「僕が悪魔になったらどうする?」
金色が黒に染まった時間、シエルはセバスチャンにシーツの中で抱きしめられながら問いかける。
「なんですか?急に」
「アロイスが夢を見たらしい」
「夢・・・ですか?」
「あぁ、夢・・・だ」
まるで“夢”であることの確認をしているような二人。
顔に笑みを浮かべているが、その瞳は真剣だ。けれどどこかに哂いが含んでいるのは気のせいだろうか。
「そうですね・・・まず本当に悪魔になったのか確かめる為に、一旦貴方を刺しますね」
「なるほど・・・執事として、いい判断だ」
「それからは、坊ちゃんと共に幸せに過ごしますね」
その言葉にシエルは目を見開く。
「・・・正気か?」
「はい?」
「お前は僕の魂が食べられないということだぞ?」
「そうなりますね」
「新たに契約者を探さなくていいのか?」
「なぜ探すのですか?坊ちゃんが傍にいてくださるのに、探す必要などないでしょう」
当たり前のように返してくるセバスチャンに、シエルはグルグルと混乱してくる。
悪魔という者の定義を忘れてしまいそうだ。
「それは恋人のお前の意見だろう・・・悪魔としてのお前だぞ?」
「どちらにしろ、私は坊ちゃんと傍にいることを望むと思いますよ」
「僕は悪魔なのに?」
「えぇ・・・逆に永遠を共に出来る悪魔だからなのかもしれません」
セバスチャンは愛しげにシエルの髪をかきあげる。
「ただ悪魔の私でしたら、きっと初めの頃は坊ちゃんの魂が食べられないことに嘆くでしょう。ですが、坊ちゃんが傍にいてくださらないとダメなことにいつか気がつくと思います」
坊ちゃんが悪魔になって、喜ぶ日がいつか必ず来ます。
その台詞にシエルは何だか胸が締め付けられ、顔を隠すようにセバスチャンに抱きつく。
それじゃぁ、お前に対する復讐にならないじゃないか、と言うと、復讐するつもりだったんですか?と笑われる。
「細かくは聞いていないから、どういう理由で僕が悪魔になったかは分からない。だが、きっと僕ならそういう理由で悪魔になる」
「恋人ではない貴方なら・・・の理由ですか?」
「あぁ、恋人ではない僕ならそういう理由だ・・・」
「・・・そうですか」
ここでセバスチャンは、恋人の貴方では?とは問い返さない。
きっと答えは同じだから。
たとえ恋人であっても、シエルは悪魔になることを選んだだろう。
永遠に傍にいるために。
「随分と面白い夢を見られたのですね、アロイス様は」
「あぁ。まるで本当にあったかのような夢だ」
それとも・・・。
そこまで言って、シエルは口を閉ざす。
セバスチャンは少し強引に身体を自分から離し、顔を覗きこみ赤い瞳で哂う。
「こちらが夢・・・ですか?」
「だからお前はどうしてそうやって、あえて言わない台詞を口にするんだ」
シエルは、アロイスとケーキを食べている時のことを含めて指摘する。
声音とは裏腹に口元に弧を描き・・・
瞳は一瞬だけ、悪魔と同じ赤色に光った。
END
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あとがき
こちらは、書きたくなって書いた1ページです^^;
これを本編にそのまま載せたら、終了時の少々ふんわりなイメージが崩れてしまいますので
おまけという形にして載せました。
本編だけでも『もう1つの世界』というタイトルは付けられるのですが、こちらも読んだ方が
タイトルがしっくりくるんじゃないかなぁなんて思います。
実は、おまけにした理由がもう1つ!
リクエスト企画の文章の筈なのに、リクエスト外の内容だからです!!!
aya様、ごめんなさい!!(><;)

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