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【2017/09/25 02:36 】 |
発展途上
いつもと表記(?)の仕方が違います!



彼はただの餌。
それが今だけ…悪魔にとって瞬きの間だけ、仮面を被った小さな主人へと姿を変えているのだ。
それは悪魔である私が執事の皮を被らなければいけないこととイコールの関係で繋がっており、互いに欠けてはならない関係。
けれどそれは温かい関係などではなく、もっともっとシンプルかつ単純なもので。
悪魔とヒトの間で交わされる『契約』というものだけが、彼と私を結んでいる。
どちらも欠けてはならないのは、契約だから。
どちらか片方が欠けてしまえば、契約は一瞬のうちに消え去ってしまう。
悪魔にとってヒトの人生すら瞬きの如くであるのに、ヒトにとっても一瞬の出来事など、想像もしたくない。

しかしその瞬きの間だと思っていたこの契約は思っていた以上に骨の折れるものであることは否定できない。
一瞬のうちに消え去ってしまう契約を守るのも、あの性悪なガキに仕えるのも、悪魔であるにも関わらず、いや、悪魔だからこそなのか酷く苦労しているのだ。
ヒトの命はガラスのように脆いもの。にも関わらず彼は常に命を狙われ、それ以上に彼は他のヒトの子以上に運動能力が衰えているし、悪魔の自分を仕えているせいか危機感が全くと言っていいほどない。
だがそんなことよりも問題なのは――――

全く持って、可愛げがないところだ。


「だから嫌だって言った」
「仕方がないとご自分でも仰っていたと思いますが」
「黙れ、このエセ執事」
その可愛げのない彼、シエル・ファントムハイヴは苦虫を噛み潰したかのような苦々しい表情をしながらこちらに言い放ってくる。
黙っていれば変態な人間たちに買われてしまうほど整った顔をしているというのに、口を開けばその整った顔が台無しな性格が顔を覗かせるのだ。
その性格は出会ってから数分足らずで知ることとなったが、未だに苛立ちを覚えてしまう。
「…今は義兄弟という間柄でございます」
セバスチャンは引きつってしまいそうな口角を必死に抑えながら、いつもの執事の皮を被りながら返してみせる。
この笑みを作るのも上手くなったと思えるのは、多少なりとも出会ってからの月日の積み重ねがあるからだろう。
けれど彼も同じ月日を積み重ねているせいで、その笑みに対して反発するもの上手くなってきているのは考えものだ。
「義兄弟というならばその腑抜けた面をもう少しマシにしたらどうだ」
「おや、貴方とそっくりだと思いますが」
あの伯爵も雰囲気がそっくりだと仰っていたではありませんか。
そう言葉を重ねれば、彼は再び黙れと短く言い、小さく舌打ちをする。
どうやら今日の嫌味の言い合いは私の勝ちらしい。
いつもならもう少し長く勝負が続くのだが、それだけ今彼はこの状況に参っているのだろう。


今日は女王の番犬として、とある夜会に出席しているのだが…―――
この場に無き者にしなければいけない人物はおらず、その人物がどこにいるのかを聞き出す為に今日の夜会に出席したのだ。
夜会が嫌いな彼にとっては嫌な遠回りだろう。
けれど彼がここまで参っている理由はただ夜会に出席しているから、というわけではない。問題はその聞き出さねばならぬ相手、伯爵にあるのだ。

