コイツの膝の上に座るなんて、論外だ。

「そんなに怒らなくてもよろしいじゃないですか」
「貴様がいきなり僕の意見も聞かずに座らせるからだ」
「だって聞いても坊ちゃんは座らないでしょう?」
「分かっていたなら座らせるな」
「分かっていたから座らせたんでしょう」
「・・・っ!」

いきなり腰を撫でられビクリと反応すれば、暗闇の中の雰囲気が一瞬にして変わったのが肌から、いや、身体全てから感じられ、シエルは無意識に自分の服の裾を握り締めた。
今のような雰囲気は嫌でも憶えている。
これは。

「坊ちゃん」
「黙れ」

前に口付けられた時の雰囲気だ。

「おや、急にご機嫌斜めですか」
「元々ここに隠れた時からよくなかった」
「・・・先ほどまで、あんなに可愛らしく焦っていましたのに」
「うるさいッ」
「ねぇ坊ちゃん」

セバスチャンは酷く楽しそうな声で言う。

「この間も、随分と怒っていましたね」
「・・・あ?」
「あの日ですよ」

あの日とはいつだ。
いつだって自分はこの悪魔に対して怒っているので、特定の日だなんて憶えているわけが無い。
探るように瞳を細めれば、クスリと笑い声。

「憶えていないのですか?」
「だから、いつだ」
「ミルクティーが出た日、ですよ」
「・・・ッ!!」

それはほぼ無意識だった。
服の裾を握り締めていた手を振り上げたのは。
しかし反射的にセバスチャンの頬を叩こうとしていた手は、手首を掴まれて叩く前に止められてしまう。

「忘れていたなんて、随分と坊ちゃんらしくないじゃないですか」
「忘れていたわけじゃない」

シエルは唸るように返す。
そう、セバスチャンが言っていたのはあの日のことだ。
セバスチャンがもうシエルに厭きたのだと勘違いをした日。
いや、正確に言うと。
セバスチャンがシエルに厭きたのだと“わざと”勘違いさせた日、だ。
それにまんまと騙されたシエルの怒りはとても大きなものだった。
しかし。
自分が怒ったことを言える筈もなく、結局シエルはセバスチャンに何かを言うことも、そしてすることも出来なかったのだ。

セバスチャンのあの態度を怒るということは。
セバスチャンが勘違いさせたことを怒るということは。
シエル自身が、迫ってくるセバスチャンを受け入れたということになってしまうからだ。

だからシエルはあれから結局何も出来なかった。
自分からセバスチャンを受け入れたと認めたような行動を、出来るわけがなかった。

「忘れていたわけじゃないのに坊ちゃんは直接私に怒るようなことはしませんでしたね」
「・・・・」
「なぜです?私は坊ちゃんに勘違いをさせたのですよ?」
もう貴方に厭きたのだと。

まるで試すような言い方にシエルは叩き損ねた手の方に力を入れ、再び殴ろうと試みる。
けれどやはりその手はピクリとも動かない。そんなことは元々分かってはいる。
でもどこかに力を入れておかないと、本音を怒鳴ってしまいそうで。
“あんなこと二度とするな”と。

「勘違い?笑わせるな。僕は主人に対してそこまで愚かな行為をした“執事”に怒ったんだ。別に貴様が僕に厭きたところで構わない。むしろ喜ばしいな」
勘違いじゃなくて、真実でも良かったんだぞ。

でも。
本音なんて言ってやらない。この試し方は、卑怯だ。
本音を怒鳴りたいのを我慢して、シエルは哂ってみせる。
するとセバスチャンは「そうですか」と言いながら掴んでいた手首を引き寄せ、力を込めている手にちゅっと口付けを落とした。

「なっ」
「眠っている坊ちゃんの頬に口付け、愛を囁いたところ嬉しそうな顔をしていましたのでてっきり私に厭きられたということに傷ついていたのかと思いましたが・・・そんなことはなかったのですね」
「べ、別にあの時嬉しそうな顔なんてしていないッ」
「じゃぁ逆に聞きますが、ならなぜあの時拒絶しなかったのですか?いつも少しでも触れたら怒るでしょう」
「・・・あの時は、寝ぼけてて」
「寝ぼけている時ならば私の愛も口付けも受け止めるということですか」
「違うッ!ただあれは・・・」

夢だと思ったからなんて言っても、夢なら受け止めるのかと、またそう返されるだろう。
あの時拒絶しなかった理由を精一杯考えるも、いい案が浮かばない。
もうここは本音を言うしかないのだろうか。いや、言えるわけが無いし、言いたくもない。
言ったら絶対に色々といい方向へと勘違いされてしまう。これこそ、本当に。

「あれは、その・・・」

もうどう言ったらいいのだろう。
ゲームの天才だと謳われていても、恋愛ごとに関してはからきし駄目だ。
こうなればこのまま黙り込んでしまおうかとまで考え俯いてしまうと。

