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【2017/09/25 02:37 】 |
悪ト夢
怖い夢を、見たんだ。




伸ばした腕は何も掴まなくて、
その先にあった黒い影はこちらを振り向くこともせずに消えてしまった。
黒い影はこちらに気が付いている筈なのに、行ってしまう。

(待て、)

制止の声は心の中で消えていく。
そんなことを言ってはいけない。
黒い影と自分にある切れない鎖は契約のみ。
己の心情は必要ない。
弱い心ならば尚更だ。

けれど、本当は行かないで欲しくて。

(待って、)

行くな、
行かないで、
置いて行かないで。

沢山の言葉が溢れてくるのに、一言も口から漏らすことは許されない。
こんなにも心が軋むのに、こんなにも心が悲鳴を上げているのに。

「・・・・っ!!」

こんなにも、願っているのに。

全て消えてしまう。
手の中から零れ落ちてしまう。
あの黒い影だってそうだ。
みんなみんな、消えてしまう。

結局自分は、
何も出来ない子供なのだ。




――――坊ちゃん。

「坊ちゃんッ!」
「っ!!」

大きな声によって意識が深い底から引き上げられる。
ビクリと身体を揺らしながら瞳が開き、閉じることを忘れた口からは荒い息が零れていた。
一体何が起こったのか。いま自分は何をしていたのか。
混乱に陥った瞬間瞳に彼の心配そうな表情が映り、それと同時に己は夢を見ていたのだと思い出した。
――――嫌な、心底嫌な夢を見た。

「大丈夫ですか、坊ちゃん」
「・・・あぁ、大丈夫だ」

頷きながら額に流れる大粒の汗を腕で拭う。
眠る前、汗や何やらで汚れてしまった身体を彼の手によって綺麗に拭いてもらったというのに、また汗だくだ。
嫌な夢を見た後で元々気分が悪いのに、汗の感触によって余計に不快極まりない。
自然にムッとした表情になってしまえば、相手は心配そうな表情を近づけて再度大丈夫かと聞いてきた。

「随分とうなされておりましたが」
「少し嫌な夢を見ただけだ。問題ない」
「汗まで掻いて・・・少し嫌という程度の夢ではないでしょう」
「別にお前には関係ないだろう」

的確な指摘に顔を背ける。
心配してくれているのは分かるが、あんな夢を見た後に大丈夫だと微笑んでやる余裕なんてない。
あの黒い影の正体が彼だっただけに。

「っ・・・」

思い出してしまった映像に目尻に涙が溜まっていくのが分かり、咄嗟に白いシーツに顔を押し付けて拭った。
夢だって分かっている。
だって隣に彼はいるから。
それでも、やっぱり胸は痛む。

彼と想いを交わしてから。
お互いを大切にすることを許し合ってから。
この心に恐怖が巣を作った。

愛しい人が離れて行ってしまう恐怖。
愛しい人が消えてしまう恐怖。

明日には嫌われるのではないか。
明日にはいなくなってしまうのではないか。

傍に、いてくれなくなってしまうのではないか。

こうやって彼と愛し合うのは、契約があるからではない。
心と心があるから、愛し合うのだ。
契約があれば確かに彼は傍にいてくれるだろう。
けれどそれじゃぁもう――――


あぁ、いつの間に自分はこんなに弱虫になってしまったのだろう。
こんなに弱くなってしまったら、嫌われてしまう。
こんな貴方など必要ないと、言われてしまう。
そんなの嫌だから。

「面倒、かけたな」

先に心に蓋をして、

「もう・・・寝る」

なんでもないのだと、己の心を握りつぶすにかぎる。





「そう、ですか」

晴れない声。
それでも彼は背を向けて寝ると言った自分に夢の内容などを聞いてくることはなかった。
もしかしたらほんの少し涙を流したことにも気が付いているかもしれない――――呆れている可能性だって無くは、無い。

ツキンと、握りつぶした筈の心が痛みを訴える。
また、子供のように泣き叫ぶ。

(やめろ)

行くなと、
行かないでと、
置いて行かないでと、泣き叫ぶ。

(やめろッ)

そ ん な こ と 言 っ た ら 嫌 わ れ て し ま う 。


「では・・・抱きしめていてもいいですか?」
「ぇ?」

背後に温かい気配が近づいたかと思えば、力強く抱きしめられる。
背中から前に回された腕は凄く強くて、きっと自分の力では解けないだろう。
それくらい強くて、優しいものだった。

「セバス、チャン?」

揺れてしまいそうな声を必死に普段と同じ声にしながら名を呼べば、むき出しの肩にスリ、と頬を寄せられた。

「っ・・・・」

それが、まるで“大丈夫”と言われているようで、ずっとずっと我慢していた涙が一気に溢れ、流れ落ちていく。
嗚咽まで零れてしまいそうで必死に歯を食いしばるけれど、喉の奥から零れる声は堪えきれない。
だからせめて泣き顔だけは見られないように。
後ろにいるのだから見られることはないと分かっているけれど、それでも隠すように腕を顔の前で交差させた。
――――自分を抱きしめている腕に、己の腕を重ねる勇気が、まだないから。


仮面を被って生きるのは、意外と簡単だ。
慣れてしまえばそれが当たり前になるし、何を言われても仮面について言われていると等しいので傷つくことはない。
仮面を被って生きる方が、なんぼか楽だ。

けれど、その仮面を外して生きることが難しくなった。
剥き出しの心はすぐに傷つくと知っているからこそ、仮面を外せなくなった。

仮面を外した向こうにいる自分を誰が受け止めるというのか。
弱い自分を、誰が受け止めるというのか。
こんな貴方など必要ない、そう言われてしまったら?


けれど今、彼はこんなにも強く自分を抱きしめている。
仮面の下の存在を知っていながら、抱きしめてくれているのだ。
こんなにも弱くなってしまった自分を。
仮面をつける前以上に、弱くなってしまった自分を。


なんでこんな自分を、とか。
なんで悪魔のくせに、とか。
沢山たくさん思うけれど。

ありがとう、とか。
ごめんなさい、とか。
やっぱり沢山たくさん思うけれど。

今はもうそれが混ぜ合わさって、ごちゃごちゃになってしまっているから。

ただ沢山泣かせて。
その腕の中で、沢山たくさん泣かせて。
生まれたままの、本来の自分の姿(こころ)で泣かせて。

「シエル・・・」

柔らかい唇が首筋に口付けた。
それはただの慰めとかではなく、零れんばかりの愛情が溢れていて、余計に涙が溢れてしまう。

好きなのだと、
愛しているのだと、
傍にいるのだと、教えてくれる。

言葉は無い。
けれどそれ以上のものを与えてくれる。
関係ない、だなんて。
そんな言葉を吐いたって、自分の身など守れる筈がなかったのだ。

「・・・・」

そっと顔の前に交差していた腕を解いて、彼の腕に片手だけ触れる。
そして。

(行かないで)

強く、強く握り締めた。


夢の中で伸ばしても捕まえられなかった黒い影。
それが今は捕まえることが出来て。
逆に今黒い影に捕まえられていて。
こっちの方が夢みたいだ。


それでも軋む心はまだ軋んでいて、
悲鳴を上げる心は確かにある。
けれどホワホワとした感触がこの心を包んで、大丈夫だと。
愛していると、囁いてくれるから。


「セバスチャン」
「はい」


いつの間にか、涙は止まっていた。





End



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【2012/06/17 00:46 】 | Text | 有り難いご意見(0)
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