「それにしても、周りの人間も単純なものですねぇ」
「・・・・」
「伯爵の位と裏の名を授かってから弱1年、それなりに様々な噂が流れているというのに、姿も変えずに義兄弟なんてものにまで簡単に騙されてしまうだなんて」
「…だが、そのおかげで今回の計画が上手くいくんだろう」
「ではもう文句を言う口は開きませんね」
「……随分と機嫌がよさそうだな」
「えぇ。貴方の疲れた顔を見るほど愉快なものはありませよ」
「屋敷に帰ったら覚えてろよ悪魔」
騒がしい屋敷の中であるにも関わらずドンと大きく足音を響かせながら歩くシエルに、セバスチャンはクスリと笑い、えぇ、と短く返した。
『疲れた顔を見るほど愉快なものはない』
いつだって彼は傲慢で我儘で性悪なガキだ。こういう顔を見るとスッキリするのは悪魔だからという理由ではないと思う。
よくあのタナカさんは笑顔でこのガキのことを大切にできるものだ―――不機嫌な顔をしたまま歩くシエルを横目で見ながら、そんなことを考えていると。
「おぉ!ファントムハイヴご兄弟!」
ふいに先ほど聞いた声が耳に届き視線を向ければ、そこには今日の目的人物である例の伯爵が笑顔で立っていた。
その声が耳に届いた瞬間、隣に立っている彼の身体が一瞬動いたのはきっと気のせいではないだろう。
「どうもラトーラ伯爵、先ほどは簡単な挨拶しか出来ず申し訳ありません」
「いやいや、さっきは私の方が慌ただしくなってしまったからね。他に挨拶しに来るだろう御仁は全員来たから、もう大丈夫だろうと思ってまた君たちを探したんだよ」
「それはありがとうございます、ほらシエルも」
「…お忙しいのに、わざわざありがとうございます」
横に立ったまま『決めた通り』黙っているシエルにセバスチャンがトンと背中を軽く押せば、一歩前にたどたどしく歩み出た演技をしながらそう口にする。
(まぁ、及第点ですね)
それを内心で笑いながら、セバスチャンはシエルが進んだ一歩を埋め、まるで本当に弟を大事にする兄のように彼の肩を己の方に軽く抱き寄せて小さく頭を下げた。
「すみません伯爵、義弟は人見知りが激しくて…」
「なにもいいんだよ。噂でもあまり人に笑みは見せないと聞いていたしね」
「そのような噂まで…ほらシエル、いつものように振る舞えばいいのですよ」
そう言いながら顔を覗き込むようにすれば、シエルは嫌がるようにセバスチャンの服の裾を掴み隠れるように顔を押し付けてしまう。
だが実はその下で地味にセバスチャンの踵を踏ん付けているのは本人たちしか知らないだろう。
勿論その真実を知らない伯爵の瞳には愛らしい義兄弟としか映らず、隠しきれない笑みを零しながら頬を赤く染めていた。
「何も気にしないでいいよ、ファントムハイヴ伯爵。シエル君…義弟くんが君にしか懐いていないだなんて可愛らしいじゃないか」
「いえ、ですが教育は必要で」
「いやいや、義弟くんには君さえいればいいだろう。親御さんも早く亡くし、義兄である君だけが頼りなんだよ」
ねぇ、義弟くん?
満面の笑みで聞いてくる伯爵にシエルは小さく頷けば、相手はより嬉しそうな顔をして、うんうん、とどこか納得するように頷いた。
「これこそ素敵な兄弟愛!私も嬉しいよ」
何が嬉しいだ変態ジジイという小さな声が、その義弟くんから聞こえてきたので、セバスチャンは黙るように見えない位置を軽く叩く。
だがやはりそんなやり取りを知らない伯爵は両手を上にあげ、高らかに声を上げた。
「そうだ!人見知りな義弟くんにはこの夜会は辛いだろうから、いい場所を教えてあげよう!」
「いえ、僕はっ」
「あぁすみません、伯爵。丁度この子を休ませてやりたいと思っていたのですよ」
「そうだろう!人気のない所は必要だ」
この伯爵が何をご所望か彼も瞬時に理解したのだろう、だからそれを阻止すべく口を挟もうとしたに違いない。
しかしそれを許さずにセバスチャンは伯爵に劣らない満面の笑みで、お願いします、と言葉を返す。
もちろん。
日々積み重ねて得た、完璧な笑顔を添えて。





