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【2017/09/25 02:34 】 |
GameⅤα5
(ガラスの刃の上で囁く死神は。)




もう何度も呼ばれ慣れたであろう執務室。
椅子に座る当主の前に一列で並ぶのも違和感のあるものではなく、日常と化そうとしている。それくらい何度も彼ら使用人を呼び出しているということだろう。
しかし本来ならばもっと呼ばれていても可笑しくはないのだ。彼らの常日頃の失敗を考えれば。
けれどそんな“些細なこと”を気に病むほど、我らが当主は暇ではない。

「あぁ?タナカさんはどうした?」
「あれー?本当だ!タナカさんがいない!」
「本当ですだ!」

キョロキョロと辺りを見回し始める三人に、セバスチャンはゴホンと咳払いをする。
どんなに使用人に対してマナーも礼儀も気にしない当主だとしても、それを執事までもが見逃すなんて許されることではない。いや、きっと当主は執事である自分が許容したとしてもそれすらも気にしないのだろうけれど、美学を大切にする自分にとって、自分自身が許せないのである。

セバスチャンの咳払いを聞いた3人は慌てて姿勢を正し、正しくはない形で直立した。

「タナカさんは呼んでおりません」
「え!呼んでないの?」
「おい、いいのかよセバスチャン」
「いい。僕がそう命令した」
「坊ちゃんが、ですだか?」

どこか不安げに聞いてくるメイリンに対し、シエルはとくに顔色も変えることなく軽く頷く。
その雰囲気がどこかいつもとは違うのを3人は感じたのだろう。執務室に漂う空気が少しだけ冷たくなった。

「これからする話は田中抜きで話をする」
「タナカさんはそれでいいんですかい…?」
「バルド」

恐る恐るといった態で聞くバルドにセバスチャンは制止と叱咤を含め名前を呼ぶ。
ただの料理長が主人の言葉に質問するだなんて言語道断。けれどやはりシエルはそんなバルドを咎めることもせず、かつセバスチャンがバルドの名前を呼んだ意味を正確に理解しつつも、バルドの質問に答えた。

「今回はいい。混乱と同時に動きが鈍くなる可能性がないわけではないからな」
「混乱・・・?」
「今から説明する」

だからお前達3人を呼んだんだ、とシエルはため息をつくように言い、背凭れに凭れていた背中を起こして机の上で手を組む。そこに顎を乗せて3人、否、4人を見る瞳はまるで氷かと思えるほどの冷たさを携えていた。

「明日の晩。この屋敷でちょっとした騒ぎが起こる」

シエルは言葉を紡ぎ出す。

「相手は一応2人。その2人は僕とセバスチャンで相手をするが、もしかしたらお前達のところに別の輩が現れるかもしれん」
僕らの“ゲーム”に足を突っ込ませないために、な。
「もし自分達の目の前に何かが現れたら、躊躇うことなく殺せ」

いつもは“駆除”という言葉が使われるにも関わらず、今回はそのままストレートに“殺せ”という言葉での命令。
その単語を耳にした瞬間、3人の表情がピクリと動いたのをシエルも見逃さなかっただろう。
けれどその冷たい瞳のまま、もう一度それを口にする。もっと残酷な言葉を乗せて。

「現れたのがもし“殺しても死なない輩”なら頭を潰せ。そしたら活動は停止する。いいか、絶対に躊躇するな。躊躇したら自分達の命が危なくなるのは本業であるお前達の方が知っているだろう。たとえ知り合いが現れても、だ」

躊躇っている暇などない。
自分自身を守る為に・・・―――

「殺せ」




「それは、知り合いが出てくることが、あるってこと、ですか?」

震えた声でそう訊ねたのはフィニだ。
それにシエルはただ淡々と、そうだな、と返す。

「可能性はある。だがお前たちの前に行かないよう僕とセバスチャンでなんとかする」

人間である彼らに死神の相手は無理だろう。
その判断からの言葉だったけれど、フィニが気にしていたのはそういうことではないらしい。
彼はシエルの言葉に、でも、と首を振った。

