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【2017/05/23 02:23 】 |
愛するが故に
02 アヤメ/貴方を大切にします



愛している存在。

その存在は酷く愛しく、
その存在は酷く恐ろしい。

ねぇ、坊ちゃん。
私は貴方を壊してしまわないか不安なのですよ。


― 愛するが故に ―


「お前は、いつも遠くを見ているな」

シエルは、セバスチャンの横で小さくなりながら言う。
つい先ほどまで夜の戯れをしていたというのに、声音にはそのような甘いものは一切感じられない。

「何ですか?いきなり」

セバスチャンはシエルの頭を撫でていた手をピタリと止める。
いつもならば、疲れて果ててセバスチャンの腕枕で眠ってしまう筈のシエルだが、今日は眠るどころか
セバスチャンに背を向けている。
戯れ中に何かしたのだろうか?
内心、首を傾げる。

「執事として僕に接する時。こうして僕を抱く時。いつもお前は僕を瞳に宿していない」
「・・・坊ちゃんしか見えていないと自分では思いますが」
「お前は気が付いていないのか?」

シエルの声が、室内に静かに響く。
それは熱を孕んでいた声とは対照的で、とても冷ややかに感じられる。
いつもと変わらない声なのに、どうしてこんなにも冷たく、そして寂しげに聞こえるのだろう。

「確かにお前は僕を見ている。だけど、心の底からは見ていないんだ」
「心の底から?」
「無意識に僕から逃げているんだろう」
「・・・どういう意味なのか私には理解し難いのですが」
「簡単に言うと」


クルリと振り向き、シエルはセバスチャンの頬に触れる。
その手はまるで壊れ物を扱うような優しさだ。
けれど表情は。

「僕を心の底から愛していないだろう?」

悲しそうに苦笑していた。

その表情にセバスチャンはなんだか胸が締め付けられるような気持ちになり、咄嗟に頬に触れるシエルの手を
掴んだ。

「どうして、ですか」

セバスチャンは声を絞り出す。
なぜ、こんなにも胸が苦しいのだろう。
自分でも分からない感情、そして理解できないシエルの言葉に混乱する。

「お前でもそんな顔をするんだな」

セバスチャンの表情を見て、クスリと笑うシエル。
このまま、さっきのは冗談だ、と言ってくれればいいのに。

「私は貴方を愛していますよ」
「・・・」
「信じてくださって、いないのですか?」

あんなにも二人で愛し合ったばかりだというのに、なぜ?
なぜ貴方は今こんなことを言うのです?
セバスチャンはこのままシエルがどこかに消えてしまいそうな不安に駆られ、そのまま握っていた手を引っ張り
抱き寄せる。

「悪魔の愛は随分と美しいものだな?」

されるがまま抱き寄せられたシエルから、皮肉なような言葉が発せられる。
手はシーツに転がったまま、セバスチャンの後ろには回されない。

「僕は、お前の愛がこんなにも美しいだなんて思わなかった」
「幻滅なされたのですか?」
「そういうことじゃない」
「じゃぁ、どういうことですか」

だんだんとイライラしてくるセバスチャン。
それはそうだろう。
最も愛しいと思っている存在から、心の底から愛していないだなんて言われたら悪魔でなくてもショックを受ける。
貴方は何が言いたいのですか。

「逃げるなセバスチャン」

シエルは手でセバスチャンの胸板を押し、体を離す。
そして瞳を見つめる。
左右の色が違う瞳で。

坊ちゃん、と名前を呼ぼうとしたところで、唇に人差し指を押し当てられ黙らされる。

「愛することを恐れるな」

シエルは言う。

「僕はそう簡単には壊れない」

その言葉に目を見開く。

「たとえ壊されたとしても、僕はかまわない」

それは、もう自身は壊されているからなのか。それとも壊す相手がセバスチャンだからかまわないのか。
問い返す声を発する口はシエルの人差し指に邪魔をされて紡げない。
コツリと額と額が合わさり、顔が近くなる。

「僕は僕なりに、精一杯お前愛している」
だからお前も。

人差し指が離れ、代わりに唇が寄せられる。


「お前なりに、精一杯僕を愛せ」


しっとり柔らかいシエルの唇がセバスチャンの唇に合わさる。
軽く啄ばまれ、離れていく。

『愛』を失った少年の精一杯の愛。

それは悪魔の自分にはそぐわない神聖なる愛情。
けれどそれが嬉しくて。すごく、切なくなる。
今私は、どんな顔をしているのでしょう。


セバスチャンは離れた唇を追いかけて、もう一度重ね合わせる。
シエルがくれた口付けよりも荒々しく、口内を犯す口付け。

それは彼自身の。
『愛』を知った悪魔の精一杯の愛。

少年の神聖な愛情とは違うものだと、セバスチャンは思う。
貴方の全てを奪い、壊して、私しか見えないようにしてしまいたい。

その本能のままに貪る口付け。
優しさなど微塵に感じられない。
けれどシエルは、そんな悪魔の口付けに精一杯答えてくれている。

気が済むまで貪り、唇を離すと銀の糸がお互いの間に結ばれる。
シエルはそれを荒い息のまま、嬉しそうに指で断ち切る。

「僕が、欲しかったのは、これだ」
「悪魔の愛・・・ですか?」

シエルとは違い、整った息のままのセバスチャン。
あんなにも乱暴に扱ったのに、どうしてこんなに嬉しそうな顔をしているのか理解出来ない。
こちらは少し後悔しているというのに。

「薄っぺらい愛情なんて、僕はいらない」
「・・・貴方を大切にしたいという想いを薄っぺらいだなんて、言ってくれますね」
「お前の大切にしたいという気持ちは、ただ僕から逃げているだけだろう」
真正面からぶつかってくる勇気がない負け犬だ。

ジトリとセバスチャンを睨みつける。
あぁ、この人はどうしてこんなにも真っ直ぐなのだろう。
セバスチャンは苦笑しながら、シエルの前髪をかきあげてやる。

「悪魔に向かって言いますね」
「ふん」
「後悔、なさいませんね?」
「何度も言わせるな」

前髪をかきあげる手に、じゃれるように抱きつく。
その姿は猫のように可愛らしいのに、その表情はたいそう憎らしい。

「大切ならば、僕のことを傷つけるほど愛してみせろ」

シエルは勝気に言う。
大切ならば、ね。
では、私の愛の深さを嫌というほど味わっていただきましょうか。

「毎日泣かされても知りませんよ」


セバスチャンは、その愛しい存在をもう一度力強く抱きしめた。





END



******
あとがき
前回UPした『猫草』では、坊ちゃんが可哀相だったので今度はセバスを困らせてみました(笑)

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【2011/03/24 18:00 】 | Title | 有り難いご意見(0) | トラックバック(0)
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