「綺麗な庭ですね、シエル」
「・・・・」
伯爵が教えてくれた場所は本当に人気のない所で、静かな庭の奥であった。
そこには美しい木々や花、池などもあり、庭というよりもまるで小さな公園のようだ。
二人は置いてあった白いベンチに隣同士で腰かけ、セバスチャンはいつもよりも、いや、普通に会話をする声量よりも大きい声量でシエルに話し掛ける。
「知らない人に囲まれて疲れてしまったようですね」
「・・・・」
「たくさん話し掛けられて怖かったですか?」
「・・・・」
しかしシエルはまっすぐ前を向いたままセバスチャンに何も返さない。
まぁ後姿だけならば声で返さずに頷いているのだ、と脳みそに花が咲いたような人間、いわば伯爵のような人間は勘違いしてくれているだろうから問題ないだろうけれど。
(こっちの身にもなれというのですよ)
こっそりとため息をつき、今度は先ほどとは逆に普段より声量を落として話し掛けると、すぐに言葉が返された。
「…そのような顔では居所を聞き出せませんよ」
「ここまでする必要があったのか」
「あったから貴方はこの夜会に出席されたのでしょう」
「だがっ、他にも方法があっただろうッ」
セバスチャンと同じように声量は落とされているが、溢れてくる怒りが抑えきれないのか身体はワナワナ震え、これでもかというほどこちらを睨みつけてくる。
「どうせ貴様のことだ。僕が嫌がることをして愉しんでいるんだろう」
「まぁ、否定はしませんよ」
嘘はつくなという命令があるので素直にそう頷けば、この悪魔がっ、と前髪をかき上げ、大きくため息をついた。
どうやらこのまま怒っていても何も変わらないと、やっと諦めたのだろう。
どこか覇気を無くした表情でシエルはセバスチャンに尋ねた。
「それで、あのラトーラ伯爵はしっかりついて来ているんだな」
「はい。私たちよりも少し離れた木の陰にいらっしゃいます」
「ならお前がさっき話していたくらいの声の大きさなら声が届く、というわけか」
「そうですね」
「…ここまできたらもう本当に兄弟仲を見せるしかない、か」
あの変態が裏社会の人間だったら楽だったものを…。
そう呟き、本当に嫌々そうな表情をしながら再度ため息をつく彼を見て、セバスチャンはクスリと笑った。
その表情は日々あまり見られるものではないものであり、やはり気分がいい。
彼にバレてしまっている通り、嫌がることを予想してこの現状に追い込んだのだから余計にだ。
だからより彼を追い込んでやる。
「坊ちゃん、兄弟仲ではなく、兄弟愛ですよ」
相手を恋愛対象として接しなければ。

そう、今日彼が参っていたのはただ夜会に出席しているから、というわけではない。
あの伯爵の趣向に問題があったのだ。


『同性愛?』
『はい、どうやら伯爵は男性を好む方らしいですよ』
『…他の情報は』
『子供もお好きなようで、特に兄弟愛を見ているのが好きだとか』
『それは、』
『もちろん、恋愛対象として想い合っている兄弟愛ですね』
『・・・・』
『きっと気に入られて、鼠の居所を嬉々として教えてくださいますよ』
『僕はまだ何も言っていないだろうが』
『その他に何か手が?』
『・・・・』

後に貴様が伯爵を落とせばいいだとか、たとえ演技でも貴様と義兄弟なんて死んでも嫌だとか、これでもかというほど文句を重ねていったが、結局は伯爵に兄弟愛を見せて気に入ってもらい、それから無き者にする相手の居所を聞き出す、ということに収まった。
シエル・ファントムハイヴはプライドが高いが故に、己の仕事を悪魔の自分に任せることはない。
力を借りたとしても、チェックメイトを決めるのは彼自身だ。
だからこんな兄弟愛なんていう彼にとって屈辱的な方法であっても選んだのだろう。
それはプライドが己自身を傷つけているとも取れるし、プライドが己自身を高めていることも繋がるだろう。
だが悪魔にとって重要なのはプライドうんぬんではなく、その『性格』こそが美味な魂を作り出しているという真実だけで十分だ。
…たとえそれが可愛げないことにも繋がっていようとも。


