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【2024/04/26 18:40 】 |
May I come in?---そして彼は来た。

Good-bye on today's day(現代パロ・幼馴染)

夢を見た。
随分と昔の夢。
まだ僕とセバスチャンは仲が良くて、相手もいつも微笑んでいてくれた頃だった。

小さな頃から僕は我侭で、傲慢で。
いつもセバスチャンを困らせていたけれど、それでもセバスチャンは苦笑しながら僕を受け止めてくれていた。
たまに小突いたりしてきたけれど、それすらも僕にとっては嬉しいことだった。



「・・・んン・・・」

目を開ければ見慣れた天井。
カーテンの隙間から太陽の光が強く差し込み、どうやら朝の時間はとうに過ぎてしまっているらしい。
それは仕方が無いだろう。この家に帰って来たのは朝陽が昇ってからなのだから。
もう一度目を閉じて寝返りを打てば身体に鈍い痛みが走り、嫌でも意識が覚醒してくる。
出来ればまだ夢を見ていたかったのに。
けれどあの頃の夢を見るのならば、なおさら目を覚まさなくてはいけない。
それでもこの身体を動かすのはまだ億劫で。
僕はため息をつきながら目を擦った。

今日は土曜日。
ゆとり教育というものになってから、土曜日である今日も休日となっている。
僕自身、何がゆとり教育だと馬鹿にしていたのだが、今日が休みであることを心から感謝した。
こんな身体で学校に行けるわけがない。

今日は一日ベッドの中だなと再びため息をつき目を閉じれば、先ほどまで見ていた夢の映像が瞼の裏に映り、あわてて目を開ける。
やはり意識のどこかでは、まだセバスチャンを求めてしまっているらしい。

「もう終わっただろう・・・」

まるで自分に言い聞かせるように呟き、額に腕をのせた。

きっとセバスチャンを想うことが癖のようになってしまっているんだろう。
アイツを好きだと自覚してから、想わない日など一日と無かったのだから。
意識のコントロールなら出来るけれど、無意識で行われることをコントロールすることは難しい。
セバスチャンを諦めることは案外厄介なことなのかもしれないと今更ながらに考えるけれど、もうそれ以外の道など考え付かないのだ。

「ったく、しょうがない奴だな」

自分自身を嗤うことで無理やり気持ちを浮上させる。
きっとしばらくはこういう日々が続くだろう。
だが、アイツを想う気持ちを消せるのならば。
“綺麗な思い出”として残せるのならば、それも仕方の無いこと。

僕は寝ることを諦めて、時間潰しの為に本を読もうと頭上に手を伸ばせば。

「あ・・・携帯・・・」

いつも本と共に置いてある携帯が無いことに気がついた。
そういえば鞄の中に入れっぱなしだったかもしれない。
(セバスチャンの家にいる間は誰にも邪魔をされたくなく、いつも携帯はポケットではなく鞄に入れていたのだ)
ベッドの横に放り投げておいた鞄を掴み、ズルズルと脇へと引きずってくる。
そして手を入れて携帯を取り出せば、着信かメールの知らせる光が点滅していた。

「ん?誰だ?」

両親からだろうか。
自分からあまり電話やメールなどをすることはないが、たまに両親や同じ地元にいる伯母さん、そして学校の友達から連絡が来ることはある。
その三人の誰かだろうと思い、何気なく開いてチェックをしてみれば。

着信:15件
メール:10通

「・・・・・」

その相手は全てセバスチャンだった。
メールの内容は“顔を出してください”だったり“身体は大丈夫ですか”だったり。
こちらを気遣うようなメールだけれど。

「・・・気持ち悪い」

パタンと携帯を閉じた。
勿論、昨晩ぼくが逃げるように帰ったことを気にしての着信とメールだろう。
けれど正直、気持ち悪い。

「電話しても出ないんだったら諦めろよ」

こんなにもセバスチャンは心配性・・・しつこい奴だっただろうか。
僕が何か隠し事をしていることをセバスチャンにバレても、頑なに言うことを拒むと相手は2~3回尋ねる程度でアッサリと引き下がっていた筈だ。
まぁ、そのあと結局は自分から話してしまうのだけれど。

「変な奴」

自分を抱いた時、あんなにも怒りが見えたというのに。
それでもこちらを心配してくるのは、もしかしたらセバスチャンが元々持つ優しさなのかもしれない。
だから同情で僕を抱くことも出来たに違いない。

「セバスチャン・・・」

気持ち悪いと思っておきながらも、結局はこんなにも自分を気にしてくれたことが嬉しい。
きっと口元も多少ゆるんでしまっているだろう。
どこか火照ってきそうな頬に携帯をあてて、目を閉じた。

途端。
チカチカと携帯が光り、着信を知らせる。

「ん?」

瞼の向こう側がまぶしくて閉じた目を開き、側面にある液晶画面を覗けば。

「セバス、チャン…」

セバスチャン・ミカエリスの名前が表示されていた。
これで着信は合計16回。
もしかしたら電話に出るかメールを返信しない限り、ずっと連絡してくるかもしれない。
いや、もしかしたら学校行く日になったら玄関で待ち伏せされているという可能性も無きにしも非ずだ。
出来れば、まだ顔を合わせたくない。
このセバスチャンを想う気持ちがもう少し上手くコントロール出来るようになってからがいい。
そうでなければきっと今顔を合わせたり優しくされたら、また揺らいでしまうだろうから。

