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【2024/04/27 01:48 】 |
Sweetの看病

良野りつ様へ



ベッドで横になる恋人の頬は赤い。
その息もいつもより少し荒くて、そして瞳は潤んでいる。
もしこれがただの普通の夜だったならば、きっと自分はこのまま彼の上に覆いかぶさり、その己を誘ってくる全てを喰らい尽くすだろう。
けれど今の彼は別に自分を誘っているわけではなく(いや、常に誘っているつもりは彼にはないらしいが)
そして今そんなことは出来ないだろう。
なぜなら。

「大丈夫ですか、坊ちゃん」
「…ん……」

彼は熱を出してしまっているのだから。



― Sweetの看病 ―


それは今日の朝から。
いつものようにカーテンを開けて、まだ眠たいとぐずる彼の元へと膝を折り、白いシーツの中に隠れている顔を探し出す。そして恒例の額に口付け朝の挨拶…というところで気が付いた。

悪魔の自分には具合が悪いというものがどういうものなのか分からない。
以前喘息特有の音を耳にしていたにも関わらずそのことに気がつけなかったということもあったので、些細な彼の体調の変化すらも気にかけるようにしているのだ。
そのおかげなのか分からないが、今回は彼のそれにちゃんと気が付くことが出来た。

口付けた額が、いつもよりも熱かったから。




「大丈夫ですか、坊ちゃん…」

額に絞りなおしたタオルをのせながら声を掛ければ、彼は小さく、ん、と頷き、熱い息を吐く。
それはどう考えても大丈夫そうには見えないけれど、彼曰く“慣れている”だそうだ。
それでも感じるダルさは変わらないだろう。
(変わって差し上げたいですね)
少し荒い息も潤んだ瞳も自分にとってはとても毒だけれど彼が苦しさからくるものだと分かっていれば、心痛むものがある。
悪魔である自分の方が苦しみは少ないだろう、というよりもまず風邪を引き取ったところで風邪の細菌は消滅するはずだ。だからその風邪を引き取ってやりたいと思うけれど、悪魔の力を持ってしてもそれは不可能だろう。
自分は悪魔であって、神ではないのだ。

「坊ちゃん…」

何かしてあげたくて無意味に彼の上にかけてあるシーツを直してやるが、はっきり言って今の自分は邪魔だろう。
あとは静かに安静にしているのが一番。自分は自分の仕事をしにいった方がいい。
本当はずっと傍についていたいけれど…。
後ろ髪を引かれつつもポンポンと軽く頭を撫でて、何かあったら呼んでくださいね、と声を掛ければ。

「どこか、行くのか」
「え?」

潤んだ瞳が不安げに揺れた。

「すぐ、戻って来るのか」
「あの坊ちゃん…」

これは……。
傍に居て欲しいということなのだろうか。
普段甘えることが少ない彼であるから、自分のこの思考が正しいか判断が鈍る。
けれど。

「セバスチャン…」

赤い頬をしたままシエルは手を伸ばし、燕尾服を掴もうとし…―――

「ここにおりますよ」

それを先に両手で包み込んだ。
すると彼は嬉しそうに頬を緩めて、伸ばしていた手から力を抜いた。

「傍にいてお邪魔じゃないですか?」
「・・・?なぜだ?」
「ゆっくり出来ないでしょう」

人間というものは他の人の気配があったら案外気を張ってしまうもの。
特にこの子供、否、恋人はそうだろう。だから静かに安静にさせるためにも先ほど出て行こうとしたのだ。
それを伝えるが彼は意味が分からないというように首を傾げ、口を開く。

「お前がいない方が、不安だろう」
「・・・・」

言われた言葉に一瞬フリーズする。
まさかそんな言葉が素直に彼の口から出てくるなんて。
自分が言った言葉がどれほどのものだったのか相手も気が付いたのだろう、真っ赤な頬を別の意味でさらに赤くした。

「…あっ……いや、その…」
「坊ちゃん、私が傍にいないと不安なんですか?」
「うる、さい!そんなわけ、ないだろうッ」

きっと今自分はすごく意地悪な顔をしているに違いない。
それに、口元もにやけている自信も。
その証拠に彼がこちらを恥ずかしそうにも睨みつけている。

「その顔、どうにかしろっ」
「しばらく無理ですよ。坊ちゃんからそんなこと言われて普通にしていろという方が無理です」
「~~~~~~っ」

本当に嬉しいのだ、と伝えるとシエルは唇を噛み締めてシーツの中に顔を隠してしまう。
その様子も酷く可愛らしくて笑ってしまった。

彼が素直になったのは熱のせいに違いない。
そういえば人間は病気になると心細くなるとか、何かの本に書いてあったような気がする。しかしそれは医学専門の本ではなく、ただ他の人間によって作られたストーリーに出てきた言葉だったはず。
その言葉も作られたものだと思っていたけれど、そんなことはなかったらしい。
(また後日勉強のしなおしですね)
微笑みを苦笑に変えつつも、シーツの中に隠れてしまったシエルの頭を撫でた。

