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【2024/04/25 04:00 】 |
本当の始まり。②
一周年企画


Are you ready?




『頑張ってね』

そう言ってアロイスは手を振ってくれた。
馬車の中で一人きり、その姿を思い出しては何度も頷いて、シエルは口元を緩ませる。
その言葉は自分の背中を押してくれるものだ。

帰る、と言ったものの、正直セバスチャンと会うのは恐い。
また傷つくのではないかと、無意識に逃げ腰になってしまうのだ。
けれど、気が付いたことを無視することなど自分には出来ない。
芽生えてしまった、いや…気が付いてしまった“セバスチャンを好き”だという感情を無視することが出来なかったように。
だから。

「覚悟しろよ」

シエルはあの黒い悪魔の姿を思いながら、そう呟いた。








「…おかえりなさいませ」
「………あぁ」

屋敷の前に止った瞬間に開かれた馬車の扉。
その向こうには無表情に近い顔をした執事の姿があり、たったの数時間ぶりだというのに何だか酷く久しぶりな感じがした。
いや、数時間ぶりではないだろう。この“執事”と会うのは一週間ぶりだ。
シエルは胸にツキンと小さな痛みを感じたが、それを無視して差し出された手を取って馬車を降りた。

「朝食はお食べになられましたか?」
「…あぁ」
「そうですか」

食べたくないとは言わず、食べてきたと嘘をつく。
けれどセバスチャンはそれに気が付いていないのか、それとも気が付いていながらもあえて何も言わないのか、シエルの台詞に頷いた。

朝食は一応用意されていたのだろうか。
それよりもまず先にどこに行っていたのかとか聞かないのか?いや、きっとコイツのことだからアロイスのところにいたことも知っているだろう。それでも何も言わずに行ったことを咎めたりはしないのか?
どうしてもグルグルと不の感情が心を埋め尽くし、今すぐここから逃げ出したくなってくる。
だがそれに負けてしまう自分なら、この場に立っていない。

「セバスチャン」

シエルはトンと地面を蹴って一歩前に出て振り返る。
まっすぐ背筋を伸ばして、凛とした声で。
それに反応したセバスチャンが視線を上げてこちらと瞳を合わせた瞬間、何も感情が映し出されていなかった表情が若干歪んだが、すぐに元に戻る。
そういえば今自分の目元は泣いたせいで赤く腫れているのだった。きっとそれを真正面から見て表情を崩したのだろう。
“己のせいで泣いたのだ”ということを知って。
けれどシエルはそれを理解しつつ何も言わない。
今までのことを考えたら、これくらいの意地悪は許されるだろう?

「これから僕の部屋に来い」
「…何か御用ですか」
「なぜ聞く必要がある」

シエルは口元を吊り上げる。
きっと今自分の顔はアロイスの言う“悪魔に負けないくらい意地悪な笑み”をしていることだろう。

「貴様は執事だろう?主人の命令に疑問を持つな」
「………申し訳ありません」

そう謝罪をしながら頭を下げる姿を見届け、シエルは足音を立てて歩き出す。
少し遅れてから、もう1つの足音が自分の後を追い響き出した。
その音はどこか重くて、痛々しい。
あの一週間はムカつくくらい軽かったというのに。

(諦めろ、セバスチャン)

もう逃がしはしない。
もう許さない。

シエルはセバスチャンに背を向け歩いていく。
見えないところで強く唇を噛み締めながら。

月の光を浴びながら独りぼっちになった、

あの寝室へ。




****




音を立てて開いた扉。
その先には変わらない景色が広がっているのに、昨晩のことがあったせいか、その景色を見るだけで胸に小さな痛みが走る。

「・・・・」

今は朝の時間なので窓の向こうには太陽が輝き、月はいない。
それでもシエルは窓を見たまま足が止り、その場所を睨みつけた。
しかしすぐにまた足を進め、その場所へと。
それにセバスチャンも何も言わずについて来る。

