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【2017/03/28 09:31 】 |
GameⅤα4
(ガラスの刃の上で笑う道化師は。)




【満月の夜の1日前】



『おや?随分と浮かない顔だね』

ゲームの内容がお気に召さないかい?という言葉に、シエルはこれでもかというほどに眉を顰め、当たり前だ、と頷いた。
今から考えてもそれは別に可笑しいことではないだろう。自分じゃなくても、きっと皆頷いていたと思う。
目の前にいる存在を除いて、だが。

『なぜそんなことをしなければいけない』
『なぜ、とは?』
『貴様らがただ鏡の向こうへ帰れば問題はないだろうが』
『それじゃぁ噂の鏡とは違う存在になってしまうじゃないか』

ヴィンセントはあっけらかんとした表情でそう言い放つ。
噂通りにしなければこの鏡は“この鏡”ではなくなってしまうと。

『別にゲームの内容は問題ないだろう?それとも2日後の満月の夜に何か仕事でもあるのかい?』

そう訊ねてきたにも関わらずヴィンセントは間髪いれずに、無いよね、と言って、そのまま言葉を続けた。

『ただこのゲームも仕事の延長戦だと思えばいいよ。だってそうだろう?こんなゲームは何度もやっていることだし』
『・・・・・・・』
『どっちにしてもシエルに決定権はないよ。ここで拒否したところでゲームが始まらないワケでもないし』

まぁゲームと言っても、

『ただの殺し合いなんだけどね』



ヴィンセント・ファントムハイヴが持ちかけてきたゲーム内容は“満月の夜に殺し合いをする”というものだった。
そこに何の意味があるのかは分からないが、元々この鏡は自分にとって会いたくない存在、天敵が現れると言われていた代物で、こうなるのは最初から決まっていたのかもしれない。だから死者も出たという話があるのだろう。
だがやはりそこには何の意味もない。
裏社会での仕事イコール命を奪うことは、正しいことではなくとも意味がきちんとある。
その意味があるからこそ、シエルは命を奪うことを許容しているのだ。

けれどこのゲーム、命を奪うことに何の意味もない。
ある種、快楽殺人と変わりないだろう。そこに含まれる感情は違えど通る道筋は同じなのだから。
たかが鏡から出てきた怪奇現象のような存在になぜ命を狙われ、そして奪わなくてはならないのか。
p (反吐が出るな…)
すでに赤色に染まった手からしたら命は酷く軽くて脆い。だがだからこそ、その重みと痛みを知っている。
シエル・ファントムハイヴが存在する理由は、その重みと痛みを知るが故に、なのだから。

だか、避けられないものもあるというのもまた知っている。
意味の無かったものだったにも関わらず、相手によって意味を生み出さざるをえない状況へ追い詰められるという……こちらの命を狙われた為、己の防衛の為に相手の命を奪わなくてはならないということもあるのだ。
今はまさにソレだろう。

鏡の中から突如現れたヴィンセント・ファントムハイヴ。そしてアンダーテイカー。
セバスチャンにとってアンダーテイカーは宿敵とも言えるのかもしれない。いや、お互いに。
悪魔と死神は互いを忌み嫌い、嫌悪し合うものらしい。まぁ、赤一点はどうなのか分からないけれど。

なら自分は?
なぜ鏡から先代が現れたのか。
その理由はきっと…―――

「坊ちゃんっ」
「……ッ!!」

セバスチャンにポンと肩に手を置かれたことに、まるでうたた寝しているところを起こされたように必要以上に身体を跳ねかせたシエル。
驚いたせいで身体全身が脈を打っているように感じた。

「大丈夫ですか」
「あ、あぁ……悪い」

視線を動かせば目の前の机にスイーツと紅茶が置かれていたことに気が付き、自分が考えに耽っていたせいでセバスチャンが運んでくれたスイーツも、そしてセバスチャン自身もないがしろにしたことを察する。
きっと彼は何度も声を掛けてくれていたに違いない。

「仕事を止めるとこうですね」
「・・・・」

肩から手を退かし、無表情で言い放つ。
それにシエルは肯定するように長く息を吐いて背凭れへ寄り掛かった。
嫌味のような言葉に対していつものように反論しなかったのは、その声音が酷く不安げだったからだ。