「坊ちゃんの前に、その知り合いが、いるん・・・ですよね」
「・・・何が言いたい」
「坊ちゃんは、その知り合いを・・・・・・・“お友達”を、殺すんで」
「フィニ!」

耐えかねたのはバルドが先だったようで、それ以上言うなとフィニの口を塞ぐ。
その隣で慌てたように、ぼぼぼ、坊ちゃん…、とメイリンが名前を呼ぶけれど、シエルは黙ってフィニを見つめたまま動かない。
やっと今になってフィニも自分が言ってはいけないことを言ったと理解したのか、サッと顔色を変え、ごめんなさい!と叫んだ。

「坊ちゃ、すみません!僕、坊ちゃんの気持ちも考えずッ・・・!!」
「大丈夫ですか、坊ちゃん」

そのまま固まってしまったシエルにセバスチャンも不安になり、一歩前に踏み出せば。
執務室に盛大な笑い声が響き渡った。

「ぼ、ちゃん?」
「ふく、くはははは・・・・・心配するな、フィニ」

本当に可笑しそうに笑いながらシエルは目尻に浮かんだ涙を指輪をした親指で拭い去る。
そして口角を吊り上げ言った。

「“お友達”は偽物だ。たとえ“お友達”をこの場で殺しても、本当の“お友達”は死なない」
「ど、どういうことですだ、か?」
「さぁ?僕にもこの仕組みがよく分かっていないんだ。だが安心しろ、殺しても“問題ない”」

彼は言い切る。

「それにな。お前達にはなんて命令してある?」

盛大な笑い声はもう聞こえないというのに、まるで耳鳴りのように執務室に鳴り響いている。
ゴクリと唾を飲み込んだのは一体誰だったのか。
もしかしたらこの今の異質な空気を作り出しているシエル自身かもしれない。
いや、本当は異質ではないのだろう。

だって、
(これがファントムハイヴ家だ…―――)

―――――さて、この呟きも誰の呟きなのか。


「この屋敷には誰ひとり入れるな」

今日の味方は明日の敵だなんて、誰が言ったのだろう。
全くその通りで嫌になってしまう。
こんな裏の世界では、特に。

「それが“友達”であったとしても、敵に回ったのならばそれはもう“対象”だろう」
ならば、

「――――。」


耳鳴りが、痛い。


「躊躇うな、迷うな、己を見失うな」

シエルは立ち上がり、ゆっくりと窓の方へと近寄っていく。
カーテンが開けられている今、温かい太陽の日差しが執務室を明るく照らしているというのに、なぜかその温かさなど微塵も感じさせない。
ただただ、冷たいものが空気に流れている。

「このゲームは自分を失ったら負けだ」

手を伸ばして窓に触れる。
その指は細くて白くて、傭兵として雇われている自分達と比べたらなんと弱いものなのだろうか。
それなのに彼の声はどこまでも凛としていて、どこまでも暗く深い。

「それを、忘れるな」







彼の声は静かに執務室に響き、消えていく。
その間も時計の秒針は止ることなく進み、
そしてこの物語は冒頭へと。


進んでいくのだ。



















「いいゲーム日和だね、シエル」

闇夜にポッカリと浮かぶ満月を見上げながらヴィンセントは言い、両手を広げる。その姿がまるでこの夜を支配した者のように見えるのはなぜだろうか。
シエルは相手の見えない威圧感のようなものに押し潰されないよう口角を吊り上げたまま、そうだな、と頷いた。

「満月が凄く綺麗だ」
「空気も澄んでいて、些細な音まで聞こえてきそうだよ」
「鼠の歩く音、とかか?」
いや、這いずると言った方が正しいかもな。

首を傾けアンダーテイカーの方に視線を送る。
傾けたせいで髪がサラリと揺れ、眼帯の上を前髪が覆った。

「まぁ安心してよ伯爵。“あの時”よりも数はすご~~~~く少ないからさ」

だがシエルとは逆にアンダーテイカーは元々瞳を隠していた前髪を自らの手でかき上げ、その瞳を露わにする。
死神の色をした瞳を。
長い爪に引っかかったのか帽子が頭の上から落ちていくけれど、丁度風がそれを拾い、下に落ちることなく闇夜の中へと消えていった。