「すみません、苛めすぎてしまいましたね」

珍しいくらいの優しい声。
それに驚き、声のした方へ顔をあげると吐息を耳ではなく唇に感じてそのまま唇の感触が唇を襲った。
ようするに、口付けられたのだ。
自分は。

「・・・・」

たった一瞬の出来事に、あんなに悩んでいたシエルの頭は真っ白になった。
今までなら何をするんだと怒っていただろう。
たとえ暗闇で相手の顔が見えないとしてでも。
けれどシエルは怒る前になぜか真っ白になった。

“久しぶり”の唇の感触に、頭が真っ白になってしまったのだ。

「ただ、これが欲しかったのでしょう?」
「・・・な、に?」
「口付けて欲しかったんじゃないですか?」

その声はまだ優しい。
シエルは真っ白になった頭でセバスチャンの言葉を反芻する。

クチヅケテホシカッタ?
ダレガ?
ジブンガ?

いや、そんなことは考えていない。
口付けて欲しいなんて、一瞬たりとも思わなかった。
むしろ、口付けを憶えさせられた日から口付けなんて二度とするかと考えていた。


今後、あの悪魔が口付けようとしたら僕は拒否するだろう。
だがきっと奴は嫌味ったらしく“あの時は受け入れたでしょう?”と哂うに違いない。
そう言われたらもう僕はなす術が無い。
今どんなに嫌がったって、あのとき僕はセバスチャンの口付けを受け入れてしまっていたのだから。

けれどきっと僕は拒否するだろう。
どんなに奴から正論をぶつけられても、どんな嫌味を言われても。

もう口付けを二度と許すことはない。

そう、ずっとずっと。
もう口付けを二度と許すことはないと考えていたのだ。

だから。

「そんなわけ、ないだろう」

口付けて欲しいなんて思っていない。
シエルは後ろに下がろうと足を退くと、カツンと扉にぶつかり今自分はタンスの中にいるのだと思い出した。
慌てて退いた足を元の位置に戻せば再び手首を取られていない方の手で腰を取られ、まるでダンスをするかのように引き寄せられてしまう。

「もういい加減にしろ、貴様ッ」
「本当は口付けて欲しかったんですよ、坊ちゃんは」
「何を根拠にそんな」
「私が坊ちゃんにミルクティーを淹れた日、いえ、それ以外の日も口付けのことを考えていたでしょう?」
「だからそれは」
「口付けなんてもう二度とするかとか考えていたんでしょうけれど、結局は口付けのことばかり頭にあった筈です」
「・・・ッ・・・た、たとえそうだとして、どうしてそれで僕が口付けを欲していることになるんだ」
「・・・さぁ?あとは自分で考えてください」
「んぅッ」

シエルはまた口付けられる。
しかし今度は一瞬ではなく、深く深く・・・まるで本当に食べられてしまうんじゃないかと思うような口付け。
セバスチャンの舌が無遠慮に口腔に入り込み、撫で回していく。

「んッ・・・うン・・・ふ・・・」

もう二度と口付けを許さないと思っていたのに、口付けられている今、抵抗することが出来ない。
抵抗するべく頬を叩ける手はいつの間にか縋るようにセバスチャンの燕尾服を握り締め、取られていた手の方はお互いに手と手を合わせ握り締めあっている。
足は力が上手く入らず、震えてしまっている始末だ。これでは相手を蹴ることも出来ない。

「ん・・・んぁッ・・・!」

ちゅる、と強く舌を吸われれば、背筋にゾクリとしたものが走り堪らず声を洩らしてしまった。
(嫌だッ!なんで、こんな声っ)
まるで自分のものではないような声にシエルは頬が熱くなるが、一度洩らしてしまった声は抑えることが出来ず、どうすることも出来ない。

「ふ・・・ぁ、やめ、セバスチャン!」
「お静かに、坊ちゃん」
「あっ!」

空いている方の手がスルリと膝の裏からズボンの中、太腿を撫で上げられ、上半身をセバスチャンの方へと倒してしまう。
その間も何度も何度も触るか触らないかの絶妙なタッチで撫で続けられ、シエルはセバスチャンの肩に顔を埋め、洩れ出す声を消そうとするも、完全に消えることはなく、良くてくぐもるくらいだ。

「気持ちいいですか?」
「やっ・・・はぁ・・・」

耳元から聞こえる声にまで反応してしまい慌てて顔を上げようとすれば、それをさせまいとするかのように耳朶に舌が這い、またクタリと力が抜けてしまう。

「も、立って・・・ぁ・・・らんなっ」
「座っていいですよ」
私の膝があるでしょう?