「仕事中は仕事のことだけに没頭し、そして手を止めればゲームのこと」
「・・・・」
「仕事がいつもよりもスムーズに進むのは良いことだと思いますが、仕事以外のときにそうも思慮されていると別のことで時間が取られます」
「・・・・」
「何をそんなに考えているのですか」
「……さぁな」

最後の質問にだけ言葉を返し、自嘲するような笑みを浮かべる。

「明日の夜、ここを舞台にゲームが行われる。命を掛けた、な」
「いつもと同じでしょう」
「その通りだ」

いつものように軽く頷き、紅茶のカップに口をつける。
鼻腔を擽るのは甘くまろやかな香りなのに、なぜか口の中にそれを入れた瞬間ただの液体としか感じられず、味を楽しむことが出来ない。
それでもシエルは鉛でも飲み込むかのように、無理やり喉を動かした。

「明日の夜に鼠が屋敷に入り込んでくるのを潰すだけだ」
「まぁ、今回の鼠はいつも以上に骨が折れそうですがね」
「…そうだな」

今はどこにいるのか分からない鼠。
ゲームの説明をした彼は、もう一人と共にどこかへと姿を消してしまったのだ。
たとえ屋敷にいても満月の夜までは手を出さないので自由にさせてもらうと、勝手に決めて。
彼らが出てきた鏡は今いる執務室の壁際に立てられており、その上にはソレを包んでいた白い布が被せられていた。
それにシエルはチラリと視線を投げ、そしてまた戻し、スイーツも口に入れようとフォークを握れば、それを止めるかのように白い手袋をした手が机をトントンと叩く。
それに何だと眉を顰めて顔を上げれば、眉を顰めているにも関わらず口元は弧を描いているという、変な表情をしたセバスチャンの顔が瞳に映った。

「何が怖いですか」
「なに?」

先ほどの会話と繋がっているのか分からない質問を投げかけられ、シエルは首を傾げる。だがどこかでその意味も、そして彼の心境も知っていて、それを拒絶したいという気持ちもあった。
けれどシエルはあえて分からないフリを自分自身にする。

「先代を恐れているでしょう」
「そんなワケがあるか」

シエルは間髪入れずにセバスチャンの言葉を一蹴し、鼻で嗤う。

「なぜ僕が先代を恐れなくちゃいけない」
「ではなぜそんなにも浮かない表情をしておられるのですか」
「曲りなりにも一応血の通った人間だぞ?父親の命を奪うことを嬉々としているなんて、ただのキチガイだろうが」

呆れるように言葉を紡ぎながらカップを置いて、本日のスイーツ、ショートケーキにブスリと差し込む。
そして綺麗に切り分けて口の中に運び、咀嚼した。
こちらも紅茶と同じように味は感じられない。だがシエルはいつもと変わらぬ様子のままケーキを口に運び続ける。

「“元”父親を殺したくないと?」
「そうは言っていないだろう」

このゲームに意味はない。
こちらの命を奪われるから、防衛として相手の命を奪う状況下になってしまっているだけ。

いや、そんなことはどうでもいい。
どうでもいいことなんだ。

(もっと強い理由がある)
(もっと大切な理由がある)

そうこれは。
自分からゲームを踏み出すべきだ。

「“貴様”は僕を誰だと思っているんだ」

それが誰であろうと。
たとえ先代であろうと、自分の進む道の障害になるならば潰していかなければ。

「僕の復讐の邪魔をする奴は誰であろうと許さない」

それは自分の命よりも大切なこと。いや、命と同等だ。
自分は復讐のために存在するのだから。

「僕は、シエル・ファントムハイヴだ」

シエルは口角を吊り上げながら机の引き出しを開けて、いつもよりも重たい鉄の固まりを取り出す。そしてそれをセバスチャンへ向けて、引き金を引く真似をした。
明日はこの引き金を先代に向けて引くのだ。