「ではアレが屋敷に来ることは間違いない、ということですね」
「だってそうしないとゲームの邪魔をされるだろう?」

まさか物音がしても飛び出してこない、使えない使用人を使っているとは思わないからね。
ヴィンセントはアンダーテイカーの肩に片腕をのせ、頭も相手に預けながら言う。
その2人が纏うのは満月の光ではなく、あくまで闇。近寄りがたいというよりも、近寄ったら薔薇の棘に刺されてしまうような・・・。
自分とセバスチャンの2つの姿を裏社会では恐れられているが、ここまで“酷い”ものではないだろう。

「君の子犬ちゃんたちは彼らに耐え切れるのかなァ?」
「舐めるなよ。僕らが選んだ傭兵だ。簡単に倒れる奴らじゃないさ」
「おや?随分と気に入っているのかな?シエル」
「貴様には関係ない」
「父親に向かって冷たい言葉だ」

クスリと笑った声にシエルは静かに拳を握る。

「貴様が何であろうと関係ない。僕の邪魔をするものは排除するのみだ」
「言うねェ~、二代目伯爵」

本当に君にそっくりだよとアンダーテイカーは瞳を細めながら笑い、肩に凭れているヴィンセントを小突くように身体を揺らせば、それにヴィンセントは不機嫌そうに口元を歪ませ、煩いよ、と息を吐いた。

「こうじゃないと女王の番犬は務まらないさ」
「伯爵の場合は性格が捻くれてるだけじゃないのかなァ」
「・・・君、どっちの味方さ」
「小生は愉しいことの味方だよ」
「・・・・ッ!!」

ヴィンセントがいない方の腕側がキラリと冷たく輝き、セバスチャンはピクリと反応する。
いつの間に手にしたのか。いや、それよりもソレをどこに所持していたのか。
アンダーテイカーは口元に緩い弧を描きながら、手に大きな鎌・・・デスサイズを握り締め、シエルとセバスチャンの方へと向けた。
大きな刃が月明かりに反射してキラキラと輝くのがまるで星屑のよう。

「まぁ、今夜は味方がいっぱいいそうだけどねェ」
「すぐに敵が多くなりますよ」
「え~、笑いは大切だよ~」
「随分と余裕なようで」

笑みを浮かべながらシエルを守るように腕を伸ばし下がらせる。
それに無言で従い、1,2歩後ろに下がればセバスチャンは袖の隙間からシルバーを取り出し同じようにアンダーテイカーへとソレを向けた。

悪魔と死神との対峙。
それを満月が面白そうに見つめ、生ぬるい風が炎を勢い良く燃え上がらせるかのように通り抜けていく。
服の裾を揺らし、髪を撫で、そして。

「頑張ってね、アンダーテイカー」

ヴィンセントが彼から離れた。

「君に言われたくないねェ~」

その瞬き後には、目の前に刃の輝き。

「・・・・っ」
「遅いよ、執事君?」

セバスチャンはアンダーテイカーのデスサイズをしゃがむことでギリギリ避け、舌打ちをしながら足払いをするが、彼は簡単にそれをかわす。
(坊ちゃんを巻き込むとは思いませんが・・・)
それでも大切な存在が背後にいるのは不安だ。
死神相手で余裕がないだけにシエルのことに意識を持っていかれていたら、すぐにアウトだろう。
しかしだからといって別のところに移動させても、ヴィンセントが付いていくことには間違いない。彼らを二人きりにさせることも嫌なのだ。
(どうしたものでしょうかね・・・)
シルバーを投げつつシエルと距離を取るように相手を引き付けていれば、視界の端でヴィンセントが動いたのが見えた。
どうやらシエルの方へと近づいているようだ。