その言葉にシエルは今出せる精一杯の力で顔を上げ、首を横に振る。唇を噛み締めながら。
きっと目尻に涙も溜まっているだろうが知らない振りで睨みつければ、赤い瞳が呆れたように笑ったのが見えた。

「本当に強情な方ですね」
「死んでも、座る、かっ」
「そんなこと言われると、無理にでも座らせたくなりますよ?坊ちゃん」
「やめ、ろ!」

腰を持たれ、少しの浮遊感。
意地でも座るかとシエルは身を捩り暴れる。
それは悪魔にとっては虫が騒いでいるかのような小さなものだろう、けれどセバスチャンはすぐに持ち上げたりはせず、ゆっくりとゆっくりと膝に座らせようとしている。
絶対に今の状況を愉しんでいるんだ。こちらが必死にもがく姿を見て。

「ほら、このままでは死んでも座りたくない膝に座ってしまいますよ」
「きさま~~~~」
「どう抵抗するんですか?まぁ抵抗したくてもこんなに狭いですし、まず私に力で敵うはずがありませんからね」

遠回しに最後には座ってしまうということを嫌味に乗せて言う。
本当に性格の悪い奴だ。
セバスチャンの言う言葉は正しいから尚更。

「本当に最悪だッ」
「その歪んだ顔。いつもはあまり見られないものですから気分がいいですね」
「この悪魔!」
「その通りです」
「んッ」

また唇を塞がれ、文句を相手の唇に取られてしまう。
(くそ・・・くそッ)
再び襲ってくるゾクリとした感覚に意識を取られ、頭の回転がだんだんと鈍ってくる。
このままじゃ本当に悪魔の好き勝手にされてしまうだろう。

自分が悪魔の力に敵うはずがない。
どう足掻いたって、結局はすべてセバスチャンの意のままになってしまう。
厭きたのだと“騙された”時だって。
きっとここまで自分を振り回すことが出来るのはセバスチャンだけだろう。
ここまで困らせてくるのはコイツだけだし、ここまでイライラさせるのもコイツだけだ。

―――その歪んだ顔。いつもはあまり見られないものですから

あぁ、その真実にも腹が立つ。

「ッ・・・ふ・・セバ、スチャ・・・」

なら。
コイツが振り回される相手も僕だけでなければフェアじゃないだろう?
いや違う、僕に振り回されなければフェアじゃない。

僕は人間だ。
悪魔より力もないし、知能もない。
だがな。

「んン・・・セバス、チャンっ!」

人間を、僕を。

「・・・坊ちゃん?」

必死に名前を呼ぶシエルに、セバスチャンは首を傾げながら唇を離した。
濡れた唇が空気に触れ、冷たさを感じるが拭う仕草はしない。今はまだ我慢だ。
少し乱れた息を整えながら、シエルは自らセバスチャンの頬に触れ、優しく撫でる。
口元には出来るだけ弧を描いて。

「坊ちゃん?」

訝しげな声音で名前を呼ばれるがそれには答えず、触れていた手をそのまま耳元へと滑らせ、耳朶の後ろを擽るように触れると腰を持っていた手がピクリと揺れた。

「セバスチャン」

甘く名前を呼んで、コツンと額と額を合わせる。
暗闇でも見えた赤い瞳は見開かれ、驚きに揺れていた。
それにクスリと笑って。

「僕をなめるな」

思い切りセバスチャンの胸板を押して、自分を後ろ・・・タンスの扉の方へと飛ばした。
シエルの動きに気をとられていたセバスチャンの手の力は緩んでいたので、後ろへと倒れていくシエルを支えるものは何もなく。
大きな音を立てて、タンスの扉は開いた。

「・・・・ッ!!」

そのままタンスの外の床に倒れ込み、背中を打つもすぐにシエルは上体を起こして周りを見渡す。
女王陛下からの命令通りに遂行する為に隠れていたが、その命令の為“だけ”にセバスチャンに負けるような真似はしたくない。
だからシエルは鼠共に囲まれる覚悟で外に飛び出したわけだが。

「・・・・あ?」

そこには誰もいない。
書類を確認した時と同じ静寂に首を傾げれば。

「静かにしてないと、奥で“眠り始めた”方が起きてしまいますよ?」
「は・・・?」

まだタンスの中から出てこず、シエルにまんまと逃げられたせいかため息をつきながらセバスチャンは言う。
その言葉の意味をシエルは唇を拭きながら暫く考え・・・。
至った考えを、あくまで冷静に言葉として紡ぐ。
しかしその言葉にはしっかりと怒りを乗せて。

「・・・ようするに、この部屋に来た奴はすぐに奥に行って寝始めていたということか」
「はい」
「だが僕は“奴らはいなくなったか”と聞いたから、貴様はいると答えた」
「はい」
「しかし奴は奥で寝始めていたのだから、タンスから出ても静かにしていれば問題がなかった・・・と」
「まぁ、そういうことですね」
「・・・・」

罪悪感の欠片も無い返事。
それもそうだろう。この悪魔は聞かれたことにだけ忠実に、いやに忠実に答える。
だからこれは質問の仕方を間違った僕のミスだ。
だが。

今までの我慢は何だったんだ!!!

「・・・貴様、二度とそのタンスの中から出てくるな」


そうしてシエルはタンスの扉を静かに閉めたのだった。




END

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【2011/04/24 11:49 】 | Series | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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