「……えぇ、そうですね」

架空の弾を受けたセバスチャンは俯き加減に瞳を閉じて、もう一度開けてシエルを見やる。

「貴方は復讐に身を焦がすシエル・ファントムハイヴ」

一歩踏み出し近づいて、シエルが手にしていた鉄の固まりを優しく、けれどどこか無理やり取り上げ、シエルの位置からでは届かない場所へと置いた。
そして膝を折りシエルと目線の高さを同じにしたかと思えば、素早く両方の手袋を脱ぎ捨てて、黒い爪と契約印が丸見えの状態でシエルの頬を包み込む。
その温度は人間よりも低く冷たいと感じるものだったが、この温度はすでに慣れ、シエルにとって気持ちのいいものと化している。

「貴方のしたいことをなさってください」
「…あぁ」

けれど今日はその気持ちよさも、そして今セバスチャンが浮かべているような優しい笑みも欲しくない。
嫌がるように顔を逸らそうとするが、彼はそれを許さずにシエルの頬を包み込ませたままコツンと額と額をくっつけた。

「シエル・ファントムハイヴである前に、貴方自身がしたくないことはしなくてもいいということですよ」
「意味が分からん、黙れ」
「坊ちゃん…」

名前を呼びながらシエルの顔を少し上へ向かせ、そしてゆっくりと唇が降りてくる。

「――――ッ!」
(だめだ)

シエルは唇が触れ合う前に相手の胸元に手を置いて押しやるが、少しの距離があいただけで完全に逃げきれたわけではない。勿論、相手がこれだけで放してくれるような相手ではないということも理解している。

「坊ちゃん…」
「今日は、だめ、だ」

両手で頬を包み込まれた状態のままシエルは首を振り、そう口にする。

「どこかに、先代が、いるかもしれないだろうが」
「ここにはいませんよ」
「でも、だめ、だ」

その声はどこか弱弱しくて、先ほど自分はシエル・ファントムハイヴだと言ったときと全く別人のようだ。そんな自分に内心苛立ち、舌打ちをしたくなる。
けれどセバスチャンはそんなことを気にした様子はなく、頬を包み込んでいた片手を今度はシエルの手首を掴み、優しく親指で撫でた。

「っ!!」
「イヤ、ではないんですね」
「う、うるさい!黙れ!」
「坊ちゃん」

またゆっくりと顔が近づいてくるのに、シエルは若干俯いて顔を逸らす。
けれど鼻頭が触れ合い、まるで甘えるように、顔を上げるように擦り合わせてきて、シエルは無意識に顔を少しだけ持ち上げてしまう。
彼がそれを逃すわけがなく。そのままセバスチャンは顔を掬い上げるかのように、下から唇を重ね合わせ口付けた。

「ん……」

それはいつもよりも短く、初めて口付けたような触れ合い。
セバスチャンはすぐに唇をはがし、その悪魔の赤い瞳でシエルの瞳を覗きこむ。
こちらの不安も全て覗きこむかのように。
(だから、だめだって、)
相手のその全てを覗き込むような瞳から逃げるためにシエルは瞳を閉じて、また顔を逸らすが、頬に触れた手がグイと優しい力で引き寄せ、再び唇を重ね合わせた。

「ふ、んン……」

今度は触れ合わせるだけでは終わらず、セバスチャンの舌がシエルの口腔へと忍び込んでくる。
敏感に感じてしまう上顎を擽られてしまえば、シエルはビクリと身体を揺らして胸元に置いてある手で、そこの燕尾服を握り締めた。
きっと皴になってしまうだろうけれど、気にするものか。

「ン、ぅ…はっ……んん」

飲み込め切れなかった唾液が顎を伝い流れていき、それを追いかけるようにセバスチャンの唇はシエルの唇から離れ、舌がソレを辿っていく。

「ん、や」

その舌の柔らかい感触に熱いものが込み上げてきてしまいそうで思い切り首を振れば、先ほどとは違い、あっさりセバスチャンはシエルから顔を離した。
しかしこちらを見つめる瞳は意地悪気に細められていて。

「顔、真っ赤ですね」
「だまれ、この、変態悪魔」
「貴方限定で、ということでなら認めても宜しいですよ」
「…なッ…!!」

サラリと言われた言葉に、根っからの馬鹿だな貴様は!と叫んでしまったがセバスチャンは気にした様子もなく、掴んでいた手首を放して両手でシエルのことを強く抱きしめた。

「セバスチャン?」
「もう一度お聞きします」

身体を抱きしめる両腕がいつもと感覚が・・・感情が違うような気がして名前を呼ぶが、それに答えることはなくセバスチャンは別の言葉を吐き出す。

「怖いことは、ありませんか?」

先ほど問われた言葉を耳元で囁かれ、シエルは無意識に身体を固まらせた。しかし口だけは即座にその言葉を否定する。

「ない」
「……そうですか」

それならいいんです、と抱きしめる腕の力をより強くした。

(あぁ、どうしてだろう…)