「坊ちゃんっ!」
「ダメだよォ~~~~~」

振り返りシエルの方に足を向ければ、それを止めるように身体の前に刃物が後ろから伸びてくる。
それを飛ぶことで避けようとするが全てをかわすことは出来ず、足首が刃先に引っかかり、そこから鮮血が溢れた。
そんな傷は悪魔にとってかすり傷に過ぎないが、問題はシエルの傍にいけないということだ。

「邪魔しないでくださいますか」
「邪魔ァ?それはちょっと違うんじゃないかな~~?」
君の相手は小生だよ?

アンダーテイカーは血に濡れたデスサイズを空間を切るように振り、刃先についた血液を払う。
ピピっと灰色の地面に血痕が咲くのを代価に、デスサイズは再び美しくなった。

「そして二代目伯爵の相手は伯爵。だからどちらかと言ったら、君の方が彼らの邪魔をしようとしているんじゃないかなァ?」
「しかしそんな“ゲーム”の前に私は坊ちゃんの執事ですから」
「執事ィ?」

彼は身体をユラリと揺らし、顔を傾ける。
それに長い髪の毛も重力に逆らうことなく落ち、死神の瞳を片方だけ隠して。

「悪魔、の間違えでしょ~?」

笑った。

「己の食欲のために魂を育て、そして守る。彼は餌」
「・・・・」
「たとえ執事の皮を被っても、君はただの害獣なんだからさ~」

アンダーテイカーは飛び上がり、大きく鎌を振り上げる。
ヒュンと風を切る音を立てながらソレを振り下ろしてくるのをセバスチャンは後ろに飛んで避け、シルバーを投げつければ、振り下ろした鎌を何の反動もなく持ち上げなおして薙ぐことでソレを払いのける。
そして気が付けばセバスチャンの真後ろに。

「害獣風情が執事の真似なんて止めなよ」
「ぐっ・・・!」

背中をこれでもかという力で蹴られ、地面へと叩きつけられた。

「丁度いいじゃないか。今ここで伯爵に殺されちゃえば君は彼の魂を食べることが出来るよ」

地面に降り立ったアンダーテイカーは倒れるセバスチャンの頭を踏みつけ言う。
その台詞はまるで赤い死神が言いそうな言葉で、どの死神も同じようなことを考えるものだと、どこか客観的にセバスチャンは鼻で笑った。

そして笑いながら周りの気配を探る。
もうここにはシエルの気配、そしてヴィンセントの気配はなく、屋敷の中に入ったようだ。
(あぁ・・・二人きりにさせてしまいましたね)
やはりこの死神を出し抜いて彼の傍に居続けるのは難しかったか。
でもきっと彼は彼を殺そうとはしていない筈だ。まだ。
それでも。
(坊ちゃん・・・)
早く彼の傍に行かなくては。
あの大切な存在の傍に。

きっと今も。

――――僕は、シエル・ファントムハイヴだ

泣いているだろうから。

(あぁ全く本当に・・・)

気は急ぐばかりだが、まずその前に。
この馬鹿な死神を――――

「私は以前もそれを何度も考えましたよ」

セバスチャンは自分の頭を踏みつける足の足首を掴み、思い切り放り投げる。
それにアンダーテイカーは、おやおや、と嘲るような声を出しながら浮いた身体を元の体勢に戻し、なんともなかったかのように少し離れた場所に着地した。
その間にセバスチャンも立ち上がり、汚れてしまった燕尾服をポンポンと払い身を正す。
またこの後主人の前に、いや、恋人の前に姿を見せるのだ。少しでも整えておかなければ。
餌なんかではない、恋人の前に。