「さて、そろそろ何か話さなければ伯爵が飽きてしまいますよ」
「~~~~分かってるっ」
早く己の弟を演じろと背中を押せば、嫌そうな表情のまま、だが意を決したように深呼吸をし一言。
「に、兄さんッ」
しかしそれは大きな声というより、叫び声に近いだろう。
「どうしましたシエル」
それにクスクスと笑いながら答えれば、少し頬を赤く染めた状態でこちらをギンと睨みつけてくる。
「その、僕は夜会は嫌いだと、言いましたっ」
「…仕方がないでしょう、これもファントムハイヴ家としてのお仕事ですよ」
一体なんの話をするのかと思えば。
どうやら彼は弟を演じつつも己の文句を吐き出すつもりらしい。
そこからどうやって兄弟愛を演じるつもりなのかは分からないが、先ほど人前ではあんなにも静かだった弟が兄の前だけでこのように文句を言うというのも、また兄を慕う弟というものに当てはまるのかもしれない。
けれど、自分はそれで済ませる気は毛頭ない。
「シエルはどうして夜会がお嫌いなのですか?」
「…人が沢山いて、嫌だ」
「人が沢山いて嫌、ですか。それは私が取られてしまうから、ですか?」
満面の笑みを携えて言えばシエルは、はぁ?!と目を剥いた。
「そんなに兄である私を独占したいですか?」
「なに…ぁ、いや、そのッ…」
なに馬鹿なことをと怒鳴りたい女王の番犬、シエル・ファントムハイヴと、
実はそうなんですと頷く義兄を愛する弟、シエル・ファントムハイヴ。
本物と偽物の間でシエルは困ったように視線を動かしている。
今は弟なのだからここで頷くべきであることはシエル本人も分かっているのだろう、だがプライドが高い彼が、ただの『演技』であっても素直に頷ける筈がない。
もしここで兄役がセバスチャン・ミカエリスでなければ、もう少し素直だっただろうけれど。
ただの演技であろうが、セバスチャン・ミカエリスに屈服するのは嫌なのだ。
「だったら…だったら、どうだって言うんですかッ」
その証拠にシエルはセバスチャンの言葉に頷くことはせず、逆に聞き返してくる。
「いえ、もしそうなら申し訳ないことをしたなと思いまして」
しかしそれは許さないと言葉を返す。
「私が伯爵と話していることも気に食わなかったのではないですか?」
「…でも、伯爵は、休む場所をくださったので、」
「二人きりにさせてくれたから、許すと?」
「いや、その」
「シエル」
手を伸ばして頭に触れれば、ビクッと過剰なほどに身体を揺らす。
その瞳には今度は何だという不安が映し出されていて、妙に胸がざわついた。
日々あまり見られることのない困った表情や怒りの表情は、ざまぁみろ、というように気分が良くなるのだが…―――

赤い頬。
不安げな瞳。
悔しそうに突き出る唇。
それでも、負けじと虚勢を張る姿。

(なんですか、)
妙に胸がざわつく。

「兄さん?」
「…あ、いえ」
頭に触れたまま固まったセバスチャンを不審に思ったのだろう、シエルが怪訝な顔をしながら名を呼ぶ声にハっとし意識を戻す。
なんでもありません、と頭に触れていた手で彼の髪を梳かすように撫でれば一瞬だけ彼は瞠目し、しかしすぐに目線を逸らして、そうか、とシエル・ファントムハイヴの言葉そのもので返した。
その一連の動作に多少疑問を持つものの、今は伯爵から情報をもらうため演技の真っ最中。彼自身への質問はまた後だ。十分彼を苛めたし、もうさっさとこの茶番を終わらせてしまおう。
セバスチャンは頭を撫でたまま、改めて大きな声で話し掛ける。
「ときにシエル、二人でいるときの約束を忘れていませんか?」
「約束?」
言われた言葉にシエルは首を傾げる。
それもそうだ、そんな約束など二人の間でしたことはないのだから。
「二人きりのときは敬語はなし、そして名前で呼ぶ約束でしたよね?」
忘れているとは言わせませんよと付け足せば、少しぎこちなさげではあるが、覚えてます、とシエルは返した。
きっと内心では馬鹿じゃないかと罵ってやりたい気持ちでいっぱいだろう。
「いつもシエルは照れて名前でも呼んでくれませんからね」
「…兄さんは、兄さんですから」
「けれど二人きりの時は恋人でしょう?」
甘く囁くように言い、頭を撫でていた手を頬まで滑らせれば、
「そ、そうですがっ」
シエルはその手に自分の手を重ね、まるでその手に擦り寄るような仕草をする。だが真実は、その重ねた手…手袋越しに爪を立て、まるでこれ以上触れてみろと牽制しているようだった。
「ここは、外ですっ」
「外でも二人きりですよ」
「でもっ」
「シエル」
ギリギリと爪を立てる手をそのままに真っ直ぐシエルを見つめる。
蒼い瞳の中に赤い瞳が映り込み、あぁ悪魔の片鱗が出てしまっていますね、なんてどうでもいいようなことをなぜか今考えて。
「シエル」
もう一度、そう名前を呼べば。
「…セバスチャン」
聞き慣れた名前が彼の口から零れ落ちた。
その名はやはりいつも呼んでいるせいか、先ほどの『兄さん』という呼び名よりもスムーズだ。
きっと『兄さん』と呼ぶ方が不慣れで呼びづらかったに違いない。気持ち的にも。
しかし・・・―――
「もう一度」
「セバスチャン」
「もっと大きな声で」
「…っ、セバスチャン!」
いつもと違うように感じるのはなぜだろう。
やはり、胸がざわつく。
別に先ほどのようにいつも見ることのない表情を見ているわけではない。すでに聞き慣れた名前を耳にしているだけだ。それなのに。

(どうして?)