「・・・・」

昨晩自分が立っていた位置につき、息を大きく吐いて。

「なぁセバスチャン」

シエルは静かに話し出す。

「アロイスの奴は随分と困った奴だな」
「…そうですね」
「このシエル・ファントムハイヴにふざけた罰ゲームをさせるなんて、裏社会に属する人間の中ではアイツだけだろう。普通あんな罰ゲームをさせる勇気など誰も持っていない」
「・・・・」
「執事と主人を恋人同士にさせるなんて、アイツぐらいしか言わないし、まず考えつかないだろう」
「そう、ですね」

シエルの言葉にセバスチャンも静かに肯定する。
そこにはどんな思いがあるのだろうか。
いや、知る必要などない。
今は考えてはいけない。

シエルは振り返ることなく、ギュッと拳を握って続ける。

「だが、アロイスよりももっともっと勇気のある奴…というよりも、馬鹿な奴がいる」
「・・・・」
「そいつは随分と僕のことを卑下しているな。それに初めて僕に嘘をついた」
そいつはな、こう言ったんだ。


『私は守るのではなく、手に入れるのですよ。たとえ自分が危険なところにいようが、相手が傷つく恐れがあろうが、私はその大切な相手を手放すことはしない。相手が逃げ出したとしても、私はまた必ず捕まえる』


「だが、いざ大切な相手を手に入れられる時になったら逃げ出した。大切な相手を自分から遠ざけた。嘘はつくなと約束してい」
「嘘をついたわけじゃありませんッ…」

“そいつ”の悲痛な叫びがシエルの言葉を遮った。

「その時は本当にそう思っていました!」
「…ふん、どうだか」
「ッ……ほんと、に…そう思ってたんです…」
大切な相手をずっと傍に置いておきたいと。

でも、と彼は続ける。

「大切な相手は、大切にしたいと…思いました。あの時は坊ちゃんがどうして大切な相手と一緒にいないのか理解出来ませんでしたが、今なら、理解出来ます」
「・・・・」
「でも、どんなに大切にしたいと思っても………」

搾り出すような声。
振り返らずとも、その表情は苦しく歪んでいるということが分かる。
だからこそシエルは振り返って、

「随分と弱虫な悪魔だな」

笑ってみせた。


この悪魔は弱虫だ。
誰かを大切にしたいという、どこまでも強くて脆い想いを知って逃げる弱虫だ。
向き合う勇気も無くて、それでも本当は一緒にいたくて。
その証拠に、

「・・・・ッ」

ほら、執事の姿に戻りきれていない。

だからずっとアロイスは“ずるい”と言っていた。
僕の気持ちを知っていながら。
お互いに想い合っていることを知っていながら。
彼は向き合わずに、逃げてきたから。


「ま、僕もお前に嘘をついたことになるんだがな」
「ぇ・・・?」
「いや、違うな。これは全部お前が悪い」

予想通り、眉を顰めて痛々しい表情をしているセバスチャンの首元に手を伸ばして、そこにあるネクタイを力強く引っ張り自分の顔の方へ近づけた。
それに驚いたような彼の表情。

「欲しいものには手を伸ばせと言ったのはお前だろう?僕はお前の助言に従ったまでだ」
「!!」
「欲しいものは欲しい。大切な相手には傍にいて欲しい。その恐ろしい気持ちをお前は理解している筈だが?」
「ですが…」
「黙れ」

