それは丁度仕事の休憩中。
シエルは伸びをしながら椅子を回し、窓の外を見やる。
疲れた瞳には自然を映すのが一番いい。
「ん?」
しかし映ったのは自然だけではなく、とある人影が。
己の執事、セバスチャンの姿だ。
どうやら白薔薇の傷んだ花を切り取っているらしい。
悪魔のクセに人間の真似事など、ご苦労なことだ。
しばらくそんな悪魔を観察していると。
「アイツ・・・本当に随分と人間みたいな顔をするようになったな」
綺麗に咲いた白薔薇を見つめながら優しく微笑むセバスチャン。
シエルは立ち上がり、椅子に座っていた時よりも近くでその顔を見る。
決して近い距離ではないが、片目のシエルでも十分その表情を窺える。
優しく微笑んだままセバスチャンは何か一言呟き、その見つめていた白薔薇に口付ける。
「っ!!」
それを見た瞬間シエルはカーテンを引き、視界からセバスチャンの姿を消す。
カーテンを掴んだままシエルは顔を赤くし、困ったように眉間に皴を寄せている。
「アイツ・・・っ」
どうして。
どういうことだ。
『シエル』
セバスチャンが呟いた言葉。
しっかりと口の動きが自分の名前を表していた。
「くそっ!」
シエルは自分の見たものを忘れるように、頭を振った。
あんなもの、見たくなかった。
END

PR