「シエル」
「セバスチャン」

なにかがおかしい。
なにがおかしい?

いま自分は、

(女王の番犬、シエル・ファントムハイヴ)
(義兄を愛する弟、シエル・ファントムハイヴ)
(義弟を愛する兄、セバスチャン・ミカエリス)
(ファントムハイヴ家執事、セバスチャン・ミカエリス)

(悪魔である、自分自身)

どれ?

頬に触れていない方の手を伸ばす。
怪訝な表情をしている彼は気が付かない。
そっと頭の後ろを押さえれば、驚いたように震えたのが手の平から伝わって。
蒼い瞳はこれでもかというほどに見開かれ、その中に己がいることに満足する。
ゆっくりゆっくり顔を下して近寄って、逆に彼の頭を引き寄せる。
そして・・・―――


ざぁ、と草木が揺れる音が響き渡る。
風が頬を撫でるが、ここまで大きな音を立てることはないだろう。
その音はあの伯爵が立てた音なのだと、きっと彼も気が付いたに違いない。
「・・・・」
「・・・・」
しかしお互い動くことはなく、鼻と鼻がぶつかってしまいそうなほどの近い距離でお互いを見つめ合っている。
いや、見つめ合っているというのは少し語弊があるかもしれない。
シエルの方はこれ以上ないほどに殺気を含ませながら睨んでいる状態なのだから。
「…どういうつもりだ貴様」
「…それはこちらのセリフですが」
いつもよりもくぐもった声。口を動かせば布地の感触が唇から伝わってくる。
「普通ここで止めますか」
これみよがしにため息をついてみせれば、彼はこちらを睨んだまま当たり前だ!と叫ぶ。もう傍にあの伯爵がいないと分かっているため、叫ぶことに手加減なしだ。
耳の奥で響き渡るキーンとした音に顔を歪めながら、セバスチャンは己の唇を覆う手を退かした。
本来ならば柔らかい唇の感触があった筈だというのに・・・。
「まさか口付ける瞬間に手で唇を押さえつけられるとは思いませんでしたよ」
「伯爵から情報を引き出す為とはいえ、本当に口付ける必要などどこにもないだろうがっ!」
そう、シエルはセバスチャンが口付ける瞬間に片手を差し込んで唇を守ったのだ。
こんなあからさまに口付けを拒まれたのは生きていて初めてのこと。
「ですがあそこまでしなければ伯爵はずっとあそこにいたと思いますよ」
「う・・・それは・・・」
そうかもしれないが、と消えて無くなりそうな大きさで呟く。
「もうこんなことは二度とごめんだ」
「おやそうですか?私は案外楽しかったですよ?」
「貴様は僕が嫌がっているのを見て愉しんでいるからだろうが」
「・・・それだけではありませんよ」
「あ?」
怪訝そうな顔をするシエルにクスリと笑い、セバスチャンは風によって前髪が持ち上がった向こう…額に素早く唇を寄せて口付けた。
ちゅっ、と音をわざと立てたのは、いやがらせ。
「~~~~~!?」
「おや可愛らしい」
「な、ば、は、え!?」
瞬間的に顔を真っ赤にさせた彼にセバスチャンは素直な感想を零す。
たかが額でこんな反応をするのだ。先ほど唇を逃したのは惜しかったかもしれない。
けれど・・・――――
「友情の証、ですよ」
まだいい。それで。
「はぁ?!」
「少し仲良くなった、ということです」
ざわつく胸の正体をまだ『知る』必要はない。
彼も、そして自分も。
何も知らないシエルは「ふざけるな!」と顔を赤くしたまま怒り、一人で会場の方へと向かってしまう。

ヒトの命はガラスのように脆いもの。にも関わらず彼は常に命を狙われ、それ以上に彼は他のヒトの子以上に運動能力が衰えているし、悪魔の自分を仕えているせいか危機感が全くと言っていいほどない。
だがそんなことよりも問題なのは全く持って、可愛げがないところ。
そう思っていたけれど――――

「待ってくださいよ、坊ちゃん」

案外、可愛いところもあるものだ。



(今はまだ友情)
(それがどう育っていくかは)
(彼ら次第)





END




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【2012/12/25 20:35 】 | Text | 有り難いご意見(0)
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