もうお前の逃げる背中は見飽きた。
だから、これが最後だ。


「僕はお前が好きだ」


あの日、音にならなかった言葉を
唇からハッキリと吐き出してやる。

「いつからとかは、自分じゃ分からない。だが、きっと僕はずっとずっと前からお前が好きだった」

吐き出しながら、また笑ってみせる。
口角を吊り上げて、意地悪気な笑みを見せつけてやる。
でも、爪が手の平に食い込むほど拳を握り締めていて。

「嫌味ったらしいお前も、弱虫なお前も、全部ひっくるめて」

まだ駄目だ。
まだ泣くな。
泣いたらいけない。

「悪魔であるお前が」

泣くな。

「好きだ」











堪えきれずに落ちた一粒の涙


しかしそれにシエル自身が気が付くことも無く、


「んっ……」


バンと音が鳴るほど強く窓に押し付けられ、唇を重ねられた。




「ふぅッ…はっ」

何度も何度も、啄ばんで、絡めて、深めて、
窓に押し付けられた身体を今度は引き寄せられ、痛いほど強く。
強く、強く、強く抱きしめられた。

一瞬なにが起こったのか分からなかったけれど、今重なっているのがセバスチャンの唇ならば何も気にすることはない。
シエルは驚きに瞳を見開いたが、すぐに細め、ゆっくりと閉じた。
荒々しい口付けだというのに心は酷く穏やかで、そっと優しく彼の首に自分の腕を回して頭を撫でると、相手はいっそう強く抱きしめてきたので、内心苦笑した。
コイツは僕を抱き殺すつもりか。


でも、それもいい。
もしも今この腕で死ねたら幸せだろう。

あぁ……本当はそれが一番コイツにとっても
幸せなことなのだろう。


「ぼ、っちゃん…」

ようやく唇を離し、セバスチャンは縋るかのようにシエルの首元に己の顔を埋める。そして何度も何度も名前を呼び、静かに言葉を紡ぎ始めた。

「……本当は、アロイス様の罰ゲームはチャンスだと思いました。私に向ける感情を自覚させて、本当の意味で心までも私のものにしてしまおうと」

ですが。

「恐ろしくなりました」

生きていて初めて恐くなった。
永遠を生きる悪魔がそう呟く。
そこには痛みとか、苦しみとか、そういう感情が含まれているにも関わらず、どこか幸せを見つけたような…どこか恍惚な声にも聞こえた。

「大切な相手を手に入れたいという思いは決して嘘ではありません。ですが、大切に思うあまりに、相手の幸せも願うようにもなったのです」

シエルは無言で唇を噛み締め、彼の声に耳をかたむける。
シエルがセバスチャンの言葉を受け入れたように、セバスチャンもシエルの言葉を受け入れたのだ。

「大切な相手を…貴方を私の腕に閉じ込めて、果たして本当に幸せなのかと…」
「セバスチャ」
「どんなに!どんなに足掻いたって私は悪魔なんです!」

セバスチャンの背中に回された手が、ぎゅっとシエルの服を握り締める。

「人間の魂を餌としている存在で、人間とは全く持って生き方が違います。そしてさいご…最期には、…っそんな存在が坊ちゃんを幸せに出来るわけが」
「…うざい奴だな、本当にお前は」
「・・・・」

呆れたように言い放てば、自分を抱きしめる相手の全身がピシリと固まったのを感じた。
だがシエルはそれを気にも留めず、むしろ固まった背中をバシバシと叩きながら、セバスチャンの埋められている首の逆…見えている首元にシエルも顔を埋める。
うん、もう…。

泣いてもいいだろう…―――?

「お前は本当にうざいし、馬鹿だし、弱虫だな」
「貴方の幸せを考えているというのに、そこまで言いますか」
「あぁ、言う。何度だって言ってやる、ばーかばーかばーか」
「…それ、アロイス様の真似でしょう」
「僕がアロイスの真似をしてしまうくらいお前は馬鹿だということだ」
「・・・・」
「僕の幸せ?ふざけたことをぬかすな。僕の幸せは自分で掴み取る」
お前なんかに幸せを与えてもらおうだなんて思っていない。

シエルは顔を首元に埋めながらも口元に弧を描きながら言う。
しかし瞳からはポタポタと雫が零れ落ち…セバスチャンの首元を濡らしていく。

「お前の尺度で僕の幸せを計るな」
(でも、大切な相手の幸せを願う気持ちは痛いほど分かる)

「そうやってお前が僕から逃げたことの方がよっぽど嫌だった」
(けれどそれは僕の為であって)

「僕の幸せを考えるなら」
(セバスチャンの幸せを考えるなら)

「僕の傍にいろ」
(あのまま終わるべきだった)