「面倒な性悪な餓鬼に出逢ってしまったと」
「ヒヒヒ、それは認めてるんだねェ」
「アレを性悪な餓鬼じゃないとしたら、どれを性悪の餓鬼だというのですか」

言いながら苦笑することも出来ず、大きなため息をつく。
たとえ百歩譲っても、彼は性悪な餓鬼だろう。
でも。

「ですが、彼は私にとってとても大切な存在なんですよ」
「・・・・・」
「餌として喰らい、ホイホイ捨てられるような存在ではないんです」
「・・・なぜ害獣が餌である彼にそこまで入れ込んだんだい?」
「さぁ?なぜでしょね」

襟も綺麗に直しながらセバスチャンはおどけるように肩を揺らしてみせる。
だがその言葉に嘘はない。
自分でも分からないのだ。どうしてこんなにも大切に思うようになったのか。
いつからなんてことも、もっともっと分からない。

「あんなに脆弱で、悪魔である私が触れたら壊れてしまいそうな生物に心奪われるなんて、私も少し前までは考えもしませんでした。でも、気が付いたら彼に惹かれていたんです」

気が付いたら戻ることなど出来ない。
悪魔は欲望に忠実だ、という言葉に救われたなんて、大層馬鹿だろう。
それでも、この気持ちを偽ることなんて出来なかった。
だから、

「だから、手に入れた」

セバスチャンは視線をアンダーテイカーに向け赤い瞳を細めれば、相手はつまらなさそうに口をへの字にして、ふーん、と呟いた。そしてそのままゆっくりと足を踏み出す。
デスサイズは地面につけたままで、彼が歩くたびにガリガリと地面を引っ掻き、傷を作っていく。

「手に入れた、果たしてそれは本当かなァ?」
「・・・どういうことですか」
「君の言い方からして、二代目伯爵とは相思相愛ってわけだろう?それを手に入れた、というのは意味が違うんじゃないかい?」

ガリガリガリガリ。

「悪魔は契約があるから人間の傍にいる。いや、在(い)られるんだろう?すなわち悪魔は契約無しには人間の傍にはいられない。その理由はあえて語らないどこうか」
お腹を空かせた害獣君?

ガリガリガリ。

「ということは、契約が終われば君達は離ればなれ。それを手に入れたって言うのかい?」

ガリガリ。

「手に入れた、というのは永遠に自分のものにしたときに言うものだよ」

ガリ。

「そうだろう?悪魔」

目の前まで来た死神に、デスサイズを持っていない方の手で顎を掬い取られる。
こちらを見つめる瞳は伊達に長い間死神をやってきていないという色を宿していて。
それなのにどこか憂いを帯びている。
それを見たセバスチャンはなぜか彼も同じなのだと悟り、顎を掬う手を振り払うこともせずに、手に入らなかったのですか、と言葉が無意識に口から零れ落ちた。

「欲しいものを、失ったのですか」
「・・・少し、喋りすぎちゃったかなァ」

セバスチャンの言葉にアンダーテイカーは自嘲気味な笑みを浮かべ、顎を掬い取っていた手を下へ辿らせ整えた襟を掴み上げる。
そして獲物にとどめを刺すかのようにもう片方で握るデスサイズを大きく振り上げたのを見て、セバスチャンはタンと飛び上がり、襟を持つ手を中心に宙を舞う。
すると先ほどまで己がいた箇所にデスサイズが襲い掛かり、派手な音を立てながらそこに穴を開けた。

「ただ小生が言いたかったことは―――」

声が聞こえ、真下にいるアンダーテイカーへ視線を投げれば、彼もまたセバスチャンを見るように顔を上げていて。
悪魔の瞳と死神の瞳が1つになる。

「欲しいものは“ちゃんと”手に入れないとダメだよ」
ソレを見失わないように。
「捕まえておかなくちゃ」


遠くで銃声が、耳に響いた。












「ってェおい!何なんだよこの気持ち悪いヤツらはよォ!」
「し、知らないだよ!」
「こんなの、酷いよっ」

セバスチャンが屋敷の屋上でアンダーテイカーの相手をしている同時刻、屋敷の中でもまた奮闘する姿があった。
屋敷内の灯りは全て消えた状態だけれども、ファントムハイヴ家の傭兵はそんな暗闇に視界を奪われることなく“ソレ”を正確に捉えていた。