「ぼーっちゃん」
「・・・・」
「出てきてください。シーツも濡れてしまいますよ」
「・・・・」

額に濡れたタオルがのっていたことすら忘れていたのか、こちらの言葉にピクリと身体を揺らして、ゆっくりとした動作で顔の上に掛けていたシーツを退かしていく。
ひょっこりと出てきた顔はまだ恥ずかしげで、視線もどこか泳いでいる。
それでも出てきた彼に、いい子ですね、と声を掛けて頬を撫でれば、口元が緩んだのが目に見えて分かった。
(あぁもう!本当にこの方はッ!!)
いつもよりも全てが素直で。
この素直さも熱があるからだが、いま熱があることが恨めしい。
己の中で騒ぎ立てる欲望を見てみぬふりをするため、交換しましょうか、と額にのせたタオルを取り、水と氷に浸けて冷やして置いたものと交換する。
そしてそのまま手を引いていこうとしたのだが。

「坊ちゃん?」
「お前の手も、冷たい」

ガシリと手首を掴み、ボソリと呟く。

「あ、の」
「冷たくて…」

気持ちいい。
そのまま引き寄せて自分の頬に触れさせる。それどころか自らその手の平に頬擦りする始末だ。
(…分かっています、これは手が冷たいから)
そう、冷たいから。特に意味はない。そう冷たいからだ。
元々他の人間よりも体温が低い悪魔だけれど、先ほどからタオルを交換するために氷水の中に手を入れていたから、余計に冷たくなっているのだろう。
熱を出している彼には丁度いいに違いない。
そう、ただそれだけのこと。

「ぼ、っちゃん」
「ンっ……」

少し動いてしまった手の平…小指が耳朶に当たってしまったらしく、驚いたのかくすぐったかったのか分からないが、甘さを含んだ吐息が漏れたのが聞こえ…。
理性という文字が音を立てて崩れた。

「…きもち、いいですか?」

もう片方の手をも頬に触れさせ、顔を挟めた状態にして聞けば、彼は言葉なく頷いた。

「身体は辛くないです?」
「だいぶ、いい」
「欲しいものは」
「・・・・」

そう訊ねれば若干瞳を細くして、水差しが置いてある方へ視線を投げ、そしてまたこちらへ戻す。
その意図は何なのか。しかしすでに崩壊した理性は物事をすべて己の良い方へと導いていく。

分かりました、と頷いて鼻先へ口付け、頬に触れていた手を一旦離す。
振り返りテーブルの上に乗せておいた水差しを持ち上げ、別のカップにそれを注ぐことはせずにそのまま自らの口の中へ。
小さく名前を呼ばれたような気がするけれど、咎めるような声ではなかったので止めることはしない。
そのまままたシエルの方を向き、

「ん・・・・」
「・・・・」

口付けた。

口付けた彼は恐る恐るといった態で唇を開いていく。
それにゆっくりと口に含んだ水を流し込んで、ゴクリと喉が動いたのを見計らいながら、また流し込んでを繰り返す。
その間も自分の手は彼の頬を緩く撫で続けていて、彼の手も燕尾服を掴んでいた。
口に含んだ水を全て飲み終えた時には、水を飲ませていたのか、それとも口付けをしていたのか分からない状態になっていた。

