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【2017/01/22 08:55 】 |
いちばん欲しいもの3
「いちばん欲しいもの」の続きです。

「明後日の誕生日パーティーについて坊ちゃんにお話したところ、一日いつものように仕事をすると仰っておりました」
「じゃぁ、別にしちゃいけねェって言われたわけじゃねェんだな?!」
「やったー!!」
「頑張るですだよ!」

使用人三人はセバスチャンからの報告を聞いて、舞い踊るかのように喜んだ。
祝ってもらう本人よりも喜ぶとは…。
シエルと三人の差が激しくて笑えてしまう。


昨日はあれからも、結局シエルから何が欲しいか聞き出すことは出来なかった。
しかしどうやら少しは心が軽くなったようで、誕生日に関することについて質問をしても、ほんの少し柔らかい表情をするようになった。
それはそれで凄く嬉しいのだが、肝心なことだけが聞けずじまいだ。
もう誕生日は明後日。
これはもうシエル本人から聞くのは無理だろう。
しかし一体何が欲しいのか想像も出来ないので、手当たり次第プレゼントするという形になってしまう。
あぁ…本当にどうしたら良いのでしょうか。
セバスチャンは大きなため息をつくと。

「どうしましただ?セバスチャンさん」

そんな様子を見ていたメイリンが声を掛けてくる。
三人が目の前にいることなどすっかり忘れてしまっていたセバスチャンは慌てて普段を取り繕うが、見られてしまったことを忘れさせることなど出来ない。(人間らしくしていろという命令のもとでは)

「珍しいなぁ。セバスチャンがため息をつくなんてよ」
「何かあったんですか?」
「いえ、別に何も無いのですが」

心配してくる三人にセバスチャンは微笑みながら首を振るが、ピタリと動きを止める。
この使用人たちに聞いてみるというもの1つのテですかね。
自分以上にシエルのことを知っているとは思えないが、人間としての視点というものがあるかもしれない。
シエルが何か欲しいものがあるらしい、ということを伏せて当たり障り無く聞いてみることにした。

「貴方達は坊ちゃんに何かプレゼントを用意したのですか?」
「もっちろん!」

フィニは胸を張り、他の二人も、ヘヘっと笑う。

「僕は坊ちゃんの好きな白薔薇をいっぱい摘んで、部屋中に飾りつけするんですッ!」
「わ、私は坊ちゃんがいつも使っている食器をピカピカに磨くのですだ」
「俺ぁ、その皿にのせる料理を振舞うぜ!」
「…そうですか」

嬉しそうな三人の表情とは逆に、どこか遠い目をして言うセバスチャン。
いつかの、まだ恋人同士ではなかった頃の誕生日の日を思い出した。

「セバスチャンはどうするんだ?」

タバコを咥えながらバルドが尋ねてくる。
今までの流れから言って、こういう流れになるのは当たり前だろう。
しかし今のセバスチャンは上手く答えることが出来ない。

「いや、その、ですね」
「もしかして、用意してないんですだか?」
「え!セバスチャンさんがッ!?」
「そういや、よく考えたらいつも用意していなかったか」

そう。
実は誕生日プレゼントを用意するのは今年が初めてなのだ。
自分としては、誕生日ケーキがある種プレゼントだと考えている節があったのだが。
今から考えたら、プレゼントでも何でも無いような気がした。
ただ執事として、主人に渡すものであっただろう。
あの頃には今のような気持ちは全く、いや、ほとんど無かったのだから。
全くと言えないのは、揺れていた気持ちはあったからだ。ただ自分が認めていなかっただけとも言える。
そのことを考えると、いま気持ちを認めた自分がどれほどシエルに溺れているのかが分かり、苦笑せざるおえない。
事実上、本当に初めてのプレゼントとなるのだ。
ならば恋人が欲しがるものを贈りたいという想いも強くなるものだろう。

「今年は何か贈ろうかと思いまして…」
「悩んでるわけですだか?」
「えぇ、まぁ」

なんだかこういう話しを三人にするのは妙に恥ずかしい。
普段この三人には感情の揺れを見せることが無いからだろう。
怒る姿は何度も見ているとは思うが…。
けれど三人は笑うこともせず、むしろ真剣に腕組みをしながら考え始めてくれた。