「ヤってもヤってもキリがねェ」

バルド、メイリン、フィニは背中合わせに立ち、自分達を取り囲むソレと対峙する。
ナイフで刺しても、拳銃で打ち抜いても、固いもので殴っても、ソレは絶命するどころか怯むこともなく此方へと襲い掛かってくるのだ。まさに御伽噺で言うゾンビの類だろう。

「フィニ!危ねぇですだ!」

上から襲い掛かるように飛び込んできたソレをメイリンがバンバン!と高い銃声を響かせながら応戦し、銃弾を受けたソレは反動で床へと落ちていく。
だが、やはり絶命することはなくズルズルと床を這うようにして再び此方へと向かってくるのだ。

「チッ、気持ち悪い連中だぜ!」
「早く坊ちゃんのところに行かないと!」
「坊ちゃんにはセバスチャンがついているだろうよ!」
「でも・・・・」

心配だよ、と言いかけ、フィニはハッとし、バルドとメイリンの方を振り返る。
シエルの顔を思い浮かべたのと一緒に、彼の言葉を思い出したのだ。

「これきっと“死なない輩”だよ!」
「あの坊ちゃんが言ってたやつですだかっ?」
「そう!」

襲い掛かってくるソレの腕を交わしながらメイリンの言葉に頷けば、背中越しに、なら話は早ぇ!とバルドの声が響いた。

「頭を潰しゃぁいいんだったよな?!」

言いながらしゃがみ込み、そしてソレに足払いを掛ける。
元々ヨロヨロしていた相手だ、バルドの足に引っかかったソレは簡単に倒れ、床に頭を打ち付け。
その上に跨るかのようにバルドは乗り上げて、その頭にナイフを一突きした。

重く響くドスリとした音。
しかしその代わりにソレは動くことを止め、ピクリとも反応しなくなった。

「アタリだフィニ!メイリンも頭を狙えっ!」

絶命したことを確認したバルドは素早く身を起こし、別のソレの相手をしながら二人に声を掛ける。
それに二人も了解!と素早く反応し、頭へと狙いを定め各々の攻撃をソレに打ち込めば、バルドの時と同様にソレらは動かなくなった。

要領を得た三人は次々とソレを始末していく。
主人に言われた通り躊躇せず。
しかしそれは不の感情からではなく、主人を守りたいという気持ち故の・・・
忠誠心という名の刃だ―――――





「も、いねェだか・・・?」
「もうここにはいないみたい、だよ」
「ったく・・・ほんっと何なんだよコイツらはよぉ」

対峙していたソレらを全て始末した彼らは息を乱しながら額に浮かんだ汗を拭った。
屋敷の床は死体で埋め尽くされ腐敗臭が漂っているが、今はそんなことを気にしている場合ではない。
フィニは麦藁帽子を揺らしながら死体を避け、前へと進んでいく。

「おいおい、フィニどうした」
「坊ちゃんのところにいかないとっ」
「屋敷内にもうコイツらがいないかまだ確認してないだよ!」
「でも一番は坊ちゃんだよ!」

バルドとメイリンは焦ったようにフィニを止めようと腕を掴むが彼の力に敵うわけがなく、振りほどかれてしまう。
それでも二人は彼を止めようと追う。

「それは分かっているだよ!でも坊ちゃんにはセバスチャンさんが・・・」
「僕だって坊ちゃんをまも」
「フィニ!いいから落ち着けッ!」

バンっ!と壁を殴る音と共にバルドの怒号が飛び、フィニは反射的に身を竦め歩みを止めた。
先ほどまでとは逆に、シン・・・と静寂が辺りを包み込み、やっと真夜中らしい空気が顔を現す。

「俺らの命令はなんだ」
「・・・・」
「坊ちゃんが俺らにした命令は何だって聞いてんだよ」

その静寂に乗せて、バルドは荒々しい言葉をフィニに投げかける。

「この屋敷を守ることだろ」
坊ちゃんを守れという命令は出されてない。
じゃぁ最優先事項はなんだ?