本当は、終わるべきだったんだ。
だってどんなに足掻いたって己は悪魔だと彼が叫んだように、
自分だって、どんなに足掻いたって人間なんだ。

人間の最期までなら一緒にいられるけれど、悪魔の最期までは一緒にいられない。
人間にとっては長い間一緒にいられるけれど、悪魔にとっては長い間一緒にいられない。

だから。
本当は、
この告白は、

―――月が、綺麗ですね

この言葉以上に、残酷なものだ。



「坊ちゃん…」
泣かないでください。

クシャリと髪に手を差し込まれ、撫でられる。
その優しい感触に、余計涙が溢れて止らなくなってしまう。
きっと自分は昨日から今日までにかけて、あれからの三年分の涙を流しているだろう。
それに泣いているのは自分だけではない。
自分の首筋にもポタ、ポタリと雨を感じながら笑う。

「お前もだろう?」
「そこで強がらなくていいんです」
「・・・・ッ!」
「泣かせてしまって、すみません」

違う、謝るのはお前じゃない。
シエルは瞳を見開き、ブンブンと首を横に振る。
謝らなければいけないのは、僕の方だ。

「セバスチャンッ…僕は」
「坊ちゃん」

言葉を遮るように名前を呼び、顔を上げる。
セバスチャンが顔を上げたのならば、シエルも顔を上げざる得ないので、涙を拭うことなく視線をセバスチャンに向ければ、真っ赤な美しい瞳から一粒の涙を零し、優しい笑顔で。

「愛しています」

ほしかった アイシテイル の言葉。

どうして、今この時に言うんだ。
卑怯だろう、卑怯だろう、卑怯だろうッ!!

「心から、貴方のことを愛しています」
「…っ………」
「言うのが遅くなってしまって、すみません」

ねぇ坊ちゃん。
私の腕の中に捕まることが、
貴方の幸せになりますか?

息を吹き込むように囁かれる言葉。
どこか悪戯気に言っているのは、謝る必要などないのだ、という彼の心。


「お前はッ…本当に……」

(僕は、お前のそういうところが嫌いだ)

(だけど、そういうところが…)

「幸せにしてやるくらい、言ってみせろ…っ」
「…そうですね」

苦笑に近い顔でクスリと笑い、なら…、と言葉を続けながら手を伸ばしてシエルの頬を濡らす涙を拭った。

「坊ちゃんも私のことを幸せにしてください」
「……ッ」
「もう逃げません。逃げませんから、傍にいて」
また一緒にお話をしたり、デートをしたり、身体を重ね合いましょう。

「勿論、愛の言葉を囁き合いながら」


朝起きたらまず、おはようのキスをして
仕事に取り掛かった貴方の不機嫌な顔を見ては
甘いスイーツを出して喜ばせる
それでも意地っ張りな二人だから
嫌味の言い合いをして、喧嘩して
けれど最後は必ず仲直り
夜が来れば闇が世界を包み込み
その中でおやすみのキスをして
そしてお互いの存在を確認し合う

“好きだ”と言って
口付けあって
“愛してる”と言って
身体を重ねて

それが毎日
幸せな日々

たとえ、

その時間が

“一週間”よりも

短いものに感じたとしても、

「一緒にいてください」
本当の恋人になってください。

セバスチャンはコツンと額をシエルの額に合わせ、また一粒の涙を零しながら微笑んだ。

「セバス、チャン」

その雫がシエルの頬に落ち、シエルが零した涙と混ざり合って1つになって滑り落ちていく。
キラキラと、輝きを放ちながら。

「……一緒にいよう」

小さくシエルも微笑んで。
そしてどちらからともなく、そっと口付けた。










どんなことにも“永遠”なんてものはない。
悪魔にでさえ、“永遠”なんてものは持っていないのだ。
たとえ変わらないものがあったとしても、それは変わっていないように見えるだけで、
ちょっとした色合いとか、ちょっとした空気とか、ちょっとした感触とか、
見えない程度だけれど、感じない程度だけれど、それは変化していて。
次の瞬間には、もう前の瞬間には戻れない。

“変わらないもの”なんてない。
“永遠”なんてない。

それでも、それが“消える”ことはないから。

だからこそ、
その一秒が
(貴方のことが)

愛しく感じるのだ。





Lover Time Forever


(Are you ready? -- Yes, of course!)

 

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