「うーん、セバスチャンさんが坊ちゃんに何かをあげるならー」
「寝る時に子守唄でも歌ってやればいいんじゃねェか?」
「…バルド、きっとそれ坊ちゃん嫌がると思うですだが」
「子守唄はちょっと…」

セバスチャンもシエルが怒る姿が目に浮かび、苦笑する。
しかしバルドはいつもよりも真剣な顔で、だがよぉ…と頭を掻く。

「ようは気持ちだろ?」
「気持ち?」
「そりゃぁ、もちろん坊ちゃんが喜んでくれるのが一番だろうが、人間なにかを贈られて嫌がる奴ぁいねェと思うぜ?そこに気持ちがあるならな」
「うん!僕もそう思う」
「私もですだ」

うんうん、と頷きあう三人に数回まばたきをする。
目から鱗とはこういうことを言うのだろうか。

「それで、いいのでしょうか」
「それでいいのかじゃなくて、それがいいんだろう」
「どんなに欲しいものを貰っても、そこに気持ちが無ければ意味がないですだよ」
「それに、坊ちゃんなら何をあげても喜んでくださると思いますよッ」

それは私も分かっています、と内心カチンと来てしまうが、とりあえずそれは押さえておいて。
気持ち…ですか。
セバスチャンはフム、と腕組みをする。

シエルが欲しい物をあげたい、という思いばかりで、気持ちの部分を考えてはいなかった。
いや、喜んで欲しいからこそ欲しい物をあげたいと思ったのだから、気持ちの部分を考えていなかったわけではないのだろうけれど。
三人の言うような“気持ち”は考えたことが無かった。

「一応参考になりました。ありがとうございます」

まさか相談相手になってくれるとは思わず、セバスチャンは素直に御礼を述べた。
すると三人は照れくさそうにしつつも、嬉しそうに笑う。

「別にこれくらい何でもねェよ」
「いつもセバスチャンさんにはお世話になってるもんね」
「何かありましたら、何でも言ってくださいですよ」
「…はい」

なんとなく擽ったいような気持ちで、苦笑した。
あぁ、“気持ち”とはこういうことでしょうか。
シエルが一体何が欲しいのか分からなかったけれど、ここまで考えてくれたことが“嬉しい”と思う。
それが“気持ち”…。
そんな感情について考えるように、いや、感じるようになるなんて自分も随分と馴染んだものだ。

「あ、そうだッ!タナカさんに聞いてみたらどうですか?」

急にフィニは声をあげる。
そういえば、どこでお茶を飲んでいるのか、今ここにタナカさんの姿が無かった。

「そうですだね!タナカさんならきっといい案を考えてくださるだよ」
「じゃぁ早速タナカさんを探すか!」
「え、えぇ。そうですね。ですが私一人でも、もう大丈夫ですので」
「そんなこと言わないでくださいよ~」
「ファントムハイヴ家一人の悩みは皆の悩み、ですだよ!」
「そうと決まればタナカさん探し大作戦だ!」

おー!!と張り切り出した三人は早速タナカさんを探しに駆け出してしまった。
悩んでいるセバスチャン本人を置いて。

「やれやれ…」

元気良く駆けていく三人の後姿を見守りながらため息をつく。
張り切ったあの三人を誰が止めることが出来ようか。
本当はタナカさんに相談したくないということも言い出すことも出来ないだろう。
いや、したくない。何だか負けたような気分になるから。

「…タナカさん、ですか」

このファントムハイヴ家の中で、タナカさんが一番シエルと長くいる人物だ。
まだ先代が当主を務めている時にもいたのだから、幼い頃のシエルも知っている。
正直な話し…セバスチャンはそれが気にくわない。

自分がシエルと出会ってから早三年。
もう三年も、と普通なら思うのだが、悪魔の自分にとっては瞬きにすぎない月日。
そして自分よりもシエルと長くいるタナカさんについても“まだ三年”と思えるだろう。
別にそのことに関してタナカさんが何か口を出すわけではない。
ライバルではないのだから。
勿論、タナカさんがシエルのことを大切にしているのは分かっている。
しかしそれは自分とは別のところの感情だろう。
けれど。

やはり気にくわない。

自分が知らないシエルの顔を知っていることが。
自分よりもシエルと長くいることが。

どうしようもないことだと分かっている。
シエルにとってもタナカさんは残された、たった一人の身内なようなものであるし。
だからせめてシエルに関することでタナカさんを頼るような真似はしたくないのだ。
自分よりタナカさんの方がシエルのことを解かっていると認めてしまっているようで。
いや、きっとそんなことはない。
“今”のシエルを知っているのは己が一番だろう。

