太陽の光が柔らかく執務室を照らし、心地よい温度へと調節する。
穏やかな風が吹き込みその屋敷の主の前髪を揺らすが、その主は気が付かない。
外では小鳥のさえずりが。執務室では主の寝息が静かに響いていた。
その空間に一人の執事。
寝ている主の頭を優しく撫で、太陽の光と同じく柔らかい笑みを浮かべている。
はたから見たら、それはなんとも異様な絵に見えるだろう。
なぜならここは悪の貴族ファントムハイヴの屋敷なのだから。
しかしこの空間はそれすらも忘れ、名前も肩書きも何もない、その存在そのものを包み込む温かさが広がっている。
異様なことなど何も無い。これこそが本当の姿なのだと、何かが物語った。
「ん・・・」
ソファで横になる主は幼い顔をしながら寝返りをうち、また深く深く眠りの淵へと身を沈めていく。
その主の眠りを守っているのは、膝を枕として貸し出している執事。
「坊ちゃん・・・」
愛しさが溢れた声で、そっと囁く。
そこには起こさないよう気を使われた大きさだったが、きっと起きて欲しいという願いもあるに違いない。
執事の瞳には、まっすぐ主に注がれているから。
早く私を見てください、と。
「愛していますよ、坊ちゃん」
そんな瞳をしたまま、執事は再び主の頭を優しく撫でる。
愛の囁きは主の耳には届かない。目を覚ますことも無い。
けれど執事は満足そうな表情で微笑んだ。
「ゆっくりと、おやすみください」
それは優しい
午後の時間。
end

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