「直接会うより、電話で済ませた方がいい…な」

もう僕自身は放っておいて欲しいという思いがあるけれど、心配してくれているセバスチャンはそうもいかないだろう。
ちょっと上がってしまう気持ちは見てみぬフリをして、数回深呼吸をしてから電話に出た。

「シエル…ッ!!」
「――――ッ!」

出た瞬間、どこか切羽詰ったような、怒っているような、けれど心底安心したような声音が僕の名前を呼んだ。
その声に胸が跳びはね、無意識に胸元のシャツを握り締めて唾を飲み込む。

「ずっと…ずっと電話やメールをしても返してくださらないので、心配していたのですよ」
「わ、悪かった」
「昨晩もあのまま飛び出してしまって……お身体は大丈夫ですか?」
「あぁ、別に問題ない」

ずっとずっと聞いてきた優しくて低い声。
諦めたはずなのに、またドキドキして、心臓が苦しくて。
(ダメだ……ッ)
このままだと忘れることなんて出来ない。
声だけでもダメだなんて、どれだけ僕はセバスチャンのことが好きなんだろうか。
早々に切り上げなければ。

「昨晩は、その、慰めさせて、悪かった」
「いえ、シエルは」
「もう!だ、大丈夫だから。もう、いいから」

セバスチャンの言葉を遮り、言葉を続ける。

「またすぐ元気を出す、それまではそっとしておいてくれないか」

元気になったら僕から会いに行くから。
そう付けたし、明るく言ってみせる。
鼻の奥がツンとしてきてしまって、このまま「それじゃぁ」と声を掛けて切ってしまおうかと考えていると、携帯電話の向こうから理解できない声が耳に届いてその考えは霧散した。

「何を言っているのですか」
「え?」
「シエルが慰めてと仰ったんですよ。それを自分から放棄するなんて、卑怯ではないですか?」
「ちょ、ちょっと待て…意味が分からないんだ、が?」

確かに慰めろとは言った。
けれどそれはあの時のことであって、そしてセバスチャンは慰めてくれて、それで。
・・・・――――それで?



ピンポーン。



「ッ!!」

突然のチャイムに驚きビクリと身体を震わせた。
いつもなら驚かせたチャイムに苛立ったりするのだが、今日の場合は妙な空気から逃れられたことに感謝するべきだろう。

「な、なんか誰か来たみたいだから、電話、切るな」
「その必要はないですよ」
「でも…」
「そのまま出てください」
「・・・・・」

胸の中に広がる黒いモヤ。
なぜかこのチャイムの相手が誰なのかが分かった気がして、それでもそれが本当だという確証もなくて。
携帯電話を耳に当てたまま、どこか震えてしまいそうな身体を叱咤して立ち上がり、部屋の扉を開けて階段を下りていく。
その間、僕もセバスチャンも一言も言葉を交わさず、自分の足音だけが携帯電話を響かせた。

「・・・・」

いつもチャイムが鳴ったら先に出るモニターを素通りして。
いつも持つ印鑑をそのまま置きっぱなしにして。
携帯電話を耳につけたまま、外へと続く扉へと足を運ぶ。
靴も履かないで裸足のまま玄関の冷たいコンクリートを踏み、ゆっくりと覗き穴を覗き込んでみれば。

「セバス、チャン…」
(やっぱ、り…)

同じように携帯電話を耳に当てて、扉の目の前に立つセバスチャンの姿が瞳に映りこんだ。

「シエル、開けてください」
「…なんで、」

なんでそんなにも追いかけてくるんだ。
それは声にはならず、息となって消えてしまう。
それを言ったら全てが崩れてしまうような気がしたのだ。
その言葉の続きを知ってか知らずか、セバスチャンは覗き穴越しにシエルに微笑みかける。
彼特有の赤い瞳を輝かせて。

「慰めに来たんですよ」
「も、慰めて、くれた、だろう」
「まだ足りないでしょう?」

貴方はまだ元気になっていない。
その証拠に私と会おうとしない。

慰めるということは。

「シエルが好きだった人のことを忘れること、でしょう?」

そしたら貴方は元気になるのだから。
セバスチャンは扉に手を伸ばして、コンコンとノックをする。
それがこちらの方にも伝わってきて、本当にセバスチャンがこの扉の向こうにいるのだということを実感させられた。
させられたけれど。

意味が、分からない。
セバスチャンの言っていることが、分からない。

理屈は分かる。
好きだった人のことを忘れることが出来たのならば元気は出るだろう。
フラれたという真実が胸を痛めるのだから。
けれど、そういう話ではないだろう。
慰めるイコール元気にしてもらう、ということは間違えではないかもしれない。
それでも“慰めろ”という言葉から“好きだった人を忘れさせる”ということに結びつけるのは、話が飛びすぎているだろう。

(なんなんだ…)

こんなの、知らない。
こんなセバスチャンは知らない。

コイツ は だれ だ?
(――――No, he is Sebastian.)

「さぁシエル。扉を開けてください」
「・・・・・」
「開けて」




震える指先で触れたのは冷たい金属。

ガチャンという音がまた響く。

けれどそれは閉める音ではなくて、

今度は扉が開く音。


分かってる。
本当は開いてはいけなかったということも。

あの返って来た運命(さいご)の言葉が、
ジョーカーだったということも。


それでも。
分かっていたとしても。

目の前にいる人物は・・・―――

僕の好きなひと。




「「シエル」」




携帯電話から聞こえてきた声と、
現実から聞こえてきた声が重なった瞬間。

昨晩は流れなかった筈の涙が、
裸足の上に、

ポトリと

堕ちた。




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【2011/10/12 00:46 】 | Series | 有り難いご意見(0) | トラックバック()
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