「いえ、まずそんなことを競ってどうするのですか…」

シエルに関しては全てに置いて一番でありたい、という願いは恋人だからだろうか。
それとも嫉妬心が、執着心が強い悪魔だから?
まぁ、そんなことはどちらでもいい。
今重要なのは、どちらの方がシエルを知っているかではないし、ましてやシエルといる時間の長さではない。
シエルが一体何を欲しがっているか、ということだ。

「聞いてみますか、ね」

気分は乗らないが、三人の言う通りきっと何か良い案をくれるだろう。
セバスチャンはタナカさんの気配を探り、そちらの方に足を進めた。
ところが。

「おや…?」

タナカさんの傍に、自分のよく知る人の気配。
いや、自分の優先順位から言えば、その人の傍になぜかタナカさんがいる。
そう。噂のシエルの傍に。
しかもそこは部屋ではなく廊下だ。

一体どうしたのでしょう。

セバスチャンは若干駆け足でその場へと急ぐ。
そして目に映ったものは、シエルとタナカさんが会話をしている姿だった。
自分の内の何かがザワリと騒ぐ。

「じゃぁ悪いが、そのように進めてくれ」
「かしこまりました」
「坊ちゃんッ!」
「ん?セバスチャン?」

叫ぶように名前を呼べばシエルは振り返った。

「どうしたそんな大声で。……別に仕事をサボっていたわけじゃないぞ」
「そうじゃなくて、ですね。一体どうされたんですか?」

我を失ってしまいそうな自分を宥めながら、セバスチャンはシエルに聞く。
すると答えたのはシエルではなく、タナカさんだった。

「仕事についての話しをしていたのですよ」
「仕事について?」
「えぇ。今度の取引先は昔馴染みのところでしてな。私とも顔見知りなのです。なので間に私を挟めながら商談を進めた方が円満にことも進むだろうと坊ちゃんは考えましたので、それの指示を貰っていたのです」

タナカさんの説明にシエルも、そういうことだと頷く。
そういえば今度の取引先は先代も懇意にしていたと言っていた。
ならばシエルの考えは最適だろう。
今の当主として顔を通すのも大切だが、その当時を知る人間を連れていた方が相手側も安心するものだ。
だからシエルはタナカさんに声を掛けた。
自分ではなく、今執事をしている自分ではなく、タナカさんに。
理由は分かる。分かるけれど。

「坊ちゃん。私に一言仰ってくだされば、私からタナカさんに言いましたのに」

何かがざわついて落ち着かない。

「わざわざ言いに行くなど主人がなさることではございませんよ」
「違う。たまたますれ違ったから言っただけだ」
「ではなぜ部屋から?」
「セバスチャン」

いつもと違う声に制止が掛かる。
そちらに視線をやれば、少し困ったように微笑むタナカさんの顔。

「執事は影のようにお仕えする者。主人の命令が全てです。そこまで詮索する権利はございませんよ」
「…申し訳ございません」

表情とは別の強い言葉に、セバスチャンは頭を下げる。
今のはどう考えてもこちらに非がある。
今は主人と執事の間柄なのだから。

「おい、別に僕はそこまで厳しくする気は…」
「坊ちゃんも主人としての威厳を損なわれてはいけませんぞ」
「あー、分かった分かった」

どこか説教染みた空気を感じたシエルは言葉を投げかけてくれるが、シエル自身もタナカさんに怒られてしまう。
けれどシエルは怒られ慣れているのか、鬱陶しそうに手を振った。
そして逃げるように執務室へと足を進め始める。

「僕は部屋に戻る」
「御用時は全て済んだのですか?」
「…ただの手洗いだ」
「…そうですか」

それは詮索し過ぎだったか、と内心反省するセバスチャン。
恋すると何と盲目になるものか。
シエルのことしか瞳に映らない。

「何かありましたら、お呼びください」
「あぁ」

シエルは頷き、執務室へと戻って行った。
残ったのはセバスチャンとタナカさんの二人だけ。

「そういえば、私を探していたらしいですな」

さっき三人に会いました、とタナカさんは微笑む。
どうやらこれ以上セバスチャンを叱るつもりはないらしい。

「いい案をあげてくれ、と言われたのですが。はて、一体何に悩んでいるのですかな?」
「あの三人はどうしたのですか」
「仕事に戻ると仰っていました。だからゆっくり話しを聞け…と」
「そうですか」