荒々しくともフィニを窘めるように。
それをメイリンは黙ったまま聞き、唇を噛み締めた。
――――分かってるのだ。
フィニがどうしてシエルの元へ急いでいるのか。
メイリンだって、勿論バルドだって今すぐ彼の元へ駆けつけたいのだから。

「この屋敷を、守れたって・・・坊ちゃんを守れなくちゃ、意味が無いよ」
「・・・フィニ・・・・・」
「だって僕、酷いこと、言っちゃったんだっ」

言いながら二人へと振り返る。
その瞳からはボロボロと大粒の涙が零れていた。

坊ちゃんは、その知り合いを・・・・・・・“お友達”を、殺すんですか―――――
そう口にしてしまった時の、彼の顔は忘れない。忘れられない。

今回もこの屋敷で何が起こっているのか分からない。
留守番の最中に知らない人間が来たのならば理由も説明もいらないけれど、今回は・・・今回もシエルが屋敷に居るときに物事は起きているのだ。
だが彼は“死なない輩”についての対策を教えただけで何が起きているのかを話してはくれない。
まるで自分達の知り合いが今回の黒幕だとでもいうような匂いを振りまいているくせに。
でも彼は、主人はどこまでも、

だがお前たちの前に行かないよう僕とセバスチャンでなんとかする―――――


「僕たちを、守ろうとしてくれたのにっ!」

彼だって好きで知り合いを殺したいわけではないだろう。
だが殺さなくてはいけない時というのはあってしまうのだ、裏の世界に身を置く限り。
フィニだって身を持ってそれを理解している。

たとえ傭兵三人でその知り合いの相手をするのが難しいのであっても、自分の代わりに知り合いを殺せ、という命令なんて簡単に出来る。自分達にとって上に立つ者の命令は絶対服従なのだから。
けれど彼はそれをしない。
それどころか、その知り合いの名前さえも口にしないで自分一人で抱え込む。

「だから、僕も、守りたい・・・」

どこまでも傷つくことを恐れない彼だからこそ。

「心も、守ってあげなくちゃ」



ねぇ、坊ちゃん。


いま貴方は、

泣いていませんか?


『このゲームは自分を失ったら負けだ』


――――ううん、きっと泣いている。







「・・・俺らだって同じ気持ちに決まってんだろうが」
「バルドさん・・・」

バルドは苦虫を噛み潰したような顔で呟く。
その手に握り締められたナイフも細かく震え、どれほどの力・・・思いが込められているのだろう。
しかし彼は何かを振り切るように首を振り、涙を零しているフィニを睨みつけた。

「だが今屋敷をほっぽって坊ちゃんを守りに行ったって、絶対ェに喜ばねぇよ」
「・・・・」
「たとえ坊ちゃんを守り抜いても、この屋敷を守り抜く事が出来なかったら、きっともっと悲しむ」
だからよ―――

バルドは眉を下げたままニッと笑った。

「早く終わらせようや」

別のところから窓が割れる音が響き、新たなアレが来た事を三人に知らせてくる。真っ暗な廊下の向こう側から呻き声が聞こえてくるのでそう遠くは無いだろう。

「・・・うん」

その音を聞きながらフィニも苦笑し、涙を拭き頷く。それにメイリンも苦笑しながらフィニの背中を優しく叩き、じゃぁもう一仕事ですだね、と声を掛け、そして前を見据えた。

ずるり、ずるりと聞こえる音。
それは我が主を害するもの。

(手出しはさせない)

三人の思いは同じ。

「何がなんでもファントムハイヴ家の秘密と誇り、そして主を守る・・・――――」

それが。


「ファントムハイヴ家の使用人だ」




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【2012/04/26 10:30 】 | Text | 有り難いご意見(0)
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