悪魔は人間の魂を喰らうもの。
それは人間が肉や野菜を食すのと同じことだ。
人間=餌というのが悪魔の中では常識であり、それ以上それ以下なんてない。
しかし。
私はシエル・ファントムハイヴという“存在”に惚れ込んでしまった。
今こうして執事として仕事をまっとうするのも、契約があるからではない。
そうしたいから。
シエルの傍にいたいから、と言っても決して過言ではないだろう。
魂に“執着”したというのならばまだ分かる。
他の悪魔から見たら人間の魂1つに執着することすら異質に映るかもしれないが、それはまだ相手を餌だと思っている証拠だ。
しかし、自分が執着しているのはシエル・ファントムハイブという“存在”である。
それは、契約違反に準ずる。
なぜなら、契約を果たした後にシエル・ファントムハイヴの魂を喰らわない可能性が高いからだ。
いや、高いだけではない。それだけの値ではすまされない。
だって現に自分は今、シエル・ファントムハイヴの魂を喰らいたくないと思ってしまっている。
契約が果たされたのに魂を喰らわない。
それは契約違反になる。
「これは、どうしましょうかね」
そう言いながらも、別段困ったような表情を浮かべた様子も無く、むしろ優しい顔をしながらセバスチャンは洗濯したシエルの衣服に口付けた。
END

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