セバスチャンは色々な意味で苦笑する。

「それで、一体どうしました」
「えっとですね…坊ちゃんが幼少時代の頃に好きだった物とかを窺っても宜しいですか?」

そんなことを聞いている自分に内心ムカムカしながらも、にこやかに微笑んで問い掛ける。
するとタナカさんは一瞬驚いたような顔をしたら、すぐにまた優しく微笑んだ。

「察するに、坊ちゃんの誕生日プレゼントを用意したいのですな?」
「はい…ですが一体何をあげたら喜んで頂けるのか分からなくて」
「幼少時代に坊ちゃんが好きだったものは沢山ありますけれど、坊ちゃんは何を貰っても喜ぶと思いますよ」
「そうなんですがッ」

同じ答えにセバスチャンはつい声を荒げてしまう。
自分でもそんなことは分かっている。
けれどシエルが一番喜ぶ物があげたいのだ。
だからこんなにも悩んでいるというのに…。
そんな心中を読み取ったのか、タナカさんは苦笑しながら、では…と話し出す。

「貴方が欲しいものは何ですか?」
「私が欲しい物…ですか?」
「はい」

どうしてそんな話しになるのかと思わないこともないが、言われた通りに考えてみる。

自分が欲しい物…。
悪魔としては餓えているのだから魂が欲しいのかもしれないが、シエル以外と契約する気もないし他の魂を喰らう気もない。勿論シエルの魂も。
餓えが満たされることは無いが、自分ほどの魔力を持っていれば魂を食べなくとも存在を保つことは出来る。
じゃぁ他に何か欲しい物は。
執事として生きる為の生活用品は全て揃えてもらっている。
特に困ったこともなければ不満もない。
あぁ、猫をペットにしたいという思いもあるが、それはシエルがアレルギー持ちなので駄目だ。
無理をさせてまで飼いたいとは思わない。
じゃぁ他に欲しい物…。

「無いのですかな?」

尋ねてくるタナカさんに、セバスチャンは頷く。

「特にこれといった物は。坊ちゃんに全て支給して頂いておりますし」
「物意外でしたら何かございませんか?」
「物以外ですか?」
「はい。欲しい“物”ではなく、欲しい“もの”です」

欲しい物ではなく、欲しい“もの”?
どうやら表情を読み取るに、先ほども物ではなく、ものを聞いていたらしい。
物ではないもの。
要するに物体ではない、ということだ。
物体以外に欲しいもの?
それは一体なんなのだろうか。
セバスチャンは腕組みをしながら深く考え始める。

例えば。
シエルと二人きりになれる空間とかだろうか。
他の誰にも邪魔されない、二人きりになりたい。
しかし現実問題それは無理に等しいだろう。
じゃぁ、シエルから誘って欲しい。
……それは欲しいものというよりも、シエルが欲しいということになるのだろうか。
でも他に欲しいものと言われても…。
あ、もうひとつだけある。

恋人を名前で呼びたい。

自分はまだ“シエル”と呼んだことがない。
それは主人と執事ならば当たり前のことだが、今は二人恋人同士だ。
名前で呼び合うことも許される筈だ。

お互い名前を呼び合って、愛を深めたい。

それがセバスチャンの欲しいもの。
今一番セバスチャンがしたいことだ。

「…なるほど」

欲しいものとはこういうことですか。
セバスチャンは一人納得する。

「なんとなく分かりましたかな?」
「はい」

セバスチャンの様子を見ていたタナカさんは尋ね、そう答えるとどこか安心したような顔をした。

「相手を喜ばせるのは物だけではないのですよ」
「そうなんですね…。勉強になりました」
「いえいえ。それでは頑張ってくだされ」

ほっほっほ、と笑いながら去っていくタナカさん。
やはり油断は出来ないな、と思いつつも、セバスチャンはその後ろ姿に深く頭を下げた。




がしかし。


「タナカさんのおかげで、素敵なことに気がつけたわけですが…」

考える範囲が広がって、尚更シエルの欲しがるものが分からなくなったセバスチャンであった。

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【2011/03/24 16:54 】 | Text | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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