真夜中に目が覚めて、熱い息を吐いた。
身体がダルイのはきっと悪夢のせいだろう。
もしかしたら精神的に揺さ振られたせいで、少しの熱も出ているのかもしれない。
シエルは舌打ちをしながら前髪をかき上げ、また息を吐く。
耳には無音が響き渡り、どこか暗闇に独りぼっちでいるような気がして心地良かった。
(随分と慣れたものだ)
昔はあの夢を見た時は気持ちが落ち着かず、見えないものに怒りをぶつけようとしていたものだった。
けれど今は冷静に苦笑している自分がいる。
これは過ぎた年月のせいか。それとも別の存在がいると分かっているせいか。
どちらにしても昔よりは良くなったのだろう。
(アイツは目が覚めたことに気がついてるんだろうか)
その別の存在を思い出し、考え始める。
今は何をしているのか。
眠っているとは考えられない。
それとも、まだ仕事をしているのだろうか。
(たまにはアイツに暇でも出してみるか)
それを言った時、どんな顔を見せるだろう。
きっとそんなものはいらないと拒否するだろうけれど。
(あぁ・・・)
ゴロリとうつ伏せになり、白い枕に顔を埋める。
(余計なことを考えた)
なぜアイツのことを考えてしまったのだろう。
悪夢のせいで気持ちが弱っていたからだろうか。
そんな弱っているときにアイツのことを考えてしまったら。
(―――別に、どうってことない)
寂しいなんて感情
僕には不必要だ。
このまままた眠ってしまおう。
そしたらきっと朝までには熱も引いているだろう。
何もなかったように元通り。
物事が起きてしまったことをやり直すことは出来ないけれど、見てみぬ振りをすることは誰にでも出来る。
シエルは顔を埋めたまま無意識に唇を噛み締めながら目を閉じた。
しかしすぐにその目は開くことになる。
「坊ちゃん」
End

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