この腕は今の自分の全てを見透かしている。
一所懸命、奮い立たせている自分を簡単に壊してしまうことが出来る恐ろしさを持っている。

(今、お前のことを撃ち殺したい)

ときに優しさは、

凶器だ。



















ときに凶器になるのは優しさだけではない。
“忠誠心”も、ときには凶器になる。

たとえば。
長く仕えていた相手とか。


背後に誰かがいるのはずっと分かっていた。
それでも振り返らなかったのは、確認することがなかったのは。
随分前に知っていた気配だったから。

「気付いているんだろう?」

聞こえた声にピクリと反応する。
それまで乱れることのなかった足音が鈍り、ピタリと止る。
廊下の窓から入ってくる光によって影が生まれ、今自分がいるところは光の部分。けれどきっと彼がいるところは。

「久しぶり、と行った方がいいのかな。田中」

きっと影(やみ)だ。

「どういうことですかな?」
「あはは!驚きもしないで冷静に返す。本当に君は執事の鑑だね」
変わってなくて安心したよ。

影から聞こえてくる声は酷く愉しそうで、貴方様もお変わりないようで、と言えば、当たり前だろうと返された。

「田中は“田中自身が見た僕”で最後だろう?」
「…では1つ、お聞きしても宜しいですかな?」
「いいよ。なにかな」

田中は立ち止まっても振り返ることはせず、影の姿を瞳に捉えることはしない。
けれど背筋はまっすぐに伸ばし、直立不動。
もしいま田中が振り返り、影の前に立ったのならば“あの頃”に戻ったような錯覚に陥るだろう。
この場には“あの頃”に存在していなかったものが何一つないのだから。

「なぜここにいらっしゃるのですか」

現主人に劣らない凛とした声。

「なんでだと思う?」

聞き慣れた嘲け戯ぶ(あそぶ)声。

「僕に会えて嬉しくない?」
「質問には答えるのが礼儀、というものですぞ」
「聞いてもいいけど答える、とは言ってないよ」

影は笑った。

「まぁ、そっちは久しぶりに会ったのに意地悪はちょっと酷いかな。いいよ、ヒントはあげる」
「……貴方様“も”相変わらずゲームがお好きなのですね」
「当たり前だろう。それに元々ヒントを言うために田中の前に現れたんだしさ」

シエルが執務室に何を置いておいたのか、知ってるよね。
影は田中に歌うように言葉を浴びせ始める。

「それが存在する限り、僕はここにいられる。でも僕は僕でしかないから、ここにいたとしても不死になったわけじゃない。でも、ここにいることができる。それがある限り、ね」

ということはだよ、田中。

「君の主人は誰になるのかな」

田中を照らしていた光が雲によって陰り、同じ影に包まれる。
“現在(いま)”の声は聞こえない。なにも、聞こえない。

「ねぇ、田中」

それを利用するように影は影を伝って田中に近寄り肩に巻き付き、そして耳元でもう一度、君の主人は誰?と囁いた。

「ゲームだよ」
「・・・・」
「君の大嫌いな綱渡り」
「・・・・」
「愉しいね」

巻きついた手の指先で胸元をトントンと叩き、そして離れていく。
そのまま足音も立てずに影は本来の姿へと還るように闇に紛れ、その姿も気配も消していった。

影がいなくなった今、先ほどはあれほど何も聞こえなかった“現在(いま)”の音が返ってくる。
まるで影が“現在”に静かにするように躾けでもしていたようだ。しかしそれは有り得ない。
なぜなら“現在”である使用人の彼らは影のことを知らないのだから。

「…旦那様……」

けれど“過去”を知っている田中はため息をついて、窓の向こうの空を見上げた。
あの頃よりも深くなった皴を、より深くして。


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【2012/02/08 17:19 】 | Text | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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