「・・・・」
「…けほっ……」

いつの間にか自分もベッドに乗り上がり、彼に覆い被さるようになっていて。
お互い見つめ合う。
小さく零れた咳が何だか生々しい。

「大丈夫ですか?」

耳元にある髪を耳に掛けてやりながら声を掛ける。

「へーき、だ」

舌足らずな声で返ってくる言葉に、少しの罪悪感が顔を覗かせた。
これで熱が上がってしまったら、余計に彼が苦しむこととなる。それはイヤだ。

「・・・・」

無言で頬にチュッと口付け、ベッドから降りようと身体を持ち上げるが。

「ま、だ」

彼はこちらの燕尾服を離すことはしない。

「まだ、足りない」

何が、と聞いたら意地が悪いだろうか。
本当は聞いて彼を困らせたいという思いもあるけれど。
―――正直そこまで自分が待てない。

「っ・・・・!!」
「んン・・・」

今度は少しだけ荒々しく唇を塞ぐ。
先ほどは我慢した舌を彼の口腔に忍び込ませれば、普段よりも熱い温度が自分を迎えた。
(溶けそう、ですね)
熱い舌と絡め合わせれば、まるで飴を固まらせる前のようにドロドロと原型を無くしてしまいそうな感覚に陥る。
それでもやはり無理は出来ないといつもよりも少し早く口付けを解くが、燕尾服を掴んでいた手が首へ回り抱きつかれる状態になって、それを阻止される。

「ンッ?!」
「…ん、ふ……」

再び重なった唇に驚き咄嗟に声を上げてしまうが、珍しい彼からの求めが止ることはなく。
今度は彼の方から舌が絡み合う。
その激しさを物語るようにパサリと額に乗っていたタオルが落ちた。

「ん……ぼ、っちゃん……」
「ふ、ぁ…セバス、チャ……はァ…」

クチュリと水音が響いて、銀の糸が唇と唇の間を紡ぐ。
しかしそれもすぐ唇が合わさることで消えていき、再び水音が耳を擽る。
口付けはシエルが力尽きるまで行われた。



「はぁ…はァ…つ、かれた」

首に抱きつく力も無くなったのか、彼はベッドの上にパタリと横たわる。
けれどやはり最低でも燕尾服は掴んでおくらしい、片手はまた服の裾を握っている。

「熱が上がっても知りませんよ」
「お前が、先に、仕掛けたくせに」
「・・・本当に?」

覆い被さった状態のまま落ちたタオルをテーブルの上に置き、そう試すように聞けば彼は悔しそうに唇を尖らせた。

「だって、お前が、どこかに…」

行こうとするから、という言葉はもう音にもならないほど小さな声。声というよりも息と言った方が近いかもしれない。けれど悪魔である自分はそれをしっかり聞き拾い、柔らかく微笑んだ。

「寂しかった、ですか?」
「・・・・」
「すみません」

鼻の頭と鼻の頭を合わせて擽れば、謝る気ないだろうと小突かれる。
それでもどこか嬉しそうな顔をしているのだから全くタチが悪い。

「どこにも行きませんよ。ずっと傍にいますから」
「・・・・ん」

その言葉に頷きつつもどこか不安げに揺れている瞳。
自分が嘘をつかないことを知っているだろうと言ってやりたいところだが、その不安も自分を求めてだと考えたら嬉しいものでしかなくて。
大丈夫、とまだ熱い額に掛かっている前髪をかき上げて撫でてやり、そしてシエルの寝ている隣へと自分の身体も横たえた。

「信じてくださいましたか?」

聞きながらその身体を抱き寄せて苦しくない程度に両手で抱きしめれば、逃げるなよ、と今この場の雰囲気と合わない言葉が彼から零れ落ちた。
所詮照れ隠しでしかないその言葉に笑えば、バシリと胸板を叩かれる。

「笑うなッ!」
「はいはい。さぁ、早く眠ってください」
「子供扱いして!」
「してないですよ」

子ども扱いなんてしていない。
むしろ子供扱いしていないから早く眠って欲しいのだ。
早く眠って、そして風邪を治して欲しい。
そうでなければ…―――

「我慢、できなくなりますから」
「っーーーー!!」
「早く治して、それで」

ゆっくり味わわせて。

耳元で子守唄にしては煩すぎる音を囁けば、それきり彼は何も言わずただ胸板に顔を埋め、小さく頷いてみせた。






(早く元気になぁれ!!)


END



******

いつもお世話になっております「夢幻の館」良野りつ様に捧げます!!
一周年おめでとうございますですーーーッ!!
良野さま宅のセバシエにはいつも癒されておりますm(_ _)m
『Sweetシリーズの二人で、熱を出して寝込んだシエルをセバスチャンが看病するお話』
という素敵なリクエストを頂いたのですが…久しぶりのSweet組みで、素敵なリクエストを
生かしきれなかったような…orz
でも、久々の甘甘に楽しく書かせていただきました!!
ありがとうございました!!

これからも、良野さまの素敵なお話を楽しみにしておりますv

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【2011/10/02 13:48 】 | Gift | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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